interview


第一次損失の軽減に最大限の努力

住専処理はこれからが正念場

大蔵政務次官  鉢呂吉雄

――今年1月、大蔵政務次官に就任した際、橋本総理から何か注文はありましたか
鉢呂
総理の執務室で他の20数名の政務次官とともに任命されたわけですが、特に私には総理から直々に『大蔵省はいま大変な時期なので本当にご苦労さまです』と激励を受けました。住専処理に対して国民の皆さんから厳しいご批判もありましたが、今の現状では財政資金の投入を含むこのスキームを成案化しなければと、改めて決意を固めました。
財政の健全化、大蔵省の機構改革などさまざまな問題が複そうしていましたが、大蔵大臣も同じ党出身なので、久保蔵相を支えて『住専国会』を乗り切ろうという気持ちでした。
――火中のクリを拾ったような感じではありませんでしたか
鉢呂
そうですね。政府の住専処理案は必ずしも大半の国民の理解が得られたとは思っていませんが、バブル経済の後遺症がこういう形で出たわけですから、このまま放置すれば景気回復に大きな痛手を受けることになるし、何よりも恐れたのは金融機関が倒産に追い込まれ、預金者に大変な迷惑をかけることでした。そうした事態を回避するためにも、国民の税負担すなわち、財政支出をお願いしなければなりませんでした。
結果的に96年度政府予算案と金融関係法6法案も荷崩れすることなく成立させていただき、処理案を国会の場で成し遂げることができホッとしているところです。
――住専処理のスキームが最終的に決まるまで、政府・与党内でも意見が分かれませんでしたか
鉢呂
端的に言えば自民党単独政権時代のツケですが、ツケだからといって批判しているだけでは政権与党として責任を果たせません。したがって、昨年は1年間かかって政府・与党でも十分協議してきましたが、金融機関との意見もなかなか整わず、最終的に財政支出を含むスキームをまとめたわけです。
――破産手続きなど法的処理を主張する意見が野党、とりわけ新進党に強かったと思いますが
鉢呂
その点はわれわれも十分検討しました。不良債権の処理に関して200を超える金融機関の利害が非常に対立しているし、法的処理のやり方では個々の金融機関の損失額がはっきりするまで何年間もかかり、その間に住専に深く関わっている体力の弱い金融機関は経営不安にさらされ続け、金融機関の破綻が多発する事態がかなり予想されました。中でも農協系金融機関は深刻な状況でした。
理想としては日本の金融システムを自己責任原則に変えてゆく方向を目指すべきと私も考えています。確かに護送船団方式とか、行政が介入して税金を支出するのはよくないこととは思いますが、過去に出来た多額の不良債権の処理については、今回のスキームでやむを得なかったと思います。
昨年も兵庫銀行、コスモ信組など八つの金融機関が事実上、業務停止しました。最高1千万円まではペイオフの預金者保護はありますが、簡単には運んでいないのです。というのも金融機関の債権・債務が確定し、何がしかの配当があったあとでなければ、預金保険機構からの1千万円は出ません。金融機関はギリギリのところまでカネを集めますから高金利の金融商品が出回りますし、木津信組のように定期預金と変わらないという触れ込みで抵当証券を大々的に売り出しましたが、実際は預金者保護にはならない、まさに株券でした。その辺の認識が預金者にはなかったわけですね。
これまで我々には大規模銀行も漁協も農協も金融機関として経営に優劣があるとは考えてもみなかったのですが、そのことを学習する期間が必要だったということでしょう。それなくして、一挙に自己責任原則を前面に打ち出すことの混乱を十分に考えたわけです。
今後の金融システムのあるべき姿と今回の処理策とがかけ離れているということだけで、政府のスキームを批判してもなかなか対案が出てこないのは、そうした事情もあったと思います。
――預金保険機構の新しい理事長に検察庁出身者が就任しましたね
鉢呂
大蔵省で預金保険機構を整備し、新たに調査権を付与しました。理事長は最高検の検事長だった函館出身の松田氏にお願いしました。いままでは日銀の副総裁が理事長になっていましたが仕組みを変えたのです。
預金保険機構の下に住宅金融債権管理機構を発足させ、財産調査権などに基づき、強力かつ効率的な債権回収に取り組むつもりです。先の国会論戦を踏まえ、この夏までに各銀行に追加負担の枠組みをつくり、第一次損失については財政支出がゼロになるよう努力しているところです。
――不良債権の回収見通しはいかがですか
鉢呂
銀行の追加負担と合わせて徹底的に行います。例えば、う回融資のように母体行が深く関わっていれば母体行に負担させるとか、借り手においても違法な資産隠しがあれば告発も辞さない決意で対処します。また、貸し手に違法な貸し方があれば経営者の特別背任や損害賠償を求めることになります。
そうして数年経た後に国民の皆さんから“今回の住専処理策はベストな方法だったのだ”と評価されるようにしていきたいと考えています。
――ところで大蔵省の改革に関して、次官はどのように考えていますか
鉢呂
与党3党の中でも金融の検査機能と政策立案機能を機構的にも分離すべきとの議論が出ていますが、大蔵としても4月にプロジェクトチームを発足させ鋭意検討中です。
私自身としては、国際金融局、証券局、銀行局、証券取引監視委員会の四つの部局を省内で二つに分け、検査所管の部門と国際金融も含めた金融政策部門とに緊張関係を持たせるのがいいと考えています。中には金融庁設置の意見もありますが、大蔵大臣の所管外に置くのは行財政改革の流れから見ると疑問だと思っています。
そのほか日銀法の改正に取り組んでいますが、日銀の機能強化も大きな課題になるでしょう。
金融システムの改善についても、銀行が経営内容を積極的にディスクロージャー(情報公開)する自己責任原則の確立とともに、大蔵省の検査・監督機能の透明性を高めることが求められます。
――財政再建も焦点になっていますが
鉢呂
平成8年度予算において公債発行は21兆円にのぼっており、国債費(約16兆円)が政策的経費を圧迫するなど構造的な厳しさに加え、税収動向も引き続き厳しく、もはや危機的な状況に立ち至っています。長い時間かかっても240兆円の国債残高の償還にメドをつけることが財政再建の基本ですから、今後、歳出全般について制度の根本にまでさかのぼって洗い直しを進めながら、75兆円の歳出の効率的な運用、改善を図ることが重要です。
いずれにしろ戦後50年を経て我が国が大きな曲がり角にきていますから、国民が求める国家像や行政の在り方について国民と政治が合意していく必要があります。

インタビュー内容項目ページへ


HOME