建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8・10月号〉

寄稿

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水産業の現状と、新世紀への事業展開

新世紀の漁港・漁場・漁村づくり(前編)

水産庁漁港漁場整備部長 長野 章 氏

長野 章 ながの あきら
昭和21年生 愛知県
昭和45年 4月 水産庁漁港部 建設課
昭和47年 4月 農業土木試験場 水産土木部
昭和57年 9月 水産庁 漁港部 建設課 漁港建設専門官
昭和58年10月 国土庁 地方振興局 離島振興課 課長補佐
昭和60年 4月 長崎県 水産部 漁港計画課長
平成元年 4月 水産庁 漁港部 防災海岸課 防災計画官
平成 2年 6月 (財)漁港漁村建設技術研究所 調査研究部長
平成 5年 7月 北海道開発局 農業水産部 水産課長
平成 8年 8月 水産庁 漁港部 防災海岸課長
平成 9年 7月 水産庁 漁港部 建設課長
平成11年 7月 水産庁 漁港部 計画課長
平成13年 1月 水産庁 漁港漁場整備部長
水産業を取り巻く現状は、(1)国内漁業生産量の減少・自給率の低下、(2)漁場環境及び水産資源状況の悪化、(3)担い手の減少・高齢化による漁村の活力の低下が著しく、また、我が国周辺水域の資源状態は悪化傾向で、藻場・干潟も減少傾向にある。現在のトレンドが続くとすれば、国民への安全安心な水産物の供給、水産業の基盤である漁村の崩壊など、国民生活に及ぶ深刻な事態を招く恐れがある。
具体的な内容は、(1)「漁業就労者の減少、後継者の減少」として、漁業就業者数は現在の27.7万人から10年後には15.7万人に減少し、15歳から29歳の青年漁業者は、1.6万人から0.8万人と半減する。例えば、漁業が基幹産業になっている離島では、人口が81.4万人から60.3万人に減少し、65歳以上の老齢人口率は24%から31%に達する。(2)「水産資源の低迷・国内漁業生産量の激減」として、漁業就業者の減少や水産資源の低迷、水産関連業の投資意欲の減退等により、漁業生産量は現在の726万tから622万tに減少。その結果、およそ10年後に、時給率は60%から50%程度までに低下する恐れがある。(3)「遊漁者と漁業者のトラブルの増大」として、現在3,300万人の遊漁者(延釣客数)は、10年後には3,500万人に増加。漁業者は減少、資源水準の悪化と相まって無秩序な漁場利用の横行によりトラブルが増大すると予測されている。
これらのことが起きれば、(1)国内の新鮮、安全で多様な水産物が、国民の口に入らなくなる。(2)沿岸域の環境悪化、豊かな海の資源の利用が困難になる。(3)水産業の持続的発展の基盤となっている漁村の崩壊などの恐れがあり、国民生活に及ぶ深刻な事態へとつながる可能性が強く指摘されている。
漁港・漁場・漁村の役割と課題
漁港・漁場・漁村は、水産物の安定供給の根拠地として、また、地域社会の核として多様な役割を担っている。これまでの施設整備により基礎的な施設については一定量を確保したものの、つくり育てる漁業や資源管理型漁業に資する施設整備、環境・衛生管理型漁港づくり、高齢者の利用に配慮した施設づくり等、新たなニーズに対応した施設整備や、都市部に比べ大きく立ち後れた漁村の生活環境の改善が急務とされているのが現状である。
新世紀の漁港・漁場・漁村づくりのための事業展開
水産公共に求められている要求に対しては、従来の整備手法では限界があるため、新世紀の水産業や漁業地域に活力をもたらす事業に新展開が必要となる。
水産の行政の基本的な方向を示す水産基本政策大綱及び改革プログラムが定められ、それに従い水産に関する施策の基本理念を示す水産基本法が今国会で制定された。それと同時に漁港法の一部を改正する法律も制定され、漁港法は沿岸漁場整備開発事業に関する規定を取り入れ漁港漁湯整備法となり、次のような改正を行っている。
(1)漁港漁場整備の計画について、水産資源の増殖から漁獲、陸揚げ、流通加工までの一貫した水産物供給システムとして捉えられる総合的、統一的な計画制度とした。(2)地方公共団体が主体的に事業展開が出来、地域のニーズに迅速かつ的確に応えられる制度とした。(3)事業の透明性や客観性の確保、効率的な実施、環境との調和など公共事業のあり方に対する要求に応えた。
これらのことは水産業の健全な発展及び水産物の供給の安定と言った水産基本法の2大理念に対応するための改正で、このことにより事業の枠組みができあがり、その枠組みのなかで具体的な施策を事業として展開していくことになる。
新世紀に水産業や漁業地域に活力をもたらす具体的な3つの施策は、(1)「我が国200海里水域内水産資源の持続的利用と安全で効率的な水産物供給体制の整備」として、海域から陸域までの生産・流通機能をもつ施設、衛生管理に対する施設の高度化等の生産流通基盤整備に関する事業。(2)「資源の回復を図るための水産資源の生息環境となる漁場等の積極的な保全・創造」として、藻場・干潟等の水産資源環境整備に関する事業。(3)「水産業の振興を核とし、良好な生活環境の形成を目指した漁村の総合的な振興」として、集落排水・交流広場等の漁村の総合整備に関する事業となる。
新たなニーズに対応した漁港・漁場・漁村の整備として、(1)「漁村の生活環境整備対策」は、都市部に比べ大きく立ち後れた漁村の生活環境を改善する漁業集落排水施設等の整備を進めており、特に遅れている下水道の整備に積極的に取り組んでいる。(2)「災害に強い漁村づくり対策」は、防災拠点漁港等における防災及び避難・救援のための広場や道路、耐震性を考慮した岸壁の整備等、災害に強い漁村づくりを進めている。最近では、平成11年9月24日、台風18号による高潮等で死者・行方不明28名の犠牲者を出している。
(3)「豊かな食生活を支える安全で安定した水産物供給のための基盤づくり」は、資源管理型・つくり育てる漁業、水産物の品質・衛生管理の強化のための拠点整備を推進。(4)「環境・循環型社会の構築に資する藻場・干潟等“海の森づくり”」は、水産動植物の繁殖の場、水質浄化の場として極めて重要である藻場・干潟の造成。(5)「高齢者等が生き生きと働き暮らせる“安全で快適な漁村づくり”」は、陸揚げ作業等の省力化を図る浮体式岸壁の整備、高齢者等の利用に配慮した緑地・広場等のバリアフリー化を推進。(6)「都市住民の憩いの場となる“ふれあい都市型漁港づくり”」は、新鮮な魚介類の提供を図り、良好なウォーターフロントを形成するモール(並木やベンチのある遊歩道)、親水型防波堤・護岸や海浜の整備することなどとしている。


新世紀の漁港・漁場・漁村づくり(後編)

水産基盤整備事業への再編・統合と、平成13年度予算概要

「水産基盤整備事業」の概要は、本格的な200海里時代を迎える中で、我が国周辺水域における水産資源の持続的利用、漁業地域の活性化など、今後の水産政策の課題に的確に対応した公共投資の効率性・透明性の確保の観点から、より効率的・効果的な水産基盤の整備を行うため、「漁港・沿整」と言った施設に着目した事業体系を見直すことが緊急の課題となっている。
このため、平成11年12月に策定された「水産基本政策大綱」に示された3つの基本方向に即し、資源の増殖から生産、流通まで一貫した横断的な事業展開が可能で、かつ、施策目的が明確な事業体系となるよう“漁港漁村整備事業”と“沿岸漁場整備開発事業”を「水産基盤整備事業」に再編・統合するほか、重点施策を実施することにより、「新世紀の漁港・漁場・漁村づくり」を推進することとしている。
従来は、(1)「二つの水産公共事業予算」として、漁港漁村整備事業、沿岸漁場整備開発事業がある。(2)「複雑な事業体系」として、修築、改修、漁場、増殖場等23の事業種類がある。(3)漁港、漁場別に事業の計画、事業間連携があることが挙げられ、新しい枠組みは、(1)「一つの水産公共事業予算に統合」として、水産基盤(漁港・漁場・漁村)整備事業にする。(2)「わかりやすい事業体系に再編」として、政策大綱の基本方向にあわせ、12の事業に組み替える。(3)「総合的・一体的に整備する事業の創設」として、地域・広域水産物供給基盤整備事業にすることとしている。
投資の重点化は、漁港修築事業、地域水産物供給基盤整備事業及び広域水産物供給基盤整備事業の実施地区数を合計で961地区とし、実施地区数を平成12年度に比べ約70%に絞り込む。
「水産基本政策大綱」は、200海里体制下で、我が国周辺水域における水産資源の適切な保存管理と持続的利用を基本とする枠組みを構築し、漁業のみならず加工・流通等の関連産業も含めた水産業全体の発展を図り、国民への水産物の安定供給や漁業地域の活性化等の国民的課題にも対応しうる政策として再構築するため、新たな政策理念と基本的な政策方向を、水産基本法(仮称)として制定するとともに、プログラムに沿って、施策を具体化する。
具体的施策の展開方向は、(1)「水産資源の適正な管理と持続的利用」、(2)「漁業管理制度の見直し」、(3)「漁業の担い手の確保と経営の安定化」、(4)「水産物流通の効率化・水産加工業の体質強化と消費者対策の充実」、(5)「効率的・効果的な水産基盤の整備」、(6)「漁協の役割の明確化と事業・組織のあり方の見直し」の5つの施策を掲げている。特に、重要施策となる(5)の「効率的・効果的な水産基盤の整備」として、さらに今後の水産政策に対応するため、(1)安全で効率的な水産物供給体制の整備、(2)水産資源の生息環境の保全・創造、(3)漁村の総合的な振興の3つの柱を掲げており、これが、平成11年12月に策定した「水産基本政策大綱」の基本方向である。
配慮事項としては、(1)「事業の重点化・効率化」、(2)「施策目標の明確化」、(3)「事業効果の総合的発揮」、(4)「海岸事業等他の公共事業との連携」の4つの点に留意することとしている。
また、総合的な事業として、(1)「漁場整備の沖合への展開」は、沖合において、最新技術の応用により人工海底山脈の造成等、広域にわたる資源増大効果を有する大規模な漁場を整備する。(2)「沿岸域における漁場と漁港の一体的整備」は、効率的・効果的に地域の水産基盤を整備するため、地域の利用が主体である(複数の)漁港と地先の漁場については、漁港施設と漁場施設を一体的に整備する。(3)「漁場環境等の積極的な保全・創造」は、資源回復の観点から、藻場・干潟等の整備を推進する。(4)「水産物の流通拠点の整備」は、国民のニーズに合致した水産物の安定供給のために、非公共事業とも連携しつつ産地市場統合、品質・衛生管理の強化等の要請に対応した生産・流通加工の拠点の整備を推進する。(5)「漁村の総合的な振興」は、漁村の振興のため、集落排水施設等生活環境の改善、就労環境の改善、漁業に依存する地域の水産基盤の総合的な整備を行うこととしている。
再編・統合の効果は、(1)漁港ごと、漁場ごとの整備を見直し、地域の視野に立った総合的な整備を促進(点的整備から面的整備)。(2)投資の透明性・効率性の確保、施策目標の明確化等による効果的な事業の実施。(3)非公共事業との整合のとれた事業の実施による新たな政策課題への的確な対応等が挙げられる。
また、一体的実施のための総合計画の策定としては、(1)「国の基本方針の策定」、(2)「都道府県の一体的な地域計画の策定」、(3)「水産公共事業の投資の全体像の提示」を実施していくものとしている。
水産基盤整備事業の事業体系と事業の内容
1水産物の供給基盤の整備(水産物供給基盤整備事業)
(1)漁港修築事業【現行の事業】
(外郭施設、係留施設、水域施設、輸送施設、漁港施設用地等の整備)
(2)地域水産物供給基盤整備事業【現行の漁港改修と魚礁、増養殖場の再編】
(共同漁業権の区域内等地先の漁場と第1種漁港等の一体的な整備)
(3)広域漁港整備事業【現行の漁港改修と魚礁、増養殖場の再編】
(第3種漁港又は第4種漁港等、生産、流通加工の拠点漁港の整備)
(4)広域漁場整備事業【現行の魚礁設置、増養殖場造成事業の再編】
(共同漁業権の区域外における大規模な漁場の整備)
(5)漁港漁場機能高度化事業【現行の局改等と小規模な魚礁、増殖場】
・漁港施設、漁場施設の維持補強、局部的な改良、補修
・漁港施設の多機能利用、機能向上−衛生管理強化、バリアフリー、増殖機能等
・新技術を応用した施設導入、資源保護礁の整備 等
(6)漁港関連道整備事業【現行の事業】
(漁港と主要道路、他の漁港又は漁場とを結ぶ道路の整備)

2水産資源の生息環境の整備(水産資源環境整備事業)
(7)漁場環境保全創造事業【現行の漁場保全事業のメニュー再編】
(効用の低下している漁場の生産力の回復を図るため、汚泥、ヘドロの除去及び覆砂並びに藻場・干潟の整備等)
(8)漁港水域環境保全対策事業【現行の漁港環境の一部と公害防止対策の再編】
(漁港区域内の水域における汚泥、ヘドロの除去及び覆砂並びに藻場・干潟の整備等)

3漁村の総合整備(漁村総合整備事業)
(9)漁港環境整備事業【現行の事業の一部】
(植栽、休憩所、運動施設、親水施設等の整備)
(10)漁業集落環境整備事業【現行の事業】
(集落道、集落排水施設、水産飲雑用水施設、緑地広場施設等の整備)
(11)漁港漁村総合整備事業【現行の事業】
(条件不利地域に立地する漁村において、漁港施設及び漁村の生活環境施設を総合的に整備)
(12)漁港利用調整事業【現行の事業】
(遊漁船等を分離収容する外郭施設、係留施設、水域施設等の整備)


(基本方向)
(1)我が国200海里水域内水産資源の持続的利用と安全で
効率的な水産物供給体制の整備
(2)資源の回復を図るための水産資源の生息環境となる漁場
等の積極的な保全・創造
(3)水産業の振興を核とし良好な生活環境の倦成を目指した
漁村の総合的な振興
平成13年度水産関係公共事業予算の概要
1.水産基盤整備事業
(1)我が国200海里水域内水産資源の持続的利用と安全で効率的な水産物供給体制の整備→【水産物供給基盤整備事業】
○資源管理型・つくり育てる漁業、品質・衛生管理に対応した水産基盤の緊急拠点 整備への重点投資
○沖合水産資源の持続的利用のための漁場整備対策の実施
○環境・衛生管理型漁港づくり推進事業の創設
○一定期間採捕の制限等を行い資源保護に資する「資源保護礁」の整備を新たに実施
○既存の漁港・漁場施設の機能の高度化やより利用しやすい施設の整備を新たに統合補助金化
(2)資源の回復を図るための水産資源の生息環境となる漁場等の積極的な保全・創造→【水産資源環境整備事業】
○藻場・干潟の造成等への重点投資
(3)水産業の振興を核とし良好な生活環境の形成を目指した漁村の総合的な振興→【漁村総合整備事業】
○都市部に比べ大きく立ち後れた漁村の生活基盤施設の整備の推進等「漁村生活環境改善緊急対策」の実施
2.漁港海岸事業
「漁港海岸事業」においては、第6次海岸事業七箇年計画(h8〜h14)の6年目として、多発する高潮、波浪等による災害及び海岸侵食に対応した安全な海岸を創造するとともに、防護、環境、利用の調和のとれた海岸の形成を図りつつ、日本新生プランにおける重点4分野(it革命の推進、環境問題への対応、高齢化対応、都市基盤整備)の推進や生活基盤の充実など我が国経済社会の新生に資する施策に積極的に対応するため、国費157億円(前年度比96.5%)をもって事業を実施することとしている。
主要新規拡充事項(漁港海岸事業)として、(1)「高潮防災ステーションの創設」は、台風による高潮災害の危険性が高い地域における安全管理の高度化を図るため、海岸省庁間の連携により、水門や陸等の遠隔制御施設等を効率的に整備、(2)「広域的な海岸侵食対策の推進(渚の創生の拡充)」は、海岸事業と港湾事業、漁港事業との連携(渚の創生)に加え、河川流域等に余剰に堆積した土砂を海岸浸食箇所へ活用する等の新たな連携により海岸浸食対策を広域的かつ効率的に推進、(3)「海岸保全施設の緊急防災対策調査の実施」は、伊勢湾台風やチリ地震津波等を契機に整備された機能低下の著しい海岸保全施設等を対象に、その危険度評価手法の確立を図るとともに、利用や環境等新たな機能を考慮した効率的な施設の更新手法を検討、(4)「補修事業にかかる統合補助金の創設」は、地方分権の着実な推進を図るため、海岸保全施設に係る補修事業を総合補助金化の4つの事項を挙げている。
投資の重点化は、高潮、侵食、環境、公有地の主要4事業について、実施箇所数の絞り込み等投資の重点化により、事業の早期完成を図ることとしている。実施海岸数は平成12年度の281海岸から262海岸とする見込みである。

3.漁港災害復旧事業等

「漁港関係災害復旧事業」は、漁港施設、漁港区域に係る海岸及び沿岸漁場整備開発施設等の災害復旧を実施するものであり、平成13年度予算は、国費6億円(前年度比124.9%)をもって、平成11年発生災害においてはおおむね完了、平成12年発生災害(進度約90%)及び平成13年発生災害の円滑な復旧を図ることとしている。
主要新規事項(災害復旧事業)として、「漁港施設災害関連事業の採択基準の見直し」は、国と地方の役割分担を明確にする地方分権を一層推進する観点から、漁港施設災害関連事業の採択基準(最低限度額)を、工事費4百万円以上から都道府県営工事(指定市を含む)8百万円、市町村営工事(指定市を除く)6百万円以上へ引き上げることとしている。

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