〈建設グラフ1997年10月号〉
寄稿
多岐に及ぶ電線共同溝の効力
道路掘り返しによる渋滞は解消
建設省関東地方建設局 東京国道工事事務所長 吉崎 収 氏
昭和55年3月北海道大学工学部土木工学科卒業
昭和55年4月建設省入省
昭和62年4月中部地方建設局高山国道工事事務所 調査課長
平成 2年4月中部地方建設局企画部企画課長
平成 3年5月道路局企画課道路環境対策室補佐
平成 5年4月道路局有料道路課補佐
平成 8年4月現職
はじめに・・・・・
共同溝は、市民生活に不可欠なライフラインである電話、電気、ガス、上水道、下水道、工業用水などの各種公益物件を、公共空間である道路の地下に効率よく機能的に集約整理して収容する道路付属物である。
道路の掘り返しを防止することにより、道路の構造を保全し、円滑な道路交通確保することを目的とした「共同溝の整備等に関する特別措置法(以下「共同溝法」)」に基づき整備が進められている。
―方、共同溝がガス、上下水道及び幹線系の電線類を収容するのに対し、沿道のビル等に電力、通信サービスを直接に供給する配線系を収容するために歩道部の地下を主体に電線共同溝の整備が進められている。
以下、共同溝、電線共同溝及び共同溝工事により生じた地下空間を有効利用した「(仮称)赤坂地下駐車場」事業の例について説明するものである。
1.共同溝
(1)概 要
我が国の共同溝整備は、関東大震災後の帝都復興事業の一環として、東京九段坂など3箇所で試験的に設置されたのに始まる。
九段坂共同管道は、電気、電話、上下水道、ガスの各施設を収容した本格的な共同溝である。
当時の計画は、「街路を構築する場合や地下鉄の大工事を行う場合などで、多数の埋設物をその工事のために移設する必要のあるとき、あるいは、新設街路で将来、埋設物が相当多数敷設される見込みのある重要な街路においては、適当に設計した共同管道を造り、局部的にでも徹底整理を行うことが良策である」との考えであり、まさしく時代を先取りしたものと言われている。(図−1)
▲図1 九段坂共同管道断面図(単位:m)
しかし、その後は全く整備が行われなかったが、昭和30年代に入り、モータリゼーションの進展は著しく、全国的に道路網の飛躍的な整備が図られていった。特に都市部において顕著になってきた交通渋滞対策の一環として、道路の掘り返し防止のために、共同溝を整備する必要が浮上し、昭和38年に「共同溝法」が制定され、共同溝が、道路付属物として法的に位置づけられた。 これにより建設費、管理費等、共同溝整備の基礎が確立され、以来、共同溝の整備が飛躍的に進むこととなった。 平成7年度末までに全国で完成総延長は約370km (換算完成延長)が整備されている。
(2)共同溝の重要性及び整備効果
共同溝整備の目的は、道路の掘り返しによる道路構造の劣化と交通阻害防止にある。特に交通阻害の防止は、交通量の増大とともに従来にも増して重要となっている。
また、共同溝が整備されることによって生まれる具体的な効果は下記のとおりである。
共同溝が整備されると、車道の掘り返しが将来にわたって規制される
公益物件の長期需要に合わせ、必要な時期に容易に物件収容作業ができる
共同溝内に作業員が入って巡視・点検ができ、公益物件の維持管理が容易かつ確実に行える。
構造的に安全性が高く、都市防災に貢献する
特に、先の阪神・淡路大震災において、市民生活に不可欠なライフラインの復旧に多くの時間を要したなかで、共同溝に収容している公益物件に影響を与える特段の被害は生じなかったことから、共同溝がライフラインの信頼性、安全性の確保上有効であることが再認識されたところである。
(3)東京都区内の共同溝の現況
昭和38年の共同溝法施行以来、首都高速道路・地下鉄建設等の関連事業や単独施工により整備を推進してきた結果、現在までに国道に約104km (直轄国道の約68%)、都道に約13km (都道の約1%)の共同溝が整備されている。
建設省東京国道工事事務所の管理する国道10路線のうち9路線が放射状であることから、共同溝も放射状の整備は進んでいるが、環状方向の都道では未整備の状況である。
(4)東京都区内の共同溝の今後の整備方針
道路の掘り返し防止の考えを基本とし、さらにライフラインの安全性・信頼性の向上という視点をも踏まえ、国道、都道からなる共同溝のネットワークとしての整備を推進する必要がある。
そのため、建設省、東京都、首都高速道路公団、各公益事業者等からなる「東京都内共同溝整備基本計画協議会」(委員長:東京国道工事事務所長)を発足させたところである。当協議会では、今後の共同溝整備の方針、特に都道の環状道路を活用した共同溝ネットワーク化の促進を図ることとしている。
2.電線共同溝
(1)我が国の電線の地中化の現状
我が国においては、電力事業、通信事業等の用に供する電線に係る道路の占用について、安全かつ円滑な道路交通の確保や都市景観の整備・保全等の要請から、これまでも地中化の推進が図られてきたところであるが、現状は、欧米諸国と比して依然として低水準にあり(図−2)、特に地中化の要請が強い都市中心部においてさえ、電柱が林立し、電線が輻輳している状況にある。(図−3)
(2)電線の地中化の遅れによる諸問題
このような我が国の電線の地中化の立ち遅れの結果、次のような問題が生じている。
安全かつ円滑な交通の確保上の支障
林立する電柱は道路の有効幅員を狭め、歩行者等の安全かつ円滑な交通の妨げとなっているほか、車両の衝突により重大事故を惹起するおそれもあり、安全かつ円滑な道路交通の確保を図る上で支障が大きい。
また、震災、台風時等には、地上の電柱が倒壊し、切断された電線が路上に垂れ下がり、緊急車両その他の交通の支障が生ずることがあるが、これは、先の阪神・淡路大震災で大きな問題になったところである。
景観上の支障
近年、環境への国民の意識が急速に高まっている中で、林立する電柱や輻輳する電線の存在が都市景観の整備、保全を図る上で支障となっていると認識されるようになっている。
都市防災上の支障
震災、台風時には、電柱の倒壊、電線の切断等が、人命、家屋等に直接的な被害を引き起こすことがあるほか、消防活動や避難活動の支障となり、都市防災上の観点からも問題が大きい。
安定供給上の支障
架空方式による場合、震災、台風時における電柱の倒壊、電線の切断を始め、風、雷、雪等の過酷な自然条件にさらされるために事故率が高く、電力、通信サービスの供給の安定性の観点から問題が大きい。
▲図3 電線類(配電線)地中化率の都市別比較
(3)電線類の地中化への新たな取り組み
このため、建設省は従来より、関係省庁と協力して、昭和61年から2期にわたる電線類地中化計画に基づき、全国で約2000km(うち東京都区内約360km)を整備してきた。
また、「電線共同溝の整備等に関する特別措置法(以下「電線共同溝法」)」が平成7年に施行され、電線共同溝により電線類の地中化をさらに推進することとなった。
(4)今後の電線共同溝の整備
この電線共同溝法の施行を受けて、関係省庁及び関係事業者等からなる「電線類地中化推進検討会議」において、第3期電線類地中化五箇年計画が策定され、今後平成11年度までの5年間で2000km程度(うち東京都区内約220km)の地中化を実施することを目標として関係者が努力すること等が決められた。
この2000kmの整備方式には、電線共同溝のみならず、単独地中化方式、自治体管路方式があるが、中でも非常に大きな役割を果たすのが電線共同溝であり、その整備を積極的に進めているところである。
3.地下空間を有効に利用した駐車場の整備
[(仮称)赤坂地下駐車場]
(1)背 景
港区赤坂地区は、東京都内でも有数の商業及び業務地域であり、赤坂見附交差点を中心とした周辺地域では、様々な機能が集中する中で、活発な都市活動が展開されている。
しかし、駐車場の不足から違法路上駐車が慢性化し、交通渋滞及び、これに伴う交通事故の増加、さらには商業・業務活動の低下を招くなど、重大な社会問題となっている。
図4 電線共同溝(C・C・BOX)のイメージ
(2)計画の概要
平成元年より実施してきた共同溝工事が平成6年に完了することに伴い、作業用の路下ヤードとして確保した堀山を有効活用するという発想から、本来であればそのまま埋め戻される空間(埋戻し土約7,000m3)を利用して、地下式の駐車場を設置することとして計画された。(図−5) 〈場 所〉東京都港区赤坂1丁目
〈駐車場規模〉
地上1階…出入ロ
地下2階…機械式駐車場(2層)
駐車台数…66台
(3)地下歩道との一体整備
赤坂見附交差点は、国道246号と外堀通り及び区道が交差する変則五差路となっており、地下鉄丸の内線赤坂見附駅もあることから、車道を横断する歩行者の数も多く、横断距離も約45mと長いためこれも交通渋滞・交通事故の原因の一つとなっている。そこで今回、地下駐車場を計画するに当たり交差点の渋滞緩和及び交通事故対策として、横断地下歩道も併せて整備することとなった。
(4)効 果
対象地域における将来ピーク時路上駐車台数は100台と予想しているが、当計画駐車場は共同溝工事の堀山を有効活用して整備するため、収容可能台数は66台程度が限度です。
このことにより、当該地域における駐車需要の全てをまかなうことではできないものの、相当の駐車需要には対応し、路上駐車に伴う交通渋滞の緩和、交通事故対策として十分有効に活用されるものと思われる。
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