建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年12月号〉

interview

最後の難関・飛騨トンネルの19年度開通へ全力

現職の小泉首相が工事現場を視察

中日本高速道路株式会社 中部地区 清見工事事務所長 寺田光太郎 氏

寺田光太郎 てらだ・みつたろう
生年月日 昭和 23年7月12日
昭和 42年 4月 日本道路公団入社
昭和 62年 2月 東京第一管理局御殿場管理事務所技術助役
平成 元年 12月 東京常一管理局技術部補修二課課長代理
平成 4年 2月 大阪建設局泉佐野工事事務所泉佐野西工事長
平成 6年 7月 大阪建設局建設二部調査役
平成 8年 11月 東京第一管理局技術部補修二課長
平成 11年 11月 関西支社吹田管理事務所副所長
平成 14年 7月 東京管理局千葉管理事務所副所長
平成 15年 7月 中部支社清見工事事務所所長
平成 17年 10月 1日より日本道路公団より中日本高遠道路株式会社清見工事事務所に組織変更
中日本高速道路鰍ヘ愛知県と北陸を結ぶ全長185kmの東海北陸自動車道の19年度の全線開通に向けて、最後の難関といわれる飛騨トンネル10.7kmの建設に突貫工事で取り組んでいる。道路トンネルとしては国内2番目の長さ。現地は急峻な山岳地帯が連なり、地表から最大1,000m以上の深さを掘削するため、大量の湧水と軟弱地盤に阻まれ、工事は難航を極めたが、山岳トンネルとしては世界最大規模のtbm(トンネルボーリングマシーン)で施工し、先進坑は貫通まで残すところ330m、本坑もあと3.4kmの地点まで掘削が進み、19年度中には全線開通の見通しとなった。飛騨トンネルなど東海北陸自動車道の未開通部分を担当しているのが、中日本高速道路樺部地区清見工事事務所で、寺田光太郎所長にトンネル工事の概要などを聞いた。
――飛騨トンネルは先進坑開通が秒読み段階まできています。まず、事業概要からお聞きしたい
寺田
東海北陸自動車道は、愛知県一宮市において名神高速道路から分岐し、この一宮ジャンクションから中部地方の内陸部を南北に貫き、富山県小矢部市で北陸道に接続する総延長185kmの高速自動車国道です。全体の86%、160kmはすでに供用開始しており、最後の1区間を残すのみとなっています。 中日本高速道路樺部地区清見工事事務所は、起点側の岐阜県郡上市白鳥町から岐阜県と富山県との県境である白川村までの延長76kmを担当しており、東海北陸自動車道最後の未供用区間となる、飛騨清見ic〜白河郷icまで25.2kmの建設を推進しているところです。
――飛騨トンネルですね。典型的な山岳道路と聞いています
寺田
そうです。飛騨トンネルは、ユネスコの世界文化遺産に登録されている飛騨白川郷合掌集落のある白川村荻町と飛騨高山側の河合村とを結ぶ全長10.7kmの長大トンネルで、完成すると道路トンネルとしては関越トンネルに次いで国内二番目の長さとなります。飛騨トンネルの完成で東海北陸自動車道が全線開通します。景観に配慮して道路の線形(位置、高さ)は、合掌集落からほとんど見えない位置に設計しています。 現在の未供用区間はトンネルが10本、本線橋11橋が連続している、典型的な山岳道路です。トンネルと橋梁の構造物比率が88%、しかも標高が600m〜1,000m。積雪量が1.6m〜2.3mの豪雪地帯で、冬の気象条件が非常に厳しい。将来に向けて冬期間の厳しい交通運用を含めて設計・施工しているところです。
▲避難坑 tbm 天生太郎
▲本坑 tbm 夢天生2000
――工事の進捗状況はどうなっていますか
寺田
飛騨トンネルを除く区間は、土木工事が概成、一部は舗装工事に入っています。飛騨トンネルは本坑と避難坑(先進坑)からなり、送排気用の断面を確保することと施行の経済性から本断面は円型とし、大断面の大型トンネルボーリングマシン(tbm)で施行しており、山岳トンネルでは世界最大規模のマシンです。また、飛騨トンネルは円形断面の下半分を換気坑として利用する「選択集中排気式縦流換気システム」を世界で初めて採用しています。 平成8年10月の先進坑着手以来8年以上経過していますが、そもそもは今年の愛知万博に合わせて供用開始の計画でした。9年7月に富山側から始まった掘削は当初、順調に進みましたが、坑口から1kmの地点で当初想定していなかった軟弱な不良地山帯に遭遇し大量の湧水による切羽崩壊などに阻まれ、不良地山区間1.7kmの掘削に4年間かかりました。地表からの深さが最大で1,000m以上にもなり、非常に大きな土圧と湧水圧がかかるためです。不良地山帯では土圧による支保工の変状、切羽の崩壊がいたるところで発生しました。さらに毎分70t、これは人口32万人規模の都市の1日の上水に匹敵する量ですが、このように高圧大量の湧水にも見舞われ、水抜きボーリングや水抜坑の掘削による対策を施行しながら、最後の難工事と闘っています。
――かなりの難工事だったのですね
寺田
水圧や湧水量は、海底を掘削して作られた青函トンネルよりもかなり多いものでした。比較すると、土被りは青函トンネルは240メートルですが、この飛騨トンネルは1,000メートル、水圧は青函トンネルが24kgf/?に対し、飛騨トンネルは55kgf/?でした。 このため本抗において、中央導抗切り広げ掘削中に、導抗がつぶされたり、作業抗の施工中に大量の湧水とともにレキ状岩が崩落したり、粘土のかたまりが噴出し、トンネルが100mにわたって埋没したり、先進抗のnatm区間において、土圧によって路盤が膨張し、線路が60pも持ち上げられたり、鋼製の支保工が土圧によって破断したり、矢板工法で施工した水抜き工の鋼製支保工が変状しました。 13年7月には名古屋側からも掘削を開始、先進坑の貫通まで330mを残すところとなっています。本坑は、先進坑に1年遅れて10年8月、富山側から掘削を開始、現在、貫通まで残り3.4kmまできました。早期の貫通を目指して24時間態勢で突貫工事に取り組んでおり、19年度中に開通の予定です。
――豪雪地帯ということで冬道の安全対策について工夫されていますか
寺田
トンネルとトンネルとの間の明かり部分は、700mの区間一箇所だけは機械除雪を行いますが、それ以外は融雪装置を設置し、冬期の交通確保に万全を期します。また、対面2車線で遅延なしに走行できる道路構造になっています。
▲世界文化遺産・白川郷
――地元の期待はますます高まっているでしょう
寺田
観光スポットの高山市から年間130万人が訪れる合掌集落の白川村まで現在1時間40分かかっているのが、飛騨トンネルの開通後は50分に短縮されます。 また、この地域は高度医療の第3次医療機関が高山と岐阜にしかありませんが、全エリアを60分以内でカバーできるようになります。 福井、石川、富山の北陸三県の期待も大きいものがあります。北陸三県は関東、関西に比べて中京との結び付きが弱いので、今後は水産、農業、観光の分野で双方の連携強化が期待できます。北陸の経済団体は経済的な開発効果を年間7,300億円と試算しています。 白川村の合掌集落が世界文化遺産に登録された平成7年の観光客の入り込み数は33万人でしたが、高速道路の整備の進展に比例して訪れる観光客が順調に伸びており、これは交通アクセスが良くなった結果です。 ネットワーク効果と交通量に関してですが、東海北陸自動車道が供用開始した初年度の交通量はわずかに3,500台でした。それが平成10年12月、名神高速道路に接続したのを機に交通量が飛躍的に増え、1年間の伸び率23%を記録するなど、いまでは2万台を超えています。東海北陸道が全通した場合、一宮jctから小矢部砺波jctが約2時間40分で結ばれることになります。
▲平成15年7月31日 森前首相現地視察
――各界の視察も多いのでは
寺田
お蔭様で政財界の要人も数多くお見えになっています。15年8月には小泉首相が、飛騨トンネルの工事現場を視察されています。森前首相が勧めてくださったとお聞きしていますが、現職の総理が道路公団の現場を訪れたのは初めてのことです。森前首相や綿貫民輔衆院議長(当時)も視察されていますが、皆さんにはこうして色紙をお願いし、われわれの励みにしています。
▲平成15年8月27日 小泉首相現地視察
――改革に取り組んでいる小泉首相も、この路線の重要性を痛感しているのですね
寺田
当日は富山県がノーベル街道としての整備方針を決定している国道41号を通って、岐阜県神岡町の素粒子ニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」を訪問した後、福野町の農事組合法人や平村の相倉集落を経て、トンネルの視察に来られました。直径約13メートル近い世界最大の掘削機に関心を持たれたようで、驚嘆しておられた様子でした。 帰京の折りには、富山空港で富山県知事に対し、早期貫通を希望する発言があったとのことです。このことで、県では早期完成に向けての追い風として期待も大いに高まったようです。
飛騨トンネル避難坑工事
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