寄稿
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▲森林管理道 宇遠別線(陸別町) |
21世紀は環境の世紀といわれており、また、中長期的には世界の食料需給がひっ迫する可能性も指摘されています。本道の漁業生産量や森林面積は我が国全体の約4分の1を占めており、環境の保全や食料の安定供給の面で、本道にはこれまで以上に我が国に大きく貢献できる可能性があります。
また、心のゆとり、やすらぎなどといった経済面にとどまらない価値を重視する傾向が定着する中で、浜や森林に対する国民の要請も多様化しており、水産林務行政にも新たな対応が求められています。
本道の状況に目を転じますと、雇用情勢は依然として厳しい状況にあり、公共投資や地方交付税が削減されるなか、市町村合併の検討が進められるなど、本道は、今、大きな転換期を迎えています。また、本道の水産業は、周辺水域の資源状態の悪化等により漁業生産量が減少しており、森林・林業においては、木材価格の低迷などにより林業経営意欲が減退しています。さらに、どちらも就業者の減少、高齢化が進んでおり、非常に厳しい状況が続いていると言えます。
▲豊浦漁港 | |
▲標津漁港 |
このような中で、道は、昨年3月、希望と活力にあふれた水産業や漁村を構築するために「北海道水産業・漁村振興条例」を制定し、「将来にわたっての安全かつ良質な水産物の安定的な供給」や「地域を支える活力のある産業としての水産業の発展」など今後の水産業や漁村の振興を図る上での基本理念を定めました。また、同時に、北海道にふさわしい豊かな生態系をはぐくむ森林を守り、育てるために「北海道森林づくり条例」を制定し、「長期的な展望を持ち地域の特性に応じた森林づくり」や「林業及び木材産業等の健全な発展を通じた森林づくり」などといった森林づくりの基本理念も定めたところです。
本年3月には、これらの条例に基づく施策を総合的・計画的に進めるために「北海道水産業・漁村振興推進計画」と「北海道森林づくり基本計画」を策定し、漁業生産量や森林の二酸化炭素吸収・貯蔵量の目標値、今後の施策の展開方向などを明らかにしています。
条例にうたわれた理念に基づき、本道の海づくり、山づくりを進めていく上で、漁港・漁村や漁場、林道の整備、治山は、その基礎をなす重要な事業であり、そのあり方、進め方は、四方を海に囲まれ、森林面積が7割を占める本道の社会資本整備を考える上でも極めて重要です。
本道の漁港・漁村は、これまで、漁船の係留施設や陸揚施設などの生産基盤を中心に整備が進められ、快適な就労環境や豊かな生活の場の創造といった視点が十分ではなかったことから、多くの漁村では都市に比べて生活基盤の整備が立ち後れています。また、国民の水産物に対する安全性の要請や海洋性レクリエーションの拡大など、漁港・漁村を取り巻く環境も変化していることから、快適な就労・生活環境の整備はもとより、こうした社会情勢の変化にも対応した総合的な漁港・漁村の整備を進めることが必要です。
▲中頓別町字松音知で 施工した治山施設 (土留工、治山ダムなどによる 山腹崩壊地や荒廃渓流の復旧整備) |
一方、本道の山地は崩壊、浸食されやすい地質が多く、火山の噴出物で表面を覆われている箇所も多いことから、山崩れや土石流などが発生しやすい環境にあります。治山事業は、森林の維持・造成を通じて、これらの山地災害から地域住民の生命・財産を守るとともに、水資源の確保、生活環境の保全・形成などに重要な役割を果たしていることから、山地災害危険地区等において重点的に進めていくことが必要です。
また、林道については、森林経営や管理のための基幹となる施設であるとともに、森林レクリエーションなど森林にふれあうためのアクセス道や、農山村に住む人々の生活道路としても大きな役割を担っており、森林の持つ多面的な機能を高度に発揮させるためには、林道等道路網の整備を計画的に進めることが必要です。さらに、近年は、景観の保全や野生生物の生息等にも配慮した林道の整備も求められています。
このように、水産業や森林・林業に関する基盤整備は、地域住民の生活に重要な役割を果たしていますが、近年、国や地方自治体の財政状況は極めて厳しいものとなっており、事業の効率化が強く求められているところです。
道の財政も非常に厳しい状況にありますが、これまで以上に道民の皆さんの声に耳を傾け、国や市町村、関係団体などとの連携を密にしながら、緊急性の高い事業、本道の水産業や森林・林業がもつ優位性、潜在力を生かす事業などを選択して、効率的な施策の展開を図り、本道の豊かな海づくり、山づくりを着実に進めていきたいと考えています。