建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年6月号〉

interview

安全・安心な道産食品を全国に売り込む

1次・2次・3次産業間の連携を強め、地域産業力の強化と北海道ブランドの信頼確保を図る

北海道農政部長　佐藤 �� 氏

佐藤　�驕@さとう・たかし 生年月日　昭和21年8月18日（57歳） 出身地　士別市 最終学歴　北海道大学大学院　農学研究専攻 昭和 46年 4月 1日 入庁（網走支庁経済部耕地第二課） 平成 6年 4月 1日 釧路支庁農業振興部長 8年 4月 1日 農政部農村振興課長 9年 6月 1日 農政部農業改良課長 11年 5月 25日 農政部次長 13年 4月 1日 農政部次長（農業担い手育成センター派遣） 14年 4月 1日 空知支庁長 16年 4月 1日 現職

――まず平成17年度の農業関係予算の概要と農政部の重点施策についてお伺いしたい
佐藤

17年度当初予算のうち農業関係は2,200億4,100万円。一般会計の予算規模が2兆9,306億6,700万円ですから、道の予算全体に占める割合は7.5%になります。前年度に比べて公共事業の直轄分が89億円増加した半面、補助分が203億円、食料・環境基盤緊急確立対策事業が27億円、それぞれ減額したこともあって、農業関係予算のシェアは1.2ポイント下回っています。
道では昨年3月、「北海道農業・農村ビジョン21」を策定しました。ビジョン21は、北海道農業・農村振興条例の基本理念に即して、農業・農村の将来像とその実現に向けた取り組みの基本方向を明らかにし、「食」、「環境」、「人」、「地域」の四つの視点を重視した取り組みを促進するものです。なかでも「食」の安全・安心の確保は、最も重要な課題の一つですが先の第1回定例道議会で「食の安全・安心条例」が可決され、4月1日から施行されました。
　「食の安全・安心条例」は、bseの発生や食品の偽装表示、遺伝子組換え作物をめぐる問題など、食品の安全性に対する消費者の関心が高まっていることから食の安全・安心の確保に関する施策を総合的、計画的に実施し、道民の健康保護と、安全・安心で消費者に信頼される道産食品づくりを推進することを目的としています。高橋道政の今年の重点施策であります「北海道ブランドの創出」に向けて、その基礎となる「食」の安全・安心の確保に関する基本計画を策定します。

――条例に基づく事業としては、どのようなメニューがありますか
佐藤

新規事業では「道産食品全国表示ウォッチャー運営費(1,178千円)」や「道産食品原産地表示推進事業費(1,000千円)」があげられます。道外において道産食品の偽装表示問題が相次いで発生したことから道産食品に対する信頼が低下している現状にあります。このため、全国にウォッチャーを配置し、日常の買い物を通じて道産品の表示をチェックしてもらいます。
　また、加工食品の原産地表示はjas法による義務表示が一部品目に限られているため、適正な原産地表示が確認された道産食品を登録する制度を創設しました。原産地の適正表示を促進することで、消費者の商品選択と道産ブランドの信頼確保が図られることを期待しています。

――今年1月、「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」が制定されました
佐藤

遺伝子組換え作物と一般作物との交雑・混入を防止し、生産や流通上の混乱を防ぐためのルールづくりをしたところです。「道産品は安全・安心」という情報を全国に発信するとともに、一定のルールの下でのバイオ産業の振興にも役立つものと期待しています。

――ところで、道産米に対する評価は変わってきましたか
佐藤

長い歴史のなかで「コシヒカリはおいしい」というイメージが定着しており、その分ハンディはありますが、以前に比べて道産米の食味は格段に上がっています。実際、本州の外食産業で道産米が使われることが多いと聞きます。
　コメは国の食料政策で守られてきたため、道産米の競争力はまだまだ不十分ですし、時間はかかるでしょうが、自信を持って本州に売り込んでいきたい。

――観光と食をセットで売り込む北海道ブランドづくりを、ビジネスチャンスに生かしてほしいですね
佐藤

人が交わる所には「食」は付きもの。東京の高級レスランなどで道産食材の人気が高いという話を聞きますし、品質の評価は十分に高まってきています。道産食品の品質の良さについて、全国の消費者に知ってもらうことで、北海道農業も次第に真の実力がついてきます。
　明治以降140年で現在の水準にまで北海道を開拓したのは世界的にも例のないことであり、しかも素晴らしい自然環境に恵まれています。観光と食のセットで北海道ブランドを創出していく素地は十分にあります。大勢の観光客が北海道に来られて、あるいは都市から農村を訪れて交流し、それぞれの地域の食文化を体験してもらえれば、おのずと地域経済の活性化につながります。

――そういう意味でも決して競争力は低いとは言えないと思います
佐藤

それなりに実力は付けてきていますが、北海道自体が自信を持てていないということだと思います。コメは別としても、それ以外の農産物、食品はそれなりの競争力は付けてきており、さらに付加価値を付けて北海道に利益を還元できるようになればと考えています。北海道はカロリー・べースで180〜190%の自給率があるわけですから、道産食品を全国の皆さんに食べていただくための努力をしなければなりません。
　そのために「地産地消」を推進し、まず道民の皆さんに地元の産物をもっと消費してもらうことが大切です。先にも述べたように、道民が自信を持って豊かな生活をしてもらうことが基本ですから、それから道外に向けてわれわれの力を発揮していけば良い。「地産地消」は輸送コストがかからず、身近な食材を安心して食べられますから、道民の皆さんに積極的に取り組んでいただきたいと考えています。

――最近、イタリアが発祥の地といわれる「スローフード」が注目されています
佐藤

食べることは生活すべての基本ですから、食生活を見直して本来の健康をどう保つかが重要です。私たちの世代は食べるものにも事欠く時代に育ってきましたが、食事を通じて躾け教育もされたものです。最近はファーストフードなどで簡単に食事を済ませてしまうことが多くなりましたが、皆さんで「食」について考え、生活を見直していただきたい。
　道としても、消費者と生産者の「食」に関する情報の共有と相互理解を促進する目的で、北海道のスローフード運動である愛食運動による普及啓発や、「食育基本計画」の策定などにも取り組んでいるところです。

――道は食品加工産業の育成に力をいれてきましたが、これまでの成果はいかがですか
佐藤

まだ不十分ですが、地域産業力の強化と北海道ブランドの創出に向けて、今年から1次、2次、3次産業間の連携を強めて付加価値を高める、農業の「6次」産業化に取り組みます。「6次」とは足しても掛けても「6」になることでネーミングされているものです。これまでの農政は生産に特化したものでしたが、ここ数年の動きとして、生産から一気に消費者までを対象にした幅広な政策に様変わりしてきました。消費者の「食」に対する関心の高まりから、食品加工産業やサービス産業など「食」関連産業の結び付きを強めるといった視点が意識されるようになってきたからです。農業が食品産業とつながることで、その可能性は極めて大きくなります。

――北海道農業が発展してきた背景にはたゆまぬ試験研究の取り組み成果があったからでしょう
佐藤

北海道は火山灰、泥炭、重粘土などの特殊土壌が広く分布しています。計画的に進めてきた基盤整備や、作物の品種改良と生産技術の向上など研究開発の成果が相まって今日の発展につながったと思います。
　これだけの短い時間で、今の時代を迎えることができたのは、その努力の結果ということでしょうが、常に新たな条件、課題が追いかけてくるものです。国際化の波が押し寄せて、今後一層進む自由化の問題にどう取り組むか、課題は尽きませんから常に努力しなければならないし、行政としても頑張らなければならないと思っています。

――生産者のレベルもかなり上がっているのでは
佐藤

問題は、農家の高齢化が進む一方で、若い担い手が確保されていないことです。家業を継ぐ慣習がなくなってきましたから、後継者不足は何も農業に限らず、他の分野でも深刻かつ構造的な問題です。しかし農業は、農地を放置しておくと、また原野に戻ってしまいますから、誰かが管理していかなければなりません。農家一個人で解決できる問題ではありません。
農地は個々の農家の所有地でありながら、自由に売買できない、いわゆる公共財です。農地法が法律として、私権を制限しているのは、国民の食料を生産する農地を自由に切り刻んではならないからです。善良に管理できる担保があれば企業が農業生産に参入してもいいわけで、国は、農地のリース方式の導入を進めています。ただし、民間企業が農業に参入して、本当に生産できるのか、不安はあります。機械を持っているから、生産できるという話にはなりません。
　日本の食料自給率は40%で残りは外国から買っています。その一方で農地を減らして国民の食が守れるのか。それで自給論がいろいろ取り沙汰されているわけです。今、bseで吉野家が安い牛肉を確保できないことが心配されていますが、これは吉野家の問題ではなく、わが国の食料自給率が低いということを意味しているのです。食料自給率を上げるためには、農地を減らしたり、荒らしてはいけません。

――国内の農地で自給率100%は可能でしょうか
佐藤

問題は肉類です。トウモロコシなど動物に食べさせる飼料を自給できるかどうかがポイントですが、現在の面積で全く足りない。日本人が肉を食べるようになったのは、明治以降であり、肉類の自給率100%は永遠に不可能になったわけです。そもそも、日本人には肉食の習慣がありませんでしたから、鎖国しても自給できたのです。

――北海道の農水産物を戦略的に中国に売り込む方向性はありませんか
佐藤

台湾を中心に、東南アジア各国には輸出しており、長いもが好評とのことですが、もう少し情報を集める必要があります。
中国はマーケットに閉鎖性があるのか、一筋縄ではいかないようです。ご飯ひとつ取っても茶碗で食べるのか、おにぎりなのか、チャーハンなのかでコメの質が違ってきます。相手の食文化をよく知ることが大切で、知恵の働かせどころとなるでしょう。