interview (96/12)
上野公園、雷門など伝統と下町文化のかおる台東区
上野公園周辺を日本の総合的文化の中枢拠点に
東京都台東区長 飯村恵一 氏
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飯村恵一 いいむら・けいいち |
昭和4年生まれ、東京都出身、29年中央大学法学部法律科卒 |
昭和40年東京都台東区議会議員 |
昭和48年退職 |
昭和50年東京都議会議員 |
昭和55年〜56年財務主税委員会委員長 |
昭和61年〜63年自民党台東支部幹事長 |
昭和61年〜62年東京都議会自民党政務調査会長 |
昭和63年〜平成2年自民党台東支部長 |
平成 3年東京都議会議員退職 |
平成 3年東京都台東区長 |
現在2期目 |
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台東区は面積が10.08kuと23区で最も小さいが、上野駅、浅草雷門などの二大盛り場を擁する江戸時代からの庶民の「下町」だ。nhkの連続テレビ小説「ひまわり」では、区内の谷中銀座商店街が舞台となった。「朝顔まつり」や「ほおずき市」、「三社まつり」、「隅田川花火大会」など各種行事が年中行われ、皮革や帽子、玩具、人形などの地場産業や、貴金属、洋食器といった特徴ある問屋が集積する産業のまちでもある。また上野公園には美術館や博物館など文化施設が集中しており、伝統と文化が息づいている。飯村恵一区長は「上野公園を日本文化の発信拠点にしたい」と将来の構想を語っている。
- ――台東区が抱えている政策的課題は
飯村
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当区では高齢化問題、少子化対策、定住対策、そして防災対策が政策課題となっています。23区の中でも高齢化率が最も高く、8年4月1日現在19.24%で、23区平均の14.13%、都内平均の13.34%を大きく上回っているのです。このため本格的な高齢化社会の到来を目前にして、すべての区民が住みなれた地域で、安心していきいきと暮らし続けられる地域社会を実現しなければなりません。これを目指して、福祉施策を積極的に進めているところです。
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▲くらまえ高齢者在宅介護支援センター |
- ――福祉施設の整備状況は
飯村
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特別養護老人ホームの建設は、他区に先駆けて積極的に力を入れてきました。その結果、昨年には蔵前に区内で4つ目の特別養護老人ホームを開設し、さらに今年は2つ目の「くらまえ高齢者在宅介護支援センター」や、特別区で2番目の「ケアハウス松が谷」などを開設しました。
これらの施設は、いずれも地域福祉の核となる施設ですから、今後はこれらの施設機能を十分発揮していくとともに、施設と結びついた在宅サービスの展開も重要です。
そのサービス事業として、今年度から三ノ輪地区で在宅介護支援センターを拠点とするホームヘルパー派遣や在宅サービスなど、需要に応じてできるだけ総合的に、柔軟にサービスの提供ができる事業をモデル的に実施しています。
- ――少子化対策では
飯村
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多様化する保育需要に応えるため延長保育を実施していますが、昨年は午後10時までの長時間保育を1カ所で実施しました。また、9年春の完成を目指して東上野乳児保育園を建設中です。さらに、区独自の施策として、第三子以降の世帯に対し、月額1万円を支給する「子育て支援手当て制度」を実施しています。
今後も地域社会の次代を担う子供たちが、すくすくと育つ環境の条件整備に努めていく考えです。
- ――人口の動向や定住対策は
飯村
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区の人口は昭和30年代に約32万人だったのが、この1月1日現在では15万4,305人となっています。定住人口の減少は、コミュニティの衰退や地域活力の低下を招く大きな問題でもあります。
そのため、区ではこれまで、住宅整備指針(住宅マスタープラン)に基づき、全国初の新婚家庭家賃補助やファミリー世帯住み替え家賃補助、住宅付置制度や特定優良賃貸住宅の借り上げ、また、高齢者にはシルバーピア(高齢者住宅)の供給など各種の施策を展開し、定住人口の確保に取り組んできました。
今後は、特にファミリー世帯の定住や三世代の同居、近居の推進を重点として、公的住宅の積極的な供給や施策の見直し、拡充を図っていこうと思います。
- ――この区では伝統的な街並みも見られますが、反面、防災上の観点では工夫すべき点もあるのでは
飯村
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そうですね。災害対策の充実を今後の最重点課題として区政の中心に据え、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、施策の見直しと強化を図る必要があります。
台東区は下町の自主防災組織の結成率が80%で、200町会のうち160町会ですから非常に高いのです。特に、この区は戦災や関東大震災を経験し、防災・救援のノウハウが培われていますから、阪神・淡路大震災では、全国自治体にさきがけて援助物資を現地に送るとともに、区職員を派遣しました。
ただ、災害対策用物資の充実、民間建築物の耐震性予備調査助成、路上消化器の追加配備、家庭用消火器の購入助成、防災地図の作成など急がねばならない施策課題もあります。
一方、災害対策と地域防災計画を修正するため、昨年6月に台東区災害対策検討委員会を設置し、本年2月には最終報告がまとまったところです。報告では、初動体制の見直しや携帯電話の小・中学校などへの導入、高齢者や障害者など災害弱者用の二次避難所の確保、食糧や生活必需品の分散備蓄、防災協力員制度の創設、ボランティアの受け入れ体制の整備など、多岐にわたる提案がされています。
また、不燃化促進事業は、4地域を不燃化促進地区に指定し、不燃化促進事業を実施していきます。また、東京都の防災都市づくりに連動したかたちで、9年度から、浅草の北部地域で防災生活圏促進事業を実施し、災害に強いまちづくりを進めていきます。
- ――その他、独自に行っている区民サービスの施策は
飯村
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区民が安心して生活する上で最も大切なものは、健康です。そこで、5年に区民の健康の保持と、安定した生活を維持するため「台東区健康都市宣言」を行い、健康づくりを推進する施策を進めています。健康づくりは歩くことからはじまるといわれますが、今年度から「てくてく健康づくり」事業を開始しました。また、9年春にはそうした健康づくりの拠点となる「健康センター」が竣工する予定です。
そのほか、平成7年度には自治省から「潤いと活力あるまちづくり」の優良地方公共団体として、「住民参加のまちづくり部門」で選ばれ、自治大臣表彰を受けました。これは、区の「下町ライブ計画」が評価されたものです。
そして、隅田川には「竹屋の渡し」、「山の宿の渡し」など、いくつかの渡しがあったのですが、現在ではその記念碑が残るだけなのです。そこでこれらのうち「竹屋の渡し」の復元について、調査・検討中です。
- ――ところで、区内でも民間の再開発事業は活発に行われているようですが、区長のまちづくりの理念は反映されていますか
飯村
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区は都市計画法に基づく「都市計画マスタープラン」を、全国で初めて策定しました。このプランにおける基本理念は、区の長期総合計画と同様、21世紀を展望し「働きやすく、住みよい、うるおいのあるまち台東区」というものです。
特に、住宅対策や上野・浅草の副都心を育成するための魅力ある整備の方向性、あるいは都市基盤の整備として、道路整備や土地の有効活用の促進、さらには、防災まちづくりの推進として、防災生活圏や不燃化の促進とともに、地場産業の育成や新しい産業の振興策、歴史や文化を活かしたまちづくり、地球規模の環境に配慮したまちづくりが柱となっています。
これに基づき、「優良建築物等整備事業」を行ってきました。区内はほとんどが既成市街地で、大規模な再開発事業が困難です。しかし、この事業は規模的にもこの区に適した事業ですから、創設時より積極的に取り組んできました。すでに7地区で完了しており、現在も浅草3丁目において実施中です。全体としては事業件数8件で、全国で7番目くらいです。
また、「市街地環境整備促進事業」は台東区独自の事業で、昭和62年から実施しています。住環境整備と定住の促進を図るため、一定規模以上の空地を設けて建築物を整備した場合には助成金を交付するものです。しかも三世代住宅、定住型住宅、共同建築物などには、さらに加算助成をします。
その他、御徒町駅周辺地区計画を、平成3年11月に御徒町駅周辺約6.4haを対象に計画決定しました。今後、土地区画整理事業などにより、複合的な商業・業務機能の形成と歩行者空間などを確保していきます。
秋葉原駅付近土地区画整理事業は、平成8年4月に都市計画決定されました。施行面積は約8.8haで、秋葉原の一部が施行区域に入っています。施行期間は平成9年度から平成23年度までで、現在、千代田区とともに、この地区のまちづくりについて説明会、勉強会などを実施しているところです。
公共施設では駐車場整備に力を入れています。浅草駐車場は、平成6年に都市計画決定され、平成11年の開業をめざしています。浅草雷門前の並木通り下に地下3階、駐車台数約200台の自走式駐車場をつくるのです。上野地区駐車場は、現在、事業実施に向けて作業を進めています。
また、常磐新線、地下鉄12号線の開通にあわせて、(仮)新浅草駅と(仮)元浅草駅において、自転車駐輪場を整備していきます。
その他、JR上野駅をはさんで浅草口と上野公園側との通行が不便なので、両地区を結ぶ歩行者用連絡路を駅上空に架け、既存のペデストリアンデッキと接続する上野駅東西連絡路建設事業を実施する予定です。これにより、周辺地域の回遊性向上が図られ、上野公園への緊急避難路としても有効になります。平成12年完成を目指しています。
- ――今後、台東区の全国の中の、あるいは首都圏内での位置づけや将来像としてはどんな姿を描いていますか
飯村
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MON構想(MUSEUM OF NIPPON)というのがあります。平成6年度に、国による上野公園周辺地域整備計画策定調査報告書に明記されたもので、上野公園の東京国立博物館を中心に、公園内にある諸文化施設の総合的な連携を深め、同時に周辺地域全体を地域ミュージアムとして、まちと文化機能が一体となったまちづくりを進める、という構想です。
これによって、私は上野公園周辺地域を日本の総合的文化の中枢拠点として、全国、海外に日本文化の発信・交流、国際貢献を行う場にしたいと考えています。
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