〈建設グラフ2000年5月号〉

interview

地域との距離を縮め、組織間の壁を取れ

事業間の連携を模索

北海道開発局建設部長 平野道夫 氏

平野 道夫 ひらの・みちお
昭和20年12月3日生まれ、45年北海道大工卒。
昭和 48年 北海道開発局石狩川開発建設部第1課河川調査第1係長
49年 建設省河川局治水課直轄総括係長
52年 北海道開発局石狩川開発建設部札幌河川第1工務課長
53年 北海道開発局河川計画課開発専門官
54年 建設省計画局国際課長補佐
55年 サウジアラビア日本国大使館一等書記官
58年 北海道開発局石狩川開発建設部工務第1課長
61年 北海道開発庁水政課開発専門官
63年 北海道開発局河川計画課河川企画官
平成 2年 北海道開発局旭川開発建設部次長
3年 北海道開発局石狩川開発建設部次長
5年 北海道開発局河川計画課長
7年 北海道開発庁水政課長
8年 北海道開発局室蘭開発建設部長
10年 北海道開発局石狩川開発建設部
11年 7月現職。

北海道開発法に基づく北海道独自の組織であった北海道開発局は、来年には国土交通省発足により、全国組織の一部となる。だが、それは道民との距離が広がるということではない。北海道の道路、河川、ダムなどの整備を行ってきた同局建設部の平野道夫部長は、「地域との距離を縮めよ」と全道の開発建設部に号令する。同部長は「地域あってこその開発局」というスタンスを常に持ち続け、地域自治体との連携を重視してきた。一方、縦割り意識や、国と自治体との間にあった壁の撤去にも心血を注いでいる。新時代を迎えつつある今日、同部長は今後の開発局の立つべきポジション、採るべき新しい事業手法を明確に示している。
――北海道開発局は、反対派道民の意向によって千歳川放水路計画を凍結しましたが、水防の重要性に対して、道民に理解不足があるのでは
平野
そういうわけではないのです。地域の将来を考えるなら、安全の確保の問題は地域づくりのスタート以前の問題で、地域ごとの繁栄を考えれば、自然災害からの安全の確保というのは必要です。この考えは、道民も変わらないと思います。
――印象としては、北海道民はあまりにも自然保護を優先し過ぎて、人間の住環境の向上に対する関心が低いように思いますが
平野
それはどうでしょうか。そもそも明治2年に開拓の歴史が始まって以来、130年を越える間、国が骨格づくりをするものという認識があったのかもしれません。
かつていみじくも「あれ(千歳川放水路)は、国の仕事」という発言が、北海道知事から聞かれましたが、これは歴史的背景からくる無意識的な意識から出たものと思います。
――役割意識と言うことですね
平野
そうです。しかし、今後は「国だから」、「都道府県だから」と割り切ってしまう時代は超えてきており、むしろ共にスクラムを組んで地域を良くしていこうという考え方が、いっそう求められると思います。
今回、千歳川流域の治水対策への合意形成を含めて、北海道と開発局の双方が事務局を共に設置するという、北海道地域での過去の経験には無かった取り組みが見られました。これは、私は大進歩だと思っています。
――取り組みの手法が新しくなってきているのですね
平野
そうです。公共事業の目的とは、地域で困っていることを解消すると同時に、将来のために備えるという二つの使命があると思うのです。その使命においては、立場が国であることや都道府県であることは関係のないことと思うのです。もちろん、市町村との壁もないものと思っています。お互いに、持てる力を出し合うということですね。
――その意味では、平野部長ご自身も以前から地域の市町村との連携を大事にしてきましたね
平野
そうです。私は職員にも「壁の意識を取れ」と絶えず言っています。さらに極端に言えば、開発局とは地域あってこそで、地域に見放されたら成り立たない。だから、国の役人だからということで、傲るなと言い続けてきました。
――そうして、市町村と調和連携をとりながら実施した事業にはどんなものがありますか
平野
治水では、雨竜川の治水対策が理想的なモデルと言えるでしょう。妹背牛町とともに、農業基盤をどうすべきかについて、町職員のみなさんと議論しながら進めています。
また、北村の治水対策があります。新篠津村でもそうですが、行政区域内で最も高いところが堤防のため、水害に強いまちづくりを町村と協力して進めました。
道路事業では、浦河町などで、「ふれあいまちづくり」とのキャッチフレーズで、歩道拡幅を行っています。とりわけ歩道のない国道は、児童生徒の通学には危険ですから歩道の整備を着実に進めていますが、これは同時に道路を拡幅することになるわけです。拡幅するということは、即ちそこに並ぶ商店街のリニューアルにもつながります。
――一時期は、浦河町の商業施設が静内町に流出し、寂しくなったことがありましたが、インフラ整備とまちづくりを調和させることで、浦河町の景観は変わりましたか
平野
かなり変わりましたね。虻田町でも同じことが実現しました。
――やはり、単に店舗の軒先を並べて商品を陳列していれば済むというものではないのですね。日高町も国道の拡幅に合わせて、商店街がリニューアルしましたね
平野
そうです。局としては、拡幅だけでなく、道の駅も設置しました。とりわけ地元の日高町長も非常に熱心に取り組んでいました。
私たちは実際に基盤整備という事業を持っていますから、地域自治体がそれをうまく活用して一緒にまちづくりを行うというのは、非常に理想的なパターンですね。
――それによって町が活性化する実例が増えてくれば、どこの自治体も挙って意欲的に開発事業の有効活用に力を入れ始める可能性がありますね
平野
そこで大切なことは、私たちは自分たちの気持ちも変えていくことです。自分たちも、こうした基盤整備事業を核として活用しようという気持ちになれば、素晴らしいと思います。
――地域から喜ばれる事業が、国の公共事業の真の姿と言えそうですねそ
平野
それもありますが、ただ、喜ばれるためだけでもないのです。将来のために、今は厳しくても着手しなければならないものもあります。
しかし、道路も都市施設のひとつであるのも確かです。都市施設の中には公園もあり、美術館もあり、それらも含めてすべてを都市施設と認識されていますね。したがって、職員にも、国道だからということで自分たちの守備範囲だけに拘り、「一時間に自動車が何百台も通れます」と、独りよがりに自慢してもだめなのだと話しているのです。常に街づくり全体を考慮するように言っています。
――確かに、まちづくりにおいて、道路は骨格となりますね。どんな施設を建築しても、道路がなければそこに到達できません。ただ、将来に向けて現在から投資をしていくのはそれなりに重い負担があります。そこで、将来像と必要性をいかに理解させるかがポイントになるのでは
平野
将来像をどのように理解していただくかは、いわばアカウンタビリティーの問題に通じてきます。振り返れば、今まではあまり積極的に情報を公開する状況ではありませんでした。
しかし私としては、理解をしていただくということは、つまり情報を見ていただくことだと思っています。その公開された情報の中に、私たちの考えが見えてくると思うのです
――以前は国策という立場から、強力に事業を推し進めてきた経緯もありました
平野
恐らく全く未整備の地で、ゼロからスタートした時期には、多少、強引に見えた推進もあったでしょう。
しかし、まがりなりにも都市機能が出来上がってきて、次のステップに移ろうという段階であれば、将来像を公表し、街づくりをどうするかの中で、例えば交通体系はどうするかなど、個別の施設を具体的に検討することが大事になります。 例えば医療圏で捉えるなら、北海道は一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏と地域分類されていますが、特に三次医療圏が大事になってくると思います。これには介護の問題も含まれてきますが、ネットワーク化が進めば、それに対応できます。
――それを全道規模で捉えるなら、例えば函館から釧路まで高速道路や高規格道路によって、数時間で通行できるなど、道内の道路網の充実と高規格化が向かうべき方向性なのでは
平野
そうですね。道路公団が施工する高速交通体系、北海道の縦貫道と横断道、そして私たちの高規格幹線道路などで、ネットワークを組むことが必要です。道路はネットワーク化によってこそ地域貢献ができるのです。ネットワークができることで、半日行動圏が広がってきます。それは今後、不可欠のものとなってくるでしょう。 例えば医療圏で捉えるなら、北海道は一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏と地域分類されていますが、特に三次医療圏が大事になってくると思います。これには介護の問題も含まれてきますが、ネットワーク化が進めば、それに対応できます
――そうなると、都市の一極集中も解消できそうですね
平野
その通りです。昭和から平成年間に変わる頃、高速道路を深川から東鷹栖の延長部開通によって上川管内の人口は札幌市に吸収されてしまうと言われましたが、現実にはそうではないのです。
長距離高速バスが通れるようになったため、一日で往来できるようになりました。その結果、遠くの町の若者たちは自分の住んでいるところにあまり刺激がないため、札幌に集まるようになるわけですが、反面、行っても宿泊せずに帰れるとなると、敢えて札幌に住む必要はなくなるわけです。このようにして人口流出への対策としても、効果は十分にあるものと思っています。
――ところで、最近は河川も道路も本来の目的以外の利用法が様々に提案されるようになりましたね
平野
先にも公共事業における国、都道府県、市町村の壁をなくすべきと述べましたが、これは事業間についても同じことが言えるものと、私は考えているのです。従来のように、道路は道路、農業は農業という考えを変えて、互いに相乗りすべきだと思います。
例えば、網走湖の水質に問題が生じ、上流から流下してくる家畜の糞尿によって汚染が進んだのです。ところが、河川の水質の問題ですから農政としては手が出せず、さりとて酪農家への対策という意味では、河川管理者も所管外です。しかし、問題の本質は河川の水質改善ですから、河川管理者として試験的に取り組んでみようということになり、四戸の酪農家を選んで、家畜糞尿を小清水町で使われていた土壌菌を用いて、糞尿処理をすると、抜群の効果があり、処理水も河川に戻さず、農家の方が活用しています。
なぜ河川事業として、それができたかと言えば、あくまで水質改善のための試験としての調査によってデータを得るという目的があったからです。
――河川行政のサイドで、偶然でも農業に活用できる新技術が発見できたなら、それを提供して農政・農業に活かすということですね
平野
そうです。これをさらに農業で進めて、バイオマスという方法を考えています。このようにしてお互いに相乗りし、所管領域は別にして優れた特性を出し合うということができると思います。
これこそ他省庁が一体化している開発局だからこそできるのです。北海道開発局の利点だと思いますよ
――来年から省庁の再編成がはじまります。すでに統合されて機能している開発局として、今後はその特色をどう活かしますか
平野
ますますその特性を活かすためには、単独で個別の目的を持つ事業同士が、お互いに関連性がないかを模索するという意識で予算要求をしなければならないでしょう。総合的な行政体である市町村職員のような意識を持つことだと思います。
また、業務分野も増えることになります。例えば、補助金に関わる業務が地方整備局、北海道開発局に委譲されます。まだ不動産業務や建築指導業務などがどこまで扱われるのか明確ではないのですが、それを所管する部署は新設します。
このように出先機関のレベルで直轄事業と補助事業を扱うことになるわけです。
――そうなると、総合行政に近くなるため、さらに国民との距離も縮まることと思いますが、かつて局の広報担当が北海道開発局の知名度に関する道民アンケートを行ったところ、意外にも局の役割や存在を知らないか、または正確に理解していない道民が多かったという結果が出たことがありました
平野
除雪だけを行う役所という回答などが見られましたね(苦笑)。しかし、建物も名称も変わらなかったからいままで通りというのでは、いかにも情けない。ここに勤める職員の一人ひとりが、意識を変えていかなくてはならないだろうと思います。もっともっと地域を大事にしていかなければなりません。
以前から言い続けていることですが、とにかく「地域からの距離を短くせよ」ということです。局出先機関の開発建設部といえば、地域の直接的な窓口ですから、とにかく地域との距離を縮めるようにと、今後も言い続けていくつもりです。
――一方、公共事業のパートナーたる建設業界では、入札方法が指名競争入札よりも一般競争入札に比重が置かれてきているため、とりわけ地場企業が息切れしていると聞きます
平野
厳しい発言になりますが、建設業界だけが日本産業の位置づけの中で特別扱いされる時代は、続かないと思います。
業界側の主張は恐らく過去との比較に基づくものだと思われます。しかし、日本全土を含めた視野でものを見ることが今後は必要で、のみならずwtoを含めた海外との競争も視野に入れる必要性が高まっています。したがって、合理性を持った仕事の仕方や効率性が求められます。
そうした現代に、過去と比較しての発想には疑問を感じます。現在は建設外の産業でも苦労しているのですから、自分たちは特別という意識には納得することはできません。もう少し自らを厳しく見ていただきたいものと思います。
――現在、国も自治体も建設業界の構造改善プログラムを進めてる最中ですが、競争力の面を見ると、やはり地場企業はゼネコンには追いつかないのが実態です。問題は地場企業の育成と国際レベルにまで発展しつつある市場原理・競争とのバランスということになるのでは
平野
日本全国の方々が納められた税金の内から、北海道に予算づけされています。その結果として、良い成果を持ってお返しするのです。例えば白鳥大橋もそうですが、これは室蘭市という地域に対する全国からの贈り物なのです。そうした感謝の気持ちを持つべきではないでしょうか。そこが全てのスタ-トなのです。
将来、この町をどう良くするかということは、即ち公共事業でいかに良い成果を上げるかということでもあります。そのためには、私たちも手を抜かず、気も抜かずに取り組まなければなりません。地場企業とゼネコンの関係ですが、そのために、発注標準というものがあります。したがって、「何でもかんでもどなたでも」とはいきません。発注標準の中において、地域事情に応じた対応はできるものです。
――そうした認識を前提に、今後、どんな事業分野に重点を置いていきますか
平野
特定の分野だけということでもありませんが、高規格幹線道路にかかる予算は、全開発予算の65%を占めています。また、全国の国道を含む高規格道路の整備率が52%に達しているのに、北海道はわずか26%でしかありません。
したがって、今後はいち早く高規格道路網の完成に向けて、力を入れていくことになるでしょう。

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