interview (96/8)
エイトライナー実現に全力
高齢者、障害者にやさしい医療・福祉の先進区
東京都練馬区長 岩波三郎 氏
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岩波 三郎 いわなみ・さぶろう |
大正11年生まれ、日本大学専門部法律科卒業 |
昭和14年東京市板橋区役所練馬派出所勤務 |
昭和22年東京都板橋区練馬支所庶務課選挙調査係長 |
昭和35年練馬区教育委員会事務局学務課長 |
昭和40年練馬区教育委員会事務局庶務課長 |
昭和41年練馬区総務部納税課長 |
昭和43年練馬区総務部財務課長 |
昭和46年練馬区総務部予算課長 |
昭和46年練馬区区民部長就任 |
昭和48年練馬区教育委員会委員教育長就任 |
昭和62年練馬区教育委員会委員教育長辞職 |
昭和62年練馬区長に初当選 |
現在3期目 |
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かつて徳川時代には「練馬大根」など農産物の供給基地として貢献した練馬区は、今でも23区内では最も大きな農地面積を有している。練馬区の現代の政策的課題は、都市基盤の整備。特に交通対策は、南北を結ぶ交通機関がないのがアキレス腱となっている。このため、大田、世田谷、杉並、板橋、北各区と共同でエイトライナー(環状地下鉄)の実現に向けて全力をあげている。また、医療面でも、区が総合病院を誘致するなど施策の充実を図っている。同区の岩波三郎区長は「一極集中への批判はともかく、人が自然に集まるまちづくり目指したい」と語っている。
- ――現在、練馬区の人口は60万人ですか
岩波
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63万5,600人余です。東京23区のうち人口が増えているのは江戸川区と練馬区の2区だけです。
- ――中心部からの流入人口が多いのですか
岩波
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それもあるかもしれませんが、やはり練馬区の地理的な関係もあるでしょうね。今まで人口密度もあまり高くなかったし、東京23区で練馬区が一番健康的な地域ではないでしょうか。区の面積の25%強が緑地です。住環境に恵まれた練馬区は、皆さんが住んでみたいという地域ではないかと思っています。
最近は地下鉄が乗り入れましたから、都心への交通も便利になってきており、下水道の普及率も100%、あとは南北交通問題だけですね。
- ――その交通問題についての政策は
岩波
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区内の東西交通として東武鉄道と西武鉄道2線が走っていますので、それほど不便ではないのですが、南北を結ぶ交通機関がないのですね。都内全体の鉄道体系が放射状となっており、それをつなぐ横の鉄道がない。この鉄道が今、練馬の一番の課題ですね。これができれば、私は練馬区は23区で最も住みやすい地域になるのではないかと思っています。
- ――それを実現するのが都営12号線となるのでしょうか
岩波
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都営12号線もその一つですが、いま6区の区長と議会とが一緒になって、「エイトライナー」という構想を進めています。「エイトライナー」は環状道路8号線の下に、地下鉄を通す新しい交通システムです。
環状7号線がありますね。その少し内側がJR山手線ですから、8号線に鉄道が入れば、東京の鉄道体系がより充実したものとなりすばらしい都市交通が整備されていくのではないでしょうか。今それを6区の区長と議会で、平成18年頃を目標に取り組んでいます。これができれば、東西と南北についても大きく2つくらいの路線が通ることになりますので、理想的な構造となります。
- ――6区の内訳は
岩波
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練馬区と大田区、世田谷区、杉並区、板橋区、北区の6区です。JR常磐線、中央線、京浜東北線などとつながるわけで、鉄道としては最高に便利になるのではないでしょうか。これができると練馬区内の鉄道体系はほぼ完備してきます。
道路整備の面では東京外環自動車道と環状道路8号線が完成すれば、練馬の主要な都市交通の整備はとりあえず、完了するのではないでしょうか。新宿まで12〜13分、どこへ行くにも便利な交通体系ができますね。それが今の最大の課題です。
- ――区長に就任した際、どのような練馬区の将来像を描いていましたか
岩波
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練馬は徳川時代から、農家が江戸一円に供給する食料、特に野菜を生産していたことからもお分かりのように、気候、風土、区民感情が穏やかな土地柄です。
私が最初に考えたことは、西武鉄道の高架の問題や道路の問題、それらの問題を掘り進めていって、“本当にいい都市だな”、“住みたい”という気持ちが出てくる都市とは何か、というところに政策の重点を置きました。
要するに練馬区に魅力を感じ、そして住んでみたいと、そういう街をどのように造るかということが、私が区長になったときの課題だったわけです。
就任当時から私が考え続けたことが、今ようやく実ってきました。政治というものは1年や2年で出来るものではない。私の政策は、2期目でようやく計画に着手できました。ですから、3期目の今は、これらの課題を実現する努力をしなければならないと思っています。
- ――東京一極集中には批判もありますね
岩波
-
いま世論として、東京一極集中から地方分散化へという考えがありますが、これは大変問題があるのではないかと思います。私が東京の区長だからというわけではないのです。列島改造論も同じですが、なぜ日本列島全部を都市化し、商業化しなければならないのか、東京がこれだけ発達したのは諸々の要素はありますが、便利で気候的にもいいし、みんながここへ住みたいと思って移住してきた結果です。これを今度は力で分散させようとしてもそうはいきません。
私たちは東京にいますが、週末には地方に行きたい、自然にふれたい、そういう生活がなくなってしまいます。ライフスタイルが多様になってきている現在では、地方だって俗化を嫌っているのではないでしょうか。今一番問題なのは経済の格差があることなんです。これはまた、別の方法で解決できることなんです。
例えば、東京−札幌間が3時間で往復できるということになれば、札幌も東京も同じですから、私はその意味ではもっと交通体系の整備に事業費をつぎ込まなければならないと思っています。ですから、私は東京からいろいろな官庁を地方に分散するのは誠に残念だと思っています。
- ――ところで、区民の高齢化率は何%位になっていますか
岩波
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現在、12%ですね。練馬区も20年後は高齢者が4人に1人の割合になります。高齢化対策は区としても重要な課題ですから、特別養護老人ホームなどの施設整備に努めています。現在、8つ目の特別養護老人ホームを建設中です。それともう一つは、公的介護保険がどのようになるか関心を持って見守っています。特別養護老人ホームと合わせ、在宅サービスの充実も緊急課題です。現在、約400人のホームヘルパーを抱え、週36時間のサービスを保証しています。
その他、医療面では区内の医療施設不足や診療体制の強化のために健康センターを区役所の中に設けました。ここでは医師会の協力を得て、休日と夜間に医師が常駐しているので夜間でも急患の診療に応じられます。毎日、夜間だけでも10人前後の患者がきます。
東京23区の医療行政は本来なら東京都の役割ですが、練馬区には病院が少なかったということもあり、10年前、医師会が医師会立病院を開業しました。
しかし、多額の負債を抱え経営が困難な状況になりました。私が区長になって、区民要望も強いことから放っておくわけにもいかず、区として病院建物を買収し、その運営を日大医学部にお願いし、日大医学部附属練馬光が丘病院として衣替えしました。このような病院があるのは23区では練馬区だけです。一日の外来患者は約1,200人にも上り、練馬区の中核的医療施設として多くの区民に利用されているところです。
私の政治姿勢として「健康な人はできるだけ一人で働いてもらう」、しかし「生活などに困ったお年寄り、障害者、病人については区が支援の手を差しのべる」ということです。したがって区が関わりを持ち、区民がいつでも診療・治療を受けることができる体制を目指した取り組みは、練馬区が一番進んでいると思っています。
- ――障害者対策などは
岩波
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これにも積極的に取り組んでいるところです。ありがたいことに、練馬区へ転入して来る障害者の方が多いのです。練馬区の障害者対策が23区の中でも充実しているからでしょう。
小中学校の障害学級が充実しており、「ネリマ方式」という指導方針を教育現場で実践しています。また、区内には大きな都立の養護学校が二つもあります。一つの区に2つも養護学校があるのは珍しいと思います。
障害学級や養護学校を卒業した後、就職できない人の職業訓練を援助する福祉作業所などの施設の整備も進めていて、現在では全員が入所しながら訓練を受けています。
福祉行政の中の高齢化対策については、特別養護老人ホーム、そして在宅サービス、それに関連して医療、それに障害者の方も支援するというのが、練馬区の福祉行政の中心だと思っています。
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