建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

interview

「味覚観光都市宣言」で漁業・観光振興を一体化

根室再生のポイントは、北方領土と漁業

北海道根室市長 藤原 弘 氏

藤原 弘 ふじわら・ひろし
昭和11年11月16日生まれ、埼玉県出身、北大水産学部卒
昭和 34年 道庁に入庁
52年 水産部漁政課組合係長
55年 後志支庁水産課長
56年 水産部漁政課長補佐
58年 同漁業経営対策室参事
60年 同漁政課長
61年 同技監兼漁業経営対策室長
63年 水産部技監
平成 元年 根室支庁長
3年 水産部長
6年 道庁を退職
6年 北海道栽培漁業振興公社会長代行
9年 北海道漁業信用基金協会副理事長
10年 根室市長選に初当選
北海道の中でも古い歴史を持つ根室市は、広大な太平洋とオホーツク海に囲まれた、自然豊かな最東のまちだ。未解決の北方領土問題に加え、漁業規制や経済の低迷など、厳しい状況下にある根室市だが、昨年9月には「味覚観光都市宣言」を行い、漁業と観光振興を一体化させた新たなまちづくりに取り組み始めた。「根室再生のポイントは北方領土問題の解決と水産業の活性化」と語る藤原市長は、二期目に向け、引き続き市政の舵取りを行う決意を新たにした。
──まもなく市長の任期一期目を終えますが、任期を振り返ってどう自己評価しますか
藤原
私は就任以来、「市政変革の推進」「市民参加型行政の推進」「迫力ある行政の推進」の三点を市政執行の基本姿勢として掲げ、全力を尽くしてきました。評価は市民の皆さまが行うものですが、敢えて評価をするとすれば、多くの皆様のご協力もあり、就任時に掲げた約70件の公約のうち、7割程度が達成できたのではないかと思っています。
振り返ればこの4年間は、市の財政状況も厳しく、北方領土問題や、ロシア水域を主体とする国際漁業規制の中で、市経済の低迷も続き、強い閉塞悪に包まれた危機的な状況でした。しかし、私は常に「日常性に埋没することなく、己を投企していく」ということを自分にも、職員にも言い聞かせ、「出来ない」ではなく、「どうしたら出来るのか」を、あらゆる戦略を駆使し、可能性を追求する姿勢をもって、市政の推進に臨んできたつもりです。
──その北方領土問題は、依然として未解決のまま大きな課題として残され続けていますが、今後の展望は
藤原
根室市は、領土問題の「原点の地」として、半世紀以上に亘り、たゆまぬ努力と情熱を持って、全国の先頭に立って領土返還運動を展開してきました。
市にとっては、領土問題の解決なくして戦後はなく、経済的にも社会的にも領土が返ってはじめて正常になる、まさに北方領土との対峙を避けられない宿命の地域であるとの思いです。
その地元市長としては、今後の積極的な外交交渉の推進により、領土問題が具体的に進展し、一日も早く解決することを期待しているところです。領土問題を解決するためには、ロシアとの外交交渉を粘り強く継続していく必要がありますが、これを支えるのは国民の一致した世論と力強い支持です。こうした世論を形作るためにも、より一層の返還運動に邁進していく決意です。
──領土問題は、ロシアとの漁業交渉においても、大きな足枷となってきました
藤原
根室市の漁業は、戦後すぐに北方領土を失ったこと、加えて昭和52年の漁業専管水域200海里の設定に代表される国際的な漁業規制の強化、輸入水産物の増大による魚価の低迷など国際的な動向に大きく影響されてきました。特に、近年の対ロシア漁業交渉は、サケ・マス漁業交渉や地先沖合漁業交渉などが、ロシア国内の漁獲枠の入札による割当などによる漁業情勢の変化から、極めて厳しい状況となっています。
一方、世界的な貿易自由化の流れの中で、水産物に対するiq制度(輸入割当制度)の撤廃が求められている状況にあり、現行制度の撤廃はコンブ漁に携わる多くの漁民に影響を及ぼす事が懸念されます。
  このため、対ロ漁業交渉については、国際漁業の位置付けのもとに、根室の漁業を守る視点から、一日も早くこの窮状が打開されるよう、強力な漁業外交の展開を強く訴えているところです。コンブに係わる輸入割り当て制度についても「コンブ輸入割当制度堅持北海道自治体協議会」の会長として、その堅持に向けて関係自治体とともに努力しています。
──確かに、厳しい情勢ですが、それでもサンマは4年連続で漁獲量が日本一になりましたね
藤原
地元漁業者の懸命な頑張り、外来漁船の誘致活動への努力が実りましたね。魚種全体でも、北洋漁場の最前線基地として、3年連続で漁港全国ランキング5番目の水揚金額を記録しました。サンマのみならず、北洋サケ・マス、花咲ガニなど、根室の味覚は全国的にも知られていますが、これを「根室ブランド」として売り出すため、「根室市水産物品質及び衛生管理マニュアル」を策定。「地域HACCP化」を推進するために、段階別目標への取り組みを実践しているところです。
また、周囲を海で囲まれる半島であるため、沿岸を活用した漁業の振興は特に重要な課題です。ウニ種苗センターや水産研究所での花咲ガニなど甲殻類の飼育研究の推進、市内4漁協を中心として進める各種種苗放流や移殖事業、さらには漁場改良事業など、沿岸資源増大について積極的に取り組んでいきたいと思います。
──漁業振興に加え、観光振興とも一体化させたまちづくりにも取り組みはじめましたね
藤原
根室市では、昨年9月、「味覚観光都市ねむろ」宣言を行いました。これは、サンマ、サケ・マス、花咲ガニなど、根室の豊富な魚介類を観光資源として、訪れる人々に「食と観光」の一体感を感じとってもらえるようなまちづくりを進めることがねらいです。
酪農業を中心としたグループの体験観光への取り組み、根室漁業協同組合を中心とした「朝市」の開催など、「根室の食」と併せた新たな観光資源も広がりを見せていますし、今後、市としても関係団体と積極的な連携をはかり、将来的には観光面で新たな雇用の場が確保できるような産業に発展することを期待したいですね。
──ところで、現在の市町村を取り巻く課題としては、市町村合併への対応があります
藤原
合併論議は、地域の実態を踏まえ、市・町間の距離や人口・面積・財政状況などを総合的に判断することが求められると同時に、住民に対しても合併に関する素材を提供していくこと、近隣町との情報交換などが必要です。
合併によって市民の生活がどの様になるか、福祉の向上が図られるのかどうか、十分検討を重ねた上で判断しなければなりません。平成17年3月末の合併特例法の期限がありますが、そもそも財政論議から合併に向かうべきではありません。
根室市の場合は、地理的な問題などを考えたとき、住民の利便性や経済圏など、近隣町との合併によるメリットの判断は難しいですね。例えば、市と別海町が合併すれば、ほぼ香川県に匹敵する行政面積となり、同一町内を移動するにしても、納沙布地区から西春別地区までが約120km。これで一つの行政体として成り立っていくのかどうか。
いずれにしても、住民の気運の盛り上がりが大きな要素を占めることから、合併については慎重に対応していくべきものと考えます。
──今後の政策展望、次期に向けての抱負は
藤原
景気の低迷下での市税の減少や、ロシア水域を主体とする国際漁業の規制に伴う水産業の低迷など、予測できない、避けがたい要因により、公約の全てを実現することができませんでした。私はこのことに重く責任を感じており、今後とも全力を尽くして未解決の課題等に取り組んでいきたいと強く決意し、先般(6月17日)、二期目への立起を表明致しました。
私は、根室再生のポイントは、北方領土問題の解決、基幹産業である水産業の活性化にあると考えます。産業が活性化してこそ若者が町に定着化し、活性化が図られ、より一層の住民福祉が向上されるのです。
また、市立根室病院の改築計画づくりや、少子高齢化社会への対応をはじめ、介護保険事業等の福祉施策のほか、環境問題、自然保護等の社会的な課題への対応等々にも配慮しながら、市民がゆとりと豊かさを実感できるまちづくりに努め、徹底した経常経費の抑制に努めるなど、行財政改革にも強い決意を持って取り組みたいと思います。

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