interview (建設グラフ1997/1)
立ち遅れている基盤整備を推進
東京都建設局長 土屋功一 氏
土屋 功一 つちや・こういち
昭和13年10月12日生まれ、東京大学工学部土木工学科卒
昭和37年建設省入省
昭和51年建設省道路局課長補佐
昭和53年北陸地方建設局高田工事事務所長
昭和59年広島県呉市助役
昭和62年中部地方建設局道路部長
平成 2年東京都建設局参事、東京都建設局再開発部長
平成 5年東京都建設局道路建設部長
平成 6年東京都多摩都市整備本部建設監
平成 8年東京都建設局長
東京都の土屋功一建設局長にご登場いただいた。建設局は首都・東京の街づくりの、いわば司令塔。都心部などの一部を除くと木造家屋が密集しているうえ、地価が高いために、都市としての基盤整備は意外に遅れている。バブル崩壊後の税収の伸び悩みから都の財政は危機的な状況といわれ、9年度予算編成では投資的経費を3割削減という荒療治が避けられないという。新建設局長の手腕を大いに期待したい。
――どんな方針で都内の土木事業を推進しますか
土屋
建設局の場合、道路、河川、公園整備、区画整理事業などいわゆる街づくり、都市の基盤整備事業を実施していますが、まだまだ十分とはいえません。いずれも都民の生活にとって重要な事業ですから、推進に努めたいと考えています。
――東京都ほど基盤整備が進んでいる地域はないと思っていましたが、意外ですね
土屋
道路一つ見ても狭いのです。たとえば、早稲田通り、大久保通り、五日市街道など立派な名前は付いていても、いずれも往復2車線です。名古屋など大都市ではほとんどが往復4車線以上なのです。
――ここ数年財政状況が厳しく、来年度はさらに予算が削減されそうだとの懸念もあります
土屋
都税収入の大半は事業所税に依存しており、景気に左右されるため、ここ数年、税収が落ち込んでいるのが現状です。着手すべき事業はたくさんあるのですが、予算は厳しくなっています。
――都市部の場合は防災の観点から、基盤整備を推進しなければならないといった理論付けも可能では
土屋
そうですね。阪神淡路大震災を機に各施設の震災対策の必要性がさけばれております。さらに将来の街づくりは50年、100年先を見越した調査、計画に取り組みたいものです。
東京は関東大震災後の復興は江東区、墨田区を中心に整備が進んでいますが、第2次大戦後の戦災復興となると、対象面積2万haのうち区画整理事業の進捗率は1,300ha、7%弱にしかすぎません。
特に木造密集地帯の街づくりが大きな課題です。木賃ベルト地帯と呼ばれていますが、山手線と環状7号線の間には木造賃貸住宅が多いのです。
道路網と新交通システムで交通体系を充実
――都心部の交通渋滞解消も大きな課題ですね。将来の環状線、放射線道路の整備目標は
土屋
都市計画決定している都内23区の街路は大半が昭和21年の戦災後の計画が基本になっており、多摩地区は昭和37年に計画決定したのがほとんどです。全体の整備率は平成7年度末で49%。ようやく半分という状況なのです。
高速道路のネットワークは、首都高速道路の内環状がすでに完成していますが、中央環状は山手通にトンネルを掘削中で、西の部分にようやく手を付けた段階です。工事の進捗状況は半分程度です。その外側の東京外郭環状は、埼玉県内では完成していますが、都内を走る路線はまだ着手していません。さらにその外側の首都圏中央連絡道路(圏央道)にいたっては、まだ一部に着手しているだけです。
――高速道路のネットワーク化は急ぐ必要がありますね
土屋
そうです。さらに高速道路を補完する都市計画街路の整備も推進しなければなりません。都市計画街路についても環状方向の整備が遅れています。
――ところで臨海新交通、多摩都市モノレールなど新しいタイプの交通システムが注目されています。それぞれ軌道のタイプは違うのですか
土屋
モノレールには千葉式の懸垂型と羽田空港行きの跨座式がありますが、多摩都市モノレールは跨座式です。立川の北の東大和から立川、日野を経て多摩ニュータウンを結びます。多摩地区は南北方向の鉄道が未整備なので、その補強の意味合いがあります。
臨海副都心の『ゆりかもめ』は現在、新橋駅から臨海副都心の有明まで運行していますが、計画では平成17年をめどに木場まで延ばす予定です。現在6両編成ですが、観光客が多いのは予想外でした。乗客のうち定期客は、通常なら5割以上のところが2割程度です。現在、新しい車両を発注していますので、今後の容量アップは可能です。
日暮里・舎人線は『ゆりかもめ』と同じ無人運転です。今年すでに都市計画決定が済んでおり、近く、国に施行認可を申請する予定です。
急がれる河川・公園整備
――河川整備では一時期、スーパー堤防など親水性を重視した工法が多用されましたが、最近は自然を残す方向に変わってきているようですね
土屋
応急的に高潮対策や、直立の護岸が多いので、例えば、隅田川では緩傾斜の堤防に切り替えてきています。多摩地区では多自然型の河川整備を部分的に実施していますが、これはかなりの用地買収が必要なので、まだ試行段階にとどまっているのが現状です。
区部の河川では、時間当たり雨量50ミリに対応できるよう整備していますが、安全度の達成率は69%にすぎません。おおむね3年に1度ぐらいの洪水ですから、さらに安全度を高める必要があります。
――橋梁はレインボーブリッジのように景観の素晴らしい橋が出来ています。今後、これに匹敵する橋梁整備の予定は
土屋
多摩の南北道路の整備に合わせて、多摩川の中流部は橋の間隔が非常に粗いので、橋の増設、拡幅を計画しています。7橋のうち2橋が完成しており、現在、4か所で工事が進められています。
いずれも大規模な橋ばかりで、景観に配慮し、ゆとりのあるデザインにしています。
――住みやすさの指標として緑地面積があげられますが、東京も意外に緑が多いように感じられます
土屋
その点は区によって偏りがあります。木賃ベルト地帯は住宅が密集していますから緑は少ないですね。公園は延焼を遮断し、避難所にもなります。そうした防災上の必要性が出てきているのでもっと力を入れたいと思っています。
都民1人当たりの公園面積は、計画では6m
2
に対して現状は5m
2
強。6m
2
自体が低めの設定ですから、まだまだ足りません。
最近、公共事業に対する世論は厳しいものがありますが、着手すべき事業は無数にあるのですから、それに対する都民の理解を得たいところです。
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