建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年12月号〉

interview

深川に住んで良かったと実感できるまちづくり

市民参加型自治体ネットワークの実現を目指す「愛メディアシティ」

深川市長 河野 順吉 氏

河野 順吉 かわの・じゅんきち
<生年月日>
昭和13年3月30日(満62歳)
<最終学歴>
北海道立深川農業高等学校卒業(昭和32年3月卒業)
<現在の主な役職>
深川市長(平成6年10月から現在2期目)
北海道高速道路建設促進期成会副会長(会長知事)
道産品愛用キャンペーン21推進会議副会長(会長知事)
道央圏地域整備展開構想検討協議会会長
(社)北海道コミュニティ運動協会会長
過去の主な役職:深川市議会議員(連続7期当選)
北海道社会教育委員
深川市議会副議長
<賞>
北海道社会貢献賞受賞(昭和51年2月17日)
北海道産業貢献賞受賞(昭和57年7月1日)

北海道内有数の農産物の宝庫・深川市。大雪山連峰を源とする石狩川や雨竜川の流域に、美しい田園地帯が広がる人口2万7千人の美しいまちである。
今、深川市では、恵まれた自然環境を生かしたまちづくり「ライスランド構想」を進めている。これは、「育みゆく穂波の大地」をキーワードに、深川という地域の個性をまちづくりに最大限に生かして、さらによりよい姿で次代に伝えていこうというプロジェクトである。道内でも屈指の情報化先進都市でもあり、また国際交流にも積極的に取り組む深川市のまちづくりについて、河野順吉市長に伺った。
――市長の立場から見た北海道の魅力、深川市の魅力とは
河野
北海道の魅力は、何と言っても四季が明確なことでしょう。深川市の総合計画の中に「四季はずむ魅力あふれる希望都市」と表現されていますが、春には春の、夏には夏の、そして秋、冬とそれぞれの良さがあります。
特に、豊かな田園風景の広がるわがまち・深川の春は、ぜひとも多くの人に見ていただきたいですね。石狩川周辺に広がる肥沃な大地に雪解けの水が入ると、街はあたかも浮かんでいる舟のように見えるのです。そして、農業のまちを象徴する素晴らしい光景が広がるのです。
また、夏は青々とした田畑が広がり、秋にはおいしい農産物を収穫する。そして、冬はじっくりと次年度の営農計画を立てることができるのです。
しかし、それだけに甘えてはいられない時代になってきたのも事実です。そこで目指しているのは、冬期間でも深川を訪問してもらえるまちづくりです。
――どんな姿を想定していますか
河野
深川市の経済基盤は、何と言ってもやはり農業です。そこで米・稲・田園の利用・展開をテーマに、深川市の歴史・風土を基礎とし、また手がかりとした地域の活性化・安定化のためのまちづくりを実現する「ライスランド構想」を策定し、「はぐくみの里」「ふれあいの里」「ぬくもりの里」「いざないの里」と、それぞれにテーマを持たせた四つの里づくりを進めています。
――具体的にはどんな事業を行いますか
河野
「ふれあいの里」は交流センターを核に、文字通り都市と農村の交流を図る場を形成するものです。「ぬくもりの里」は農家の人たちを中心に展開していくものですが、古い木造の校舎を利用し、当地の画家・高橋要氏の絵画を展示するギャラリーやアトリエなどのほか、農家の皆さんが育てた農産物を提供できるファーマーズマーケットも作りました。
「はぐくみの里」はライス館を中心に集出荷施設、20万俵の一等米を集荷できる施設など、農業施設がすべて集中しているところで、市が事業主体となって作りました。さらに、13年度には、深川の“こめのまち”としてのイメージや地域の情報を発信し、深川を通過する人たちをまちへ誘う「いざないの里」づくりを進めていきます。
――「道の駅」を活用するのですね
河野
そうです。しかし、私たちが考えているのは、そこでものを買ったりトイレ休憩するだけでなく、情報発信の場としての機能を持たせたいということです。例えば、深川の農産物やオートキャンプ場の利用状況などの情報を発信し、さらにその予約・注文も受けることができるようにするのです。
――農業を主幹産業とする他の自治体は、担い手不足に悩まされているようですが、深川ではどう取り組んでいますか
河野
確かに、農業のまちはどこでも担い手の問題が大きな課題となっています。そこで、深川市では、担い手育成センターを「はぐくみの里」の近くに設立する計画を進めています。しかし、それはただ行政が箱物を作るだけでは意味がありません。「農業を体験しに来てみたい」という道外の方や、留学生も受け入れられる施設にするために、各方面の方々に支援、協力していただき、さらに農業者自身が積極的に運営に加わる形のものでなければならないと考えています。
こうした担い手の問題は、同時に農業従事者の高齢化の問題でもありますが、80才以上の農業者の話では、「一番困るのは60キロの米をマタイに入れるとき」なのだとのことです。これについては最近、部分的に労働力を提供しようという会社が現れました。これを参考にして、今後はこれからは多業種が参加するようになり、さらに増えてくるでしょう。
―― 一方、消費が伸びなければ、作る喜びも半減します。農産物の付加価値を高める取り組みも必要ですね
河野
本道のように、寒暖の差が大きいということは食味が良いということにつながります。その意味でも深川産の米は、間違いなく北海道で最高クラスのものだと思っています。先般、深川市主催の地域おこしゼミで、「お米においしいおかずコンテスト」を行いましたが、その際、審査員をお願いしたテレビでもおなじみの星澤幸子さんが、「こちらのお米はおいしいですね」と賞賛して下さいました。
さらに、それに付加価値を持たせるという試みはすでに始まっています。ご飯の真空パック詰めをはじめ、酒、せんべいなどの菓子類、その他、まだ公表はできませんが、研究開発中のものもあります。
ただ、これらのことは行政が「やれ、やれ」とハッパをかけてもダメです。地域や個人が先頭に立ち、その後押しを行政がするという役割分担でなければ、本物にはなっていきません。その点、「輝人工房」、「グリーン・ツーリズム研究会」をはじめ、地域やグループ単位での意欲的な活動を見ても、深川市民の意識はとても高いと思います。
――近年は“IT”という言葉が日常的に飛び交うようになりましたが、深川市には「愛メディアシティ構想」があります。こうした取り組みは、自治体の中でも早かったですね
河野
私は市長に就任するとき、情報化社会への取り組みを大きな柱にしました。そして一期目当選の次年度に、郵政省から職員を派遣してもらい、アイディアや力を借りながら、庁内に「マルチメディア研究会」を作りました。さらに、行政だけでなく拓殖大学北海道短期大学の学長、副学長を先頭に「ふかがわマルチメディア推進協議会」を組織していただき、そこへ経済界すべての皆さんにも加わっていただきました。どのように地域の情報化を推進していけばよいのか、皆が知恵を出し合って考えたその結果が今日に表れているということですね。
その情報化の拠点施設は「深川市マルチメディアセンター」で、昨年2月にオープンしました。この施設を核に、学校や公民館などと結ぶ「学習・教育情報システム」、農協や農家などと結ぶ「農業情報システム」、病院や家庭、福祉施設と結ぶ「福祉・健康・医療情報システム」、市役所や事業所、家庭を結ぶ「地域情報提供システム」の4つのシステムの整備を進めています。
これは市民等が自宅からインターネットへ接続する場合に中継する機能を有しており、通話料を除き無料で利用できるのです。このようなサービスが可能なのは、道内自治体では深川だけです。深川市は、今や道内でも最も情報化が進んだ自治体であると自負しています。今頃になってから「IT!IT!」と騒いでいるようでは遅いですよ(笑)。
――カナダのアボツフォード市(ブリティッシュコロンビア州)と姉妹提携するなど国際交流にも力を入れているようですね
河野
深川市とアボツフォード市は、平成10年9月14日に両市議会の同意を得て姉妹都市となりました。これは、平成6年に拓殖大学とフレーザーバレー大学が姉妹提携をしたことや、平成8年にソロプチミスト深川とソロプチミストアボツフォードが姉妹提携をしたことが大きなきっかけとなりました。
平成9年3月には「深川国際交流協会」が設立され、同年から毎年中高生をカナダに派遣しており、平成10年にはアボツフォード市のジョージ・ファガーソン市長を筆頭に15人からなる使節団をお迎えしました。
今年は私が団長となって、アボツフォード市を公式訪問してきましたが、同市の市長、教育委員会と、高校生の留学について意志確認をしてきました。さらに、こちらの合唱団の遠征希望を伝えたところ、快く受け入れるとの返事もいただいたので、今後は市民レベルでの文化交流も盛んになってくるでしょう。
これからは外国の人々とも自然に笑顔で接することができるようでなければなりません。そのためには、青少年の世代から海外での経験が必要であり、また、行政側も相手国を理解することが重要です。従って、職員も極力海外へ出向いていく体制を作っています。
同時に海外からの受け入れ体制も整えなければなりません。例えば先方の大学の留学生が民泊を希望した場合の受け入れ体制や、福祉の勉強を希望する人が来れば、こちらの福祉施設が受け入れる、などといったことです。
こうして、両市の親睦交流を深め、お互いの地域性を理解し、文化、教育、経済など様々な分野での交流が一層推進されることを願っています。   
――地方自治の問題では、地方分権時代がいよいよ到来し、市民参加・市民主体のまちづくりの重要性が指摘されるところですが、深川市の具体的な取り組みは
河野
私は就任一期目の時には、「共に考え、共に語り、共に行動しよう」を市政の基本理念としました。そして二期目には、まちづくりをするためには夢がなくてはと考えました。「夢づくり」から「人づくり」へ、それがやがては「まちづくり」へと繋がっていくのです。
今、地方の時代と言われていますが、その通りだと思います。地方の時代というのは、自分自身がやらなければならない、自分自身の持てる力を出さなければならないということだと思います。行政も市民も、そのことを理解しなければ立ち行かなくなってしまいます。
そこで、深川市ではもう3年目になりますが、「出前講座」というものを行っています。これは行政について勉強したいという人がいれば、職員が講師として出向き、市民に講義するというものです。教えるためには職員も勉強をしていかなければなりませんし、職員と市民との対話の中から、逆に市民の皆さんに教えられることもあります。市民参加・市民主体のまちづくりを行っていくには、耳で確かめ、目で確かめることが大事、というのが実感です。   
――10月に行われた長野県知事選挙で、作家の田中康夫氏が当選するなど、有権者の求める首長像も従来とは変わってきているようですね
河野
首長選挙でも何事においてもそうですが、上からの押し付けはもう通用しませんね。個人や地域を大切にする時代になってきましたから、これからはますます市民参加、道民参加、県民参加の形になっていくだろうと思います。   
――地方自治の問題では、地方分権時代がいよいよ到来し、市民参加・市民主体のまちづくりの重要性が指摘されるところですが、深川市の具体的な取り組みは
河野
心豊かに、自分のまちに誇りを持てるようなまちづくりをしていきたいと思います。深川市は、例年発表される全国自治体の住みやすさランキングで、全国レベルでも20位以内にランキングされているのですから、もっと地域に誇りを持って良いはずです。
従って、これからはさらに個性あるまちづくりを進め、深川に住んで良かった、深川に来て良かったと実感していただけるよう努力したいと思っています。   

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