建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年7〜8月号〉

interview

(第二回)

国民に選択される安全・安心な食料を供給

クリーン農業を北海道農業のスタンダードに!

北海道農政部長 麻田信二 氏

麻田 信二 あさだ・しんじ
昭和 22年 12月 23日生(54歳)
網走市出身
北海道大学農学部農芸化学科卒
昭和 49年 4月 入庁(上川支庁経済部農務課)
平成 9年 6月 農政部農政課長
平成 11年 5月 農政部次長
平成 14年 4月 農政部長
資源と国防なき日本が独立国家としてあるためには、せめて食料は自給自足できる体制が必要だ。そのため農産物の生産性を向上するためには、農業基盤整備を完成させ、ビジネスベースにおいても、農業生産を担う農家がゆとりのある暮らしができる体制づくりが必要だ。食料自給率176パーセントを誇るわが国最大の農業県・北海道への期待と責任は大きい。しかし、その一方でbseの発生や、食肉産地偽装事件など、国民の食への信頼を根底から覆してしまう大事件が全国で発生した。わが国の兵糧庫として食料供給を担う北海道は、どう立ち向かい、農業をどう方向付けるのか。今後の農政について麻田信二農政部長に伺った。今月から全3回の連載でお届けする。
──日本が独立国としての基盤を強化する上では、食料が自給できることが必要です。その意味では、自給率176パーセントの北海道農業にかかる期待は大きいですね
麻田
確かに、北海道農業は日本の農業の中でも大きなウエイトを占めており、我が国の食料自給率の向上に果たす役割も非常に大きいものです。一方、北海道が経済的にもピンチの状況にある中で、基幹産業の農業も経営基盤が堅固なものでなければならず、その観点から、北海道農業の将来像を考えていかなければならないと思います。現在、食品の安全性や品質に対する意識が高まってきていますから、クリーンでおいしい北海道の農産物を全国に届けていきたいですね。
また、今後は従来のように、農家が単に一次産品を供給しているだけでは経済的にも厳しいので、加工販売やファーム・インなど、経営の多角化もどんどん進めていかなければなりません。そして、北海道の農村は観光資源としても非常に素晴らしいものを持っており、農業と観光産業は将来の北海道にとって大きな部分を占めていくことになるので、農村の景観も守っていかなければなりません。そのために、大きなウエイトを占めるのはやはり農業農村整備事業ですね。土地の生産性を高めていき、収量を上げ、品質の良いものを作っていくこと。そして機械の稼働効率を向上し、コストダウンにつなげていくことです。
自給率の向上と外国との競争という面を考えますと、北海道ではクリーン農業をこの10年来、進めてきていますが、これを北海道農業のスタンダードにしていくことが目標です。安心・安全な、品質の良い農産物を出していくことが必要ですね。我が国には1億2,500万人の国民がおり、それだけの市場があるのです。そこで、外国の農産物と差別化していくことが必要で、先にも述べた通り、基盤整備によって土づくりを確実に進め、クリーン農業をさらに推進し、国民に北海道の農産物が支持、選択されるようにしていきたい。これが、自給率の向上につながるのではないのかなと思っております。
──BSE(狂牛病)や雪印の問題などで、食に対する信頼が揺らいでいますが、その信頼回復については
麻田
これまで、本州の消費者には、北海道の食物は農産物にしても牛乳にしても大変良いものと喜ばれてきました。ところが、BSEの発生によりその信頼が揺らいでしまいました。そこで道としては、この4月に「道産食品安全室」を作り、道産食品が生産から食卓に上るまでの過程を、消費者に十分理解いただけるようなシステムづくりに取り組み始めました。また、「道産食品安全政策会議」を設置し、消費者の代表者や加工関係者、流通関係者、学識経験者、生産者の方々で、消費者にとってどのようなシステムが理想なのかを検討していきたいと思っています。
──BSEについては全頭検査を行いましたが、道内の畜産農家に対する何らかの指導や対策は行われましたか
麻田
まず、自給飼料をできるだけ使っていくことが大切であり、また購入飼料に関する確実なデータベースを構築することが必要です。飼料の種類はたくさんありますので、まずは農家がその内容を十分に把握してから使っていただくよう方向付けています。
一方、道としても抜き打ちに抜き取り調査などを行い、その中に哺乳動物等の肉骨粉が混ざっているかどうかなど、監視・検査を厳しく実施していきます。
──食の安全対策においても、北海道スタンダードを確立するのが良いのでは
麻田
その前に、全国ベースで対応のあり方を定めることが必要です。食料というのは、全国に流通するものですから、道産品だけが安全であれば良いというものではありません。
──世界市場を支配したアメリカのit産業の核心にあるのは特許、著作権でした。その意味では、新たな農業上の新発見や開発を担う本道の農業試験場にかかる期待と責任は大きいですね
麻田
一昨年、新得町の畜産試験場と滝川市の畜産試験場が統合して、新得に全国一の「北海道畜産試験場」ができました。そして現在は、中標津町に酪農専門の「根釧農業試験場」を整備しており、外溝工事などを除けば今年度中に完成します。この2つの試験場と、浜頓別町の試験場とのネットワークの下に、決して人真似ではない技術の開発を進め、北海道らしい酪農・畜産ができるような支援体制づくりをどんどん進めていきたいですね。
──具体的な研究テーマは既に決まっていますか
麻田
それはすでに決まっています。今年からは、口蹄疫やBSEの発生という事態から、地域で自給できる資源を使い、現在の酪農の生産力を落とさず、かつ外国からの購入飼料に依存しない酪農ができないか、プロジェクト研究を行っていきます。
また、新得の畜産試験場では、BSEの検査を迅速に行える検査法の開発について、道の衛生研究所や独立行政法人の産業技術研究機構、また帯広畜産大学や民間も交え、産学官共同のプロジェクトとして研究していきたいと思っています。
──これらの試験場で開発された資源を、全国さらには国外へも供給できるようになれば、北海道スタンダードの確立が実現できますね
麻田
実際に、日本は資源が全くない国です。けれども、農業に関して言えば、北海道にはこれだけの広大な大地がありますから、これを無駄なく使っていくことができれば、それも夢ではありません。

(第二回)

北海道農業は、わが国の食料供給基地としての役割を担い、さらにその機能を高め、安定させていく上で、農業農村整備事業も欠かせない。 事業費が大きいだけに、様々な意見もあるが、その整備がもたらす効果は、かなり広範にして多岐にわたり、しかも目に見える形で現れている。農業農村整備事業の現状と今後の方向性について、引き続き麻田信二農政部長に伺った。
――農家の生活環境の向上と農作業の効率化や生産性を上げるための農業農村整備も大切ですね
麻田
国際化等に対応した体質の強い農業経営の確立や潤いのある農村の形成にとって、農業農村整備は、これまで重要な役割を果たしてきたし、これからも、その役割が期待されます。
――ただ、国は、骨太方針に基づき、平成14年度の公共事業予算を大きく削減するとともに重点7分野に予算を重点配分するなど、農業農村整備事業への影響が懸念されます
麻田
国は、平成14年の公共投資を対前年比10.7%減としたところです。このうち、農業農村整備事業については、さらに厳しく、全国ベースで対前年比14.2%減となりました。北海道につきましては、全国に比べやや手厚く予算配分がされたものの、対前年比12.4%の減となっております。
こうした、公共事業予算の大幅な減額に伴います雇用問題については、道としても深刻に受け止め、経済部などとも連携し、建設業など他産業の離職者の農業・農村分野における雇用の創出に向け議論を深めているところです。
――平成14年度から改正土地改良法が施行となりました。具体的に農業農村整備事業の推進方向はどう変わったのでしょうか
麻田
国は、新しい食料・農業・農村基本法や基本計画を踏まえるとともに、社会情勢の変化などに対応するため、土地改良法の見直しを行いました。
その一つは、環境との調和への配慮です。今後の農業農村整備事業については、地域の合意のもと、市町村が作成する農村地域の環境保全に関する基本計画である田園環境整備マスタープランを踏まえて、実施することとなりました。
二つ目は、地域の意向を踏まえた事業計画の策定です。地域住民を含め広く意見を聴くことで事業の円滑な実施を図るため、申請人が計画概要を作成する際に意見がある者は意見書を提出できる仕組みを設けました。
――事業の透明化も進んでいるようですが、北海道独自の取り組みについて教えて下さい
麻田
道では、事業の効率性や透明性の向上を図る観点から、時のアセスメントから始まった政策評価の一環として、公共事業の再評価を国に先駆け、平成10年度から実施しているところです。この政策評価は、平成14年4月に北海道政策評価条例として制度化されました。また、昨年度からは、事業の計画から完了後までの各段階ごとに事業内容を公表するアカウンタビリティを始めました。
一方、入札などに係る透明性を確保するため、一昨年策定した入札制度改善行動計画に沿って、多様な入札制度やランダムカット式指定競争入札を導入してきております。多様な入札制度については、平成13年度実績で33%となっております。委託業務の発注についてもランダムカット式指名競争入札を7月に指名するものから適用することとなっております。
また、入札契約に係る透明性、客観性、公平性の高い指名選考や積極的な情報公開を行うことを目的に、発注3部が共同で入札契約総合管理システムを立ち上げたところです。
――事業の透明性という観点から言えば事業を実施した効果が問題となると思いますが
麻田
それは大事な視点だと思います。道は、国際化に耐え得る体質の強い農家経営の確立などを目指し、農業者が必要な生産基盤の整備に積極的に取り組めるよう、市町村と協力して平成8年度から平成12年度までの5年間、21世紀高生産基盤整備促進特別対策事業、いわゆる21世紀農地パワーアップ事業を実施してきました。また、平成14年3月には事業の実績と効果を「実施概要」としてまとめております。
その実施概要によりますと、本事業を実施しなかった場合と比較して、暗渠排水などの面的工事では1.4〜1.8倍、家畜糞尿利活用施設では2.8倍と大きく伸び、農業生産基盤の整備促進が図られたことが分かります。また、整備を実施した地域からは、暗渠排水等の整備により反収が向上したり労働時間が大きく減少したなどの報告が寄せられています。一方、家畜糞尿利活用施設の整備によって、地域内の有機質資源のリサイクルシステムが確立したとの事例もあります。
これらの効果実態を金銭的に評価することは、なかなか難しいのですが、関連産業への波及効果も含め効果額を試算すると、3,620億円の投資に対し、年間409億円となりました。
道は、市町村と連携し、この21世紀農地パワーアップ事業を引き継ぐ形で、食料自給率の向上と、環境と調和した持続的農業を推進するため、生産基盤整備の農家負担を軽減させる食料・環境基盤緊急確立対策事業(通称ポストパワーアップ事業)を平成13年度にスタートさせました。この事業の対策期間は、家畜糞尿利活用施設は16年度までの4ヶ年、その他生産基盤整備は17年度までの5か年となっています。
この事業は、農家を始め関係機関に大変喜ばれているのですが、多額の道予算を伴うことから、道財政が厳しい今日、予算の確保が大きな課題となっています。
――今後の農業農村整備事業の推進方向について、どう考えておりますか
麻田
先に述べたように、これからは、公共事業予算が抑制されると考えています。このような状況の中で、効果的・効率的に事業を進めるためには、まず、地域の連携による事業の推進が必要です。そのためには、今年度から新たに設置された、開発建設部や道、市町村等からなる地域連絡会議において、地域の将来像や、その実現に向けて必要となる社会資本とは何かを充分議論した上で、地域全体の合意に基づき、本当に必要な社会資本の整備を進めることが重要となるでしょう。
2点目としては、事業コストの縮減です。道は、平成9年度に農水省が示した公共事業コスト縮減に関する行動計画に基づき、平成11年度までの3ヶ年で、低コスト工法の導入などにより、農業農村整備事業全体で7.8%、事業費にして130億円のコスト縮減を達成したところです。平成12年からは、新行動指針により、更なるコスト縮減に取り組んでいるところですが、整備された施設などのライフサイクルコストに対する配慮など、ますます、コスト縮減の積極的な取り組みが重要と考えています。
第3点目は、北海道の厳しい農業・農村の状況を支える農業農村整備事業を今後どう展開するか、中長期的な展望を示すという点です。
道は、農家戸数の減少や農業従事者の高齢化の進行さらには、農村の過疎化といった厳しい現実を踏まえ、生産者をはじめとする市町村や農業関係機関・団体自らが多様性に支えられた力強い農業・農村を確立すべく、「あしたを拓く農業・農村創造運動」を広く関係者の理解と協力のもとに平成14年度からスタートさせました。この一環として、こうした運動の展開による農業農村の改革を実効あるものとし、持続可能な北海道農業・農村を構築する上で重要な役割を担う農業農村整備事業の今後のあり方を検討することにしています。

(以下次号)


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