北海道発未来着

序列主義を打ち破れ

23.グリーンベイ市

 グリーンベイと言われて、それが何を意味するか分かる人は相当なアメリカンフットボール通である。今年1月のスーパーボウル(アメリカプロフットボールリーグnflの優勝決定戦)で優勝したのがここを本拠地にするグリーンベイ・パッカーズなのである。nflは全米各地の29都市(ニューヨークには2チーム)をフランチャイズとする30チーム(nfc、afc各15チーム)から構成されている。それぞれの都市人口は表―8のとおりであるが、ほとんどが人口100万人以上(都市的地域)の大都市をフランチャイズにしている中でグリーンベイ市は例外とも言えるわずか10万人の町である。アメリカ四大プロスポーツである野球(mlb)、バスケットボール(nba)、アメリカンフットボール(nfl)、アイスホッケー(nhl)のすべてのフランチャイズの中で最も人口の少ない町がグリーンベイなのである。例外なのはそれだけではない。冬は北海道以上と言っても過言ではないほど寒いところで、グリーンベイ自身は小都市なので直接の気候データは分からないが、理科年表から近くのシカゴやダルースを参考にすると冬は零下10度(1月の平均気温)程度と推測される。ちなみに、旭川でも1月の平均気温は零下8.4度、札幌は同4.6度である。nflは9月から1月までがシーズンであり、まさにその極寒の季節にも試合は行われる。無論パッカーズのスタジアムに屋根などあろうはずがない。そのため、相手チームはアウェイの上慣れない寒さも敵にしなければならない。パッカーズの例外はまだある。アメリカの各プロスポーツの大半のチームが企業をオーナーとしているのに対し、市民が運営資金を出していることでも有名である。つまり、グリーンベイ・パッカーズは極寒の小さな町の市民が支える世界一のプロスポーツチームなのである。チャンピオンになって凱旋した選手達を、分厚い防寒衣を着込んだファン6万人が白銀に覆われたホームスタジアムを埋め尽くし、熱狂的に迎える姿がテレビで放映されていた。スーパーボウルの試合以上に感動的なシーンであった。
 ひるがえって我が国で人口10万ほどの小さい町でプロチームを持とうなどと発想するだろうか。唯一茨城県鹿嶋市(6万人)を本拠地とするjリーグのアントラーズがあるにはあるが、他は思い浮かばない。まして北海道では札幌でやっとコンサドーレ札幌が誕生しただけである。
 「寒い」「小さい」「遠い」は我が国ではともすればハンデとされる。グリーンベイパッカーズはそのようなハンデを市民の情熱で克服し、世界一となった。「寒い」「遠い」がややもすればハンデとされる北海道にとって、「小さい」すらも克服しているグリーンベイ市は大いなる希望を抱かせる。
 なお、本項執筆にはインターネットのnflやgreen bayのホームページを参考にした。今や新聞・テレビだけでなくパソコンも重要な情報入手(発信も)手段である。インターネットを使えないような組織・個人はまさしく時代に取り残されるであろう。


表―8 NFLフランチャイズ都市の人口  (市域人口の順、単位:万人)
チ   ー   ム   名 市域人口 都市的地域人口
ニューヨーク・ジャイアンツ、ニューヨーク・ジェッツ 731 1967
シカゴ・ベアーズ 277 841
ヒューストン・オイラーズ 169 396
フィラデルフィア・イーグルス 155 594
サンディゴ・チャージャーズ 115 260
ダラス・カウボーイズ 102 421
アリゾナ・カージナルス(フェニックス) 101 233
デトロイト・ライオンズ 101 525
インディアナポリス・コルツサン 75 142
サンフランシスコ・49ers 73 641
ボルティモア・レーベンズ 73 243
ジャクソンビル・ジャガーズ 66 95
ワシントン・レッドスキンズ 59 692
ニューイングランド・ペイトリオッツ(ボストン) 55 544
シアトル・シーホークス 52 313
ニューオーリンズ・セインツ 49 130
デンバー・ブロンコス 48 209
カンザスシティー・チーフス 43 162
カロライナ・パンサーズ(シャーロット) 42 121
アトランタ・ファルコンズ 39 314
セントルイス・ラムズ 38 252
オークランド・レイダース 37 641
マイアミ・ドルフィンズ 37 331
ピッツバーグ・スティラーズ 37 241
シンシナティ・ベンガルズ 36 187
ミネソタ・バイキングス(ミネアポリス) 36 262
バッファロー・ビルズタンパ 32 119
ベイ・バッカニアズ(タンパ) 28 211
グリーベイ・パッカーズ 10 20
注)人口データは「1994世界人口年鑑」(国際連合)による


24.序列主義からの脱却

 我が国では何につけても序列が重要視される。大学は偏差値で見事にランク付けされ、社会に入れば年功序列が幅を利かせ、スポーツの世界では先輩後輩の関係が優先され、都市間の序列も人口で決められる。人口の多い都市ほど教育、医療、文化などの施設が質量とも充実していることを当然のように考え、人口の少ない町村からそれらの都市施設へ通わせる仕組みになっていることに疑問すら感じなくなっている。これだけ交通が発達したにも関わらず、人口によって社会・文化施設の配置が決められるのは発想が時代遅れである。北海道を考えても、人口を尺度とする都市間序列にこだわっていては現状を打破することは出来ない。
 最近、公共事業についてその投資効率が一段と叫ばれるようになってきた。そのすべてを否定するものではなく、一般の納税者意識を配慮すれば概ねその方向はやむを得ないところもある。しかし、投資効率という名の下に行われる序列主義による選別は行き過ぎると、多くの地域、多くの人間の上昇志向を阻害する恐れが大きい。例えば、マラソンで折り返し点の順位のままで残り半分のレースが行われるとしたら、こんなつまらないレースはないし、選手の大半はやる気を失ってしまうであろう。このようなことを続けると日本社会はいびつなものとなりかねない。これからの地域社会が活気を持ってもらうためには、序列主義だけにとらわれることのないよう願うものである。


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