寄稿
永野勝義 ながの かつよし
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長井ダム建設事業にあたっては、平成10年度に東北地方建設局として公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため、公共事業の再評価システムを導入し、「長井ダムは事業の継続が妥当である」との評価を得ています。
さらに長井ダム本体工事を着手するにあたり平成11年9月に東北地方建設局は「長井ダム懇談会」を設置し、地域の意見を的確に聴取するため、ダムの目的、内容の検討さらに工事過程での点検を行い、東北地方建設局に意見を述べていただくことにしました。
「長井ダム懇談会」は学識経験、利水者代表、地元代表等の10名で構成され、長井ダム本体工事発注前の平成11年12月に「長井ダム建設事業についての懇談会」からの意見として6項目にわたる提言を頂きました。
今後も提言に基づき工事を進めるとともに、工事過程においても、現地視察や環境調査報告等により意見を頂くことにしています。
長井ダムは野川流域ばかりではなく最上川における洪水防御、河川環境用水の確保、かんがいでは長井市周辺のほか、山形周辺の田園地域も含めた約7,900haの農地の用水を確保する、広域性の高いダムとなっています。
長井ダム建設地直上流にある昭和29年に完成した菅野ダムは水力発電や野川流域の3,000haのかんがい用水、洪水調節を目的とし、戦後社会復旧に大きく貢献したダムであるが、広域的な目的に機能を拡げ、新たに生まれ変わることとなるのです。菅野ダム直下流800mに造られるため、長井ダムの工事区域として水没家屋は1戸と少なく、森林がほとんどで、ダム集水域は磐梯朝日国立公園に近く、ワシタカ類などの貴重な動植物が生息している自然豊かなところであります。
近年の洪水や異常渇水により、流域の全市町村からは早期完成を求める要請があり、平成10年には、山形市をはじめとする3市6町の全市町村の全議員の皆さんから署名入りの要望書がだされるほど強く期待されているダムです。こういった地域の皆様の支援もあり、平成12年3月には本体建設工事を発注することができました。
このような必要性や環境状況からマスコミや世論の注目度が高まっており、私たちの説明責任は非常に大切であると感じております。そこで私たちは説明責任については情報の正確性、タイムリー性、量など的確に、そして積極的に行うことにしています。情報については地域住民と共有することを基本としております。また、地権者、地元行政、県、関係行政機関などと連携も心がけています。
また、マスコミに対しては正しい情報の提供が不可欠であることから、米沢市にある米沢記者倶楽部等のマスコミ各社10社に月1度、長井ダムの工事情報や課題、行事予定、季節の話題など記載している「長井ダムだより」を送っております。これにより長井ダムがマスコミに登場する回数が多くなり、情報も正確になっています。また、その都度事業や行事に関することも積極的に公開したり、公表したりしてオープンにする努力をしています。
長井ダムの建設現場周辺は自然も豊かであり、野川扇状地の要の地点でもあり、菅野ダムや1600年代の歴史ある締切堤(石堤)などの治水施設、戦後社会復興に大きく寄与した水力発電所、農業用の取水堰、神社、市民スキー場、新第三紀と白亜紀の地質境界、河床奇岩(野川滝)など自然や歴史文化など学べるものが沢山あります。そこで長井ダムのインフォメーション施設についてもこういった総合学習の場として活用できる様に市民と合意の上、この付近への配置を計画し、地域にマッチした総合学習の要として今年の秋には完成する予定です。
一般住民への情報発信としては「広報あやめ」「野川の郷から」があり、特に「野川の郷から」は、長井ダムの工事及び周辺の社会環境が子供達の総合学習や生涯学習の情報交換の場として置賜地方約20万人を対象として教育機関(小・中・高校)や、公民館、図書館などに配布しています。
ダム建設事業だけではなく、地域の文化、歴史、そして地域で活躍している人が登場するなど、地域の話題になっています。また、年2回地元の新聞に「長井ダム通信」として1面にわたり長井ダムに関わる情報を提供しています。このほか広く国内、外を問わず誰もが長井ダムについて知ることができるよう平成10年からホームページ(http://www.thr.mlit.go.jp/nagai/)を開設し、すでに5,000件を超えるアクセスが行われています。
なお、インフォメーション施設の計画にあたっては、その施設及び展示内容、活用方法などについて、小・中学校長、地域代表、青年会議所、社会科研究会代表、教育委員、建築家など11名のメンバーで5回にわたり、ワークショップ(討論会)を開催して現地調査も行い、時間を忘れるほど白熱した討論を行い、「自然と水文化を体感できるような施設にする」基本計画をまとめていただきました。
床面積約1000平方メートルの木造平屋建てで展示内容は大別して「野川と自然」「野川と人間」「野川と長井ダム」の3つで流域の自然理解や環境学習に加え長井の水文化、水環境を考える活動を促進することとしています。事務所としては長井ダムに対する理解を深めると同時にこれを拠点に地域づくりや学習の中心的役割を果たし、ダム完成後も活かし続けてほしいものと考えています。
コスト縮減としては、ダム全事業に関して徹底した検討を進めました。変更した基本計画ではダムの機能及び安全性を優先に確保しつつ全体の事業増加を可能な限り抑えるためにダムサイトの地質解析結果に基づき、堤体工及び基礎処理工の減工、ダム本体の施工計画変更、付替道路(県道・林道)のルート変更、構造物の変更を行い、約200億円の縮減を行いました。
特にダムサイト右岸下流斜面の緩み岩盤への基礎掘削による影響を極力避けることにより、斜面の不安定化を抑え、併せて低角度弱層箇所における安全率を確保するため、堤体の左右岸底部形状をキー構造とすることにより堤体掘削数量、コンクリート数量の縮減を図る計画としています。 地域とのかかわりでは、長井ダムの建設に伴う伐採木のたい肥活用を地元の人達とですすめてます。長井市は、5,000軒の家庭の生ゴミをたい肥に変え、有機野菜を栽培して地域内で消費する地域循環システム「レインボープラン」を構築しています。そこで長井ダムも同様なシステム構築を検討しています。
長井ダム建設によって発生する抜根材や木枝など有効活用を考えなければならない数量は約30,000平方メートルにのぼります。これが長期的かつ多量に発生するため、たい肥としての活用が農業中心とした都市である長井市には最適な方法であると考えられ、学識経験者や県、長井市、レインボープラン協議会、農協などで活用検討委員会を開催し、たい肥の安全性や安定供給など研究検討をすすめています。
平成13年度の長井ダムは本体掘削の本格化、原石山の表土処理、工事用道路建設など工事が本格化しますが、工事の安全を第一とし、新技術、技術開発を積極的に行い、地元の期待に早期に応えられるよう努力する所存であります。