〈建設グラフ2000年7月号〉

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寄稿特集

三次工事事務所事業紹介

建設省中国地方建設局 三次工事事務所長 鬼武義英 氏

鬼武義英 おにたけ・よしひで
昭和22年3月30日生まれ、山口県防府市出身
山口県立山口農業高等学校 農業土木科卒
昭和40年 4月 三次工事事務所採用
昭和54年10月 太田川工事事務所 調査設計課 調査係長
昭和61年 4月 河川部 河川計画課 計画第一係長
昭和63年 4月 浜田工事事務所 川本出張所長
平成 2年 4月 中国地方建設局 建設専門官
平成 3年 4月 企画部 企画課長補佐
平成 4年 4月 河川部 河川管理課長補佐
平成 5年 4月 山ロ工事事務所 河川管理課長
平成 7年 4月 太田川工事事務所 副所長
平成 9年 4月 出雲工事事務所 副所長
平成10年 4月 河川部 河川管理課長
平成11年 4月 日野川工事事務所長
平成12年 4月 三次工事事務所長
<流域図>
江の川の河川整備の現状
三次工事事務所が管理する江の川は中国地方最大の流域を持つ河川で、その源を広島県山県郡芸北町阿佐山(標高1,218m)に発し、中国地方の中央部を貫流、日本海に注ぐ流域面積3,870km、幹川延長194kmの一級河川です。
江の川の名称は、昭和41年の一級河川指定とともに定められた統一名称で旧河川法時代には広島県側は「郷川」、島根県側は「江川」と呼んでいました。また、三次から上流側では「可愛川」(えのかわ)と呼ばれ日本書紀にもその名が記されています。
三次工事事務所の管理区域は、広島県側の江の川本川72.3kmと、3支川12.5kmの合計84.9kmを担当しています。江の川下流部の島根県側は浜田工事事務所が担当しています。
江の川の特徴は、広島県北部の中心都市である三次市において馬洗川、西城川および神野瀬川が三方から求心的に合流しており、しかも三次から下流が中国山地沿いの狭隘部を流下する通称「江の川関門」を控えていることから、三次市を中心とする沿川の人々は、古くから洪水の被害に悩まされ続けてきました。
中でも、昭和47年7月に江の川流域を襲った梅雨前線による豪雨は、江の川沿川地域に甚大な被害をもたらしました。三次市では馬洗川の破堤などのため4,800戸に上る家屋の浸水被害が記録されています。これを契機に工事実施基本計画が改定され、築堤、護岸、堤防強化、内水対策などに取り組んでいます。
しかし、今なお昭和47年7月規模の洪水に対応できる状況には至っていません。
平成7年に江の川中期整備試案(その現状と課題)を作成し、沿川地域の方々に広くお知らせをしましたが、このときのアンケート調査によりますと、約九割の方々が、ハード面の治水対策に強い関心を示され、洪水や内水よる被害防止のための整備をさらに続けて欲しいといった意見が多く寄せられました。
このことは、災害の多い河川、江の川の特徴をよく物語っています。もちろん河川の整備を進めるに当たっては、自然環境との調和を考え、親しみやすい川づくりを望まれる声も多数寄せられたことは言うまでもありません。
こうした地域のみなさんの声を聞き尊重しながら今後の河川整備に反映させ、豊かで安心して暮らせる郷土の川づくりを進めていきたいと考えております。
昭和47年洪水 三次市浸水状況

宅地等水防災対策事業
江の川中流部は、江の川と中国山地に挟まれた狭隘な地形の中に集落が点在しています。このため、僅かな平地の中で従来通りの築堤方式で、改修を行うと家屋や農地の多くが堤防用地となってしまい、生活基盤を失うことになってしまいます。
そこで、堤防改修に伴い必要となる用地を最小限にするため、宅地面を嵩上げする「特定河岸地水害対策事業」として、当事務所でも作本村港地区など3カ所で実施し、成果を上げてきました。平成2年度からは「宅地等水防対策事業」に引き継がれ、その第1号として作木村式地区が完成しています。さらに平成7年度から作木村香淀地区で取り組んでいます。
香淀地区は、昭和47年7月の洪水でも家屋の浸水や田畑などにも大きな被害を受けています。その後も昭和58年7月昭和60年7月など度重なる浸水被害に見舞われています。
香淀地区の事業規模は、対象面積3.6ヘクタール事業対象戸数は17戸で、築堤護岸を建設省で、国道や家屋の嵩上げおよび拡幅を広島県で、宅地部の盛土を作木村が実施しており、三者一体で事業を進めています。平成12年度事業費は2.2億円で今年度完成する予定となっています。
江の川は、山間狭陰部を流れる河川の宿命から通常の築堤方式ではなじまず、土地の有効利用と堤防強化対策を図るために今後とも宅地等水防対策事業を積極的に取り入れていく必要があります。
江の川、馬洗川、西城川が合流する三次市の三川合流部は古くからたびたび洪水に見舞われてきたことはこれまでも述べて聞きましたが、特に昭和47年7月の洪水では、市街地の大半が浸水するという甚大な被害を被っています。三次市は三川合流部を中心に市街地が発達しており、市役所をはじめ公共施設、交通機関、商業施設が集中しています。ここが大規模に破堤した実績があることから、万一の洪水氾濫においても対応できるように、冠水被害の軽減など総合的な対策を講じる必要があります。
特に、馬洗川左岸は市街地を控え、3河川が合流するという複雑な地形をしていることから洪水による越水の危険にさらされています。このため、既存の堤防を補強し耐越水性を高める「アーマーレビー工法」に平成2年度から着手し平成9年度に完成しています。
広島県双三郡作木村式地区 式地区 宅地等水防災対策事業
危機管理
●防災ステーション
三次の市街地は、ほぼ全域が山地に囲まれ、江の川、馬洗川、西城川の3川が合流する沖積地に開けており、過去の災害の実態からみても水防活動の拠点整備が急務とされています。これに応えるため、平成9年度から地元三次市と一体となって三次市十日市地区で防災ステーション整備事業(約1.1ヘクタール)に着手しています。この事業が完成すれば、いざというときには水防活動の拠点となって、現地対策本部、水防団の待機所、避難場所としての機能を果たすことができるとともに水防活動に必要な水防資材の備蓄も可能となります。
一方、平常時には、地域住民のコミュニティースペースとして、多目的に利用され水防活動の訓練などの場として活用できるものです。
主な施設は、水防センター、駐車場、水防ヘリポート、車両交換場所、備蓄資材置き場などが設けられ、平成14年春の完成を目指して現在、整備を進めています。
●ハザードマップ
沿線住民が安全で快適な生活を営んでいく上で、洪水時などの災害時における水防活動や警戒避難等に必要な防災情報を提供する必要があります。そのため全国的にも「浸水実晴図」や「洪水氾濫対象区域図」等が作成され関心を呼んでいます。江の川沿川地域でもいざというときに備えるため、三次市で洪水ハザードマップを作成し、公表しています。図上には、指定避難場所、行政施設、救急病院、洪水時の避難の仕方、情報の伝達経路、非常持ち出し品の心得が記され、迅速な避難活動に役立つものと期待しています。
防災ステーション
環境整備事業
●三川合流部環境整備
近年、河川を取り巻く環境が大きく変化し、平成9年度には河川法が改正されて、従来の「治水」、「利水」に加え「環境」が新たに位置づけられ、三つの柱で総合的な河川整備を推進することとなりました。
江の川でも河川環境整備には力を入れており、これまで実施してきた西城川の桜づつみモデル事業は広島県では第一号として認定されました。また、馬洗川の十日市地区親水公園は平成2年度にラブリバー制度適用区間に認定されています。
”人と川のふれあい広場”をテーマにこれからも親しみある水辺空間の創造を目指していきたいと考えています。
●香淀地区環境整備
江の川中流に位置する作木村では、若者の人口減少が著しく、若者の定着を目指して、平成9年度から「元気村作木」を宣言し村の活性化が進められています。香淀地区はスポーツ、リクレーション、都市との「交流の里」として位置づけられており、カヌーを交流素材として、豊かな環境素材を行がした自然体験教室、カヌーツーリングなど各種のイベントを展開し、活性化を図っていくこととしています。これに応えるため、カヌー発着場としても利用できるような低水護岸の整備を進めています。
作木村カヌー公園完成予想パース
地域活性化の取り組み
●江の川文化圏会議
江の川流域は、江の川を中心とした都市圏にはない豊かな自然に恵まれ、日本の伝統的文化を残している地域です。この地域の特性を活かした村おこし、地域づくりの構想と計画などについて流域の市町村長が一堂に会して討論し、広域的な連携のもとに具体化して行おうという主旨から「江の川文化圏会議」が平成2年に発足しました。その後毎年流域各市町村の持ち回りでサミットが開催されています。平成11年度には流域各市町村において河川美化条例を制定することが採択され、現在34市町村で制定もしくは制定の準備を進めています。このような会議で条例の制定が決定されるのは全国的にも例がありません。平成12年度は第11回の吉田サミットが開催される予定となっています。発足当初は18市町村で行っていましたが、徐々に流域全体に輸が広がり現在では、36市町村が参加するスケールの大きなイベントになっています。
●イベントの開催
その他にも、年間で実施しているイベントは四月の三次さくら祭りと併せ江の川親水マラソン、六月には十日市親水公園清掃とラブジバー環境整備事業で整備した花壇の美化、高宮町のほたる祭り、七月の河川愛護月間には一斉清掃、吉田町のカヌー教室などの開催、十月には甲田わいわい祭、三月には鮭の稚魚放流イベントなど多数行っています。
河川管理課 H11イベント写真ファイルより
4月4日親水マラソン
河川管理課 H11イベント写真ファイルより
6月26日日高宮ほたる祭
最後に
三次工事事務所では、江の川の河川事業の他、一般国道54号の広島市可部から島根県境(双三郡布野村横谷)までの76.5km区間の改築事業と甲田町から島根県境までの42.2kmの維持管理も担当しています。
河川、道路とも広域から沿線までの広範囲な地域で幅広い多くのみなさまの安全で安心して豊かに暮らせる地域づくりのために欠くことのできない社会資本であります。
半面、厳しい財政事情と長引く経済不況、環境意識の高まりの中、多くの公共事業に対し国民の疑問や批判の声も上がっています。
こうした状況の中で、国民の声を聞きながら真に必要な社会資本を効率的、効果的かつ重点的に整備していく必要があると考えています。
江の川の整備促進や一般国道54号の整備促進はまさに地域の方々にとって無くてはならない社会資本であり、その改修、改築事業の促進は、重点的かつ効率的、効果的に整備を促進しなければならない公共事業であります。
また、これらの公共事業は、地域経済の下支えにも大きく貢献しているものです。
今後とも、河川行政、道路行政に対する皆さま方の期待や二一ズを踏まえ、必要な社会資本の整備を促進するための予算の確保に最大限の努力を傾注していかなければならないと考えています。

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