建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年2月号〉

interview

地域の安全を確保し、ポテンシャルを引き出す日和佐道路

台風時には最長32時間もの通行規制で陸の孤島に

国土交通省　四国地方整備局　徳島河川国道事務所長　石川　浩 氏

石川　浩　いしかわ・ゆたか 昭和 34年 2月 8日 生 昭和 56年 3月 東京大学　工学部　土木工学科　卒業 昭和 56年 4月 1日 建設省東北地方建設局　河川部河川計画課 平成 7年 4月 1日 建設省九州地方建設局　武雄工事事務所長 9年 4月 1日 （財）リバーフロント整備センター　研究第一部次長 12年 4月 16日 兵庫県県土整備部土木局河川計画室長 13年 4月 1日 兵庫県県土整備部土木局河川課長 15年 4月 1日 国土交通省四国地方整備局　徳島河川国道事務所長

――徳島河川国道事務所の業務概要は
石川

当事務所が所管するのは、徳島県内の一級河川吉野川等の116kmと、国道11号、28号、32号、55号、192号で、総延長約260�qです。
55号では日和佐道路の工事が大規模に行われており、地域から早期の完成が期待されています。

――日和佐道路の事業目的は
石川

四国の幹線道路網の大系は、高速道路、高規格幹線道路による8の字ルートの構築を目指していますが、四国東南地域はそれに含まれていません。
しかも、四国横断自動車道は阿南市までしか計画されていません。阿南市から高知県安芸市までは阿南安芸自動車道が地域高規格道路として計画されています。このうち、由岐町から日和佐町に至る間は既存の55号が、降雨時にたびたび事前通行規制を受けることから、災害時のバイパスとしても必要性が高まり、地域からの強い要望もあったことから、現在、日和佐道路として整備を進めています。
日和佐道路は、この地域の発展と、他地域との自由で活発な交流を実現するためにも必要な路線なのです。

――現地の地形は
石川

ルートは、阿南市福井町から由岐町を経て、日和佐町に至る9.3�qですが、特にこの区間は連続するカーブや急勾配のために危険も多く、後背地には険しい山が迫っています。
そのため、日和佐町から阿南市までは時間がかかり、緊急時のルート確保は急務です。何しろ、南海地震の発生は、向こう30年のうちに40パーセントの確率で起きると予測されており、津波の心配もあります。
また、台風の常襲地帯でもあり、異常気象の際には10.1�qにわたって通行規制が行われるのです。例えば、近年でも平成元年6月、5年9月、10年5月、12年9月、13年8月・9月と通行規制を行っています。さらに、今年も7月19日に11時間にわたって全面通行止めとなりました。
現状は、55号のみに依存しすぎており、非常に心細い状態です。日和佐道路が完成すれば、安全に人や物の流れを確保し、社会生活を維持したり、災害救助や緊急医療など一刻を争う事態にも対応できます。

――事業はどのように推移していますか
石川

事業には平成7年から着手しましたが、地域住民の理解と協力を得てスムーズに進めてきました。なお、四国地方幹線道路協議会では、進捗中の主要路線について、事業執行の透明性と早期供用を図るため進捗状況を公表することになっています。このように、進捗状況を逐一公表するのは、現在のところ四国だけの取り組みです。
事業は調査・測量・設計から始め、引続き地元設計協議、用地買収と順次進め、現在2工区では工事を全面的に実施しています。
2工区で進められている工事には1,968メートルの日和佐トンネルがあり、12年度から掘削を開始し、昨年12月に無事貫通いたしました。さらに当道路では北白浜トンネル、木岐第一、第二トンネル、福井トンネルと、4つのトンネルがあり、年度内に工事発注する予定です。
また、高架構造の区間もあり、由岐町内では田井第2高架橋が上部下部とも工事中で、下部工については16年度に完成します。このようにして、主要工事は今年度中にはすべて発注の運びとなります。
全体が完成し、供用開始するのは19年度の予定です。

――工法における工夫は
石川

建設に当たっては、景観検討委員会を組織しました。 委員は学識者、地元首長及び商工会等の地元代表で構成し、景観について、幅広い議論をしていただきました。
この委員会の趣旨は阿南安芸自動車道の中で先駆的な整備計画が進められている日和佐道路について、地域特性に応じたデザインコンセプトを提言しこれに基づく構造物等の景観・デザインに関する検討を行うことにあります。
第一回目は現地調査や既存の資料から委員会を通した検討方針を定め、地域特性に応じたデザインコンセプトや対象物の選定、類型化といった具体的な課題について、検討が行われました。
二回目は、初会合で抽出された対象物のうちの主要構造物つまり橋梁、トンネルについて、その構造や用途など性格的要素や、整備対象地域周辺の状況を踏まえたデザインについての検討が行われました。
三回目は、初会合で抽出された対象物の中で、地形を直接改変したり、植生など自然環境との調和が重要となる土木工事と緑化区間のデザインについて、検討が行われました。例えば、法面植栽の景観デザインや、遮音壁、標識、電気室などの付帯施設のデザインです。
そして四回目には、前回までの課題を整理し、具体的箇所について整備方針を総括しました。そこで最終報告書がまとめられたわけです。

――その結果、どのようなことが取り決められましたか
石川

例えば、擁壁前面への植栽、側溝に小動物が落ちても脱出できるような構造、盛土、切土の勾配を緩めたり、トンネル入り口が浮き上がらないよう、目立たないデザインで周辺を植栽する計画としています。樹種も適当ではなく、出来るだけ地域の植生に合わせたいと考えております。
トンネル内では、ドライバーが延長と出口までの距離感が把握できるよう、中間地点で内装の色を変えたり、トンネル内を広く感じられるよう、壁面の塗装は白とし、視線を無理なく誘導するために、両サイドにはブルーグリーンの点線を配する計画としています。
橋梁については、地域に馴染むようスリムなデザインとし、色彩もブルーグリーンで統一しました。

――この道路整備によって、地域は今後、どのように変わっていくでしょうか
石川

これまでは交通は、既存の55号に過度に依存していましたが、今後は通過交通が計画路線に転換し、道路網の機能が向上するでしょう。その結果、交通事故の減少、走行性の向上、異常気象時の輸送路確保が可能となります。
所要時間が短縮されることになり、時間交通圏が拡大され、ショッピングや医療、レクリェーションなど日常生活の利便性が向上し、地域間の結びつきが強化されることで人と物の交流圏が拡大されます。
県南地域は、先に述べたように観光地が多いので、こうした地域高規格道路ができれば、集客力が高まります。そして、地域と県都・徳島市との連携が強化され地域の主産品である農林水産品の販路拡大が期待できます。

――完成した場合、各地との所要時間は、どれくらい短縮されますか
石川

阿南安芸自動車道が完成すれば、阿南市を基準にすると、徳島市までは35分から20分へ、高知市までは175分から115分へと、大幅に短縮します。

他地域との活発な交流を推進
日和佐道路建設工事