建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年10月号〉

interview

大阪港　夢洲トンネル大阪港全体の諸機能を結ぶ交通大動脈

スーパー中枢港湾に指定国際競争力の向上を目指す

国土交通省　近畿地方整備局　大阪港湾・空港整備事務所長　江口　秀二 氏

江口　秀二　えぐち・しゅうじ 昭和 36年 4月 26日生まれ　東京都出身 昭和 60年 3月 東京工業大学卒業 昭和 62年 3月 東京工業大学大学院理工学研究科（土木工学専攻）修了 昭和 62年 4月 運輸省入省　港湾技術研究所海洋水理部水理研究室研究官 平成 2年 4月 大臣官房国有鉄道改革推進部施設課新幹線施設係長 平成 3年 7月 鉄道局施設課新幹線施設係長 平成 5年 4月 外務省有償資金協力課課長補佐 平成 8年 4月 港湾局民間活力推進室専門官 平成 10年 4月 宮崎県土木部空港・ポートセールス対策監 平成 12年 7月 鉄道局施設課補佐官 平成 15年 7月 現職

▲夢洲トンネル上空写真

A 夢洲トンネル B 野鳥園 C なにわ海の時空館 D 夢洲 E 咲洲

――トンネル整備の概要からお聞かせください
江口

大阪港には、大阪市が造成した咲洲、夢洲、舞洲という人口島があります。当事務所は、天保山のある築港地区と咲洲を繋ぐ咲洲トンネルの工事を受諾しました。咲洲トンネルは平成9年に開通しました。現在咲洲と夢洲とを結ぶ、全長2.1kmの道路・鉄道併設の夢洲トンネルを、国の直轄事業として整備しているところです。

――7月23日には、スーパー中枢港湾に指定されましたね
江口

夢洲地区では、高規格コンテナターミナルの整備が行われています。スーパー中枢港湾に指定されたのは、このターミナルで、C10〜12までの3バースで構成されています。C10バースは当事務所で施工しました。まだ背後の舗装が終わっていませんが、今年度中には大阪港埠頭公社が実施する予定で、現在は部分供用の状態です。C11バースについては、大阪港埠頭公社が整備し、全面供用しています。C12バースは計画段階で、平成17年度予算要求では、水深-16ｍの耐震バースとして新規要求しています。
現在コンテナ物流の中心である咲洲のターミナルは背後が狭く、取り扱い容量も限られています。夢洲地区のコンテナターミナルでは、C12が整備されれば、水深15m以上で背後が500mの高規格のコンテナが3バース連続することになります。
これら3バースを一体的に運用するターミナルオペレーターも既に設立しました。このオペレータが、効率的な荷役を行うことでコスト縮減が図られるわけです。したがって、今後は夢洲の高規格コンテナターミナルが、大阪港のコンテナ物流の中心になるでしょう。一方で、咲洲側でも引き続きコンテナは扱われます。
現在は咲洲と夢洲は直接結ばれていないため、高速道路等も通って迂回しなければならず、時間もお金もかかる状況です。このデメリットを解決するためにトンネルで両島間をショートカットしてコスト・時間を縮減し、物流の効率化ひいては大阪港の国際競争力の強化を図るのが夢洲トンネルです。
2008年度の供用を目指して鋭意整備を進めています。

▲沈埋トンネル部イメージ図

▲陸上トンネル部イメージ図

――夢洲トンネルは咲洲のコスモスクエア駅から延伸される鉄道も利用するのですか
江口

鉄道については、現在は、地下鉄中央線がOTSテクノポート線コスモスクエア駅まで乗り入れています。ここから、さらに夢洲、舞洲を通ってusj（ユニバーサル・スタジオ・ジャパン）のある桜島地区に至る北港テクノポート線の計画があります。鉄道の整備は、大阪市の事業です。当事務所が行っているのは咲洲と夢洲を繋ぐ臨港道路事業ですが、夢洲トンネルの区間は鉄道と道路が一体構造となっているので我々が鉄道工事を受託して行っています

――咲洲でも同様のトンネルが施工されていますが、技術的にもコスト削減にも様々な工夫が行われているのでは
江口

沈埋トンネル工法自体は新しいものではありません。ただ、今回の工事では大きく３つの課題がありました。一つ目は、咲洲及び夢洲の地盤が非常に若くて軟らかいことです。咲洲部分は埋め立ててから7〜8年しか経過していませんし、夢洲のトンネル整備部分は埋め立て終わったばかりです。海底に沈める沈埋函自体は沈下する心配はないのですが、この沈埋函と接続する咲洲と夢洲の陸上部分の構造物が大きく沈下する可能性があるので、トンネル全体が沈下に対応できる構造にしなければなりません。
ふたつ目の課題は、沈埋函を沈設する水域が、大阪港の主航路に位置していることです。そのため、船舶の航行を妨げずに、いかに効率的に施工するかが課題です。沈埋函を沈設するのは17年度以降になりますが、特に航路中央部を沈めるときには、非常に気を使わなければなりません。航行船舶の安全と工事の安全と、両方を確保しなければならないので、それに対応出来る工法を採用する予定です。

▲夢洲トンネルの施工現場となにわの海の時空間

――難しい施工となりそうですね
江口

三つ目は、陸上部で開削工事を行うにあたっての周辺への影響です。陸上部では、土留めの鋼管矢板を深さ50m程度まで打って、幅約40m、深さ約30m程度を開削します。現場の地盤は先ほど申し上げたとおり非常に若齢であるだけではなく海岸線にも非常に近い。よって確実に止水しなければなりません。また、現場周辺には海洋博物館「なにわの海の時空館」や、「南港野鳥園」といった施設があり、これらに騒音・振動を与えることはできません。地盤が軟らかく、海に近く、騒音振動にも気を遣わなければならないという、非常に施工条件の厳しい工事だと思います。

――施工にあたって特に難しい部分は
江口

土留めの鋼管矢板は直径が1.5m、長さ（深さ）は約50mです。これを数百mに渡って隙間無く打ち込んでいかなくてはなりません。鋼管矢板はほとんど施工を終えていますが、現在漏水はないので、上手く施工出来ているのではないかと思います。

▲土留鋼管矢板（φ1500）の施工状況

▲切梁（h400〜500）の施工状況

▲堺工場での組み立ての状況

――沈埋函は堺市で造られているということなのですが
江口

沈埋函を製作する作業ヤードの条件としては、ある程度の広さがあること、製作した沈埋函を海上搬送する水域に近いこと等が考えられます。夢洲トンネルの沈埋函では、堺泉北港にある造船所のドックを利用しています。大阪南港の咲洲トンネルと、神戸港の港島トンネルの沈埋函も堺泉北港の造船所で製作しました。今回の沈埋函の特徴は、沈埋函の中に「クラウンシール継ぎ手」という内蔵継ぎ手を設けていることです。咲洲と夢洲の地盤が軟弱なため、沈埋函は大きな沈下にも対応できる構造とする必要がありました。そこで、剛体である沈埋函の途中にゴムの継ぎ手部は設けて、これがいわばクッションになって、沈下に対応するのです。クラウンシール継ぎ手を採用するのは、夢洲トンネルが初めてです。

――今年度の事業予算と工程は
江口

今年度の夢洲トンネルの事業費は173億円で、当事務所の最重点事業です。今年度は、咲洲側のアプローチ部でまだ掘削をしていない２つの工区に着手します。これで咲洲側は全ての工区で工事が行われることになります。
それから沈埋函１号函を沈設する場所には既設の護岸が残っていますので、この護岸を撤去します。
沈埋函については、今年度中に1号函と2号函を造り終え、来年度の早い時期に堺泉北港の造船所から曳航し、トンネルの現場近くに仮置きをすることになります。仮置き場では本沈設のための沈埋函の艤装を行い、また沈設地点では基礎石を敷き詰める等の準備を行って、沈埋函が沈設されます。これらの一連の工事も今年度後半に発注します。

――そのあたりはケーソンと同様の地盤を準備するのですか
江口

沈埋函の場合、基礎石を敷設し、沈埋函を載せる支承台を設置してから沈埋函を沈設し、最後に沈埋函と基礎石等の隙間に水中コンクリートを充填して一体の構造物にします。

▲夢洲トンネル整備状況とスーパー中枢港湾の指定を受けた 夢洲コンテナターミナル（右上）

――沈埋トンネルが、道路だけでなく鉄道と複合利用する事例は、他にもありますか
江口

道路・鉄道併用の沈埋トンネルは、大阪港の咲洲トンネルと夢洲トンネルだけでしょう。ちなみに、日本で最初の沈埋トンネルは、昭和19年に開通した安治川河底トンネルです。戦前にすでに造られていたのです。このトンネルは、エレベーターで地下まで降りてからトンネルに入る構造で、現在は人と自転車が利用しています。かつては自動車も使っていたようです。
大阪が最初だったことはあまり知られていません。

――鉄道がusjまで繋がるのは、かなり先のことでしょうか
江口

鉄道の工事は、現在土地造成が行われている夢洲の開発状況を見ながら、大阪市の方で進められることになると思います。
我々としては、道路をきちんと整備することが先決です。

大阪港夢洲トンネル建設工事安全協議会