建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年4月号〉

interview

ハーブの「ゆにガーデン」は、人口交流の拠点施設

都市と農村の共生を図る田舎づくりへ

北海道由仁町長 斎藤 外一 氏

斎藤 外一 さいとう・といち
生年月日 昭和9年6月4日
最終学歴 北海道大学経済学部 卒業
昭和 32年 10月 北海道職員
平成 3年 5月 由仁町長
平成 10年 9月 全国優良田園住宅促進協議会 副会長
全国優良田園住宅促進協議会北海道・東北
ブロック地方分科会 代表
平成 10年 12月 北海道優良田園住宅研究協議会 会長
由仁町は、穏やかな気候風土と交通至便の地理的条件を生かし、北海道を代表する食糧供給基地として発展してきたマチだ。近年の、ハーブへの嗜好の高まりに合わせて、ハーブ栽培を軸に新しい生活文化の創造と都市との交流を図るマチづくりを、由仁町長・斎藤外一氏に語ってもらった。
──由仁町のマチづくりは、どのような考え方で進めていますか
斎藤
由仁町は、大都市の札幌市や新千歳空港に近い場所で、農業を基幹産業としたマチですが、農村ですから、言葉を換えれば田舎です。そこで、大都市などに近い利点を活かした田舎づくりに取り組んでいます。
都市化を目指すのでなく、田舎であることに徹することで、都市と農村の交流・共生という姿が実現できます。これがマチづくりの基本的な考え方で、都会の人に来てもらい、田舎の良さを満喫してもらうと同時に、田舎のノウハウを都会の人に伝え、逆に都会のノウハウを吸収し、田舎でありながら都会的なセンスを持つことを目指しています。
──昨年、オープンしたハーブを中心にした「ゆにガーデン」は、その一翼を担いますね
斎藤
都会と田舎の共生交流の素材を、私たちはハーブに求めました。ご承知の通り、都会でも庭づくりやハーブは、女性を中心に人気を博しています。花が咲き、香りを発するということは、まさに田舎そのものです。「ゆにガーデン」は、都市と農村の交流の中心的な施設と考えており、由仁町のガーデニング風景を見てもらうことによって、田舎の知識を都会の人に分かち与える一方、都会のセンスを由仁町に入れ、お互いに学ぼうという発想です。その基幹的なものが「ゆにガーデン」です。
その他にも、都会の人と田舎の人との共生交流の場として、体験農園や、優良田園住宅を推進しています。
──その住宅とは、どのような取り組みですか
斎藤
これは、都会の人に由仁町に住んでもらい、広い敷地内で菜園や庭づくりをしてもらおうという趣旨で、昨年度に10戸の宅地造成の募集をしたところ、145戸分もの申し込みがありました。皆さんが、田舎暮らしをこれほど希望されていることに驚きました。10戸のうち8戸は、すでに宅地造成が終了して、住宅も建築され、すでに2戸が転居して来ました。政策の理念が、田舎暮らしを推奨することですから、1区画あたりの坪数は平均400坪と、ゆったりとしたものになっています。広い敷地に住まいしながら、晴耕雨読も良し、札幌に通うも良しという考え方で進めています。
ただし、優良田園住宅とは言っても、本当に田舎暮らしが楽しめるかどうかは、入居者自身の判断です。その判断を確実なものとするため、コーポラティブ方式を採用しています。普通の宅地造成の場合は、土地を切り売りしますが、由仁町の場合は12回にわたり、どのような区画割りにするか、由仁町とはどういうマチか、病院や学校はどこにあるのかなど由仁町の概要を良く知ってもらい、田舎暮らしの便利な点、不便な点などについて一年間に亘り協議、検討を重ねながら実状を見てもらった上で、入居決定してもらいます。
つまり土地を収得する前に、充分調責、検討してもらうことが大きな特色です。単に宅地販売だけではなく、都市と農村との共生を視野に入れて判断してもらうためです。
──自身の使用目的に合うかどうか、事前に調査できるわけですね
斎藤
入居者も、色々な使用目的があり、庭づくりをしたい人や将来的には農業に従事したい人、また最近はコンピュータなどを活用することにより、会社に毎日出勤しなくて済む人もいます。これからも優良田園住宅は、希望者が多く好評ですので、今後も拡充していく考えでいます。
──基幹産業の農業については
斎藤
大都会に近い田舎ですから、農業の生産、出荷体制もそれに相応しいものにする必要があります。生産者が消費者と話し合いをしながら営農すれば、お互いの顔が見え、消費者の心が解り、売れるものを栽培するようになります。消費者とのつながりを意識した農業体制を考えています。米一つにしても、質の良いものを、消費者に解りやすい販売方法で米づくりをすることです。
  幸い由仁町の米は、質のランクが上位にあるので、今後は野菜などにも目を向けて、軒先販売や農業の見学者を迎え入れ、お互いに農業について理解して販売する方法を考えています。共生交流の中から農業を育て体質改善を図ることが、由仁町の基本的な考え方です。また、関連産業として、農家が都会人向けの民宿やレストランを経営するといったことも、大都会に近い農村としてのあり方だと思いますね。
──人材の育成・教育については
斎藤
地域に根ざした学科や、学年を超えた総合的学習が最近の全国的な方針となっているので、これを推進していく必要があります。一つのテーマを継続して勉強することや、従来の学校教育のように、理科や社会、数学など別々に学習指導しましたが、これらを総合して捉えることも必要ではないでしょうか。例えば農業をテーマにするなら、農業における理科、生物学、さらに経営などを総合して学ぶことが総合的学習です。
私は以前から学校とは、社会教育も含めた地域のセンターであり、子供達の教育の場でありながら、地域の教育・社会教育を一緒になって担うべきだと考えていました。これも総合的学習であり、地域を中心にして、その中から年齢や職業や超えた教育体制を整えることが大切と考え、その中で自立する子供のあり方を考え、教育内容も一緒に地域ぐるみで伸ばしていくべきだと思います。
──現在、論議されている市町村合併について、どう考えますか
斎藤
昭和の大合併の時は、交通手段が少なく近隣町が遠い存在でしたが、その後、道路網が整備され、交通手段の多様化、faxやインターネットの活用などにより、当時とは違って、時間と距離は非常に短くなりました。
このように世の中が変化したのに、市町村が旧来のままの形で良いのかという問題があります。
一方大合併后、特に最近は、住民と共に歩む行政としてマチづくりが進められており、住民との密着度合いが非常に高いのです。その密着は合併をすると、どうしても希薄になると考えられます。財政などの問題もありますが、それを先に論ずるのではなく、住民と行政の関係を考える必要がありますね。そこを起点に据えて合併問題について考えなければなりません。さらには、町内の議論や近隣町の考え方なども集約していかなければなりませんね。
──最後に、今後の政策展望を
斎藤
これからの市町村経営は、単純に将来の施設の維持管理費などを無視するわけにはいきません。しかし、時代が変化しているのに、お金の使い方が変わらないのもいけません。時代に即応した形でのお金の使用、つまり財政改革ですね。それから行政の機構を変える、この行財政改革を徹底していかねばなりません。行財政改革は、ある一面では守りですが、しかしその中から新しいマチづくりの攻めが生まれます。
この難しい命題をこなしながら、由仁町に相応しいマチづくりを多角的に模索していく必要があります。これまで、私なりに由仁町の体質を変えることに努力し、現在の由仁町は、花であればつぼみの段階です。今後は、花を咲かせる努力をして、厳しい時代を生き抜き、見事な花が咲くマチにしていきたいですね。

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