建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年2月号〉

interview

北海道観光のさらなる発展に向けて新戦略を構築

計り知れない北海道新幹線のインパクト

社団法人北海道観光連盟会長 我孫子 健一 氏

我孫子 健一 あびこ・けんいち
生年月日  昭和6年6月20日生まれ
最終学歴  北海道大学卒業
昭和 29年 7月 北海道庁入庁
昭和 55年 7月 北海道上川支庁長
昭和 58年 5月 北海道開発調整部長
昭和 62年 5月 北海道副知事
平成 3年 5月 北海道住宅供給公社理事長
平成 6年 6月 北海道空港株式会社代表取締役社長
平成 12年 5月 社団法人北海道観光連盟会長
平成 14年 6月 北海道空港株式会社相談役
北海道は、自然、食、温泉など優れた観光資源に恵まれており、北海道経済の牽引産業として、道外及び外国から毎年たくさんの観光客を迎え入れているが、さらなる発展を目指す上では、まだまだ課題も多い。北海道の観光事業の発展と振興に力を注ぐ北海道観光連盟会長の我孫子健一氏に、その未来像について伺った。
――北海道の観光産業の近況は
我孫子
およそ2年前までは、北海道観光の人気が高まり、順調に入込客数が伸びてきていましたが、sarsなどの影響により、最近は前年よりも下回っている状況です。また、去年から今年にかけては沖縄旅行が人気を博した上に、政府による外国人旅行者数増加を目指したビジット・ジャパン・キャンペーンの展開の効果もあって、全国的に観光産業が盛り上がり、北海道と全国との競争という形になっています。
したがって、北海道の観光も、自然、食、温泉だけに依存しているだけではならないでしょう。
――どのような戦略を構想していますか
我孫子
今までの北海道観光は、パックを主体とした団体旅行が中心でしたが、最近では小グループ・家族旅行などの少人数の旅行形態に変化しつつあります。そこで、この小グループ旅行へのPRをどうするかがポイントです。
従来の都心部における宣伝誘致以外にも、例えばマスコミ報道やインターネットサイトによる情報提供など、個人向けのPR強化が必要です。
ただ、他県はエリアが狭いのでPRし易いでしょうが、北海道は函館から阿寒、稚内などエリアが広く、地域によって特色が違います。また、札幌や小樽、洞爺湖など既存観光地は人気がありますが、観光資源は他の地域にも埋もれています。これらをどうPRしていくかが課題です。
――受け容れ体制や環境整備も、さらに必要ですね
我孫子
北海道は、30万人ほどの外国人旅行者のうち、8割以上がアジア系です。しかし、中国語や韓国語を含む、アジア諸国の人々の受け容れ体制が不足しています。
現実に、アジア系からの観光客が増えたおかげで、チャーター便が増加したり、定期便も充実する傾向にありますから、関係者は韓国語や中国語など、アジア系言語でも対応できる準備をしなければ、満足感を与えることはできないでしょう。
――交通基盤の強化も必要ですね
我孫子
道外から来る人の85%は、飛行機を利用します。そのため、新千歳空港と羽田空港間は、もう少し航空運賃が低下すれば、さらに来道者は増えると思うのです。イラク戦争の影響による原油価格の高騰が、エアライン各社の経営を圧迫していますが、観光連盟としては、利用しやすい料金設定にしてもらうようエアライン各社に要望しています。
また、札幌を中心とした道央圏だけで、年間入込客数が全体の50%を越えていますが、観光資源は阿寒や知床、サロベツ原野、利尻富士など、まだまだ見どころはたくさんあります。そうした地域にも足を伸ばしてもらうためには、交通アクセスの向上が必要です。
高速道路が釧路まで開通していたなら、短時間で釧路や阿寒へ行けるのです。公共事業といえば、とかく批判されますが、観光産業にとっては重要なのです。
さらに、観光は幅広い産業分野が関連しています。ホテル・旅館業の他に、農業や水産業は食事やおみやげ商品となり、道路は観光交通に利用され、旅客輸送には旅客運送業が当たります。したがって、従来の分野別産業分類で見るのではなく、総合産業として捉えた振興策が必要になります。
――北海道新幹線の着工は、観光にとっても明るいニュースなのでは
我孫子
試算によると、採算性、波及効果はかなり高いと予想されています。現時点では、函館までの開業を目指していますが、それを起点に全道各地へ飛行機や鉄道、バスなどによる新たな旅行プランが考えられます。これまで、空の旅を好まなかった客層の掘り起こしも可能になります。新幹線は地上を走る安心感がありますから。
もう一つのインパクトは、東北地域との交流が進むことです。新千歳空港と仙台、青森、新潟各空港とは、全て航空路線が繋がっていますが、便数が少ないのです。新幹線ならば、約30分毎に函館まで来る予定なので、利用率は非常に高くなるでしょう。
――今後の北海道観光を活性化させていくためにも、観光連盟の役割はさらに重要になっていきますね
我孫子
北海道はPR下手との指摘があります。例えば、北海道の「広大さ」のPRが不十分で、世界地図に見る北海道は、外国人にとっては小島にしか見えないため、千歳と釧路が近距離に見えるとのことです。しかし、実際に移動すれば途方もない距離ですから、そうした広大さをPRしなければ、旅行者にとって不都合を感じさせるでしょう。
上海では昨年から、旅行ルート選定した旅行者に、そこへ行く交通機関と移動時間について、きめ細かい説明を今年から始めました。そうした配慮は見習うべきですね。
また、これまでは秋田県の乳頭温泉、石川県の和倉温泉など、各観光地がバラバラでPRしてきたのですが、最近では東北経済連合会や北陸経済連合会が、東北、北陸全体をPRしていこうとしています。点のPRが面のPRとなって相乗効果を得られるでしょうから、北海道としても油断できません。
北海道は、全体的なPRは評価されてきたので、今後は逆に地域を個別に売り込んでいくことが必要でしょう。
――観光地自体の努力もさらに必要となりますね
我孫子
山に行ってもマグロの刺身が出てくるなどと、よく言われたものですが(笑)、やはり、山にあっては北海道産の山菜や、ヤマベなどでもてなすべきだと思うのですが、近年は保存技術が進歩しているため、山中でも海産物が手に入るのでしょう。
しかし、観光者は、その土地を満喫しに来ているのですから、できるだけ地元産のものを提供していく方が良いと思います。

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