建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年3・5月号〉

interview

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東京都内の渋滞対策に総力を挙げて取り組む

早期解決が望まれる開かずの踏切、信号3回待ち、バス停車で一時停止

東京都建設局 道路建設部長 小峰 良介 氏

小峰 良介 こみね・りょうすけ
昭和19年 9月20日生まれ
43年 建設局
50年 港湾局主査
57年 東京港埠頭施設一課長
62年 総務局副知事秘書
平成 元年 都市計画局新線担当課長
3年 港湾局臨副開発室整備計画課長
4年 港整備部計画課長
6年 荒川区土木部長
8年 建設局参事(道路計画担当)
9年 建設局道路保全担当部長
開かずの踏切、信号3回待ち、バスの停、発車にともなう一時停止の繰り返し。東京都内の道路交通渋滞はつとに有名で、ドライバーにとってはイライラが募るばかり。およそ「快適なドライブ」と呼ぶにはほど遠い状況だ。この渋滞による環境悪化と経済的沈滞を解消すべく、東京都は総力を挙げて取り組んでいる。道路建設部の小峰良介部長に、渋滞対策に向けての施策と課題などを伺った。
――石原知事になってから都内の渋滞対策を本格化すべく、かなり積極的に行動を起こすようになり、政治レベルにも及んでいますね
小峰
そうですね、青島都政の時代も、それ以前も渋滞対策を進めなければならないというコンセンサスはあったのですが、それを内外共に強くアピールしたのは、石原知事からでしょう。21世紀、東京が日本を支え、世界都市としてリード役を果たしていくためには、東京の渋滞解消とそれによる環境改善が絶対必要だとの認識から行動し始めたわけです。
――現在の道路整備状況は
小峰
客席数は、野球の場合約41,300席と、東京ドームに次いで2番目の規模となります。また、空間の大きさは福岡ドームに次ぐ2番目の大きさで、これは東京ドームがスッポリと収まるほどの大きさです。敷地は約31ヘクタールもあり、全国一の広さですから、まさに雄大な北海道に相応しいビッグスケールといえます。
しかし、何よりも札幌ドームが2002年のfifaワールドカップ大会会場のひとつに選ばれていることは世界最先端の技術を集めたドームと札幌の街を世界にprする大きなチャンスです。日本国内では宮城県、茨城県、埼玉県、横浜市、新潟県、静岡県、大阪市、神戸市、大分県が選ばれていますが、ドームが会場となるのは札幌だけです。
 このほか、プロ野球やjリーグなどのスポーツイベントをはじめ、コンサートや展示会など様々なビッグイベントが開催できます。
――ワールドカップをはじめ、これまで市民・道民が体験したことのないビッグイベントが夢と感動を与えてくれそうですね。ところで、札幌ドームが最終的に現在の方式に決定した経緯についてお聞かせ下さい。
小峰
まず、広域的な視点に立つと、高速道路では「3環状9放射」の整備が非常に重要です。東京を中心とする放射方向の高速道路は早くから整備が進められてきたことから、比較的充実しています。一方、環状方向の3路線である中央環状線、外郭環状線、首都圏中央連絡道の整備は大変遅れていて、全体では約20%しか完成していません。ロンドン、ベルリンはほぼ100%、パリは70%を超えており、首都圏の環状高速道路の整備状況は大変見劣りがします。そこで、都はこれら3環状の事業主体である国、首都高速道路公団、日本道路公団に早期整備を要請しています。
現在、東京では都心に用事のない通過交通が多いので、3環状のうち圏央道と外環の整備によって、通過交通を削減することができ、交通混雑がかなり解消されるものと期待しています。
都は、直接の事業者ではありませんが、出資金、直轄事業分担金など担当の事業費を負担しています。
都道についてみますと、整備が進んでいるように思われていますが、都市計画道路で完成しているのは区部56%、多摩地域47%、全体では50%で、まだ、道半ばといった状況です。
現在、区部環状、多摩南北等の幹線道路の整備に重点を置いています。区部では、中央環状線が地下を通る環状6号線は、22mの幅員を40mに18年度までに拡幅します。環状8号線は都心への通過交通を分散させる効果があり、17年度までに全線開通する予定で、特に重点的に建設しています。また、環状5号線は、地下鉄13号線の導入部である池袋に近い雑司ヶ谷などで事業を行っています。
 多摩地域には、東西方向に新青梅街道、五日市街道などが整備されています。現在、東八道路の整備も進んできています。また、南北道路5路線が埼玉県や神奈川県など隣県の道路と適切に接続すれば、広域的な環状道路になります。5路線のうち、調布保谷線と府中所沢鎌倉街道線の整備が遅れているため、その整備に力を入れていこうと考えています。
――都内は、国道もあり、都道もあり、首都高速もありますが、これらの割合は
小峰
都内には、市町村道含めて全部で約2.3万キロの道路がありますが、概ねその1割の2,200qが都道で、国道は1.5%、300q、首都高は1%弱、170q、道路公団高速道60qで、残りの90%近くが区市町村道となっています。
――自治体が連携して、地方道のネットワークを築くことが重要では
小峰
先程お話ししように多摩の南北道路は北に埼玉、南に神奈川に連絡し、また、東に伸びる放射道路は千葉に連絡します。これらの道路が完成されれば、広域的な役割を果たしていくわけで、その整備は関連する都県にとって重要です。整備を促進する上で、これまで、都県あるいは政令都市レベルでの協力体制が弱かったと言えます。それは国が広域的な役割を持っており、そのことに都県市が頼っていたことにもあると思います。
 現在、7都県市が協力して国に対し、財源の確保などを要求していますが、それだけでは充分ではなく、道路整備に向けた具体的な都県間等の協力関係を強めることが必要です。
――都内は、東部は荒川、隅田川、南西部は多摩川という大河川で分断されていますが、橋梁を増やすことで渋滞をある程度は解消できるのでは
小峰
東京の橋梁は関東大震災復興及び高度経済成長時に集中して建設されました。隅田川や荒川については、道路計画に合わせ、ほぼ整備されており、隅田川では橋の間隔は概ね1qを切っており、荒川では約2qです。
現在、荒川下流では放射16号線に荒川横断橋梁の整備が進められています。多摩川では、下流部で昨年、丸子橋が完成し、現在、大師橋が工事中です。中流部では橋梁間隔も大きく、交通が集中し慢性的に混雑していたため、都道については7つの橋梁の新設または架替を重点的に行うことにしました。既に、立日橋、府中四谷橋、稲城大橋などが完成し、今年3月には多摩水道橋が完成する予定です。このうち、稲城大橋は有料道路として東京都道路公社が整備しました。既に大きな効果が現れていますが、全ての橋梁が整備されると完成時には橋の間隔は概ね4qから2qに短縮、また、車線数は12車線から34車線に増加し、円滑な交通が確保されます。
 加えて、両岸地域の連絡が図られることから、地域の交流・利便性が大変高まっています。
――道路公社の有料道路は、採算がとれたら無料化するケースもありましたが
小峰
道路公社は稲城大橋の他に今年1月に開通したひよどり山有料道路も整備しました。この有料道路は八王子駅から中央高速道八王子icまでのアクセス時間を30分から10分と大幅に短縮することができます。
 公社の有料道路は基本的には整備コストの償還が済めば無料となります。しかし、現実には積極的なprや維持管理費圧縮などの経営努力を行っていますが、十分な料金収入が上がらず、公社経営はかなり苦しい状況にあります。都としてはntt無利子貸付金の返済期間の延長など国に要請していかなければならないと考えています。
――鉄道の連続立体化による渋滞解消効果が期待できるのでは
小峰
道路の交通渋滞を解消する上で踏切の除去が不可欠です。特にピーク時間帯に40〜50分間踏切が遮断し、渋滞の激しい都道との交差を連続的に立体化していく、いわゆる連続立体交差事業を推進することが重要です。この事業には、交通渋滞解消に加えて、市街地の一体化、緊急車の通行確保、高架下の空間利用などの効果があります。石原都政の初めての長期構想である「東京構想2000」においても重要事業として位置付けました。
――現在、着手している路線は
小峰
既に、小田急線など16路線で約130箇所の踏切を除去しました。現在、jr中央線、小田急線、東急目蒲線、西武池袋線など7路線で事業を進めています。事業には膨大な事業費と長期の事業期間を要することから、財源確保、コスト縮減や用地取得促進、工期短縮に努めています。
――事業費負担において都市側と鉄道会社の割合は
小峰
連続立体交差事業の事業費は、区部では都市側が86%、鉄道会社が14%となっています。都市側負担のうち50%が国庫補助金、残りの50%が7対3で都と区が負担しています。多摩地域では鉄道会社の負担が10%とやや小さくなっています。都市側負担にはガソリン税などからなる道路特定財源が当てられます。
――石原知事は、従来の手法と新しい手法を、ケースバイケースで巧みに組み合わることで、より簡便に解決することを提案していました
小峰
知事からは連続立体交差事業が金と時間がかかることから、新たな手法として局所的な道路と鉄道の立体化を検討するよう指示がありました。平成13年度には、羽田空港アクセス向上に寄与する環状8号線と京浜急行本線との踏切解消のための仮線高架化や小田急線、京王線との踏切における都道の立体化など「踏切すいすい事業」に着手する予定です。事業期間は3〜5年としています。
一方、現在、「交差点すいすいプラン100」という計画を進めています。対象はほとんどが多摩地域の交差点で、交差点から100mくらいの距離まで、都市計画に合わせて道路を広げ、右折車線を整備する事業です。都市計画道路全体を整備しなくても、交差点前後に手を加えるだけで交通の流れを改善しようとするもので、環境対策の上でも効果的です。既に、約30箇所で完成しており、交差点の渋滞が解消されました。
 小平市の上水本町では、ピーク時の信号待ちは三回だったのが、わずか一回になりました。写真を見ると、完成前と完成後の差が鮮明で、事業効果が判ると思います。 

(以下次号)


(後編)

――都では、道路整備による経済効果を5兆円と試算していますね
小峰
平成6年度の交通センサスによると、区部での平均走行速度が時速18キロですが、都は20年後に交通渋滞のない状態の30キロに上げることを目標に幹線道路網整備を推進しています。18キロから30キロにスピードアップすることにより、年間4兆9,000億円の交通解消による経済効果があると推定しています。
つまり時間便益と走行便益を試算したわけです。時間便益は移動時間短縮による生活時間創出分を、走行便益は、燃料、タイヤ、車両整備等の節約分を計算したものです。これらを合わせると、概ね年間4兆9,000億円になるわけです。
言い換えますと、道路整備が遅れることにより、それだけの損失を被っているということです。
 何しろ通過するのに15分もかかる幹線道路の交差点が30箇所、ピーク時の待ち時間が1時間のうち40分を越えるボトルネック踏切が360箇所もあるのですから、厳しさが分かると思います。
――渋滞が解消されると大気汚染の減少など、貨幣価値には替えられない価値が生じますね 
小峰
時速30qにスピードアップできると、自動車排気ガスによるco2、nox、soxは、それぞれ約4分の1ほど削減できると推定しています。例えば地球温暖化の要因の一つであるco2については、年間420万トンから320万トンと、100万トンの排出量が削減できると推定しています。
 道路整備は長い年月を要するわけですが、自動車排ガスによる大気汚染を軽減させるためには、自動車単体対策が非常に重要です。エンジン、燃料の低公害化に向けた技術革新が急速に進められていますが、一日も早い実用化、普及を期待しています。
――問題は財源ですね。財政について、都は緊急事態を宣言しています
小峰
都は国の指導・監督が強くなり、しかも現行政サービスを低下させることになる「赤字団体」に転落することを防ぐため、「財政再建推進プラン」を策定し、厳しい財政運営を行っています。道路等整備財源も大きな制約を受けており、その確保が喫緊の課題です。
3年前に、「東京の道路整備は済んでいるので、国の道路財源を都内ではなくて地方に配分すべきだ」という主張がありました。東京の現状をみると、交通渋滞は厳しく、都市活動は高コスト構造となっていますし、都市計画道路は半分しかできていません。
したがって、かなり力を入れて財源確保に向けて動きました。「地方の自治体と同じだね」といわれるくらい、国会議員、都議会議員、首長の皆さんの支援と協力を頂き、国に要望、提案活動をしています。
例えば、全体事業費1,700億円のjr中央線連続立体交差事業(三鷹〜立川)については、沿線自治体から構成される整備促進協議会が年に数回、要請していますし、関係市長も独自で積極的に行動しています。
 他に新交通日暮里舎人線など大きなプロジェクトでは促進団体が設立されています。一時期は一日に5回も霞ヶ関に行きました。
――成果はいかがでしたか
小峰
国庫補助金の対全国のシェアは一定だとよく言われます。東京都は、これまでは9%台で推移してきましたが、平成12年度の街路事業の当初予算では、対全国比が10%を越えました。これは、この10年ほどはなかったことです。
10%を突破するのは難しいだろうと思っていましたが、先に述べたような要請行動が功を奏したのに加え、基本的には渋滞解消などのために、東京に重点的に社会資本の投資をし東京を再生していくことが、日本に不況脱出に不可欠であるとの認識が国政にあったからだと考えています。
 これからも自治体などと協力し、効果的な財源確保運動を展開するとともに、厳しい都財政の中で、多様かつ膨大な道路をはじめとする都市基盤整備のニーズに的確に応えていくため、一層の事業実施の重点化や計画から施工段階にわたるコスト縮減を図らなければならないと考えています。
――例えば道路公社や公営企業の収益をあげ、余力がでたら一般会計に繰り入れることは不可能ですか
小峰
地方道路公社による有料道路は整備費が償還できた時には無料となるもので、現行制度においては収益が上がった場合、前倒し返済はありますが、一般会計への繰り入れはありません。
実態は、東京都道路公社を含めほとんどの道路公社の経営は厳しく、何らかの形での支援が行われています。これからは有料道路整備については、将来の交通量予測、建設コストなどをベースに採算性について厳しくチェックしなければならないでしょう。
また、ほとんどの公社が支援を受けている状況を考えると、料金収入の増収、維持コストの低減、組織のスリム化など経営努力を一層強めるとともに、資金返済方法などの制度上の改善策が必要であると思います。
 公営企業も経営は厳しく、収益をだして一般会計に繰り入れることは困難でしょう。
――道路整備におけるPFIの可能性は
小峰
都の財政状況が悪化する中で、都市施設への民間資金の導入が検討されています。平成11年9月に「pfi法」が施行され、12年3月に「国の基本方針」が定められました。都としても導入の考え方、手順などを明らかにするため、12年12月に「東京都におけるpfi基本方針」を策定しました。
 建設局道路建設部内では、道路及び橋梁の整備等でのpfi事業での採算性、官民のリスク分担など、今後研究していますが、まだまだ克服しなければならない課題が多いと思います。
――最近、ロードプライシングが話題になっていますね
小峰
都は平成12年2月に「TDM東京行動プラン」を策定しました。この計画では、交通需要を調整するため自動車や公共交通機関の使い方を工夫する、ロードプライシングの導入、駐車マネージメントの推進、パークアンドライドの検討など9つの重点施策を位置づけました。
このうちロードプライシングは、指定された区域に自動車で乗り入れる際に、料金を課すことにより、交通量を減らそうとする手法です。シンガポールでは、小規模ですがすでに実施されています。そこで得た収益を道路整備や道路管理に充当しているわけです。
 都は現在、課金対象区域の境界線、課金徴収システム、法制度などを検討しています。また、明治通りや靖国通りや池袋、新宿などでは、警視庁が違法駐車の取り締まりを強化することとしています。
――横浜市などは、渋滞対策のために公営駐車場をかなり整備していますね
小峰
駐車場整備もtdmの一手法と位置づけられています。区内の瞬間路上駐車台数は、平成11年の調査では11万台で、そのうち違法駐車台数は9万台と80%を越えています。自動車保有台数が多いこともありますが、駐車スペースがいかに不足しているかを、データが示しています。
現在、区内では48万台を収容できる駐車場が整備されています。そのうち、都営駐車場や未利用地を活用した都直営駐車場の収容台数はわずか1万台程度であり、東京都駐車場公社が運営、管理しています。
 また、荒川区、港区、台東区などでは、区独自に駐車場の整備、運営を行っていますが、利用者が十分でなく、例えば土日は満車になっても、平日は空きスペースが多く、経営はなかなか難しいようです。高地価、高整備コストが大きく影響しています。
――確かに、高地価の首都圏で駐車場経営は、整備コストの高さからみてかなり難しそうですね
小峰
地下駐車場は、都心地域でも一台分につき2,000万円程度で整備できなければ料金収入での採算がとれないと聞いています。民営駐車場と競合もします。バブルがはじけた頃でも一台につき4,500万円もかかりますから、料金は倍にしなければ成り立たないでしょう。
――今後の渋滞解消に向けての施策予定と、今後の予測は
小峰
石原知事は交通渋滞の改善が進まない状況を、東京が世界都市としての地位が揺らぎ、国際競争力を失う危機として捉えています。都は多くの困難を克服して渋滞解消に向けて、道路網の整備など交通容量の拡大を図るとともに、自動車の効率的利用など交通需要の調整を同時並行的に進めなければなりません。
 昨年12月に策定した「東京構想2000」に基づき、具体的施策を重点的に推進していかなければなりません。「東京構想」が展望している50年後には、ニューヨーク、ロンドン、パリなどの諸都市と比肩し得る品格と魅力ある世界都市に東京が再生しているものと確信しています。

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