〈建設グラフ1999年7〜8月号〉

寄稿

世界に誇る漁業国・日本に必要なものとは…

水産庁漁港部長 大島 登 氏

昭和16年7月31日生まれ、群馬県出身、北海道大学(修士・土木)。
昭和42年農林省入省、51年水産庁漁港部計画課漁港計画官、52年国土庁地方振興局離島振興課長補佐、55年3月水産庁漁港部建設課漁港建設専門官、同4月岩手県林業水産部漁港課長、58年4月水産庁漁港部計画課漁港計画官、同10月水産庁漁港部計画課長補佐(漁港計画班担当)、62年水産庁漁港部計画課付(研究休職)、平成2年5月復職 水産庁漁港部建設課付、6月水産庁漁港部建設課上席工事検査官、4年水産庁漁港部計画課漁港計画官、7月水産庁漁港部計画課長、9年7月現職。
“食糧”と“環境”が地球的規模の課題へ
一昨年から昨年にかけては、エルニーニョの影響によるためか世界的な天候不順に見舞われ、わが国でも大雨被害を各地にもたらしたが、一方で、海水温の上昇の影響によると見られる「サンゴの白化現象」も新聞を賑わしたのが記憶に新しいところだ。
こうした自然現象とともに我々の社会においても新たな時代に向けたさまざまな変化が急激に起こりつつあるが、これは、戦後に形作られてきた経済・社会の仕組みに大きな変革が迫られているのではないかと考える。
世界の人口は近く60億人を確実に突破し、20年後にはさらに80億人にも達するという急激な増加、世にいう“人口爆発”が予想されている。人間が生きていくためには欠くことのできない「生活・生産活動」であるが、それにより“環境破壊”が世界中に拡大しつつある。
このことからもわかるように、来るべき21世紀は“食糧”と“環境”の問題が地球的規模で解決すべき重大課題になると予想される。
そこで、世界屈指の漁業国であると同時に水産物消費国でもあるわが国は、世界の人々のためにも「環境保全」に配慮した資源管理型漁業を積極的に推進すべきであり、そのための「人材の確保と育成」、「技術の開発・向上」に最大限努めていく必要がある。
また、毎日の食卓を彩る美味しく新鮮な魚介類を国民に供給し続け、海洋や沿岸域の環境保全にも貢献する「漁港漁村」を存続させることも同時に求められている。
それらのことが実現しはじめて、漁村に住む人々が“誇り”と“自信”を持ちながら生活し、技術を磨いていける環境が整うものであると確信している。
これは、我々漁港関係者に課せられた重要な課題である。
21世紀は漁港の時代へ
21世紀まであと2年と迫った本年は、『新たな制度および組織の確立』を進めるための出発の年と位置づけ行動しているところである。
新たな視点に立つためには、各々の現場に今一度立ち戻り状況を見直す必要がある。
例えば、漁港施設を利用するのは主として漁業・流通・加工に従事する人々であるから、彼・彼女らが使いやすい施設を整備することがまず基本のひとつであるが、漁村の人々や、訪れる人々も生活や環境等あらゆる面から社会資本としての漁港施設の善し悪しに大変な関心を示している。
これら多様な人々の意見に謙虚に耳を傾け、それを基に「技術的な工夫」を行うことが今求められている。
「現場へ戻ろう。そして漁村の人々と親しく語り合おう。」を合い言葉に、漁港漁村の将来像を皆様とともに作り上げるべく漁港部職員一同より一層努力していく。そのためには、都道府県市町村の皆様および全国の皆様にも特段のご協力を頂かなければならない。
それがあればこそ、『21世紀は漁村の時代』が実現し、漁業地域の発展がはじめて叶うのです。

悲観主義の脱却へ向け、漁港海岸行政を遂行しなければ。

改めて問う予算確保の重要性
以前、国会の施政方針演説で小渕総理は、「いまや大いなる悲観主義から脱却すべき時がきた。行き過ぎた悲観主義は活力を奪い去るだけである。今必要なのは確固たる意志を持った建設的な楽観主義である」と述べていたことがある。
私もこの気持ちを持って漁港・海岸行政の遂行に努めたいと考えている。
昨年、海岸の保全を担当する建設省、運輸省、農林水産省、水産庁の4省庁は、海岸法の改正に取り組み、改正案を国会に提出したが、この改正案では、総合的な視点に立った海岸の管理を行うため、法の目的に「海岸環境の整備と保全」及び「公衆の海岸の適正な利用」を追加しており、21世紀に向けた海岸行政の基本法としてふさわしい内容であった。
これを受けた平成11年度の漁港漁村関係予算は、公共・非公共合わせて2,015億円、また、漁港海岸予算は160億円を確保したが、景気対策のため如何に有効に活用するかが重要なポイントとなることはいうまでもない。
この予算は、昨年12月の「漁港関係予算確保緊急集会」に500人を超える全国の皆様が集まり、漁港・漁村の実情を訴えられたこと、水産関係団体が協力して予算確保運動を協力に展開されたこと、そして佐藤孝行会長を中心とした漁港整備促進議員連盟や自民党水産部会の諸先生方の格別なご尽力により確保できたものであることを全国の皆様に報告し、諸先生方ならびに皆様方に改めて深く感謝申し上げたい。
予算の特徴は、平成10年度予算に引き続き景気回復を第一の目標とする予算であり、漁港漁村予算については、10年度第三次補正予算とを合わせた額が、10年度当初予算と第一次補正予算の合計額とほぼ同額になっている。
予算の中身は、「集落排水事業」の対象範囲の拡大が図られるほか、「地域エネルギーの活用」等のメニューが追加された。 
また、「海洋深層水供給施設」や「漁村の情報基盤の整備等」の事業も実施できるようになり、内容の充実が図られたものと確信する。
今年度は、この貴重な予算を有効活用し漁村地域の景気回復に努め、21世紀における活力のある「漁村の時代」構築に向けて一歩でも前進できるよう、全国の漁港漁村関係者の皆様とともに努力していきたい。
これからも国会の諸先生方をはじめ、関係のある皆様方の一層のご理解とご支援をお願いしたい。
守りたいわが国の自然環境
わが国の周辺水域は、世界的な好漁場であり、海洋環境を保全しつつ、適切な資源管理を行うことにより、持続的に国民が必要とする魚介類の確保が可能だ。
約35,000qに及ぶ海岸には、岩礁や崖や干潟や砂浜があり、海岸は多様な生物が生息・繁殖する場となっている。魚介類にとっても干潟や岩礁は、その生命活動を維持する上で欠くことのできない場所であり、漁業生産の維持強化のためにも海岸の環境保全が求められている。
漁村の人々の切実な願い
水産庁が所管する約6,200qの海岸の背後には、5,000を超える漁業集落があり、約600万人の人々が生活している。
漁村の人々は、昔から日常的な海浜の清掃等により海岸の環境保全に努め、重油流出の非常時には積極的に先頭に立ち回収作業や環境回復の作業を行っている。
これは、海洋や海岸の環境保全が人類の生命維持にとっても大変重要であることに気がついているからである。

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