〈建設グラフ1999年2月号〜3月号〉

寄稿

公共工事としての住宅開発と説明責任

東京都住宅供給公社建設部長 吉川 充 氏

吉川 充 よしかわ・みつる
昭和16年 8月14日生まれ、埼玉県出身
昭和42年日大建築学部卒業
昭和49年イリノイ工科大土木修士修了
昭和42年東京都交通局
昭和56年大門保線管理所主査
昭和58年千代田区建設営繕課長
昭和63年高電本部管理副参事(地下鉄建設株h遣/計画部施設課長)
平成 4年 財務局営繕部国際フォーラム建築担当課長
平成 6年財務局技術管理課長(統括)
平成 8年住宅局参事(東京都住宅供給公社派遣/開発担当部長)
平成 9年現職

今、第三千年期初頭を2年後にして、日本全体がバブル経済の崩壊という戦後処理の閉塞状況に疲弊し、信用という人間社会の根本的絆が限りなく細くなり、不安を増大させている。とくにわが国は「信用重要視の商取引慣行」が中心であるだけに、その影響は計り知れないものがある。
国の財政・行政・税制、金融・福祉・年金の6大改革や、自治体の行財政改革が思うように進まないばかりか、議論百出し、政党や団休間での整合性が図れない状況にあるからである。こうした背景下で、バブル経済の一翼となった金融・不動産分野の中で、公共住宅開発と350,000住戸を管理する当公社への世間の風当たりは日増しに強く、国や都の指導を受けながら時代に合った住宅開発のあり方を模索中である。この激動期の中でなさねばならないことは山積しているが、公共工事の発注者としては、コスト低減と都民への説明者責任を確立して信用回復に努めることが急務であると思う。
当社の建設コスト縮減検討の過程で、参考資料として収集した「ニューヨーク市住宅公社の工事発注方法」から、今後の参考になりそうな要点について述べたいと思う。なぜならば、今われわれが世界第2位の経済大国となりながら、黒船以来の社会不安を抱き、リーダーたる自信を持ち損ねているわけには、深い社会構造的原因が存在しているからである。それは民主主義社会における行政・議会・企業というマクロ社会の事業執行上の役割分担と、事業分野ごとの専門別、細分化と系列化による事業化集団(金融・不動産、建設業など)を形成してきた社会の根本規範が、建前(法令など)と本音(信用)の二重規範を使い分ける「和」重視であったことにある。
その限界が、国際化の中で露呈したものと考えられるからである。それは分野別事業化・法令化と信用取引が中心であり、官民とも儒教的倫理規範に基づく信頼が判断基準となる可能性が高いので、価値を共有できる同一言語圏内などに限定されるものであろう。とりわけ人種・宗教・文化的多元化社会である米国の「契約社会」としての事業執行方法は、先行した経済分野の国際化経験とともに確かな方向への示唆になるものと思われるからである。

1.なぜ今二ユーヨーク市の工事発注なのか
1.GC :設計施工分離のゼネコン方式。請負契約
2.CM′:施工型コンストラクションマネジメント
3.CM :コンストラクションマネジメント方式。
4.DM :デザイン・アンド・マネージ方式。設計とCMが結合。
5.DB :デザインビルド方式。
設計施工受注を一元化
DB:日本における民間工事の典型また、当公社の性能発注もこれに近い
GC:日本における公共工事の典型(A方式)
CM:外国(英米等)における工事の典型(B方式)
最近の民間工事での日本型CM(C方式)
DM:B方式のCMRと設計者が同一型(英米系等)

WTO協定による公共工事の外国ゼネコン業者への門戸開放と、近隣諸国からの本格参入、建設コストの国際比較、コスト低減の検討手法としての海外資材調達などから、最近では欧米の工事発注方法の違いと多様化に多くの関心が集まってきている。とくにわが国建設業の高コスト構造から、従来の工事発注方法では、コスト低減に一定の限界が見られ、製造業や外国建設業者と比べた低生産性(コストパフオーマンス)が、街造りや内需拡大の阻害要因になりかねないと思われるからである。
しかも現在のバブル崩壊による経済的混乱の中で、経済の活性化を意図して実施された「金融ビッグバン」の開始とともに発生した金融の「貸し渋り」などのマイナスの調整現象は、中小建設業の倒産など、グローバル化への調整過程がいかに困難であるかを示している。
だからこそ、公共工事の発注方法も国際化に対応したものを準備すべきではないのだろうか?
すでに先進企業・団体などでは日本型CMを研究段階から施行に入っており、大手ゼネコンも海外経験の研究を進め、建築学会でのpm・CM研究も進んでいる。日本建築家協会でも「日本型CMの標準約款」をまとめている。こうした状況下で、東京都の住宅公社として姉妹都市・ニューヨーク市の住宅建設の実態を把握しておくことは、コスト概念の国際的な共通理解を深めるうえでも欠かせない要因と考えられる。何故ならば銀行経営のbis規制や敷地、建物の生産性による不動産の評価(取引事例方式ではなく)のように経営判断基準のスケール合わせが、国際化の中で不可欠になってくるものと思われるからである。
2.工事発注方式の多様化について
最近のエ事発注方法の研究などによれば、わが国のこれまでの発注方法が設計と施工を分離し、ゼネコンに一括発注するという方法に特化され過ぎていたという反省がある。このため発注者が要求する「品質性能とコストの関係」が、受託者側で十分、明確に客観的説明をし得ていないという不満がある。この点は今後の情報公開など都民に開かれた対話型の工事を促進するうえで説明責任上の要点になるものと思われる。
ご案内のように、現在検討されている工事発注方法には別表のようなものがある。特に公共工事の発注に際しては、企画内容や入札時の透明性などに十分配慮することが求められる。そのうえ中小企業育成、地球環境問題対応、高齢化福祉対策、地域経済対策などの政策要件を満たし、コスト縮減を実現することが求められている。こうした要求に対応するために、デザインビルト(設計施工)、性能発注(技術提案評価型)、コンストラクション・マネージメント(CM)、プロジェクト・マネージメント(pm)などが特に検討されている。
さらに財源問題や経済効率重視の観点から、民間資金主導型(PFI)、価値工学(VE)、施設の一生涯原価(LCC)などの研究導入が検討されている。
これらのうちで、特にCMは今後早急に導入が望まれる工事発注の手法として注目されている。この方法は、特に工事入札発注の透明性や公共工事の全関係者のかかわりやコスト構成を明確にし、説明責任がより明確に取り得る方法だからである。
3.ニューヨーク市のCM契約約款と工事発注方法の特徴
工事発注監理者(CMR)の業務範囲は設計段階から始まり、設計者との準備打ち含わせや工事の工期に合わせた分割発注の計画決定から各工事毎の入札公告準備や入札契約手続き、各種工事法令手続き、工事現場の各種管理記録、見本導入会議、支払い業務、完了検査、引き渡しまで非常に広範囲の業務を行う。
特に注目されるのは、すべての報告、勧告、命令指示が文書主義になっていることである。
第二に、入札段階で参加者の苦情処理(クレーム)を聴取し、判断するシステムが設定されていることである。これは低価格入札や談合などの防止に効果があると思われる。
第三には、近隣住民との意思疎通を図る「住民関係計画」を作成し、専門コンサルタントを含めた近隣対策のシステムが設定されていることである。
第四には地域経済の活性化策として、地域性民の「雇用と事業機会の提供」を義務づけていることである。これには中小企業や女流・少数派民族企業の一定割合の参加も義務づけている。
第五には、工事発注者にとって最も大切な工事関係コストの開示がすべての段階で義務づけられていることである。こうした一連の業務内容がすべて記録報告保存されることになっており、公共工事としての説明責任が取れるシステムとなっている点である。
第六には、設計変更や予算修正の責任範囲と手続が明確化されていること。
第七には、わが国の建設業法上の資格要件や労務単価などの法令遵守の証明書類の提出が明記されていることである。
図2 伝統的ゼネコン方式 図3 CM方式
図4 日本型CM方式
4.導入にあたっての課題
工事発注管理(CM)は現在2方式があり、工事を請負わない「純粋CM」と「請負型CM」に分かれている。いずれも米国ではゼネコンから発展した業者が多い。CMの協議会があり、資格については新たな能力認定試験を開始している。しかし、我が国では、影響が大きいので今後の検討課題になると思われる。同様に現在、民間で先行している「日本型CM」の分類と育成策も検討すべきである。
特に公共建築工事の建設にあたっては近隣住民対策として、わが国では有効な手段が少ないが、この点で米国の制度は参考になるものと思われる。出来るならば、国レベルの制度改正が望ましい。しかしながら、ますます厳しくなる行財政の下で住民や都民の理解を得ながら住宅団地の建設工事を進めるには、こうした制度の導入も可能な限り積極的に行うべきと思われる。
特に最大の課題は、われわれ日本人の内外意識ではないだろうか。たとえビジネスであっても、人に物事を頼むときにはすべてを任せるのが礼儀作法とされており、委任する以上は相手の仕方などの内容に関知しないという商習慣が強くあることである。しかしこの一括委任方式は多重系列の大規模組織では、委任した内容の正確な流れが全体像として把握できない恐れが多い。何故ならば、業務内容の大半が記録保存されずに各担当者に分担委任されるため、基本的に業務情報は個人依存であり、業務全体がブラックボックスとなり易く、全体把握が困難だからだ。それが逆に「和重視」の共同責任・護送船団体制へと繋がっているからである。
このことは業務情報を最大限共有し、絶えず客観的判断を必要とする現代企業戦略に反して、「心の一致」を中心に戦う「大和魂の無理」を温存した非合理的判断に陥りやすいのである。したがって、わが国の公共工事規模の拡大や金融の国際化に伴う危機管理に対して、これまでの方法では有効な手段たりえないわけである。
このことは、大規模開発工事(プロジェクト)や金融・不動産業界の不良債権など「民活事業の全体像把握」が困難なことや、市場(マーケット)管理がし難い状況として、今まさに日本人の危機管理能力が問われている証左ではなかろうか。わたし達日本人の信用重視思考の中に「契約重視」の縦糸を導入する事こそ、市場を中心とした大規模建設事業等に説明責任と危機管理能力を回復するため急務であると考えられる。
最後の課題は発注者側の意識改革である。何故ならばCMやPMは、これまでその大半が発注者側の守備範囲であり、残りを施工者が実施してきたと業務フロー上は判断されるから、このような民活業務への委託形式の転換はリストラ事由とされ、内部職員の定数減に繋げられるとの危惧が存在するからである。ところが事態はむしろ逆である。それは、CM受託者に徹底した記録情報の作成と報告提示を求め、すべてを文書で指示命令するので、決裁方式を相当に合理化しても、インハウスエンジニヤなどの業務量はむしろ増加することになると考えられる。それでも、そうした業務増加を上回るこの事業実施の方式(プロセス)転換は、プロセス情報の客観化による事業全体としての設計品質・コスト・安全施工等の面で、関係者の合意を得るより合理的なグローバル標準への経営判断基準に成りうるものと考えられる。
1.日本の高コスト構造の経緯とその意義
戦後の日本の経済成長は、主として世界の工場とまでいわれた製造業の品質向上と低コスト化による努力によりもたらされてきた。この数十年の間に所得水準も世界のトップレベルになり、既に十年以上経っている。この間、製造業は世界のマーケットで競争するため、生産性の低い繊維生産都門などの廃止や途上国への移転を実施してきた。
この成長は主として製造業の世界市場を対象とした、製品開発などの品質向上や合理化努力と、基本的生産性向上に基づく、外貨獲得によりもたらされたものである。
一方、非製造業部門の金融、不動産、建設、行政部門などは、地域と密着して発展してきたために製造業のような、世界マーケットを対象とした製品の標準化や労働集約による合理化をなし得ないまま発展してきた。
特に住宅や街づくりを対象とする不動産や建設業は個性を大切にする文化的要素が多く、標準化などによる生産性向上になじまない側面を有している。そのうえ経済の発展とともに建設される対象施設も、多種多様な高度化が進展した。そのため関連する専門事業者も金融・不動産、各種材料メーカー、下請け、施設利用者、施設維持管理者、設計者、設備業者、家具メーカー、建設機械、労務提供者等々きわめて広範にわたるため、地域経済と労働力確保の重要な担い手となってきた。
このことは日本の経済を家庭に置き換えると、製造業はサラリーマンであり、住宅開発などの、建設不動産業は家庭の主婦業といえる。ご案内のように家庭の主婦の労働は多種多様になるにもかかわらず、否むしろ、そのために経済的な評価がしにくい分野である。特に公共工事は失業対策事業のような側面の事業もあり、単純に市場価格で評価し得ない面もある。
しかしながら、日本の終身雇用制度に基づく慣例は、多種多様な専門分野の事業者を、ゼネコンの系列下に専属させようとするため、他国に比べて多重下請けになりやすく、専門事業者の流動化が進まず、結果として不経済になりやすい側面がある。さらに地域を主体とした多様な人々の協力に基づく事業展開がなされるため、各事業者間の和が重視され、どうしても非競争的になりやすい。さらに最も決定的な要因としては、土地価格の評価に見られるように、不動産の採算性評価の基準を持たずに、取引事例だけで価格設定してきたことは、投機を助長したバブル最大の経済要因と考える。
このようなわが国特有の多重下請け、地域内非競争性、土地の評価方式が住宅建設等の高コスト構造を助長していることは事実である。
一方で日本の人口動態は、少子高齢化が急速に進み生産労働人口の長期的低下と若年世帯減少に伴う長期的な経済需要低下が予測されている。こうした視点から見れば現在の経済状況や財政不足は、単にバブル崩壊による一時的なものとは言いがたい。
それにもかかわらず過去10年以上、日本の建設投資は、人口が半分にもかかわらず米国の倍以上なされている。このことは、生産性や「所得と家計」という視点から見ても、注目すべき大きな意味を持つと考えられる。その上、不動産・建設投資の事業別採算性評価の制度を世界水準で持ち得ないまま、膨大な公共投資を中心とした経済政策が後年度負担を前提になされようとしている事である。
東京のような大都市居住の未来生活がバラ色になるか否かは、このような後年度負担の国税と各プロジェクトに要するlcc評価による総合的な住宅まちづくりのコストが、未来の大都市居住者の世界平均のコスト負担からみて、妥当なものになっているか否かにかかっているのである。
2.経済社会、住民ニーズのパラダイムシフトと住宅まちづくり
金融のビッグバンによる資金調達の変更とそれに伴う企業系列の流動化及びwto協定に基づく建設分野への外国企業の参入、internetなど情報通信分野の急速発展と先進情報の共有化、人口動態の少子化高齢化の促進に伴う社会移動の減少と大都市の安定成長、生涯に1度の豪華な持ち家の取得思想から高品質で低価格の手軽で住みやすい住宅・住環境への選択的趣向の変化など、さらに建築基準法の性能規程化、公共の情報公開制度など住宅とまちづくりに係わる建設不動産分野の企画・計画の条件は、かつてないほどのパラダイムシフトを生じている。
それにもかかわらず、これまでの住宅まちづくりは一部を除き、どちらかというと供給サイドの意思中心で建設が進められてきた。それは分譲住宅やマンション及び賃貸アパートなどに特化してきている。例えば、住民の住み替え需要を満たす、住宅のリフォームや環境改善を促す修景事業など中古市場の発展を目指すといったストック改善事業には、米国ほど力が入れられなかった。
特に建設コストについては、公平な予算配分の思想からほとんどの公共体が積み上げ方式による積算を実施してきた。しかしながら積算の根拠になっている各種の材料単価などは生産者側の調査に基づいてなされているため、どうしても供給者側の希望的価格になっていた。
これは、高度成長期の需要が供給を上回る時の価格論理ではないだろうか。しかしながら現状は供給が需要を上回り、市場全体も安定成長期に移行している。したがって住宅建設の企画・設計、コストの設定も顧客の満足度(c・s)を基準としてなされるべきである。このような状況を27年前に体験して生まれたのが米国のコンストラクション・マネージメント(CM)であった。いま日本がまさにこのような状況を迎えているといえる。
なぜならば、既存の制度をそのままにしてコスト縮減を実行しようとしても幾多の矛盾に突き当たるからである。例えば、設計料は工事費を基準としているためコスト縮減の努力が設計報酬に反映されない仕組みとなっている。さらに各種補助制度も一定の枠を下回った場合には過払いとなり、補助金の返還をせざるを得ない仕組みとなっている。
同様に予算制度も自由な活用が困難な制度になっている。これまでの制度は予算も計画通りに執行する点に重点が置かれ、予算執行過程での有効活用や縮減をしやすくする制度にはなっていない面がある。こうしたことを考えると現状のような大変革、住宅まちづくりのパラダイムシフトに対応するには行政側の制度の変革も求められているといえる。
しかしながらCMの導入はそのような大きな制度改革を待たずに、顧客満足度(C.S)を基準に住民ニーズに対応を成しうる手段と考えられる。さらに危機の管理(リスクマネジメント)という視点からも、現在発生している銀行の貸し渋りによる企業倒産などに対しても有効なものと考えられる。
3.パラダイムシフトに対応した官民協力のあり方
発注者は事業評価能力を
事業受託者は情報・リスク等の非定型経営管理能力向上を

当公社は現在「経営5力年計画」を策定し、バブル期の都民住宅から計画的なストック改善、老朽住宅の建て替えと大幅な事業方針の転換を図ろうとしている。さらに市区町村の余裕用地の有効活用や再開発など、民間の事業採算性に合わない住宅街づくり事業分野に積極的に事業展開を検討中である。
しかしながら、既存ストックの改善事業はそこに住む人々の生活に直接大きな影響を与えるので、理解と合意を得るのが非常に難しい。また建設中の生活保障など高コストになりやすい。また環境的視点から考えれば、スクラップ・アンド・ビルド形式のストック改善は最小眼にすべきである。しかしながら新しい生活スタイルや総合的な住環境の向上は都心居住をより快適なものにするために不可欠である。
このためコスト低減をこれまで以上に努力する必要がある。また併せてこうした事業の採算性も長期的に評価する制度を確立すべきである。そうすることにより、短期の事業収支を中心とする民間の採算制では成り立ち得ない部分に関して、公的セクター部門が事業化を図る意義が理解されるものと確信する。
一方で事業が大規模化、長期化すればするほど組織的な事業執行における情報の共有と伝達が重要になる。このため事業にかかわる直接、間接の情報を記録保存し、データベース化しておく必要がある。特に工事受託者との双方向情報は迅速かつ正確でなければならない。こうしたプロセス情報の管理を的確にするためにも、コンストラクション・マネージメント(CM)導入が必要である。このように公共工事としての住宅開発の説明責任(アカウンタビリティー)を確立するため、CMの導入と公共事業評価制度の確立が不可欠となる。
幸い日本のゼネコンや一部設計者は、毎年海外工事を、総計1兆円以上を受託している。これは金額ベースでは国内需要額の2%程度であるが、建設業者数の割合から見れば1%未満の中堅ゼネコン以上に限られる。又これらゼネコンは、大部分は日本の公共工事受託者であると思われるので、施工者側の海外CM経験者は多いと思われる。そういう意味では工事受託者側のCM導入の準備はできているといえる。
とはいえ一部のゼネコンは海外工事から撤退する様子もある。その主な理由として、海外の施行者に比べ、情報収集力、企画力、エンジニアリング能力、マネジメントの能力、リスク管理などの面で劣ることが挙げられている。その最大の理由はCMなどの発注方式の違いにあり、こうした対応能力が育成されていないと思われるからである。
一方で日本のゼネコンは品質確保、工期厳守、工事施工能力などの面で優れており、企業内シンクタンクとしての[技術研究所]を設置しているという特徴がある。そのためCMなどの多様な発注方式に慣れることは建設業界にとっても短・長期的にみても必要なことである。
ニューヨーク市住宅公社組織図
契約管理課工事発注監理(CM室)
4.顧客満足度(C・S)を高める方策
まず第一に、建設コストの算定を積み上げ方式から、売れる、賃貸できる目標価格設定方式に改める。そのためには建設コストの構成関係者問(利用、消費者/発注者/資金提供者/CMr、設計者、施工者/施設管理・運営者)の情報交換体制(intranetなど)を整理し、関係者間の同時協議が促進されることが必要である。そして第二には各事業者間のプロセス情報を収集交換しておく必要がある。
第三に発注者は各プロジェクト(事業)の合理性と採算性を説明しうる事業評価制度の確立を図るべきである。そして目標価格で事業評価内容を達成させるための、各種事業のプロセス情報を的確に監視、管理していくことが工事発注者の具体的な役割となり、進め方になると思われる。(別図ニューヨーク市住宅公社CM室組織図参照)
民間の製造業では市場動向に対応するため企画、設計、施工、運用の段階ごとの情報交換から、各段階をダブらせて並行的に情報交換するリエンジニアリングや各団体の関係者が同時に情報交換するコンカレント方式により顧客満足度を高める逆試算方式のコスト設定をしている。
建設業は商品開発の期間が長いだけにこうした方式により一層の困難を伴うが、パラダイムシフトに対応した住宅まちづくりには不可欠な方法であると考える。個別具体的な課題は多々あるものの、CMをパイロット工事に適用し、試行錯誤を重ねることが最短コースになると思われる。

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