〈建設グラフ1999年7月号〉

寄稿

世界にはばたくサッカー専用競技場 埼玉県営スタジアム(仮称)

株式会社梓設計 馬場英治 氏

馬場英治
昭和49年 株式会社梓設計入社
スポーツ施設を中心に、企画から設計・監理にわたり、様々なプロジェクトを担当する。
現在計画4部チーフプランナー
スポーツは文化であり、スポーツ施設は市民生活にとっての重要なインフラ施設である、という認識が高まり、生涯スポーツの拠点として社会体育・スポーツ施設が整備・拡充されています。1993年に創設されたjリーグを契機に、全国各地でスタジアムの建設工事や改修工事が急速に進められているなか、埼玉県では2002年のワールドカップ・コリア/ジャパンのメインスタジアムのひとつとして、さらに、ワールドカップ終了後には国際aマッチクラスの大会が開催可能なサッカー専用スタジアムとして、埼玉県営スタジアム(仮称)を計画しました。
このスタジアムは、日本サッカー協会のスタジアム標準の「レベル−1」を満足することはもちろん、プレイヤーにはエバーグリーンのピッチを、観客には安全性と快適性を、また報道関係者には情報発信基地としての高機能スペースを提供するなど、fifaの施設基準を超える、世界一のスタジアムを目指しています。アジアで最大規模の収容観客席数を持つこのサッカー専用スタジアムは、21世紀の劇場型スタジアム―<シアタースタジアム>―を目指して現在工事が進められています。1998年4月に着工した工事は順調に進み、1999年3月末で概ね20%の工事進捗状況となっています。
アイレベルパース
T.設計のコンセプト
21世紀のシアタースタジアムを目指して

1.エキサイトメント―興奮と感動のスタジアム
世界最高水準のプレーを引き出す天然芝ピッチは、世界最高水準の緑のステージ。観客席とピッチの距離が近く、選手の鼓動が聞こえてきそうなほど臨場感にあふれ、観やすく、選手との一体感を味わえる劇場型スタジアム。

2.コンフォート―快適なスタジアム
選手にとっても、観客にとっても、また施設管理者や大会運営者にとっても、誰もが快適に過ごすことができる快適空間の実現。
それは、プレイヤーの試合前のコンセントレーションと試合後のリラクゼーションを可能にする、サッカー専用競技場の特質を生かした、選手が主役の機能的で使いやすいスタジアムを実現することです。プレイヤーのために、独立した動線を確保し、独立した4室の更衣室のほか、リラクゼーションのためのプレイヤーズラウンジなどを設け、プレイヤーたちのコンデイションが最高の状態に保てるよう配慮しました。
観客には、アプローチからペデストリアンデッキ、コンコースそしてボマトリーを抜け、観客席に近づくつれて高まる感動を演出します。広くて快適なコンコースでは、ハーフタイムをゆったりと過ごすことができ、さらに、ハーフタイムに集中するトイレ利用については、後半の試合の開始までに利用が終了するよう、十分な個数と広さを確保しました。
大会運営者には、インテリジェントオフィス並みの機能性を持った諸室を、ピッチに最も近接した位置にまとめて配置し、これにより、ピッチ上の運営ボックスとの十分な連携が図れるよう配慮しました。

3.コミユニケーション―世界への情報発信
スタジアムの感動と興奮、臨場感を生のまま世界に伝えることが可能な、充実したプレススペース。ワールドカップ時には、約2410席の実況放送席、プレス席などをがスタンド中央に配され、jリーグ等ではメインスタンド4階の実況放送室が機能します。また、専用のプレスラウンジや試合後のインタヴューが行えるボールルームなどのバックアップスペースも充実しています。

4.セイフテイ―安全性
観客の2/3がメインコンコースのペデストリアンデッキ2階レベルからアプローチする、単純で明快な動線計画を採用しました。4セクターに分割されたスタジジアム観客席へは、各々独立したゲートからのアプローチによる、案内性に優れものとしています。これにより、約6万人の観客が避難を完了するのに要する時間は、およそ13分として計画された、安全性の高いスタジジアムとなりました。

5.エコロジー ―環境への配慮
大規模な災害時には、県民の一時避難場所や救援の支援施設として機能する様々な設備、例えば、大屋根からの雨水を貯留し日常的にはピッチへの散水を行いながら、災害時には一時避難した県民の生活用水として利用する大型の雨水貯留槽などが整備されています。また、この地域は有名な「 暴れ川 」である伝右川沿いにあり、流域の潅水対策として約5haの調整池を設けるなど、環境に優しい計画としています。

6.アイデンテイテイー―煌く個性
観客席の2/3を覆う大屋根は、ひとつがいの白鷺が豊かな田園地帯に舞い降りてきて、優雅に翼を広げているイメージ。長辺がおよそ125mの大屋根はシステムトラスとキールトラスとのハイブリット工法+テフロン膜による仕上げにより、軽快感と浮揚感を表現しました。
U.構造計画の概要
埼玉県営スタジアムは、2つの屋根架構、スタンド架構、外周デッキ架構、ピッチ部より構成されています。屋根架構は鋼管立体トラスとh形鋼キールトラスにより構成され、スタンド架構より支持されています。スタンド架構はこの屋根架構からの反力を受けるため、剛強な鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造)耐力壁付きラーメン架構としていおり、基礎はgl−35m以深の洪積細砂層(n値50以上)を支持層とする場所打ちコンクリート杭としています。外周ペデストリアンデッキ架構は鉄筋コンクリート造ラーメン架構とし、基礎部を含めスタンド架構とはエキスパンションジョイントで分離しています。ペデストリアンデッキの基礎は、スタンド架構と同じ洪積細砂層を支持層とする、既製コンクリート杭としています。ピッチ部は、圧密沈下対策として地盤改良工事を行った上に、ピッチ床土、芝張り仕上げを行います。
V.ライフサイクルコスト
21世紀への県民の社会的なストック(社会資産)として、永い期間にわたり、県民から愛され、親しまれるスタジアムとなるよう材料選定、仕様の決定を行っています。
屋根材はメンテナンスフリーで紫外線にあたればあたるほど白くなり、自浄作用のあるテフロン製の膜材を使用し、キールトラス、システムトラス部分には、塗り替え期間がおよそ20年といわれている常温乾燥型のフッ素樹脂コーテイングを採用しています。さらに打ち放しコンクリート仕上げ部分についても、アクリルシリコン系のコンクリート表面劣化防止材を採用しています。この他、建築、機械設備、電気設備ともに、耐久性が高くメンテナンスの容易な材料、仕様を選定しています。
工事の状況(H11.4.23)

HOME