建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年7月号〉

interview

伊豆・富士地域がよりよい地域となるようプロ集団として全力で取り組む

週末は関東方面の大勢の観光客を引き寄せる一大リゾート地 狩野川放水路が下流域の洪水流量を半減

国土交通省中部地方整備局 沼津河川国道事務所長 木村 嘉富 氏

木村 嘉富 きむら・よしとみ
昭和37年9月26日生
昭和 62. 3 長岡技術科学大学大学院 建設工学専攻 修了
昭和 62. 4 建設省 中部地方建設局 名四国道工事事務所 調査第一課 採用
平成 1. 4 土木研究所 構造橋梁部 基礎研究室
6. 4 土木研究所 構造橋梁部 基礎研究室 主任研究員
11. 2 国土庁 計画・調整局 総合交通課 専門調査官
13. 4 独立行政法人 土木研究所 企画部 研究企画課長
16. 4 国土交通省 中部地方整備局 沼津河川国道事務所長
静岡県はわが国の東西交通の一大要路に位置し、歴史的にも地勢的にもバラエティーに富んでいる。なかでも富士山の裾野に広がる伊豆半島は京都をしのぐ年間4,400万人の観光客を引き寄せる一大リゾート地。そうした地域性を背景に、沼津市から伊豆市を経て下田市に至る延長約60kmの高規格幹線道路・伊豆縦貫自動車道の整備などに取り組んでいる、国土交通省沼津河川国道事務所の木村嘉富所長に事業概要などを聞いた。
――このエリアは中部圏というよりも関東圏に近い地域になりますね
木村
私たちの管轄地域である富士川から東側は、経済ベースでは完全に関東圏に入ります。観光客の入り込み数は4,400万人で、京都の3,900万人を上回っています。熱海に代表される有数な観光スポットに恵まれ、東京からも比較的近い地の利の良さもあって、週末には東京方面から大勢の観光客で賑わいます。
――新幹線は三島駅があり、高速道路では沼津icを利用することになりますか
木村
そうですね。道路の場合、東京方面からは西湘バイパスで東側の小田原から入る場合と、沼津icから乗り入れる場合と、ふたつの流れがあります。新幹線の車窓から見るとよく分かりますが、沼津icからこちらまで来るまでにいくつかの渋滞ポイントがあります。国道1号と国道246号という東西の動脈があり、県境の断面で見ると、国道1号が1万台、国道246号が2万台、東名高速道路が7万台の利用状況で、これらが沼津に集中します。それから伊豆半島に向かう道路は国道136号があり、その結節点も混雑します。
また市町村は人口21万人の沼津市、12万人の三島市の間に長泉町と清水町があり、国道と県道はつながっていますが、市町村道はほとんどが町境で切れています。そのため域内交通の車が国道、県道を利用することになり、東西の通過交通とも重なってパンクしてしまうのが実情です。
▲天城北道路本立野トンネル(仮称)北坑口を望む
(完成イメージ図)
――いろいろな観光資源に恵まれていますからね
木村
海があり、山には温泉があり、ワサビ、シイタケなど自然の味覚も堪能できます。レジャーも天城の山歩き、山登り、狩野川でのアユ釣りと豊富で、最近ではカヌーで狩野川のごみを回収するイベントも行われます。私も地元の市長さんと一緒に参加しました。
狩野川は太平洋側では珍しく南から北に流れている川で、富士山に向かって川を下ります。川を下りながら眺める富士山は絶景です。
また、伊豆は川端康成の「伊豆の踊り子」や井上靖の「しろばんば」など多くの文学作品の舞台になっていることでも知られています。1907年に旭川で生まれた井上靖は翌年、伊豆の天城湯ヶ島(現伊豆市)に転居しますが、「しろばんば」は伊豆で過ごした頃の幼児体験が小説のモチーフになっています。
ところが、こういった観光資源がある伊豆地域を訪れるには、道は海側に一本しかなく、山側も中央部の一本が渋滞して大変なので、背骨になる高規格幹線道路として伊豆縦貫自動車道の整備に取り組んでいるところです。
現在、重点的に整備しているのが東駿河湾環状道路と天城北道路です。これは沼津・三島都市圏の域内交通と伊豆地域への観光交通の円滑化を図るため、環状機能を有した高規格幹線道路で、17年度は沼津市岡宮から三島市大場の13kmと、天城北道路の伊豆市修善寺から同市矢熊の6.7kmの事業を実施します。
東駿河湾環状道路については長泉高架橋の上部工架設工事と塚原高架橋下部工工事に着手します。また伊豆市修善寺では本立野トンネル(延長約1km)の工事を継続するほか、大平ic〜天城湯ヶ島ic間で新たに用地買収に着手します。19年度末の完成を目指しており、生活道路にまで入り込んでいる通過交通が大幅に緩和されると期待しています。
3年後には沼津icから修善寺を過ぎたところまで行けます。平成10年に開通した修善寺道路(約5km)は有料で開通しましたが、これらの道路は無料でご利用いただけます。
下田市内の交通混雑を解消する伊豆縦貫自動車道の河津下田道路(延長約6km)については、引き続き環境影響評価手続きなどの調査設計を実施します。
このように伊豆半島は観光メッカとしての潜在能力は高いのに、これまで道路網が未整備だったため、観光資源を充分に生かしきれていなかった面があります。東伊豆の旅館の女将さんから聞いた話ですが、予約のお客さんがなかなか到着しないので心配していたところ、「道路が渋滞していて、まだ熱海付近にいる」という連絡を受けたこともあるそうです。
――一般国道の整備計画についても伺いたい
木村
一般国道1号は、笹原山中バイパス事業を推進します。これは延長4.3kmで、交通の安全性と走行環境の改善が目的です。また、同1号で三島市内の一般国道136号との結節点である南二日町交差点の慢性的な交通混雑解消のため、立体交差と右折車線の増設に取り組んでいます。17年度は、本線高架橋の上部工工事と電線類地中化のための電線共同溝の工事を継続します。 
一般国道246号裾野バイパスは、伊豆半島の入口に位置する沼津ic南交差点で、東名沼津ic関連交通や沼津から御殿場方面の交通が著しいため立体化工事に着手します。
▲萩東高架橋下部工
――下田市まで整備するのは地理的にも難しいのでは
木村
伊豆半島はもともとフィリピン海プレートでインドネシア付近に位置していたものが、日本列島に衝突してできたもので、地形的にも険しいのです。
そこで天城山をどう越えるか。江戸時代は海の道を利用していたそうですが、江戸末期に、黒船の来航で下田が開港の拠点になったことから、山の道の整備が始まったようです。天城トンネルが開通したのが明治38年ごろになってからのことで、今のトンネルが完成したのは昭和40年代です。
――治水事業についても、伺いますが、狩野川は昨年10月の台風22号で大きな被害を受けましたが、狩野川はどのような特性がありますか
木村
狩野川の源流は天城山系で、天城の山から蛇行を続け、伊豆半島の中央部をほぼ北上しながら駿河湾に注いでいます。いわば曲線の川と言っていいでしょう。流路延長は46km、6市3町の流域人口は64万人。都市化に伴って沼津市、三島市など下流域の人口が増加しています。
狩野川は直線が少ないため、上流部では天城山系の水を集め、下流部では富士山系の水がこの川に加わるのが特徴です。
例えば、支流の清水町を流れる柿田川は全長1.2kmで、すべて湧水の川となっています。湧水の源は富士山や箱根に降った雨や雪で、この水が富士山から出た大量の溶岩の間を数ヶ月から数十年かけて移動し湧出しています。
――古くから洪水氾濫を繰り返してきたそうですね
木村
特に昭和33年9月の台風22号は狩野川台風と呼ばれ、流域全体で死者・行方不明者853人、被災家屋は6,775戸という未曽有の被害をもたらしました。
しかし、昭和40年の放水路の完成によって洪水は減少し、そのお陰で田方平野を中心にかつての氾濫域で市街化が進展しています。昭和42年に一級河川として指定され、狩野川、黄瀬川、柿田川など直轄管理区間33.8kmと放水路3.0kmの改修と維持管理を行っています。
この2月には狩野川水系河川整備基本方針を受けて、今後20〜30年で実施する具体的な河川整備を示す整備計画(原案)を策定したところです。狩野川台風に次ぐ規模の洪水を安全に流下させることを目標としており、(1)水位低下対策(河道掘削、樹木伐採)(2)堤防・護岸工事(3)内水対策(排水ポンプ増強、宅地かさ上げ)などの事業を実施します。
――台風22号で狩野川の本流が氾濫し大災害の危険性があったそうですが
木村
昨年10月の台風22号は狩野川台風に次ぐ洪水規模で、床上浸水228戸、床下浸水377戸、浸水面積433.3haの被害を受けました。しかし、狩野川放水路のお陰で沼津市大岡地区の狩野川の洪水流量の負担を半減させ、また堤防の決壊や越水による本川の氾濫といった大災害をかわすことができました。
現在、黄瀬川長沢地区など4ヵ所で緊急の災害復旧工事を実施しています。また中流域の内水被害の軽減に向け、床上浸水対策特別緊急事業に引き続き取り組んでいます。

HOME