建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年6月号〉

interview

限定された予算、山積する課題にどう対処

サハリン原油採掘開始で、地元関連業界に弾み

北海道稚内市長 横田耕一 氏

横田耕一 よこた・こういち
昭和23年12月30日生まれ、稚内市出身。
昭和 46年 3月 東洋大学社会学部応用社会学科卒。
47年 4月 千葉県君津市教育委員会勤務
51年 3月      同     退職
51年 5月 横田モータース株式会社入社
54年 3月      同     取締役専務就任
56年 4月      同     代表取締役社長就任
平成 11年 4月      同     退任
11年 5月 現職
<主な公職歴>
昭和 58年 6月 稚内市社会教育委員
平成 5年 6月 稚内市社会教育委員の会議委員長
5年 6月 宗谷管内社会教育委員連絡協議会会長
8年 10月 稚内市教育委員会委員
10年 3月 稚内市総合計画審議会委員
10年 6月 (社)稚内交通安全協会副理事長
稚内市は、横田市政がスタートして1年が経過した。財政状況の悪化からまず財政再建と構造改革に着手したが、長年の経過を経て構築された行政システムを、急変させることは難しい。横田市長は、職員とのコミュニケーションを密にとりつつ着実に進める方針だ。一方、まちづくり事業は、建設外事業にシフトしつつあるが、北星学園短期大学の4年制移行など新たなインパクトも加わり、これを基盤とした都市整備が求められている。また、対ロ関係ではサハリンでの原油採掘がいよいよ本格化し、そのための環境整備に向けて市の出番が回ってきた。対内的にも対外的にも大きな変動を迎えつつある稚内市を、限られた予算でどう切り盛りするか、横田市長の手腕を発揮すべき時が来た。
――就任して1年が経過しましたが公約、政策は順調に実行できましたか
横田
そうですね、思ったことを形にしていくのは、なかなか難しいというのが実感です。例えば行政改革にしても、スタッフである市職員は、それぞれが自信を持って業務に当たっていますから、彼らとのコンセンサスをとりつつ長く続いてきた慣習を変えるというのは大変なことです。
とはいえ、公約の一部は企画段階にまできたと思います。昨年は実際には実を結ばなかったけれども、12年度からは着手できるよう段取りを進めているものがあります。
例えば機構改革、行政改革などですが、文字通り今年は本格的な1年目で、今までは助走期間と言えるのではないでしょうか。
――それを踏まえて12年度はどんな予算組と事業を構想していますか
横田
今までは予算上の目玉・特色といえば、建築構造物のような形のあるものとされてきましたが、私としては必ずしもそうとは思いません。特に財政状況は稚内市だけではなく、すべての自治体で芳しくないという状況ですから、取捨選択、優先順位を設けていかなければなりません。しかも、中長期的なスパンで的確に見極めなければならないという時代に入ったわけです。したがって、あまり華々しい目玉事業というものは設定し得ないというのが実態ではないでしょうか。
ただ、今まで懸案だった課題については、何とか着手していきたいと思っています。例えば図書館については、できれば平成14年ぐらいを目処に着工できればと思っています。また老朽化しつつある学校についても、順次整備計画を立てて進めていきます。
財政が非常に好調で、毎年ハコモノ、あるいは公共事業がどんどん膨らんでいくという時代ではありませんから、その意味では非常に特色の出しにくい、形の見えにくい単年度予算になるとは思います。しかし、これからは3年、5年というスパンで成果を出すという進め方が主流になるのではないでしょうか。最も大事なのは、そうした長期的な計画・構想に基づいて短期的な年次毎の計画をきちんと策定していくこと。しかも詳細な政策については、一定の実施計画とは言わないけれども、すぐ着手できるような計画立てを常にしておくことが大事だと考えています。
――市内では北星学園大学が4年制大学として開校したことが注目されますが、入学者状況はいかがですか
横田
現況は厳しいですね。大学の認可を取得したのが昨年12月で、それまでは大学の宣伝ピーアールが許されないため、11月に推薦試験などを実施したものの、受験希望者数は思うほど伸びなかったのです。特に今年は地元の高校からの入学者がかなり減ってしまいました。理由はもう少し分析しなければ判明しません。ただ、もっと地元への貢献度、あるいはそれを通じて認知度を高めていくことが必要なのは明白です。様々な状況を考慮した場合、今年の結果はやむを得ませんでしたが、来年以降に向けてどう対策を立てるかが今後の課題となるでしょう。
地域や全国から集まる学生に、全国初の情報メディア学部を通じて質の高い教育を実践するとともに、「地域の大学」として大学の専門性を活かした地域情報化の推進、インターネットの市民講座、ロシア研究・ロシア語教育の推進など、地域に大学を開放し「最北端は最先端」と最新の情報を稚内から発信していかなければなりません。
――企業の誘致などは順調でしょうか
横田
企業誘致では、北星学園短大当時の卒業生が就職した上場企業が、コールセンターを市内に設置したいとの話が持ち上がっています。ところが、短大卒業生として見込んでいたため、2年間は卒業生不在という状況ですから、計画が中断してしまいました。何とか今年の秋頃には実現したいと思っています。
実現に当たっては、設置場所を検討中ですが、通信関係のインフラがまだ不十分との指摘があるので、その整備も課題です。
――高規格幹線道路網の整備にかなり力を入れているようですね
横田
そうです。中国地方の高規格幹線道路は、すでに1,656kmが計画され、直轄事業でバイパス整備を行っている区間の当面活用を含め1,028kmが供用済みです。さらに延長約365kmを施工する予定で、うち194kmは実際に着手しています。
今後の予定は平成14年度末までに約110q、平成19年度末までに約170qの供用を目標としています。これによって達成率は47%になります。
一方、一般国道では自動車専用道路として東広島呉自動車道、尾道福山自動車道、西瀬戸自動車道の約45qについて整備を行っています。さらに、山陰自動車道、山陽自動車道、中国横断自動車道姫路・鳥取線のうち、約320qの整備する予定です。
この山陰自動車道、山陽自動車道、中国横断自動車道姫路・鳥取線は、一般国道の自動車専用道路として整備していますが、当分の間は高速道路としての機能も果たすものです。
――地方分権への対応について、広域連合など稚内市が先導して取り組んでいこうというお考えは
横田
具体的にはまだそういう取り組みはありませんが、合併にしても広域連合にしても、難しいと最近思っています。何を目的にして広域化を図るのか、その設定が非常に難しい。広域連合の必要性は、人口密度が非常に低いことに起因しているわけですから、あらためて集約化し、効率化を図らなければならない部分はあります。
しかし、どうすれば効率化を図れるのか、決定的な有効策はなかなか見当たらないです。むしろ体制は現状のままで、課題別に協力関係を構築していくという方法しかないのではないかと思います。
何れにしても、宗谷北部の離島も含めた1市4町1村、天塩・幌延も入れた6町の連携は大事だと思います。その中心的役割を担うのが稚内市だと思っています。浜頓別から南は生活圏が一緒にはなりません。枝幸、歌登、中頓別などはむしろ南指向ですね。しかし向こうの方々が求めるのであれば、稚内市が中心的な役割を担うことになるのではないかと感じています。
――本州方面では、先行して広域連合を実施しているところがありますが、進めてみると結局、合併しかないという状況に追い込まれているようですが
横田
北海道では、それは難しいと感じます。本州のように軒先を接して境界があるようなところでは、合併の価値はあるだろうし、東京都のように非常に面積の小さなまちでも同様だと思います。
しかし広大な北海道では難しいですね。北海道はむしろ分県のほうが適切ではないかと思います。道南・道北・道東、それぞれに持っている課題は違うわけですから、きめ細かく対応するためには、今の支庁区分では厳しい。したがって分県し、きめ細かな協調体制を取り、その地域全体を包括する政策課題を具体的に行うということが必要ではないでしょうか。
――石原東京都知事が銀行に対する外形標準課税の方針を決定しました。こうした自主課税に対する市長のお考えは
横田
自主課税については市民の合意形成が必要でしょうね。特に今回のような企業に対する独自課税については、零細企業が経済の構造を支えているような地域では難しいと思います。含み資産などは持っていないわけですから、外形標準課税というのは地方では非常に難しい。
石原知事は闇討ち的に発表し、銀行を敵視しているような発言をしているため、様々な論議を呼んでいますが、しかしあのように限定した課税のやり方はやむを得ないとも思います。石原知事はどうも東京一極集中型のタイプで、彼の発想に対しては多くの疑問を感じています。東京にいる大半の人達は地方から来た人達で、それも長期的な政策によって人口が集中したのではなく、結果的にそうなった(東京に人が集まった)だけなのです。それを今になって地方はけしからんと非難されても、通用する話ではないと思います。
もし地方が対抗策として新税を導入するとすれば、例えば、市民の合意を得た上で環境税を導入することも考えられます。
――環境税については堀知事も導入を検討すると表明していますね
横田
それは目的税としてですが、必要なことだと思います。ただ、北海道では実現も厳しいと思いますよ。
本道の自主財源比率は50%を切っています。これをどうして逆転させるか。そのためには税収を上げなければならない。税収を上げるにはどうするか。産業基盤を強化しなければならない。全道を挙げて、二次産業の振興を提唱していますが、確かにまずこれを確立していかなければならない。これが先決問題と言えるでしょう。
――4月1日には介護保険が導入され、全国的に見ればこれまで大きなトラブルはないようですが、稚内ではいかがですか
横田
昨日と一昨日(4月2日、1日)に担当者を苦情の対応のために待機させておいたのですが、一昨日については何もありませんでした。昨日についてはまだ報告を受けていませんが、幸いにも直接のトラブルはないようですが、テレビなどで報じられているように、ケアプランの作成は稚内市でも遅れています。
まずは今まで暫定的に提供していたサービスについては、きちんとやらなければなりません。とにかく利用者の方々に迷惑がかからないようにという考えで取り組んでいます。そして、できるだけ早くケアプランの作成を終わらせたいと考えています。
――隣国ロシアでは、次期大統領にプーチン氏が決まりましたが、サハリン州との関係において、今後の取り組みに変化はあるでしょうか
横田
基本的には今までと同じだと思います。ただ、ファースト・オイルがついに出たということで、行政にもいろんな影響が考えられます。稚内の業者がメンテナンスを受注するなど、具体的な形で事業が進んできましたので、行政としては、インフラ整備という形でそれに応えなければならない局面がいよいよ来ました。
商業生産が始まり、サハリン州に落とされるボーナスなどが、現実的に払われるという状況になってきました。サハリン州では、インフラの長期的整備計画の一部が策定され始めています。そこに地元の業者の人達がどんな形で参画していくか、まさに今年あたりから本格的な営業活動に入っていくのだろうと思います。
向こうではホルムスク港の浚渫事業を、日本の大手企業が落札しました。それはホルムスクの港もしかり、コルサコフの港の整備拡張も視野に入ってきますから、今後とも地元業者の人達の技術をどう生かしていくか、どう参入していくか、これからの大きな課題でしょうね。  
――3月のダイヤ改正でjrがスピードアップし、札幌―稚内間の所用時間が1時間あまり短縮されました。鉄道だけでなく空港や道路も含めて、長期計画における交通基盤の整備については
横田
鉄道については、札幌までの時間を無理に短くする必要はないと思っています。せいぜい3時間から3時間半くらいにまでなれば十分でしょう。それ以上、短縮したら、地域住民がみんな札幌へ買い物に出かけてしまうでしょう。それでは稚内が空洞化してしまいます。
旭川では地価の下落率が日本一などと報じられていますが、確かに地方の空洞化はひどく進んでいます。したがって、早く札幌へ到着したいと思う人は、飛行機を利用することです。ゆっくりと汽車の旅を楽しみたい人は汽車で行けばよいのです。
また道路については高規格道路の整備が進められつつありますし、空港も今は東京との通年運航が進んでいますから、これもそれなりに評価できます。ただ冬場の横風が強くて欠航することもあるので、横風防止用の滑走路をお願いしているところですが、難しいところもありますね。  
――来年は省庁再編で北海道開発庁が国土交通省に統合されます。国庫からの“特別枠”という側面を見る限り、北海道の各自治体も大きな岐路を迎えようとしていますね
横田
行政改革の大きなうねりの中では、仕方のないことではあるけれども、今のところ北海道内の開発建設部などは現体制のままということですから、それほど危機感は持っていません。
しかし、いずれは他の全国の地域と同じ扱いになるのではないでしょうか。したがってそれまでに北海道全体、そして私達がどれだけ財政的に自立していけるのかが非常に大事です。よもや北海道を国が切り捨てるというようなことはないでしょうが、しかし人に頼むだけではなくて自分達も何か違う努力をしなければならないと思います。ですから、国・道に対する関係は今までと変わらないでしょう。
しかし、私たちの内部でそういう思いを形にしていく努力をしていかなければ、いずれ5年先になるか10年先になるかは分かりませんが、国は他の都府県と同じ関係に変えていくのではないでしょうか。その結果、特別枠は限りなく縮小されるでしょうね。  

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