北海道発未来着
(ともんこう)

図們江開発構想

21.構想力の違い

 図們江開発構想とは中国、北朝鮮、ロシアの3国が国境を接する図們江河口地域において、国連開発計画(undp)が上記3国に韓国、モンゴルを加えた5カ国と共同で進めているグローバルな地域開発プロジェクトである。この構想を発案し、推進しているのは丁士晟氏(中国吉林省副秘書長、図們江地区開発弁公室主任)である。1990年7月、長春で開催された「北東アジア経済発展会議」で、丁氏は「北東アジアの未来の黄金三角地帯――図們江デルタ」と題する構想を発表した。それは第2の香港、シンガポール、ロッテルダムを北東アジアの中心である図們江河口地域に出現させる夢を語ったものであったが、その後丁氏は国連を引き込み、各国の参加を促すなど、夢の実現に向けて活発な活動を展開している。金森久雄氏(日本経済研究センター会長)は、「丁士晟氏がいなければ、図們江開発構想は進まなかったと思う。一人の人間が、こうした国際的な大計画を推進できるというのは驚くべきことである」※参考文献(1)と高く評価している。
 第2の香港、シンガポールを目指すとしたのは、具体的には次のようなセンター機能を持たせることである。

  1. 交通センター
    世界レベルの港湾、空港を建設し、合わせて鉄道、道路の改良によって、ヨーロッパ−アジアランドブリッジの一端を担う。
  2. 通信センター
    中国、北朝鮮、ロシアとの緊密な連絡体制が必要となる。
  3. 貿易センター
    3国にまたがる地域であり、世界各地の人が定着するような国際都市を建設する。
  4. 商業センター
    香港のような買物天国を目指す。
  5. 金融センター
    北東アジアの新しい金融センターを目指す。
  6. 観光センター
    美しい自然景観と現代的都市が調和した観光センターを目指す。
  7. 文化、教育センター
    東西文化が出会う場所に北東アジアの文化、教育センターを建設する。
  8. 科学技術センター
    高度な生産力を得るためには科学技術が不可欠である。

 このような国際プロジェクトが成立するためには、関係各国がそれぞれ利益を得られるものでなければならない。表−7は図們江開発によって得られるであろう各国の利益を示す。
 図們江開発構想は2025年までの30年計画で、総投資金額は1000億ドルを見込んでいる。しかし、筆者が小樽※参考文献(2)の国際コンファレンスで聞いた丁士晟氏の講演では70年計画とのことだった。それを聞いて、さすが中国人の発想は違うと感心したものである。


表−7 図們江開発による各国の利益
国 名 想 定 さ れ る 利 益
中 国 図們江を経由して日本海に進出できる。東北地方の経済発展を促進する。第2の香港を出現させ、中国の輸出入を増加させる。東北地方の工業を再活性させる。
北朝鮮 苦境にある経済を対外開放により振興させる。首都から遠隔地にあり、開放地区としても問題が少ない。
ロシア 極東経済を発展させる。アジア太平洋地区へ進出できる。
韓 国 韓国東北部の沿岸経済発展を招来する。南北朝鮮の交流、朝鮮族との交流を促進する。
モンゴル 内陸国家が日本海への出口を得る。豊富な地下資源の開発を促進し、対外貿易収支を改善させる。
日 本 図們江河口地域は日本海側地域のどこからともほぼ等距離にある。日本海側経済を発展させ、太平洋側との経済バランスを改善させる。ヨーロッパへの輸送時間を大幅に短縮させる。


22.北海道との関わり

 図們江開発構想は直接関係する3国の国情に不安定要因がつきまとうため、現実にはリスクも大きいと考えられる。しかし、そのことが計画の初期段階ではむしろ対岸である我が国の日本海側にリスクヘッジとしての代替拠点という役割を与えることになるかもしれない。それでなくても、北陸・山陰地方は環日本海経済圏に対して積極的である。それに比較して北海道の取り組みは余りにも少ない。
 図們江開発構想が本格的に始動すると、日本海を経由して東西の出入り口となる二つの国際海峡すなわち津軽海峡、対馬海峡に新たな役割を与える。津軽海峡は北米へとつながり、対馬海峡は東・東南アジアへとつながっており、この二つのルートが図們江開発成功のカギを握ることになるからである。古来から陸路でも海路でもその主要ルートにあたるところは栄え、そのルートが変わると衰亡するというのが共通の歴史である。我が国は幸いと言うべきか、北太平洋航路という巨大海路(空路)上にある。その上、日本海対岸に大きく発展する可能性のある地域が出現してきた。こんな恵まれた位置にありながら、もし経済的に衰えるとしたら我が国に何か大きな欠陥があるとするしかなくなる。北海道にとっても対岸で進行中の図們江開発構想は大いに関心を持つべきプロジェクトである。


〈参考文献〉
(1)「図們江開発構想」丁士晟著、金森久雄監修、創知社
(2)「北東アジアの経済協力と企業の役割」小樽商科大学国際コンファレンス1995、小樽商科大学


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