建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

interview

津軽海峡に夢かける北欧の国々で海峡横断橋の可能性を実感

ヨーロッパの地方商工会議所がBOT採用で橋の建設

本州・北海道架橋を考える会 福西 秀和 代表幹事

福西 秀和 ふくにし・ひでかず
昭和 26年 5月18日生まれ42歳
45年 道立函館中部高等学校卒業
49年 市立高崎経済大学経営学科卒業
東京にてマスコミに1年勤務後、帰函
51年 父の経営する株式会社工藤組入社
平成 4年 代表取締役社長に就任
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平成 2年 道南建設二世会会長
3年 社団法人函館青年会議所理事長
函館夜景の日初代委員長
5年 函館圏100人会議第1分科会 代表幹事
6年 本州・北海道架橋を考える会 代表幹事
12年 財団法人 工藤育英会 理事長
14年 npo法人設立 理事長
(株)工藤組(北海道・函館市)の社長である福西秀和氏は、本州・北海道架橋を考える会の代表幹事でもある。津軽海峡に架橋は可能か。これは長年にわたって関心が持たれてきたテーマであり、これを実現することは橋梁技術者にとってもロマンである。そのため、福西氏は、その可能性を探るためにヨーロッパ諸国に渡り、様々な事例を研究してきた。結論として、実現の可能性は果たしてあるのだろうか。
──「海峡横断橋・トンネルに関する国際会議」の世界大会で、ノルウエーを訪問したそうですね
福西
私としては、初めて橋の会をつくった時に現地視察団に参加したことがあります。ノルウェーは、北海道の気候によく似ています。国土の大部分は山岳で占められ、平地や海岸地帯から山岳部まで延々と谷が続きます。高い山々と、内陸まで深く切れ込んだ海岸線があり、フィヨルドと呼ばれる日本のリアス式海岸のようなものがあります。人口は分散し、農業や漁業など伝統的産業に従事する人が地方に点在しています。村と村との間隔はわずか1,500mくらいしかありませんが、その間に氷河の浸食でできた水深500mから800mに達するフィヨルドがあるのです。
それでも、政府は地方でも不便なく暮らせるように、インフラ整備に膨大な費用を投じています。そのノルウェーで、「海峡横断橋・トンネルに関する国際会議」の世界大会が、4年に1度開催されているわけです。
──初めて訪問したのは、いつ頃ですか
福西
平成6年2月26日に「本州・北海道架橋を考える会」が函館市で発足した時で、橋梁の専門家である駒田啓一先生(東京横断連絡道路調査会、現在は(財)架橋調査会専務理事)に引率してもらい、6月11日から24日までの世界会議、その中のテクニカルツアーに参加しました。
現地では、視察で何も無い北極圏に迫るような所までも道路が整備されていました。当然、それについて質問が出ました。「なぜ、こんなところに道路が造られたのか。普段は使われないのではないか」と。それに対しては、「ここも、わが領土なのです」という回答でした。つまり、ノルウェーは19世紀までは、西欧諸国に領土を次々と奪われてきました。ロシアから侵略されたり、スウェーデンから侵略されてきたので、国民の国家と国土に対する意識が全く違うわけです。だから、たとえ人が住んでいなくても道路を整備するとのことです。
このように、領土に対する意識は、日本と比べると全く違っています。こうした意識を日本人は失っているため、たとえば四国の人が、地続きで北海道オホーツクに行けるようにしようといった発想には至らないのです。
むしろ、北海道はヤッカイドーと言わんばかりの発想しかありません。それに比べ、侵略を経験した国では、国家や国土を大切にする意識が全く違います。いまこそ日本人は忘れられた、いい意味でのナショナリズムを再生しなければいけないと思います。
──ノルウェーでは、都市と地方を結ぶアクセスは、ほとんどが橋でしょうか
福西
スカンジナビア半島の西側に位置する細長い国土で、島もわずかにありますが、国土のほとんどはフィヨルドで、ノコギリの歯のような海岸線ばかりです。その海岸に都市が必ずあるわけですから、これを結ぶには橋梁あるいはトンネルしかないでしょう。入江は水深400mや500mにも達しますから、橋梁が中心ですが、一部水中トンネルも計画されています。
そうした海岸に連なる橋を見ると、まさに展覧会のような様相です。中には、薄いコンクリートでつくられた橋梁もあり、美しさを感じました。非常にスリムで、日本で見られる重厚なものではなく、洗練されたデザインの橋が連なっており、非常に美しい景観です。
──他の北欧諸国については
福西
デンマークなども、島々が全て橋で連結しています。最初に訪問した時は、グレートベルトリンクの設計者と面談するのが目的でしたが、説明を聞いた限りでは、この地方は海が浅いので、そこにあるものと同じ橋を日本で整備しても特段の問題はないと思いました。
その5、6年後にも再訪問しましたが、なんと国情がすっかり変わっていました。コペンハーゲンのシェラン島とスウェーデンのマルメを結ぶ「オーレンス・リンク」が完成し、4キロの海底トンネルと約4キロの人工島、マルメまでの約8キロの橋梁ができていました。
東京湾アクアラインと同じ規模の橋が、スウェーデンに架けられ、欧州大陸とスカンジナビア半島が陸続きに、デンマークがヨーロッパの中継基地となりました。そこに、ドイツの有名な精密機械の企業などが企業誘致されました。
──ハブ空港やハブ港湾と同様な、ハブ道路という機能を持ったのですね
福西
そうです。その結果、農業国だったデンマークの国情は、一変しました。大学卒業者の新入社員の年収は、日本円にして平均500万円とのことです。日本ではせいぜい250〜260万円程度ですから2倍です。
国土面積は北海道と似たような規模で、寒さも同じくらいであるのに、北海道はなぜ自立、独立ができないのかと思います。
──橋梁一つで、情勢がそれだけ変わる可能性もあるということですね
福西
デンマークとスウェーデンを結ぶオーレンス・リンクはヨーロッパのバイパスになります。その結果、ドイツを経由せずにデンマークまで行けるようになりました。北欧からフランスまでの直通道路が完成したので、情勢は全く変わりました。ガイドさんも「もはや酪農国家ではありません」と、言っていました。それほど、北海道と同じくらいの面積と人口しか持たない国が、年収500万円の初任給を支給できるような経済国に育ったわけです。
──北海道の場合、道央自動車道は、函館(現在国縫まで開通)で終わります。しかし、そこで終わらず、青森まで架橋されれば、東京・名古屋・関西・九州まで地続きで行けるようになります
福西
そうです。そこまで出来なければ、真の効果は出てこないのです。日本の高速道路網などは、至る所で途切れており、静脈にも動脈にもなっていません。
──本州と九州・四国が橋で結ばれていますが、北海道と青森は
福西
日本の4つの島が結ばれるのは、絶対的に理想であるのは間違いありません。青函トンネルの計画段階でも、トンネルと橋梁の両方が検討されたものと思います。しかし、そうした長大橋の前例が無かったため、トンネル方式に決定したのだろうと思います。いかに津軽海峡を広い川と見なしたところで、17.5kmにわたる橋を架ける可能性はないと、誰もが思いこんでいたでしょう。
ところが、平成2年に発表された吉田巌先生の論文を読んだところ、津軽海峡とジブラルタル海峡の比較があり、ジブラルタル海峡の規模は、津軽海峡より大きいにも関わらず、長大橋の架橋構想が計画されていました。それが可能ならば、函館でも架橋を実現すべく、地元住民としてアピールすべきだと考えました。もしも、本当に橋を架ける自信が、それら技術者にあるのであれば、我々はソフト面でのノウハウを蓄積しなければならず、そしてその橋が架けられるマチとして、アピールしなければならないと思いました。
その思いが十分に満ちて、私は吉田先生に会いに行き、話を聞く機会を得ました。さらに、津軽大橋の推進者だった開発局の大橋猛(平成10年北海道開発局開発土木研究所を最後に永眠)氏は、その仲人が吉田先生だったことから人脈が広がり、今日があるわけです。
──大橋氏は、技術的な可能性について、何か希望の持てる観測を述べていましたか
福西
彼は、本州四国連絡橋公団に勤務していた立場上、世界の長大橋の実態が視野にあり、その上で明石海峡、開発局では白鳥大橋に取り組んでいたでしょうから、技術者の視点からできると思っていたでしょう。最後に仰った言葉は「ANYTHING POSSIBLE」という一言でした。彼には、可能性が見えていたのかも知れません。
──その後、具体的にどう行動してきましたか
福西
私は平成3年から函館青年会議所の理事長を務めていたので、青年団体をまとめる役目を負いました。その結果、何事によらず、意志の連判というものができ、考える会の発足もスムーズにいきました。
そして私から二代後の理事長のとき、つまり平成5年9月22日に函館で初めての「津軽海峡に夢かける」地域振興講演会を開催し、吉田先生に講演をしてもらい、小長井宣生(当時、道開発局室蘭開発建設部室蘭道路事務所長)さんに関連データを公表してもらいました。
──国土審議会計画部会の策定した「21世紀の国土のグランドデザイン−新しい全国総合開発計画の基本的な考え方」では、“日本の海峡プロジェクト・津軽海峡道路”が計画されていましたね
福西
その時は、吉田先生が委員会の委員長で、全国の7つの長大橋の可能性を探っていました。津軽海峡と東京湾湾口と伊勢湾口と紀淡海峡、豊予海峡、関門海峡、それから長崎にある島原天草長島と、この7つが新交通軸として海峡横断道路計画が作成されましたが、地元の熱意のなさか、いつの間にか消えていました。とても残念に思っています。
──問題は財源確保ですが、西欧諸国の情勢は
福西
フランス北部のノルマンディーの橋を視察したときのことですが、そこでは一方が完成し、有料道路となっていました。当時はもう一方を整備している最中でしたが、斜張橋の見事な橋で、地元商工会議所が事業主となっています。つまり商工会議所が資金の調達から建設、運営まで一貫して請け負うbot方式で進めているわけです。
以前に使用していた道路と、後に完成した道路とを、互いに上り下りに上手く使っているわけです。建設資金は25年から35年で償還する計画で、50年後には国に割安で売却するのです。国は買収を保証し、それまでは商工会議所が使用して、通行料収入を得ながら建設資金の借り入れを埋め合わせるわけです。
こうしたファイナンスのあり方は、日本のシステムとは異なるかも知れませんが、これをノルマンディーの都市ですら活用しているのですから、公共事業予算が抑制されている日本でもこれらのbot・pfiを導入すべきだと思います。
──国が公的債務を伴わないとなると、より多くの事業がスムーズに実施できる可能性が高くなりますね
福西
平成11年8月に、イタリアに行きましたが、そこにはメッシナ海峡に橋を架ける計画を持つメッシナ公団という公益団体があります。イタリア政府が支援しているもので、北海道に匹敵する人口を持つシチリア島とイタリア本土を結ぶメッシナ橋を整備運営するとされています。その総裁が誰かと言えば、シチリア島の商工会議所会頭ですから、日本とは体制が全く違いますね。組織にしても、こうした仕組みが根付いているので、事業も計画・実施しやすいわけですね。
──北海道、日本にとって津軽海峡大橋は、どんな波及効果をもたらすものと期待できますか
福西
北海道と本州の交流が活性化すれば、新たに発生する自動車輸送による経済効果は大きいと思います。特に北海道は、食糧と観光が充実し、それらを国民に供給する基地となります。北海道の観光バスのパックといった新商品も可能になります。
例えば、和歌山県のバスのバスガイドさんは、「高規格道路が地元にできて、本当に助かっている」と言っています。つまり高規格道路のお陰で、移動にともなう所用時間が大幅に短縮されたので、観光客が来るにも、ガイドらが帰るにも、かなり便利になったというわけです。
こうした利点が、残念ながら国民には分かってもらえないのです。国民つまり納税者は、マスコミと違って、自分達が本当に思っていることを発表する場がないのです。私たちは、本業は建設業界としての業務を行いますが、それと同時に文明・文化の仕事をしているという自負があります。その意味では、津軽海峡大橋には大きな夢があります。

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