(前号から続く)
3月14日、札幌で国際環境シンポジウムが開かれ、在日米国大使館公使(行政)、全米野生生物連盟東アジア代表(NGO)、辻井達一北星学園大学教授らが講演とパネルディスカッションを行った。そこで、以前はともかく現在アメリカにおいては、行政とNGO(非政府組織)の間に相互協調・相互補完の関係が形成されているという説明がされた。これに対し、我が国では行政とNGOの関係はその多くが対立しているという会場からの指摘があった。
NGOが地球規模の諸問題に対して活動を行う団体を意味するのに対し、国内的な活動を行う団体も含めてNGO(非営利組織)として区別する場合がある。しかし、本文では行政や企業によらない活動一般をNGOとして以下表現する。
先のシンポジウムで、辻井教授が面白い指摘をされた。すなわち、行政は正規軍であるのに対し、NGOはゲリラであるという。そう言えば、政府軍は本人の意思に関わらず(徴兵制はその端的な例)、部隊に編入され作戦に従事しなければならないのに対し、ゲリラは本人の意思によって参加するというところが似ている。さらに、政府軍は大規模作戦を展開することが出来るのに対し、ゲリラは敵を撹乱する小規模作戦が主であり、両者の長所を活かし合うことによって勝利すなわち目的を達成出来るというところも似ている。
表−2は政府・行政、NGO、それに加えて民間(企業)の3者の関係を比較したものである。あらゆる面で多様化がさらに進むと思われるこれからの時代には、これら3種類の機能がそれぞれの長所を活かしながらどれだけ連携出来るかが国づくりでも地域づくりでも鍵を握ってくるのではないだろうか。そうなると、そこに所属する個人個人の意識が変わるか変わらないかが大きく影響する。政府軍や民兵に属していても、時には進んでゲリラ活動を志願するといったことが求められる。1個人1機能の時代から1個人多機能の時代に変わらなければならない。地域づくりにおいても、多様な正規軍+民兵+ゲリラという連携がなければ、勝利は覚束ない。
国レベル、地方レベルで21世紀を目指す計画づくりが進行中である。ところが、欧米へのキャッチアップを目標とすればよかった時代は過ぎ、世界最高水準の所得にまで到達したためであろうか、いま一つ世論の盛り上がりが少ないような気がする。ヨーロッパの島国であるイギリスは1955年当時、今のg7に相当する国々の中で、アメリカに次ぐ第2位の一人当たり国民所得であったが、1994年では最下位になってしまった。これに対し、アジアの島国である日本は世界一の一人当たり国民所得になったが、これをいつまで確保し続けることが出来るのであろうか。挑戦者よりチャンピオンの方が辛いのはスポーツの世界ばかりではないようだ。人口減少・高齢化社会の到来が確実であるだけに、今のうちに適切な手立てを施さないとイギリスの二の舞いになる恐れすら感じる。実際、東アジア諸国はまるでかつての我が国を彷彿させるような経済成長を続けており、本誌3月号に図を示したように購買力平価ではすでに香港、シンガポールに抜かれている。
かつてjr西日本の古橋正雄氏は「四全総のような国家フレームの形成に際し、たびたび接することになる多極分散型国土の形成のような表現、もちろんその実現を切に望むものであり、内容について異論のある訳ではないが、なにやら"決まり文句"を投げ掛けられたような、なにか空々しいような気がする。恐らく、多くの方が同じ思いで受け止めているのではないだろうか。わたしを含めて多くの方が「全体戦略の成否を左右するのは、個々の戦術である」と考えているのに、この種のレポートには"個々の戦術"の部分が述べられてなく、この事実に対する不満感が"決まり文句"として受け止めてしまうのだろうか。東京一極集中を是正するため、「地方を活性化させる」といっても並大抵の話ではなく、対象とする地域ごとに個別具体的な成功率の高い戦術が構築できないという苛立ちがそう感じさせるのかも知れない」と述べている(「関西の活性化と交通」土木学会誌別冊増刊1989.11)。
これからの計画論では掲げられる目標もさることながら、それ以上に達成させるためのシステムづくりが大切である。むしろ、具体的な目標は掲げなくても、目標を考えその達成に向けて実行するシステムがあれば、将来に対する憂いの大半は消滅する。何故ならば、国民の価値観が一様で経済に勢いがあるうちは、目標を掲げるだけで自然とその方向に進んでいくのに対し、価値観が多様化し、経済も停滞している現在、目標を掲げるだけでは実行者は現れないからである。すなわち、その目標は絵に描いた餅に過ぎなくなる。そこで、表−2に示す3機能、またはそれに属する個々人がそれぞれの得意分野の知識を連携させることにより、正規軍+民兵+ゲリラという最強軍団を結成させることが必要となる。
表−2 政府・行政、NGOおよび民間の機能比較 | |||
比較項目 | 政府・行政 | NGO | 民間(企業) |
組織原理 | 権力・権威 | 理念・価値観 | 利益追求 |
意志決定 | 一般に遅い | 早い | 一般に早い |
対外信頼度 | 高い | やや低い | やや高い |
予算規模 | 大きい | 小さい | 組織規模による |
時代ニーズ | 対応が遅い | 対応が早い | 対応が早い |
活動自由度 | 制約多い | 高い | 一般に高い |
担当者継続性 | 異動多く流動的 | 継続性は高い | 一般に流動的 |
この最強軍団を最高に機能させる条件は、2j1sである。2jとは、情報と情熱であり、1sとは信頼である。信頼感によって結ばれた、目標の実現に向けて情熱を傾ける人々が、適切に情報収集と情報発信を行う。これで、そのシステムは完璧となる。先に「歴史の終わり」で世界に一大センセ−ションを巻き起こしたフランシス・フクヤマ氏は、最近の書「『信』無くば立たず」(英語名:trust)で、「『歴史の終わり』の時期における諸制度の収斂の必然的な結果として、脱工業化社会においては、なおいっそうの進歩は野心的な社会改造計画によっては達成できないという認識が広まっている。われわれはもはや、政府の雄大な計画によって『偉大な社会』を創造できるなどと、本気で期待したりはしない 」、「『信頼』が発酵させる豊かな社会」と述べている。また同書では、アメリカ、日本、ドイツを高信頼社会とし、それが繁栄の要因であったとしているが、訳者である加藤寛氏は最近の我が国の諸情勢を捉えて、「日本は高信頼の国として生き続けられるだろうか」と今後に対して疑念を投げ掛けている。
行政もngoも信頼が基礎にあればこそである。