建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年1月号〉

interview

公共事業とは、国民の意思の総意だと願いたい

理想は、北海道独自のスタンダードでモノを作っていくこと

水元建設(株)代表取締役社長 水元尚也 氏

水元 尚也 みずもと・たかや
昭和 21年 7月 3日生まれ、北見市出身
昭和 48年 3月 北海学園大学工学部土木工学科卒業
48年 4月 北見市役所勤務
52年 12月 水元建設(株)入社 取締役就任
57年 7月 水元建設(株) 代表取締役専務就任
平成 2年 2月 (株)ナオック設立 代表取締役就任
3年 10月 水元建設(株) 代表取締役社長就任
6年 4月 オホーツクビール(株) 代表取締役就任
9年 12月 (株)構研工業 代表取締役会長就任
12年 3月 (株)構研工業 取締役就任
13年 1月 (株)ナオック 取締役就任
<主な公職>
平成 9年 12月〜 北海道地ビール連絡協議会 会長
12年 2月〜 網走建設業協会 理事
12年 2月〜 網走農業建設協会 理事
11年 3月〜 全国地ビール醸造者協議会 理事
11年 5月〜 社団法人北見地方法人会 理事
11年 10月〜 NHK北海道地方放送番組審議会委員
※平成19年8月13日死去(62歳)
水元建設は、地場である北網地域を中心に工事施工において多大な貢献を残し、地域への信頼も厚い。同社の代表取締役社長である水元尚也氏は、全国のトップを切って地ビール「オホーツクビール(株)」も経営しており、建設に限らず様々な分野において地方へのこだわりを見せる。
――御社の来歴をお伺いしたい
水元
当社は昭和30年1月に、私の父が設立しました。終戦後、父は戦地から北見に戻り、同級生が経営していた柏土建(現村井建設)に入社しました。そこから青木建設が独立し、それに次いで水元建設として独立したという経緯です。
――管内の建設業界や経済全般の動向は
水元
道の統計では、建設業界の受注の落ち込みは10%と発表されていますが、実際にはもっと落ちていると感じています。現在は、どの会社もリストラなどを進めておりますが、次を担う産業が確立されていない状況です。
1990年くらいから製造業がかなり縮小され、それに伴う余剰人員を建設業が吸収してきました。その建設労働者が、今度は農業に回るのかと言えば疑問が残ります。現在、道や国も様々な対策を講じていますが、決定打がないのが現状です。
しかし一方で、通信販売、例えば、カタログ販売やインターネット、ファックス等での直接販売などが、大きな市場になりつつあります。つまり、今までは地方で行われいたビジネスが、直接的にオールジャパンの会社が売り上げを吸い上げる構造になっています。
それならば、北海道も農産物の供給は、農家と消費者が直接に売買する形になるのが理想ですが、なかなかそのようにはなりません。
結局は、直接販売より大きなマーケットで売るほうが合理的です。しかし、例えば札幌市に3月にオープンする大丸は、北海道の売り上げが本州企業に吸い上げられていくパイプができることを意味します。全てとは言えませんが、かなりの部分は吸い上げられ、道内で循環すべき資金が、流出することになるのです。
――道内の建設業界にも同様な構造があるため、合併などの業界再編による対策の必要性が提唱されています
水元
しかし、建設業界の合併はメリットが少ないと言われています。a社とb社が合併しても、両方の会社の受注高が足し算できるわけではないと。確かに足し算の問題もさることながら、そもそも合併によるメリットが得られにくい業界なのです。土木に強い業者、建築に強い業者、或いは農業土木、道路に強い業者などの合併はメリットが大きいと思いますが、一般土木に携わる企業同士の合併は、メリットが出づらいと思います。むしろ、合併は、単にリストラの手段に使われたりしています。
ただ私としては、北海道での公共投資は、やはり北海道の建設業界が担っていかなければならないと考えています。オールジャパンのゼネコンが受注すると、東京や大阪に資金が流出していきます。
そのためにこそ、北海道の業者が合併などにより、ゼネコンに負けない技術力、資本力を持つ会社を作れば良いのです。北海道での公共投資による資金は、地元北海道内で循環させていかなければなりません。
――こうした問題は、各国とも共通でしょうか、日本だけの特殊事例でしょうか
水元
例えばドイツは、地域が自立できる仕組みができています。そこでは、郡部のほうが都市より暮らしやすく整備されています。日本と正反対で、地方都市ほど若い人が多いのです。
――日本では、地方は働く場が無く、若い人が都会に流出しています
水元
確かに、農業の従事者は非常に少なくなり、地方の農村人口は3%ほどしかいません。しかし、都会に仕事は求めても、住むのは田舎でという傾向が強いようです。田舎のメリットは、広い土地と広い家でゆったりとした暮らしができることにあります。
そういう地域を作る為に、それをしっかりと支えているのは、基本的なインフラ整備、生産手段、生活手段、それを担保するような道路網です。
ドイツは、住民が田舎から100q離れた都会に通勤する時にも高速道路があり、日常生活の足としても高速道路を利用しています。ここは無料で制限速度がなく、どの村にいてもすぐ高速道路に乗ることができるのです。
その点で、同じ敗戦国として、ゼロからスタートした国でありながら、日本ではそれがなぜできなかったのか。日本では、都会から離れれば離れるほど暮らしにくく、インフラ整備がほとんどされていない。ところが、それが逆転しているのがドイツです。
にも関わらず、社会資本整備は都会にと言われています。予算の都市枠などと言われますが、都会だけを高度水準にインフラ整備して、田舎の整備をおろそかにしようということですね。
――東京都には、納税しても予算は北海道や九州など地方に配分され、割が合わないことへの不満があります
水元
税金というのは本来、偏在しているものです。本社機能が東京にあるために、本来は、その地域に納められるべき税金が東京経由で納められているケースが多いわけです。地方は、税金を納めている額が少なく、交付税もあるではないかなど、色々なことが言われますが、それは違います。地方があって都会があるのです。地方で働いて得た収益が何らかの形で、東京経由で流れていく。例えば、年金や保険料なども、東京経由で流れています。ですから、都会が税金を納めていて、それを北海道や地方に還元しているという見方は、一方的だと思います。
また、道路公団の問題等、道路に対する批判が色々とあり、北海道では道路を建設しても車の数が少ないと言われます。しかし、これは費用対効果の問題で考えるべきではありません。ドイツでは、道路機能は国で持つもの、国民みんなで使うものという考えで、その中では費用対効果などは考慮していません。
――ドイツ、日本とでは全く状況が違いますね
水元
ヒントは自分の足下にあります。初代や先代社長ら先人の足跡の中にです。つまり、水元建設の存在意義が、地域貢献にあるとするならば、会社がつぶれないことです。まずは、社員の生活の安定。そして協力業者の経営基盤を揺るがさない。そのためにも、最高の品質を発注者に提供することです。
それから発注に対する責任施工は今や当たり前で、これからは計画された事業の設計図書を我々が解析して、地域に合ったものかどうかについて、土木・建築を問わず、官民を問わず、我々がコンサルタントと一緒にコンサルティングするくらいの気構えを持つことです。
そのためにISO資格も取得しましたが、これは仮免許証のようなものです。それをどれだけ自分の会社として生かすかは、これからの問題でしょう。
当社は、おかげさまで工事評価においてはいずれの発注官庁でも、いい評価をいただいております。結果、工事評価点数の平均点も高くなってきております。しかし、真の評価というのは、エンドユーザーである、地域住民に評価されるものだと自問自答、自戒しております。
――ところで、地ビールの会社も経営されていますね
水元
今、オホーツクビールは非常に苦戦していますね(笑)。原因は発泡酒です。発泡酒は税率が低く、ビールよりも半分以下です。そのため、安い発泡酒が流通し、北海道では50%以上が発泡酒のシェアです。
しかし、発泡酒は、ビールと製造コストはほとんど変わらず、税率が変わるだけです。そして、いかに工夫しても、それほど美味しいものは作れず、かといって発泡酒として出荷すると、安く売らなければなりません。そのため、小さなメーカーにとっては、発泡酒は扱えません。ただ、現在はビールと発泡酒の酒税を同一にする動きが出ていますので、そうなると状況は変わってくると思いますが。
――「地ビール」にこだわる理由は
水元
ドイツでは、人口200人の小さな村がありますが、そんな小さな村でも“おらが村”という意識が非常に強い。ビールでもそうです。地元の人々は、村で作った「おらが村」のビールしか飲みません。日本では、とかくオールジャパンのビールメーカーのものがメジャーになりますが。
パンやハム、ソーセージなども自分達の村で作ったモノを食べています。しかし、日本ではコンビニエンスストアなど、日本全国で同じモノが流通しています。でも本当はおかしいです。沖縄と北海道で同じコンビニエンスストアのおにぎりを食べているというのは(笑)
――それと同じことが公共事業も起きていますね
水元
そうです。沖縄の道路も北海道の道路も、基本的に道路構造令があるので、ほとんどが同じ構造です。しかし、北海道は積雪地ですから、除雪をした雪を堆雪する場所などがあっても良いと思うのです。北海道は土地が安いですから、道路の幅を広くするのは容易なことです。しかも全てを舗装する必要もありません。
ですから、理想かもしれませんが、北海道独自のスタンダードでモノを作っていくことが重要だと思います。

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