建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

interview

わが国の食料供給基地・北海道の食料自給率は178パーセント

地域の創意工夫を生かした取組を支援

北海道農政部長　��柳　裕 氏

��柳　裕　たかやなぎ・ゆたか 　昭和18年8月13日　57才（ｈ13.4.1現在） 　出身地 　旭川市 平成 7年 　農政部次長 平成 9年 　根室支庁長 平成 11年 　環境生活部長 平成 12年 　議会挙務局長 平成 13年 　農政部長

――いよいよ農政部長として、本道の農政全般に采配を振るうことになりましたね
��柳

そうですね、４年振りに農政に直接携わることとなり、非常に懐かしい気持ちがある反面、農業をはじめとする経済・社会全体の変革期における農政の推進を実のあるものとしなければならない責任があるので、身が引き締まる思いです。
特に21世紀は食料と環境の時代と言われており、平成11年に制定された「食料・農業・農村基本法」の下、食料自給率の向上に向けて、我が国最大の食料供給基地である本道への期待は一層高まっていくものと思われます。
また、あらゆる分野で環境に対する配慮が強く求められる情勢となっていますが、私自身、かつて環境生活部長という職務におり、その立場から農業を見つめたことで、その感を強くしています。
北海道の農業は、地域の基幹産業として発展してきましたが、近年では、米をはじめとする農産物価格の低下や農家戸数の減少、担い手の高齢化など、多くの問題を抱えています。また、本道の経済全体も依然として厳しい情勢にあり、新しい時代に向かって、社会経済システムが大きく変わろうとしているところです。
こうした状況にあって、農政の推進に当たっては、従来の考え方や行動にとらわれず、農業者の創意工夫にあふれた取り組みを積極的に支援しながら、魅力ある農業と活力ある農村づくりに向けて、常に創造と変革の気持ちを持って全力で取り組んでいく考えです。

――道内での食料自給率と、今後の目標は
��柳

国は、12年３月に新基本法に掲げる食料の安定供給の確保などの基本理念や施策の基本方向を具体化し、それを的確に実施していくための基本的な計画として、「食料・農業・農村基本計画」を策定しました。その中で、国民の食料消費と農業生産の両面にわたる指針として、食料自給率を供給熱量ベースで現状の４割程度から10年後には45％にする目標が示され、これに沿った農業生産の努力目標が示されました。
北海道は、国産供給熱量の約２割を供給しており、また、道民一人当たりの食生活を道内生産でどの程度賄えているか、これを示す本道の供給熱量ベースの食料自給率は、11年で178％と全国一です。
道としては、この３月に、土地・水などの恵まれた資源や高い技術力、意欲あふれる担い手などの基盤を生かし、食料自給率の向上に最大限寄与していく姿勢を明らかにするために、10年後の本道農業の姿を展望する「北海道における生産努力目標」を策定したところです。
この生産努力目標においては、自給率の低い麦や大豆をはじめ主要な品目の大幅な生産拡大をめざすことにしており、本道が我が国最大の食料供給基地としての役割を一層発揮できるよう、関係者あげて取り組んでいく方針です。

――主な農産物の全国レベルでの生産シェアはどのくらいですか
��柳

北海道は、全国の約４分の１を占める広大な耕地面積を背景に、多くの農産物が全国一の生産量をあげています。
　12年の生産量でみると、米は７年連続で全国１位となり、全国シェアが８％となっているほか、畑作物に関しては全量が道内で生産されるてん菜をはじめ、いんげんや小豆は９割前後、馬鈴しょは８割弱、小麦が５割強、大豆が２割程度を占め、いずれも全国１位となっています。野菜については、たまねぎが約６割、かぼちや、スイートコーンが約４割、にんじんが３割弱、だいこんが約１割と、これもそれぞれ国内最大の産地となっています。畜産物についても、生乳が全国の４割以上を占め、牛肉、軽種馬なども全国一です。

――まさしく農業県の名に恥じない実績ですね
��柳

そうですね、このように多くの作物で全国シェアが高いものとなっていますが、その多くは関東、東海、近畿地域をはじめ道外に移出されています。10年の道外出荷の割合は、でん粉、小麦、てん菜糖が８割以上となっているほか、米、馬鈴しよ、野菜、切り花なども６割前後が道外に出荷されています。
輸送手段は、品目の特性に応じてトラック、鉄道、船舶など多様で、それぞれの荷主は、鮮度保持機能の向上とともに、集出荷施設の合理化や共同輸送など物流の効率化に取り組んでいます。
農産物を適時・適切に販売する上では、まとまった量を道外に効率的に出荷することも必要ですが、一方で、安定的な販路の確保や地域経済の発展を図るためには、地域でとれた農産物は地域で消費するという、いわゆる「地産地消」の取組を進めていくことも重要です。
　８年に37％にまで低下していた北海道米の道内における消費割合は、12年には56％となりましたが、将来的には東北・北陸並みの80％をめざした取組を進めるほか、道や関係団体からなる「北の大地のめぐみ愛食会議」を中心とした「愛食運動」を、道民運動として定着させるための効果的な啓発活動を進めていきたいと考えています。

――今後成長が見込まれる品目、分野と研究課題などは
��柳

本道農業は、稲作、畑作、酪農などの土地利用型農業を主体として発展してきましたが、水田地域における転作の実施や土地面積当たりの収益性の高い作物に対する作付け意欲の高まりなどから、野菜や花の生産拡大が図られてきています。
近年、野菜の作付面積は、市況の低迷や労働力の確保難などから平成４年をピークにやや減少するとともに、これまで著しい進展をみせた花についても、生産は停滞気味の状況にありますが、地域によってはその基幹作物として、あるいは経営を支える重要な作物として定着しており、今後とも、地域の特性に応じた生産振興を図っていく必要があります。
また、一部地域では、消費者の健康志向の高まりに対応するとともに、イベントの開催など町おこし活動などとも結びついた、そば、ひまわりの生産や、作物の成分特性に着目したヤーコンやギョウジャニンニクなど新たな野菜の栽培の取り組みもみられます。今後とも、地域の戦略的な作物は、全道で画一的な生産振興でなく、それぞれの地域の自然条件や立地条件などを踏まえた主体的な取組が必要です。
道としては、10年3月に、道立農業試験場の新研究基本計画を策定し、これに即した研究開発に取り組んでいますが、地域に新規導入する作目の定着など、地域農業の振興を支援するプロジェクト的研究についても、重点研究課題の一つとして位置づけています。新たな作物の導入などに当たっては、地域に応じたきめ細かな栽培技術の確立などが重要ですから、道としては、こうした技術面の対応も含め、それぞれの地域の創意工夫を生かした取組を積極的に支援していく方針です。

――営農を支える農業農村整備事業については、どう取り組んでいきますか。また、世論では何かと批判の対象になっていますが
��柳

農業農村整備事業については、農業生産の基本となる農地の整備・改良とともに、生活排水などの生活環境整備を行うものです。本道農業・農村が我が国における食料の安定供給や、国土・環境の保全などの多面的な機能を一層発揮する上で、その着実な推進は必要不可欠です。
平成13年度の北海道の農業農村整備事業の国費ベースの当初予算額は、1,673億円で、全国シェアは15.5％、うち道営・団体営の補助分は約767億円で、全国シェアは10.3％となっています。
国においては、農業農村整備事業に関わる新たな時代の二一ズや最近の農業をめぐる社会経済情勢の変化を踏まえ、土地改良制度全般にわたる見直しを進めていますが、これまで以上に、環境への配慮や市町村との連携を重視した事業の実施が求められており、道としても、こうしたことを踏まえながら、農家経営の実情や道・市町村の財政状況なども勘案し、より効率的・効果的な事業の展開を図っていく考えです。
また、事業の執行に当たっては、昨年４月に「入札制度改善行動計画」を策定し、一年間、これに即して積極的な取り組みを推進してきましたが、引き続きその着実な実施に努めていくとともに、入札・契約に係る透明性、客観性、公平性を高め、積極的な情報公開を行うことを目的とした「入札契約総合管理システム」の整備を行う予定です。

――食料安全保障の確立と対外競争への戦略、それを踏まえた国への要望などについてお聞きしたい
��柳

道としては、国内外の情勢の変化や本道農業・農村の実態を踏まえ、平成９年に制定した「北海道農業・農村振興条例」に基づき、「生産構造の維持強化」、「食料自給率向上への寄与」、「環境と調和した農業の促進」など、５つの取組の基本方向を掲げた「第二期北海道農業・農村振興推進計画」をこの４月にスタートさせたところです。
我が国の食料安全保障の確立に向けて、本道農業が食料の安定供給などの役割を高めていくには、第二期計画に即した取り組みを進めていく必要がありますが、とりわけ、農業経営において一定の所得を確保し、経営の安定を図りながら、農業・農村を支える基本的な要素である担い手と優良農地の確保を的確に進めていくことが重要です。
そこで、中高年層も含めた新規参入者や農業後継者、地域をリードする法人経営など、意欲ある多様な担い手の育成・確保や、農地保有合理化事業の活用などによる担い手農家への農地の利用集積の促進に努めるほか、国が検討を開始した「経営を単位とした農業経営所得安定対策」をはじめ、農地の出し手と受け手の意向に即した農地流動化施策の実施など、本道の実情に即した経営政策、構造政策などの充実を、今後とも国に強く働きかけていきたいと考えています。
また、国際化に対応した体質の強い農業を構築していくためには、本道の広大な大地と冷涼な気候など、恵まれた自然条件を最大限に生かして環境への負荷を軽減し、自然環境や生態系と調和しながら、安全で良質な農産物を生産するクリーン農業を推進していくことが必要です。
道においてはこの３月に、13年度以降の関係者の共通の指針となる「21世紀クリーン農業推進方向」を策定したところで、今後、この方向に即して「yes!clean」表示制度の普及・定着や、クリーン農業技術の一層の開発・普及など、クリーン農業を本道農業のスタンダードとするための積極的な取組を進め、消費者の理解と信頼が得られる北海道農業を築いていきたいと考えています。