〈建設グラフ1998年2月号〉
寄稿
規制緩和と水道法の改正について
札幌市水道局給水部長 町田 孝三 氏
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町田 孝三 (まちだ・こうぞう)
昭和15年2月1日生まれ、美唄市出身、美唄工高卒。
昭和34年10月札幌市入庁・水道局拡張部配属、水道局拡張部工事管理係長、同配水センター所長、同北営業所長、同工事課長、平成3年7月土木部土木部長、平成8年7月現職。
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はじめに
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本年から、いよいよ日本版ビック・バン(金融制度改革)による銀行・証券・保険の相互参入・国際化が始まると言われていますが、ここ2〜3年の間に金融機関の不倒神話を覆すように、信用金庫、地方銀行、証券会社の幾つかが経営破綻をきたし、遂には、地域経済を支えてきた都市銀行や大手証券会社までもが経営破綻に陥りました。
1990年代に入ってバブルが弾け、相当数の金融機関が膨大な不良債権を抱え苦闘している一方で、大競争時代と高齢化社会に向けて高コスト構造を是正し、経済を活性化させるために各方面での規制緩和が急速に進められています。
水道事業においても、平成8年6月に水道法の改正という形でこの規制緩和の洗礼を受けることとなりましたが、改正法が全面施行となる本年4月を前に、水道に関する規制緩和について説明したいと思います。
1.水道に関する規制緩和
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水道に関する規制緩和は、第一に指定工事店制度を見直し、第二に給水器具の規制を合理化することが挙げられます。
これらの2項目の規制緩和による経済活動の活発化と併せて、付随する行政事務を合理化することが水道における規制緩和の目的とされています。
具体的な取組としては、平成8年3月に閣議決定された「規制緩和推進計画」(平成7〜9年度)に基づき、
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第一の指定工事店制度の見直しとして、全国統一的な資格試験の実施のための制度を整備し、水道事業者ごとにまちまちとなっている指定要件を統一するために、平成8年6月に水道法が改正され、本年4月1日から施行されることとなりました。
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第二の給水器具規制の合理化については、現行の給水器具の型式承認・検査制度を廃止し、構造、材質基準を明確化し、性能基準化を図る等の措置を行うこととし、平成9年3月に給水装置の構造及び材質の基準に関する厚生省令が制定され、平成9年10月1日から施行されております。
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ここでは、すでに平成9年10月から実施済みの給水器具規制の合理化については省略し、本年4月から全面的に施行される改正水道法等の指定工事店制度の見直しについて説明したいと思います。
2.指定工事店制度の見直しについて
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水道事業は、水道法により原則的に地方公共団体が行うものとされています。
そこで、水道事業者としての地方公共団体は、安全かつ安定して住民に水を供給するために、給水区域や料金と共に給水装置工事の施行方法、使用材料、指定工事店等種々のことを条例等に規定しています。
また、水道創設期には、公衆衛生を確保し、水道の普及を促進するために水道事業者自らが水道工事を施行し、水を供給していました。しかし、民間活用の観点から、技術者、機材、社会的信用等について一定の条件を満たし、水道工事を適正に行うことができると認められる工事業者を水道事業者があらかじめ指定し、これに工事を施行させるという指定工事店制度が行われるようになり、全国的に普及していきました。
現在、指定工事店制度は、全国3,300市町村の99%で実施されており、工事店も平成8年で約46,000店を数えていますが、指定を受けるための要件が市町村によりまちまちであることと、工事を施行する技術者の資格も、同様にまちまちの資格試験で与えられ、共通の資格でないために、指定を受けようとする市町村ごとに資格を取得しなければならないなどのことから、参入制限的に運用されるという弊害も見受けられたのです。
たとえば、住宅建設は春先から繁忙期を迎えますが、この時期にたくさんの注文を受け、地元の指定工事店で手が足りなくなっても、となりの町の指定工事店や技術者等を使うことができないために工期が遅れたりすることも見受けられました。
このような指定工事店制度の持つ閉鎖性や弊害に対して、住宅建設業界団体や建設省などから住宅価格引下げの観点で水道工事等関係規制の合理化を要請する声が上がりました。
また、平成7年12月には行政改革委員会から、指定工事店制度は参入制限的に機能したり、広域的運用が行われず競争を阻害している事例も見受けられることから見直すべきとの指摘を受けるに至ったのです。
そこで、国は、いままで地方公共団体が条例等で定めていた次の事項を水道法に規定することとしたのです。
- 1.指定制度の位置づけを置いた。
- 2.指定の申請を受け、要件に適合していると認めるときは指定しなければならないこととした。
- 3.国家資格の給水装置工事主任技術者制度を創設した。
- 4.指定を受けた給水装置工事事業者の責務等を定めた。
それでは、水道法の改正の主要部分について、概要を説明します。
3.改正の概要
- (1)指定要件(第25条の3)
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現行は、市町村それぞれの条例等で定めている指定要件を法律上に明確に規定しました。
つまり、給水装置工事事業者として指定を受けるためには、次の要件に適合していなければなりません。また、水道事業者は、指定を申請した給水装置工事を業とする者がこの要件に適合していると認めるときは、指定しなければならないことになりました。
- ア)事業所ごとに、給水装置工事主任技術者を置くこと
- イ)厚生省令で定める機械器具を保有すること
- ウ)禁治産者である等の一定の欠格要件に該当しないこと
- (2)給水装置工事主任技術者の選任(第25条の4)
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現行は、責任技術者という市町村独自の資格を給水装置工事主任技術者という国家資格へ切り換えることとし、工事施行における技術上の責任を重くしました。
指定給水装置工事事業者は、事業所ごとに、この給水装置工事主任技術者を選任しなければなりません。
- (3)給水装置工事主任技術者の職務(第25条の4)
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適正な給水装置工事を確保するために、給水装置工事主任技術者には次の職務が法律上に定められています。
- ア)給水装置工事に関する技術上の管理
- イ)給水装置工事に従事する者の技術上の指導監督
- ウ)給水装置の構造・材質が政令で定める基準に適合していることの確認
- エ)給水装置工事に関する水道事業者との連絡調整
- オ)給水装置工事の検査への立会い
- カ)担当した工事ごとにしゅん工図等の工事記録を作成すること
- (4)指定給水装置工事事業者の責務(第25条の8)
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適正な給水装置工事を確保するために、指定給水装置工事事業者には、水道事業者の検査を受ける場合に給水装置工事主任技術者を立ち合わせることや、必要な報告・資料の提出をすることのほか、厚生省令で定める事業の運営の基準に従い、適正な事業の運営に努めなければならない責務があります。
もし、これらに違反した場合は、指定の取消しを受けることがあります。(表参照)
〈厚生省令で定める事業の運営の基準の例〉 |
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◇工事ごとに、給水装置工事主任技術者を指名すること
◇配水管から分岐して給水管を設ける工事等を施行する場合に、適切に作業を行うことができる技能を有する者を従事させ、又はその者に実地に監督させること
◇前記の工事等を施行するときは、あらかじめ水道事業者の承認を受けた工法、工期、その他の工事上の条件に適合すること
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◇給水装置工事主任技術者やその他の工事従事者の工事の施行技術の向上のために研修の機会を確保するように努めること
◇政令に規定する基準に適合しない給水装置を設置しないこと
◇施行した工事ごとに、給水装置工事主任技術者にしゅん工図をはじめとする記録を作成させ、3年間保存すること
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- (5)指定の取消し(第25条の11)
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指定給水装置工事事業者が次のような場合に該当するときは、指定が取り消されることとなります。
- ア)指定要件に適合しなくなったとき
- イ)給水装置工事主任技術者の選任又は届出の規定に違反したとき
- ウ)事業所の名称、所在地等の変更の届出等をせず、又は虚偽の届出をしたとき
- エ)事業の運営の基準に従った適正な給水装置工事の事業の運営をすることができないと認められるとき
- オ)水道事業者の検査を受ける場合に水道事業者の求めに対し、正当な理由なく給水装置工事主任技術者を立ち会わせることに応じないとき
- カ)水道事業者の求めによる工事に関する報告や資料の提出を正当な理由なく応じないとき又は虚偽の報告や虚偽の資料を提出したとき
- キ)施行する工事が水道施設の機能に障害を与えたり、そのおそれが大きいとき
- ク)不正の手段により指定を受けたとき
(6)経過措置について
改正法の施行の際に、現に指定を受けている工事業者に対しては、当該指定をしている水道事業者との間で、次のような経過措置が設けられています。
- 改正法の施行日前から施行している工事については,施行日から90日間は、指定給水装置工事事業者が施行しているものとみなされますので、給水契約の申込みを拒否されたり,給水を停止されることはありません。
- 施行日から90日以内に水道事業者に届け出たときは、指定給水装置工事事業者とみなされますので、施行日から1年間は給水装置工事主任技術者を置かなくても指定の取消しを受けることはありません。
- 前述の届出をして指定給水装置工事事業者とみなされた場合は、厚生省令で定める事業運営の基準の適用に当たっては、給水装置工事主任技術者の職務は平成11年3月31日までの間、現行の責任技術者が行います。
- (7)施行期日
- 平成10年4月1日
4.水道法改正による影響
今回の改正により、工事業者や市民に対してどのような影響が考えられるか、次に説明したいと思います。
- (1)工事業者への影響
- 期待される効果としては
- 参入制限的、需給調整的運用の排除
給水装置工事を業として行う者が3項目の指定要件さえ満たせば、だれでもが指定工事店となれる。
- 広域的な事業活動の確保
指定要件が全国共通となり、この要件を満たす申請者に対しては、水道事業者は必ず指定しなければならないことになったため、希望する市町村の指定を受けることが可能になった。
- 低コスト化
指定希望の市町村に本店,営業所等を設置しなくても指定が受けられるため、これらの設置経費、人件費等が不要となりコストダウンが可能になる。
などが考えられますが、一方で、
- 指定工事店の数が増え、競争が増す。
- ハウスメーカー等の他業種の工事業者が水道工事店として参入してくる。
などのことが予想され、事業者として技術力を高めるなどの自助努力やコストダウン・リストラ等の経営努力が一層必要となるなど、今以上に厳しい経営環境になることも考えられます。
- (2)市民への影響
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消費者である市民にとって、期待される効果としては
- サービスの向上
指定工事店の数が増え、競争が増すことが考えられることから、高い技術力と共に、きめの細かい誠実なサービスを受けることが期待される。
- 工事の低価格化
同様の理由から、低価格で良質な工事が期待される。
しかし、工事業者と契約上のトラブルなどが起きないように、あらかじめ複数の指定工事店から見積書を取り、適切な業者を自らが選択するという消費者として自己防衛の意識を持つことも大切になってきます。
おわりに
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札幌市における指定工事店制度は、昭和22年に約30社でスタートして以来の長い歴史があり、また、現在383社を数えるほどに発展しております。
その間に水道事業に果たしてきた役割は大変大きなものがありますし、市民の厚い信頼を受けている制度ですが、このたびの水道法の改正により、大きくかつ広い範囲で変革されようとしております。
そのため、工事業者のみなさんや市民のみなさんには、多くのとまどいや疑問などがあろうかと思いますが、新たな指定工事店制度に円滑に移行できるよう今後とも積極的にprに努めていきたいと考えております。
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