建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2000年1月号〉
interview
区民要望を直接受けるため区長室にファクス
東京都足立区長 鈴木恒年氏
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鈴木恒年 すずき・つねとし
昭和8年2月11日生まれ、東京都出身、中央大卒。
昭和24年足立区入区、教育委員会社会教育課長、同庶務課長、総務部職員課長、同総務課長、教育委員会社会教育部長、区議会事務局長、総務部長を経て、平成元年から平成8年まで足立区助役を2期務める。
平成11年6月の選挙で足立区長に初当選。現在に至る。
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昨年6月の足立区長選で、前助役の鈴木恒年氏が共産党の吉田万三氏を敗り、区長に就任した。これまでは少数与党の共産党政権だっただけに、特別職はすべて不在、議会は毎回紛糾し、会期は延長、予算案は毎年、越年度を繰り返すという異常事態が続いていた。だが、自自公推薦の鈴木氏の当選によって、ようやく区政の波乱は治まった。とはいっても、財政再建、区庁舎跡地利用などの都市計画、清掃業務移管、介護保険制度の発足など、新政権スタートと同時に吉田政権下で解決できたかどうかが疑われた重要課題が山積。就任してから今日まで、わずか数日間しか休暇が取れないほど忙殺される毎日だ。精力的に難問解決に取り組む鈴木区長に、区政の展望を語ってもらった。
- ――区長選に立候補した経緯は
鈴木
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前任者が区政を引き継いだ直後に、助役を退任したかったのですが、届け出期間を切っていたので、9ヶ月後に届けを出して退任しました。その後、区長選に出馬する考えはなかったのですが、経済界からどうしてもと依頼されました。それでも、当初は立候補する考えは全く無かったのです。政治家である区長と、官僚である助役とでは全く立場が違います。タスキがけに白い手袋で人前に立ち、手を振るなどというパフォーマンスには到底なじめるものではなかったのです。
しかし、いつまでも共産党政権に区政を任せておくわけにも行かないと考え、出馬を決意しました。
- ――就任して直ちに着手した政策は何でしたか
鈴木
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私が区長に就任して、直ちに指示したのは、財政再建の具体的方策、地域経済の活性化のための景気浮揚の方策、「都市整備」と「福祉」の充実のための方策です。また、それらを実現するために「行政政革」の推進をすすめることです。
いま足立区の財政は非常に厳しいうえに、二年連続単年度収支で赤字となっています。とにかく予算が乏し過ぎて、なすべき政策ができない状況です。それを脱却するには、民間活力による行政政革と区民の協力が必要だと考ています。そのためには、区民の区政ヘの信頼が大前提です。
- ――それを実現するために、庁内体制をどう再構築しますか
鈴木
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私は、基本姿勢として議会との協調と区民への迅速な対応、十分な説明・報告、そしてこれからの行政には特に区民の皆さんの協力が必要だと考えています。
そのためには、「区民の声」を直接聞く体制が必要だと考え、自分の執務室にファクスをおきました。また、「区民の声」に迅速に対応するための専門の組織を設けました。これによりスピーディな対応とたらいまわしの禁止を実現し、区民との信頼関係をつくりたいと考えています。
また、意思決定をスピーディにするため、いいままで行われてきた月1回の最高意思決定機関の「庁議」を「報告会」に改め、少人数による「政策会議」を意思決定機関にさせていただきました。
これらの狙いは、行政改革の推進にありますが、その風土づくりの運動としてスリムな組織・スピーディな執行・サービスの向上を目標にした「3s運動」を実現することにあります。
- ――財政再建にはどう取り組みますか
鈴木
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財政再建のために、私は二年間で「赤字体質」からの脱却をすると選挙で公約しました。そのため、登庁してすぐに「財政健全化計画」を策定するよう指示しました。そのうえに現在、予算化されている事業でも積極的に見直しすること、赤字債の発行を前年度以下に抑制すること、その姿勢を示す意味で自らの給与を20%削減することにしました。
特に事業の見直しについては、事業の成果というものを区民がよく理解し、納得できるような表現で公表、説明すべきだと思っています。
- ――最近は、ほとんどの自治体が財政再建のために賃金、賞与のカットを断行するようになりました
鈴木
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それが趨勢ではありますが、私としては努力している職員の意欲を殺ぐようなことはしたくないと思っています。部署によっても多忙なところもあれば、それほどでないところもあります。皆が一律に扱われたのでは、優秀な人材もやる気をなくしますから、むしろ区政として職員の実績評価システムを取り入れたいと考えています。
一方、人件費抑制のためには、退職者の不補充を基本にしたいと思っています。
- ――一方、景気対策も疎かにはできませんね
鈴木
- 景気対策として、私は「2.2.2住宅プラン」を選挙公約としました。このプランは、2世帯が住める2千万円台の住宅を2千戸建設するという計画です。
これを実現するよう、すでに担当課に指示しました。
- ――共産党政権下では、まちづくりのための建設事業はあまり行われませんでしたが、今後の見通しは
鈴木
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足立区の現況を見ると、人口の減少している地域や、逆に人口が増加している地域があります。また、いざ災害などが発生した時、危険と思われる地域もあります。
したがって、人口が減少している地域では施設の統合や再配置が必要ですし、地域の活性化がまちづくりの課題になっています。逆に人口の増加している地域では公共施設の建設が課題になっています。
また、駅前の再開発や工場の跡地の開発もすすめなければなりません。特に足立区は、都市交通の整備として常磐新線や日暮里舎人線の建設が進行しています。それにともない駅周辺の整備も大きな課題となっています。
- ――まちづくり事業は、どうしても莫大な支出を伴うので、財政再建とのバランスが難しいですね
鈴木
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都や国の直轄事業でも負担金を負わねばならず、まして補助事業となると、さらに地元負担は大きくなります。
しかし、基本的にはハードとソフトの調和、社会資本の充実と福祉の充実の両立がまちづくり事業のポイントになると考えています。
したがって、これまでは共産党政権だったので、ほとんど国や都に陳情、要請もしていなかったようですが、私は就任して直ちに様々な政策要求を積極的に行っています。
- ――その他に足立区特有の課題は
鈴木
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区政として頭が痛いのはオウム対策です。現在、麻原被告が葛飾区の小菅拘置所に収監されているため、オウム関係者が頻繁に訪問していますが、拘置所の玄関が足立区に向いているためか、とりわけ区内に居住者が多いのです。
地域住民は立ち退きを求めており、区としても住民票の転入や公共施設の使用を許可しないなど、当面はこの攻防が続くでしょう。
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