建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年1月号〜2月号〉

interview

清掃事業の23区移管に向けて秒読み段階

東京都清掃局長 安樂 進 氏

安樂 進 あんらく・すすむ
昭和17年9月8日生まれ、東京大学文学部卒業。
昭和42年 4月 東京都入都(主税局新宿税務事務所徴収課)
3年 6月 総務局参事(人事部人事課長事務取扱)
4年 4月 松沢病院事務長(7月に事務局長に名称変更)
6年 8月 港湾局開発部長
8年 7月 労働経済局総務部長
10年 7月 清掃局理事(移管準備担当)
11年 6月 現職。
――来年度からいよいよ都区制度改革として、ごみの収集、処分業務が23区に移管されますが、受け乎側の各区の準備状況は。
安楽
ごみの収集業務は、23区がバラバラに行っていたのでは、非効率になったり、思わぬ問題が発生することも考えられます。そのため、年間作業日や、その他清掃事業の運用全般を調整する23区共同の清掃協議会が発足します。
業務移管後は、各区が職員や車両の管理を行うだけでなく、事務所庁舎や中継所などの施設、設備を自力で維持、整備しなければならず、各区にとっては新たな財政支出を伴うことになりますから、その財源の委譲等の措置について、都と区とで協議を行っております。
なお、清掃工場については、一定期間23区が共同で運営、整備を行うこととし、そのための一部事務組合が結成されます。
23区にとっても初めての清掃業務ですから、現在、研修のために各区から2,3人ずつ約80人ほどが都に派遣されてきています。
――業務移管後は、都の業務や組織体制はどのように変わりますか。
安楽
本来、清掃業務は市町村が担当するものですから、一般的な姿に戻ることになります。とはいえ、産業廃棄物に関する事務等の監督指導官庁としての業務や区市町村間の調整事務などは都に残ります。
また、今後は資源循環型社会づくりといつた政策的テーマに取り組むことになります。都は、広域自治体としての政策立案などの機能を持つわけで、業務が激減するということにはなりません。
――初めて清掃業務に携わる23区に対して、アドヴァイスなどは
安楽
私たちとしては、移管する前になるべく理想的な形へと清掃事業の改善を推し進める方針です。例えば、平成11年8月からは、ごみの早朝収集を実施しました。犬猫やカラスがごみを荒らしても、人が通る通勤・通学時には収集されてきれいになることは、環境衛生の上でも重要なことです。ただ、これを実行するとなると、収集職員に対して早朝手当などの支給が必要になると考えられがちですが、勤務時間を前にずらすことによって、このような経費をかけずに行うことができました。
しかし、移管した後は、23人の区長それぞれの方針があるでしようから、統一性よりも区の個性が出るかも知れません。また、ルール1の資源回収なども、各区の住民によっては、様々な意見や要望などが提起されることも予想されます。
したがって、せっかく構築したシステムが、移管後に後退することがないよう、23区とも最初は円滑に業務を実施することに全力をあげてもらいたいと思います。
――平成9年度からその東京ルールが実施されていますが、家庭系の資源ごみを分別して排出・回収するルール1は、定着しましたか
安楽
一部にはまだ徹底していないところもありますが、全体的にはかなり住民の間に浸透しています。一部というのは、昼夜が逆転した生活をしている人々などで、生活のサイクルがごみの収集日と合わないために、期日外に排出するなどのケースが見られます。このような人々にとっては、ごみをルールどおりに出すのはどうしても難しいようです。
――東京ルールを知らない都外からの転入者は、混乱する心配もあるのでは
安楽
東京都の分別収集については、都内への転居以前にすでに知っている人が多いためか、あまり違反者は見かけません。集積所に曜日ごとの収集種目を掲示していることもあり、ルール1についてもほとんど混乱はないようです。これまで、東京ルールについて宣伝普及活動をしてきた成果だと思います。また、程度の差はあれ、他の自治体でもこれに類した取り組みは行われており、それほど違和感がないのでしよう。ただ、一部に違反が見られる実態はありますから、これからも地道にprし続けることが大切です。
――容器包装リサイクル法の対象容器がプラスチック類などにも拡大されますが、どのような課題がありますか
安楽
まず、メーカー側が容器包装について材質表示することが必要です。私たちの生活にはプラスチック容器が溢れていますが、プラスチックは何種類もあり、どれも同じではないのです。リサイクルを徹底させるには、材質ごとに分別して収集するのが最も理想的なのですが、一般にはその違いは非常にわかりにくい。私たち清掃局の職員でも、材質表示なしにはよくわかりません。
プラスチック類に限らず、分別の際に判断がつかないものは他にもありますが、この問題を解消するためには、材質の表示が重要です。排出の際の分別の判断が容易にできるような工夫や条件整備が必要ですね。
一方、消費者は、排出の際に全ての容器の内容物をからにし、洗うなどの手間を掛けなければなりません。東京都では、ルール3としてペットボトルの店頭での分別排出・回収を行っており、ペットボトルを店頭の回収ボックスに分別排出することについては、都民に浸透してきています。しかし、ペットボトルを排出するとき、内容物を捨てて水洗いするだけでなく、キャップを取り外さなければならないのですが、残念ながら、そこまではまだ徹底されていないのです。
――企業の廃棄物が企業の責任で回収されるなら、行政負担は少しでも軽減されるのでは
安楽
行政が行わなければならない部分はどうしても残ります。回収業者は契約相手を選択でき、収益上、有利な回収ルート設定もできます。しかし、行政はそうは行きません。上下水道のように公益事業なので、採算性が悪いから拒否したり業務を変更するというわけには行かないのです。また、排出方法が適切でないごみを、収集せずにずっと放置しておくというわけにも行きません。
その結果、経営上、採算の良い回収事業は企業が請け負い、企業が敬遠する非効率な回収は行政が担当することになりがちです。
――産業廃棄物の不法投棄が問題になっていますが
安楽
不法投棄する事業者は、今なお後を絶ちません。これには、悪循環が背景にあります。回収業者は契約を取るために、採算割れを覚悟の上で低価格で請け負うのですが、それでは適正に処分できないため、山林などに投棄してしまいます。一方、処分を依頼する企業は、契約した価格では到底、適正処分ができないであろうことを承知の上で「安いに越したことはない」と依頼してしまうのです。不況時でもあり、企業は、支出を抑えようとしますから。
これは実は個人でも同じで、家電など、購入のための費用負担は苦にしませんが、廃棄時の費用負担には抵抗があるのです。
さらに私たちが今、問題視しているのは老朽化したプレジャーボートの河川などでの放置です。ボートの解体費用はかなり高額なため、不法投棄するケースが後を絶ちません。
――自動車のように登録制にすれば、所有者を特定して責任追及できるのでは
安楽
もちろん、登録制を導入するよう、関係業界などと検討に入っています。
ただ、ボートを不法投棄しているのは、ほとんどが第二所有者なのです。高価な新品のボートを最初に購入する人は、解体費用の負担にもそれほど困らない財力のある人たちです。これが第二所有者に例えば半値で譲渡したなら、その額に匹敵するほどの解体処分費用を負担する人はあまりいないのが現状なのです。
――清掃工場は、区が自主的に整備するには負担が大きすぎると思うのですが、現在、整備は進んでいますか
安楽
現在、中央区と渋谷区で清掃工場の新設工事が進んでおります。また、昨年、板橋工場と足立工場のプラント更新工事について、wto協定に則って国際入札を行いました。と言っても、国外企業の参入はなかったようです。
一方、ダイオキシン類対策も着実に進んでおり、順次、改修を進めています。これら、清掃工場の整備や運営は、区移管後は23区の共同処理として一部事務組合が担うことになります。
――最近は、清掃工場も姿が変わってきましたね
安楽
近隣住民にとっては迷惑施設とも言われますが、さりとて用地も豊富ではないので、住民と隔たったところに建設することができません。そのため、街に調和するように、外観などはかなり地域の景観に配慮したものになっています。
例えば、港清掃工場の建物と煙突などは、一見すると何の施設か分からないくらいです。
――以前に、原因不明の症状に悩まされた杉並区の住民が、原因を清掃局の施設だとしていましたが
安楽
杉並区井草にある杉並中継所は、不燃ごみの積み替え施設ですが、小型収集車から大型のコンテナ車に積み替える際にごみを圧縮するため、その圧縮熱によって有害物質が発生するという主張なのです。
しかし、圧縮と言ってもわずか1cu当たり約3s程度の圧力でしかないわけで、これで有害物質が発生することは考えられません。現に、排気ガスの調査をこれまで14回行つていますが、人体に影響を及ぼすような濃度の物質は見つかっていません。結局、真相が何であるのかは、現在、究明中なのです。
――最終処分場として整備されている新海面処分場は、寿命が15年と聞きましたが、それ以降はどう対応するのでしょう
安楽
確かに、当初の見込みでは15年でしたが、平成10年に処分計画を見直したところ、30年以上に延びたのです。理由は、埋立てごみ量が滅少したためで、事業系ごみの全面有料化や不況の中で企業がごみ排出量の節減に努めたこと、また、リサイクルなど都民のごみ減量意識の高まりが成果を挙げた結果であると思われます。
――30年後に最終処分場が限界に達したとき、建設発生土と同じように、ごみを資源化して広域的に利用することは可能になるでしようか
安楽
建設発生土は、あくまでも土ですから、土地の造成用など広域的に利用されています。しかし、一般廃棄物は、廃棄物である限り自区内処理が原則であり、そのまま都外に出すわけには行きません。
将来、無害化等の技術が確立されて、全ての廃棄物が資源化され、広域的にリサイクルされることを期待しています。
――資源循環型社会は理想社会といえますが、リサイクル自体をビジネスレベルで考えるなら、その高コスト構造が企業の参入を阻んでいるのでは
安楽
いえ、必ずしもそうではないのです。すでに十分に採算の取れるリサイクル品も流通しています。もっとも、生ごみの肥料化やプラスチックの油化など、技術的には可能となっていますが、ビジネスとして考えるとまだハードルが高いものもあります。
そのコスト上のネックは、回収段階で内容物や接着剤等が付着しているなど、不純物と一体の状態であることが挙げられます。純粋な素材が回収できるなら、これを再生するのにそれほどコストはかからないのです。現在は、それら不純物の分離作業を手作業中心で行っていたりするものですから、膨大な人件費が上乗せされてしまうのです。
したがって、リサイクルは企業だけでなく、行政だけでもなく、また都民だけが行うというものでもありません。全員が協力しあっていくより外はないのです。 
中央地区清掃工場 渋谷地区清掃工場 中央防波堤埋立地第三排水処理場

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