建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年10月号〉

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21世紀は北海道農業の時代

クリーン農産物で、北海道らしさを武器に

北海道農政部長 西川 昌利 氏

西川 昌利 にしかわ・まさとし 
出身:留辺薬町
略歴:昭和16年10月21日生まれ
東京事務所、観光振興室、人事課、広聴課、知事室、建設部など幅広い分野を経験(前職:知事室長)
趣味:昔、畑を作っていたが、近年は東京への転勤などで休止状態。
農政部の仕事について:仕事の原点(判断の物差し)は、農業者にある。しかし、行政としての役割・判断も必要。選択の目を養い、将来を考えた仕事を進めていきたい。

わが国の食料は、大部分が諸外国からの輸入を占めている。しかし、国としての独立性を高める上では、他国の農業に依存しない食料供給体制を確立する必要がある。そのため、政府は平成22年度までに食糧自給率を45パーセントに高めることを目標に掲げた。そこで注目されるのは、耕地面積が全国の4分の1を占める北海道の農業だ。平成9年度の食料自給率試算では、北海道は179%と都道府県別でno.1であり、北海道の農業に対する期待は増々高まるものと予想される。そこで、北海道の農政を担う西川昌利農政部長に、21世紀への戦略を伺った。
――就任時期が、有珠山噴火の最中だったので、着任早々から大変でしたね
西川
そうですね、有珠山噴火の中での就任となりましたが、有珠山対策に続いて、十勝管内での牛の口蹄疫発生、さらには雪印問題など、農業関係での緊急的な課題が続きました。私自身も現地に出向き、皆さんの話を伺いながら、農政部としての総力を挙げて、その時々の状況に応じた迅速な対応に心掛けてきたつもりです。
その意味では、この間は非常に充実した毎日となり、あっという間の四ケ月間でした。
――農政を担当するのは、初めてでは
西川
農政部の仕事は、直接的には初めてですが東京事務所での勤務経験などもあり、側面から北海道の農業や農村の動きを見てきましたから、大体のことは理解しているつもりです。
 折しも、昨年7月には新しい基本法が制定されたところであり、また、21世紀を迎える節目に、本道の基幹産業である農業の舵取り役の農政部で仕事をすることとなり、身の引き締まる思いと、新しい北海道の農業づくりに携わることの喜びを実感しているところです。農政部職員と一体となって、本道農業・農村の振興に全力を尽くしたいと思っています。
――いよいよ新世紀も近いですが、北海道の農業は、どう位置づけられていくのでしょうか
西川
私は、『21世紀は北海道農業の時代』と確信しています。特に、食料自給率の向上への貢献という点で、北海道の農業は中心的役割を果たしていくものと思います。
というのも、新しい基本法では「食料の安定供給」と「多面的機能の発揮」という農業・農村の役割を明らかにし、「農業の持続的な発展」と「農村の振興」を図ることを基本理念としています。
その中で、食料の安定供給の確保に向けて、国内の農業生産を増大させることを表明しており、本年3月には「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定され、平成22年度までの食料自給率(供給熱量ベース)の目標が45%に設定されました。
特に自給率の低い、麦・大豆や飼料作物などの土地を使った作物の生産振興が重要視されています。
こうした中で、本道は全国の耕地面積の四分の一を占める我が国最大の食料供給基地として、食料の安定供給に大きな役割を果たしており、今後はその役割がますます高まっていきます。
 もちろん安定供給だけでなく、冷涼な気候条件のお陰で農薬の使用量も都府県に比べて半分以下であることから、消費者が求める安全で安心できる農産物の供給という観点からも、北海道に対する期待は、今後、さらに高まるものと考えています。ですから道としても、現在、主要農産物に係る生産努力目標を策定すべく、作業を進めており本年度内には整理したいと思っています。
――問題は、農家経営の安定をいかに図っていくかですね
西川
確かに農産物価格の低迷をはじめ、農家戸数の減少や担い手の高齢化など、本道の農業・農村は多くの課題を抱えているのも事実です。
食料自給率の向上に貢献するためには、本道農業の安定的な発展が不可欠で、そのためには、何よりも本道の意欲的な農業者が安心して農業を営むことができる環境づくりと経営体質の強化が重要です。
 「農家経営の安定」をはじめ、「環境と調和した農業の推進」、さらには「多彩な人材の育成」や関連産業との連携強化による「地域全体の発展」などに視点を当てて、今後の道農政を考えていかなければらならいものと考えています。

――北海道は、これまで農産物に限らず、鉱物、水産物、木材とあらゆる素材を本州に提供してきましたが、今後は素材提供型の産業から脱却し、付加価値をつける取り組みが重要では。そういう意味では関連産業の連携強化が大切ですが
西川
その視点においても、私なりに農業を見てきたつもりですが、農業自体の動きが地域の経済社会に与える影響はやはり大きいと実感しています。
今、北海道では構造改革を進めていくことにしていますが、地域ならではの農産物加工、ファームイン、ファームレストランなど、これまでも農業・農村サイドから、北海道の新しい風が生まれてきています。また、こうした動きが農村地域全体の活性化や、観光面での北海道の魅カアップにもつながっているものと考えます。
ご承知のとおり、経済界などからは、本道における産業クラスター形成の核となる産業として、「農業」に熱い視線が送られています。
こうした中で、農政部としては、農業サイドから積極的に、関連の深い食品加工や流通販売、農業機械分野などの異業種に連携を求め、新たなビジネスの展開をめざす意欲的な活動を促進することにより、「農業クラスター形成」に向けた取り組みを進めています。
――何らかの成果は見られますか
西川
 平成10年度、11年度までの2年間で、全道32件の取り組みに対して支援措置を講じてきており、このうち、地場の農畜産物を原料としたレトルト食品や道産小麦による手延べ素麺の開発など、既に一部の取り組みについては、商品化・事業化されているものもあります。
 その他にも、道内初の酒造用米(初雫:はつしずく)による酒造りをはじめ、もみ殻など地域資源を活用した土壌改良剤などの新規用途開発、菜種、トマト、白花豆などを使った新しい食品の開発なども進められています。こうした取り組みは農業サイドのみならず、地域や北海道の経済全体の活性化に結び付くものであり、農政部としては、今後とも農業からの新たなビジネスおこしへの意欲的な取り組みを積極的に支援し、農業を核とした産業クラスターの形成に向けて努力していきたいと考えています。
――国内外での産地間競争が激化しています。首都圏の大市場、あるいは、道内市場でのシェア拡大に向けて北海道としてはどんな政策を考えていますか
西川
先にも触れましたが、北海道は広大な大地と冷涼な気候など、都府県に比べ、農業を行う上での優位性を有しています。道ではこの優位性を最大限に生かした取り組みとして、土づくりを基本に農薬や化学肥料の使用を必要最小限にとどめるなど、環境との調和に配慮しつつ、安全で高品質な農産物の生産を進める「クリーン農業」を、平成3年度から官民一体となって進めています。
本道農業の競争力強化に向けては、やはり、このクリーン農業を一層促進していくことではないかと考えます。
道外の消費者が抱いている、「広い」、「クリーンである」といった北海道に対するイメージ、そして、「新鮮でおいしい」といった北海道産農産物に寄せられる評価を、一層高めていくことが重要です。
一方、道産農産物の道内消費は、必ずしも高くない状況にあり、安定的な販路の拡大や地域経済の活性化を図るためには、「地産地消」を進めていくことも大切です。
このため、クリーン農産物を生産するだけではなく、その特性を消費者や実需者にアピールするため、本年2月には、道を含めた18の関係機関・団体による「北海道クリーン農業推進協議会」として、道立農業試験場などが開発した「クリーン農業技術」を導入して生産された農産物を対象に、「北のクリーン農産物表示制度」を創設したところです。
表示の仕組みについては、生産集団が道協議会の審査・登録を受け、クリーン農産物の愛称の「YES!CLEAN」をロゴ化した統一シンボルマークと栽培内容をセットで表示し、消費者の皆さんに生産に関する情報提供を行い、安心して食べていただこうというものです。
現時点で登録されている生産集団は、8町・10集団で、米、馬鈴しょ、たまねぎ、にんじん、トマトなど8品目が対象となっています。この他にも約40集団・15品目(カボチャ、メロン、ゆり根、イチゴなど)が新たに登録を希望しており、道としては、こうした取り組みをさらに広げていきたいと考えています。
そのため、これまでのクリーン農業の成果を踏まえ、現在、その一層の推進に向けた戦略を検討しているところですが、クリーン農業が、21世紀の本道農業の主流となるよう努力するとともに、道内外への積極的な販路拡大対策を進めていきたいと考えています。
――クリーン農産物による自給率向上、競争力向上、そして安定供給を実現するためには、農業基盤整備の促進も大切ですね
西川
そうです。農業農村整備事業は、農業生産を支える基礎的な要素である農地の整備・改良や生活排水などの生活環境整備を行うもので、農業・農村振興に係る重要な施策として、道の農業・農村振興条例の中にも「生産基盤の整備」が位置付けられています。
また、新基本法がめざす、食料の自給率の向上、農業・農村の多面的な機能の発揮、さらには、農業の持続的な発展を図るためには、農業農村整備事業の着実な推進が必要です。
ところが、本道においては、いまだに4割弱の水田や畑が未整備という状況にあります。
食料の安全性に対する消費者ニーズや環境問題への適切な対応、高齢化や担い手不足など本道農業の構造の変化、農産物価格の低迷など厳しい農家経営を踏まえるとともに、道や市町村の財政状況なども勘案し、より効率的・効果的な事業の展開を図っていかなければなりません。
――事業発注をめぐって、公取委からの排除勧告などがありましたが、どう対応しますか
西川
公正取引委員会からの要請を厳粛に受け止め、入札制度改善の行動計画を着実に推進し、農業農村整備事業の適正な執行に努めていかなければなりません。
道では、4月17日に「入札制度改善行動計画」を策定していますが、これは、今後3年間にわたり、道が行うべき入札制度などの改善事項を定めたものです。
農政部としても、この行動計画に基づき、指名選考において恣意性を排除する、いわゆる「ランダム・カット式指名競争入札」の導入や、多様な入札制度の活用について実施目標を設定するなど、積極的な取り組みを進めているところですが、引き続き、改善策を着実に実行しながら、農業農村整備事業の適正な執行に努めていきたいと考えています。
――河川付近が開発されてくるようになれば、それだけ堤防の構造も強固でなければなりませんね
西川
問題は堤防の高さです。十分な高さを確保したいのですが、現実にはまだ半分の状態なのです。また量的な拡大も課題です。21世紀は、これが壊れないものに強化することが課題です。例えば堤防を河川水が越えたとしても、簡単には壊れず、水圧に耐えている間に避難できるようなものにすることが理想です。
これを指して、質の強化と言っているわけです。これからは量の拡大から質の強化になっていくでしょう。耐震性も耐水性も必要ということです。

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