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▲洗堰から最大約270/sの洪水が流入 |
平成12年の台風14号による秋雨前線の影響で、庄内川・新川流域では、時間最大雨量93mmを記録し、9月11日から12日までの総雨量は年間総雨量1,535mmの1/3にも及ぶ567mmとなった。
当時の出水状況は、庄内川の基準地点枇杷島では約4時間にわたり計画高水位を超過した。また、jr関西本線橋から国道19号勝川橋付近までの約15kmの区間で計画高水位を超過するなど、各所で堤防等の被災が多数発生した。庄内川河口から4km付近の国道1号一色大橋下流右岸で越水し、浸水被害が発生した。
▲名古屋市西区丸野2丁目の浸水状況(12日) |
▲西枇杷町の浸水状況(13日) |
新川の基準点久地野では、新川の洪水と新川洗堰を越流した庄内川の洪水により約13時間にわたり計画高水位を超過。9月12日3時30分頃には、名古屋市西区あし原町内の新川左岸堤防が、約100mにわたって破堤し、甚大な浸水被害が発生した。
このため中部地方整備局及び愛知県は、庄内川・新川の一体的な治水対策を実施。庄内川、新川を一体的な治水システムと捉え、新川洗堰を嵩上げし、同様な降雨が発生した場合でも洪水を安全に流下させるとともに、内水被害を最小限に留める治水対策を実施した。
また、総合治水対策にも着手した。堤防強化、河道改修、内水河川ポンプの増強に加え、遊水地の整備・改築による貯留対策、防災情報システムの整備によるソフト対策を併せた総合的な治水対策を実施した。
庄内川激特事業の具体的な内容は、高さの不足する堤防の築堤(嵩上げ)、浸透・侵食に対する堤防の強化を行い、破堤しにくい堤防へと強化した。また、約140万?の河道の掘削により河川水位を低下させ、流下能力を向上させた。河道掘削に際しては、自然な水辺が広がるよう工夫し、豊かな自然環境の保全にも配慮した。
また、新川洗堰の改築を行った。新川洗堰を嵩上げ(約1m)し、庄内川から新川への越流量を低減させた。
その他、小田井遊水地の改築も行われた。小田井遊水地の越流堤を嵩上げ(約1.3m)し、遊水地の洪水調節機能を向上させた。さらに、河川水位、雨量、堤防の状況、出水状況の映像などの河川情報について、防災関係機関や地域住民に正確かつ迅速に提供する防災情報システムを整備すると同時に、西枇杷島町南松原地区、名古屋市中川区下之一色地区において、水防活動と水害に強い町づくりを支援するための水防拠点を整備した。
愛知県の行った新川激特事業の内容は、堤防を浸透対策、耐越流対策のために強化し、計画高水位を超過する出水に見舞われても、破堤しにくい堤防へと強化した。
また、河道の流下能力を向上させるために、全川にわたり河床の掘削を実施した。掘削の深さは最大約1.9m(平均0.9m)、掘削量は84万に及ぶ。
一方、洪水の流下に支障となる名鉄名古屋本線などの橋梁の改築や、河床の掘削に伴いjr東海道新幹線新川橋梁などの橋梁も補強するとともに、新川の洪水調節を行う遊水地(治水緑地)を新川最上流部に整備した。これにより、東海豪雨時のピーク流量を約60?/s低減させることが可能となった。
■新川洗堰 | ||
この他、内水氾濫による浸水被害を軽減するため、支川水場川、鴨田川、中江川の河川ポンプの増強を実施した。
このように庄内川の河道の掘削により、東海豪雨時の河川水位を約70cm低下させたことで、流下能力の向上と内水被害の軽減が図られ、新川では河床の掘削により、破堤地点において東海豪雨時の河川水位を約100cm低下させたことで、破堤防止と内水被害の軽減が図られた。
特に、新川洗堰からの越流量の低減庄内川下渡部の河道掘削などによる河川水位の低下と、新川洗堰の嵩上げにより、東海豪雨と同程度の降雨が発生した時の庄内川から新川への最大越流量を270?/sから70?/sに低減できた。
こうした国と愛知県の実施した激特事業により、再度、東海豪雨と同様な降雨が発生しても、家屋の浸水被害は約18,100戸から約9,700戸に減少するとともに、床上浸水家屋が大幅に解消されることとなった。また、総被害額も約6,700憶円から約1,200億円に低減すると想定され、経済的な効果は約5,500億円となる見通しだ。
▲小田井遊水池の越流堤嵩上げ |
なお、これらの激特事業の実施に当たっては、名古屋市、西枇杷島町、大治町、新川町、甚目寺町において、30回以上にも及ぶ事業説明会、工事計画説明会、用地説明会などを始めとする説明会を実施し、延べ3,000人以上が参加した。
また、河川環境面への配慮や親水性確保のあり方、今後の治水対策のあり方について、市民の視点から幅広く意見を蒐集し、意見交換を行うことを目的とした「庄内川・新川を考える地域懇談会」を6回開催した。
激特事業の実施に際し、自然豊かな河口干潟の環境に与える影響について調査、監視するとともに、施工方法などの助言を行うことを目的とした「庄内川・新川河口干潟調査会」を設置した。
さらに、東海豪雨における庄内川堤防の被災要因の分析と現堤防の安全性の評価、そしてこれに基づく堤防強化対策の提案、都市型堤防のあり方の提案を目的とした「堤防強化委員会」や、東海豪雨による堤防被害の状況を踏まえ、今後の河道整備の課題と堤防の復旧補強工法について検討することを目的とした「愛知県河川堤防緊急強化検討会」を設置した。
庄内川・新川に係わ関連する排水ポンプ場の適切な運転調整、運転の徹底を確立することを目的とした「庄内川排水ポンプ場運転調整検討会」、「新川流域排水調整連絡協議会」を行い、運転調整のルールが確立された。
この他、「川の防災情報(インターネット)」、「jfjii情報システム(iモード)」などにより、全国のリアルタイム雨量・水位などの情報が提供されているが、庄内川においても、インターネットとiモードにより、庄内川の水位と雨量の情報と、監視カメラの画像を提供している。
同時に、河川が破堤した場合の浸水状況等を予測し、避難場所への避難経路を事前に周知するなど、水害時の避難活動に有効な手立てとなる「ハザードマップ」を、関係自治体と連携して整備している。現在、庄内川、新川流域では、名古屋市を始めとする13の自治体で作成されており、各戸配布されている。
このように、甚大な被害をもたらした東海豪雨で得られた様々な教訓は、日本全国の河川整備のあり方を見直すきっかけとなり、水防法の改正を始めとする様々な施策が図られた。庄内川、新川においても、関係機関と連携して様々なソフト対策の充実が図られている。
※川の防災情報(インターネット)……http://www.liver.go.jp/ 河川情報システム(iモード)……http://i.liver.go.jp/ 庄内川河川情報……http://www.shonai-unet.ocn.ne.jp/ |