建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年1月号〉

interview

「試される大地。」で大勝負

地元の素材を生かして自主・自律の道を

北海道知事 堀 達也氏

昭和 10年 11月 22日生まれ、北海道大学農学部卒
33年 10月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所
34年 11月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所長
35年 9月 北海道林務部林業指導課
37年 5月 北海道林務部造林課
42年 7月 旭川林務署
44年 8月 美深林務署音威子府支署業務第三係長
47年 5月 北海道林務部道有林第1課
49年 5月 北海道大阪事務所主査
52年 9月 北海道林務部道有林第1課販売係長
54年 5月 北海道林務部道有林管理室経営管理課販売係長
54年 8月 北海道林務部林政課
55年 4月 北海道林務部道有林管理室業務課長補佐
56年 4月 北海道林務部林産課長補佐
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元 年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職
北海道拓殖銀行の破綻は北海道経済に大きな衝撃を与え、全国からもその後の動向に注目が集まっている。以前から北海道経済は、全国で最も遅く好況を迎え、全国で最も早く不況に陥る特質が指摘されてきた。現下の恐慌に等しい経済動向の中で、まさに沈没寸前とも思える現状を、北海道民がどう建て直し、壁を乗り越えていくか、その一挙手一投足に全国の視線が集まっている。開拓以来の長い官主導、官依存、中央依存体質の歴史にピリオドを打ち、自主・自律の道を歩むには、道民一人一人の勇気と決意が求められる。これを先導する形で、北海道庁は「試される大地。」をキャッチフレーズとする全国キャンペーンに乗り出した。その先頭に立つ堀達也北海道知事に、キャンペーンの向こうに見る北海道の姿を語ってもらった。
――北海道拓殖銀行が、ついに約100年の歴史に幕を閉じました。その余波がどの程度なのかが懸念され、先行きに不安感があります。しかも東南アジア、ロシアに続き米国経済も怪しい翳りが見え始め、日本にその責任を問うムードもあります
市場開放や構造改革などアメリカからの要請は確かに厳しいのですが、さりとてアメリカが全て正しいのかといえば、必ずしもそうではないという思いがあります。
また、ヘッジファンドの失敗に見られるように、一強となったアメリカの経済も、実は実態からやや乖離し始めているとの印象も受けます。基本的に彼らは狩猟民族ですが、我々はいわば農耕民族で、共同体の中で助け合って生き、そして繁栄してきたわけですから、彼らの方法論を単に踏襲せよと言われても、そう簡単にはいかないのではないでしょうか。
いずれにせよ、我が国は、世界経済の中で大きな位置を占めていますから、いち早く金融システム問題の解決をはかるとともに、景気を回復期道に乗せていかなければならないと思います。
――「試される大地。」というキャッチフレーズを使って、イメージアップキャンペーンをスタートさせましたが、反響のほどは
北海道はいま、経済的には確かに厳しいのですが、それでも頑張っているのだということを全国にアピールするものです。
8月に、全国に呼びかけてイメージアップのキャッチフレーズと「北海道」という文字のデザインを募集したところ、合わせて60,000件を超える応募があり、私たちの予想をはるかに超えた数字となりました。
さらに嬉しかったのは、様々な北海道に対する思いや激励が、応募作品に添えられていたことです。北海道を思ってくれる人がこんなに多数いるということは、北海道の財産といえます。
このキャンペーンの反響に感じられることは、やはり「北海道」というブランドには凄まじい力が秘められているということです。これを、観光や食など様々な分野において、いっそう活かしていかなければならないと考えています。
――このキャッチフレーズに託するものは
この「試される大地。」というキャッチフレーズの“試される”とは、決して辛い意味で「試される」というものではなく、「自らに問いかける」あるいは「世に問う」というプラス志向を示す言葉であるとともに、「try」の意味が込められているのです。
このキャッチフレーズは、新たな時代に毅然として立ち向かおうとしている北海道や道民の意思と決意を伝えうる、確かなメッセージであり、「北海道」というロゴタイプとともに、北海道のイメージを向上し、ひいては多くのみなさんに北海道への関心を高めていただき、観光や道産品販売の拡大にも結びつけていきたいと思っています。
したがって、全国に向けてのキャンペーンを展開しているところですが、一方、広く道民のみなさんにもキャッチフレーズやロゴタイプを使っていただき、ともに北海道のイメージアップを図っていきたいものです。
――このキャンペーンを通じて、どんな効果を期待しますか
このキャンペーンの展開を通じて、北海道は道民のみなさんと力を合わせ様々な可能性を摸索し、創造的な挑戦をする姿勢で、“一歩前に出る勇気”をもって新しい時代に立ち向かっていきたいと思っています。
一人ひとりの英知が試されるこの変革の時代、新しい世紀を間近にした今、北海道の構造改革を進める上で、このキャンペーンがいわば自主・自律の導火線になればと考えています。
――北海道は開拓以来、中央依存、官依存、官主導の習慣が根付いています。そのため、行政はともかく民間の自主性には疑問が残ります
自主・自律の取り組みについて言うなら、確かに北海道は明治以降の国主導による開拓、開発の歴史の中で、経済面や財政面、あるいは意識の面でも中央依存、官依存の傾向が強くなってきました。
しかしながら、地方分権や規制緩和の流れが強まる中で、北海道は中央依存の意識や公共事業に過度に依存する経済構造を転換し、自己決定、自己責任を原則とした自主・自律の地域に変わっていかなければならないのです。
従来は、国にお願いし、予算や知恵をもらうことに力を注ぎ、不足を自ら補うというシステムでしたが、今後は、北海道自身がしっかりとした考えを持って行動し、なお足りない部分を国に補完してもらう仕組みに変えることが必要です。
このため、北海道が自分の足で立つという自立にとどまらず、自らを律するという根源的な自律をめざす行動をスタートさせました。
庁内的な検討はもちろん、民間有識者による「北海道自主・自律シナリオ懇話会」を開催し、幅広く意見を伺ってきました。
そのほか、私自身も地域に出向き、地域で活発な活動をされている方々との意見交換も行ってきました。
北海道には、優れた自然や特色ある気候・風土、フロンティアスピリットの伝統があります。また、キャッチフレーズやロゴに応募していただいた全国の多くの方々の期待や熱い思いもあります。
これまでのような中央指向や横並びの意識を転換し、北海道にこだわり、北海道の価値や可能性、潜在力を見つめ直し、独自の物差し(スタンダード)をもって、北海道らしい暮らしや産業、文化、環境を創造していきたいものです。
私としては、北海道が分権時代の先頭を走るという気概をもって、道民の皆さんとともに考え、力を合わせて、新しい北海道づくりに全力をあげ挑戦していく決意です。
――確かに自主・自律の観点から見ると、地方分権の問題も重要ですね
地方分権の推進に関しては、地方分権推進委員会の4次にわたる勧告を受け、本年5月に、「地方分権推進計画」が閣議決定されました。
現在、各省庁は平成11年の国会提出をめざして関連する法律の改正作業を行っており、地方分権は、論議の段階から実行の段階に着実に移行してきています。
――どのような分権のあり方が必要と考えますか
まず法改正に当たっては、地方自治体の自主性と自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るという地方分権の目的を考えて、国の関与はできる限り少なくし、地方自治体の自主性が発揮できるようにすることが大切だと考えています。
地方分権の基本は、国と地方の役割分担を明確にし、住民に身近な行政はできるだけ身近な自治体が行うということです。
国は国際社会における国家としての業務や全国的な規模・視点で行うべき施策などを主に対応し、一方、地方自治体は地域の行政を自主的、総合的に行うことになりますが、分権型社会における市町村の役割は、最も住民に身近な基礎的な地方自治体として、これからますます重要になってきます。
道では、このような考え方に基づき、これまでも市町村への権限移譲を積極的に行ってきましたが、今後もできる限り市町村へ権限を移譲していきたいと考えています。
――受け皿となる市町村の体制が問題ですね
地方分権が進むと、様々な事務・権限が地方に移譲されることになりますが、市町村の中でも、とりわけ小規模なところは、小さな財政規模、少ない職員で、今後さらに専門化・高度化する住民ニーズに十分対応できるかということが課題として挙げられます。
したがって今後、それぞれの地域の実情に応じて、広域連合などの広域的な取り組みが必要になってくるものと思います。道内でも、すでに空知中部地域の6市町による介護保険に関する広域連合や、函館圏の5市町による公立大学に関する広域連合が設立されています。
道としては、都道府県と市町村の新しい関係のもとに、こうした取り組みを積極的にバックアップしていきたいと考えています。
分権型社会は、「自己決定、自己責任」を原則とする社会であり、地方自治体の自己決定権が拡がる一方で、責任の範囲も拡大します。分権型社会の到来は、地域間競争が激化することを意味し、どのような地域づくりをするか、地域の知恵、創意工夫が試されることになります。
地方分権については、今までは議論の段階でしたが、これからは個別の課題に対し、こうした広域連合の取り組みのように、目に見える形で具体的に進められることが必要です。
――北海道として希望する地方分権の形は
現在、地方分権推進委員会は、国直轄事業の範囲などに関して検討を行っており、11月中にも第5次勧告を行う予定となっています。
第5次勧告に向け、地方分権推進委員会から「論点整理」という形で試案が示されましたが、いずれにしろ、北海道は開発の歴史が浅いという特殊な環境にあり、これまで国の特別な開発体制と手厚い財政支援のもとで社会資本の整備が進められてきました。したがって、直轄事業が移譲される場合は、財源の確保や人員体制などが課題となります。
移譲に当たっては、北海道が歴史的・地理的・社会的に他府県と異なる事情にあることを踏まえ、現行の開発予算の一括計上権と特例補助率が維持され、効果的に事業が推進できる機能が確保されると同時に、道や市町村の負担増となることがないよう措置されることが必要だと考えています。
――地方分権後の北海道のあるべき姿を、どうイメージしていますか
そのテーマは、国内において北海道をどう位置づけていくか。国内において特に厳しい情勢にある北海道が、どのように自主・自律していくかということにかかっています。
そこで北海道の位置づけを考えるなら、これまでは資源供給地として、あるいは人口の受け皿として、北海道の特性と潜在力が注目されてきました。
しかしながら、国際化の進展によって、恵まれた資源や国土空間の活用という役割においては、北海道の位置づけが相対的に低下してきているといわれています。
このため今、北海道は、これまでの発展を支えてきた枠組みが大きく変化しつつある中で、かつてない厳しい状況に直面しているわけです。
しかし私は、この厳しい状況はむしろ、北海道が一歩前へ出る勇気を持ち、地域として自立し、飛躍していく好機ととらえるべきだと考えているのです。
このような時にあって北海道としては、はじめから「日本の中における北海道の役割はどうあるべきか」とか「北海道をどう売り出していくか」と考えるべきではないと思うのです。
この困難な状況を克服し、地域社会の発展のために、北海道が持っている価値や潜在的な可能性などを、自らがどのように生かしていくかをまず考え行動することが大切です。
こうした姿勢で、真に豊かで安心して暮らせる活力ある地域社会を北海道において実現させていく努力を続けることが、結果として、北海道が日本全体の新たな発展にも積極的な役割を果たすことにつながるものと考えているのです。
――ところで、北海道の武器ともいえる産業は第一次産業ですが、これを再生への基盤とすべきでは
北海道は食料供給基地です。道内で収穫された素材が、いかに安全で食味においても優れているかをもっと売り込むことが必要です。
第一次産業を通じて再生を図っていくことは、北海道再生への具体的な道筋だといえます。
――道産品の本州における市場をもっと開拓し、一刻も早く拡張していくべきでは
私としては国内だけでなく、アジアやロシアなど諸外国を視野に入れています。しかし、その前にまず道民が消費し、その余剰を道外へ出荷することが基本だと考えています。道産農畜産物の道内食率を上げていくこと。再生に向けた道程の第一歩はここから始まると思うのです。決して焦る必要はありません。
(インタビュー 平成10年11月13日)

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