寄稿
古田 勝栄 (ふるた・かつえい)
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昨今の子どもたちを取りまく環境として、社会状況の急激で複雑な変化の中で、子どもたちは「ゆとり」を失い、その歪みが犠牲とも思われるような事件の背景にあると考えられる。それに伴い、教育改革をめぐる議論も各分野で取り上げられる機会が増え、文部省でも、山積する課題の解決を図るため、中教審を始めとする各審議会等で議論されているところである。
こういった中にあって、地方自治体にとって学校教育をどの様に推進していくべきかということは、従前から大きな中心的課題の一つであり、地方分権の流れのなかで今後益々重要度が増すとも考えられる。
学校教育の充実のために行わなければならない教育条件の整備には、優秀な教員の確保や教育内容、指導方法の改善など多くの項目があるが、子どもたちにとって、学習の中心的な場であり、同時に一日の大半を過ごす生活の場でもある学校施設の充実は、学校教育を推進する上で主要な課題の一つである。
平成9年度当初における札幌市立の学校数は、幼稚園17園、小学校211校(分校2校を含む)、中学校97校(分校2校を含む)、高等学校8校、養護学校3校であり、現在も新設中学校を1校建設中である。
これら学校施設整備に係る予算額は、平成9年度当初予算で約170億円に上っている。
現在の学校施設整備の仕組みは、「義務教育諸学校施設費国庫負担法」を始めとする諸法令に基づき、定められた一定の基準に応じた国の負担の下で、新増改築等の主要な整備が行われており、札幌市においても、この国庫補助金を導入しながら学校施設整備を進めている。
ところで、札幌市の学校教育推進の目標は、生涯学習の基礎となる自己教育力をはぐくみ、国際社会で信頼と尊敬を得るにふさわしい、人間性豊かな児童生徒の育成を目指すことにある。
この実現のために学校施設は、児童生徒の自ら主体的に学ぼうとする意欲に応え、心身ともに健全で、創造性豊かな知性をはぐくむ学習教育環境であると同時に、家庭や地域に開かれた、豊かで潤いのある生活環境であることが重要となる。
近年、中教審の第一次答申で取り上げられた「生きる力」の育成や教育課程審議会における「総合的な学習」など、学校教育に関わる新しい、より多様で柔軟なシステムヘの転換方策が検討されている。これらの流れのなかで、文部省でも、平成9年度より、小・中学校校舎の基準面積の改定が行われ、ゆとりとふれあい、更には交流の空間を兼ね備えた学校施設づくりを目指して、本格的な質的整備の時代をむかえている。
札幌市の学校施設整備を省みると、児童生徒数が増加し続けた昭和50年代の後半までは、新設校の数も多く、画一的な施設整備になりがちであった。しかし、昭和59年度より文部省が補助制度として、用途を特定しないスペースである多目的スペースを導入したことを契機に、個々の学校の立地条件に応じた基本設計を行い、多目的スペースを備えたより高機能な学校施設整備へと変化してきた経緯がある。
現在では、先の基準面積の改定をも踏まえ「教育・学習方法の多様化に対応する施設づくり」「豊かな生活環境としての学校施設づくり」「地域に根ざした施設づくり」の三点を大きな柱として、学校施設整備を計画しているところである。