建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2007年1月号〉

INTERVIEW

道州制特区推進法の施行で実現に弾み

任期中に災害が続発 ─対策の重要性を痛感─

北海道知事 高橋 はるみ氏

高橋 はるみ たかはし・はるみ
生年月日 昭和29年1月6日
本  籍 東京都三鷹市
最終学歴 一橋大学経済学部 (昭和51年3月卒)
昭和51年4月 通商産業省入省
平成元年6月 通商産業研究所総括主任研究官
平成2年7月 中小企業庁長官官房調査課長
平成3年6月 工業技術院総務部次世代産業技術企画官
平成4年6月 通商産業省関東通商産業局商工部長
平成6年7月 通商産業省大臣官房調査統計部統計解析課長
平成9年1月 通商産業省貿易局輸入課長
平成10年6月 中小企業庁指導部指導課長
平成12年5月 中小企業庁経営支援部経営支援課長
平成13年1月 経済産業省北海道経済産業局長
平成14年12月 経済産業省経済産業研修所長
平成15年2月 経済産業省退官
平成15年4月 北海道知事

来春の統一地方選を控え、北海道初の女性知事である高橋はるみ知事は、一期目の任期を無事に全うしつつある。折柄のデフレ不況で税収の激減という苦しいスタートだったが、その上に自然災害が続発したり、夕張市が破綻するなど、様々な重圧に耐え続ける任期であったが、一方では新幹線着工や道州制特区推進法の施行で実現に弾みがつくなど、地道に政策を推し進めて成果が見られ始めている。同知事に任期中の政策の進捗度や成果などを伺った。

――いよいよ任期も大詰めを迎えましたが、一期目の政策の成果をどう自己評価しますか
高橋
任期中にはイラクの人質事件や道警の報償費問題、また私自身の入院などいろいろありましたが、やはり道民の生命と財産を守る立場として、災害への対応が一番脳裏に焼き付いています。 平成15年には台風10号や十勝沖地震、またこの地震による出光興産製油所タンクの火災もありました。16年には台風18号、17年には大雪被害に見舞われ、この間、道東や留萌地方でも、大きな地震がありました。さらに、記憶に新しいところでは、昨年10月の低気圧被害と11月の竜巻災害など、数々の災害に、自然の猛威を思い知らされました。
こうした災害時には、私は真っ先に災現場に入り、陣頭指揮をとってきました。自然は北海道の宝ですが、しかし一人ひとりの命は何ものにもかえ難いものです。自然への畏敬の念は大切にしつつも、その猛威を克服するのが人間の智慧だと思います。
したがって、道民の生命や財産を守るため、今後とも災害に負けない安全・安心のまちづくりを目指して闘い続けていかなければならないと感じています。
その他にも、「夕張市の問題」はようやく先行きが見えてきましたが、住民生活への大きな負担が懸念され、道民のみなさんも大変心配されています。これは旧産炭地をはじめとした自治体を取り巻く「市町村財政の問題」でもあり、また「道財政の立て直し」に向けても道民の皆様に痛みをお願いしながら、苦渋の選択の連続でした。
喜ばしいことも多々記憶にありますが、やはり、道民の皆様の生命や暮らしに関わる出来事や、またそうしたことに関連して決断した事柄などは、鮮明に心に残っています。
――成果の見られた改革、政策は
高橋
重点政策のうち、公約に掲げたものについては、実行プランである「北海道新生プラン」を策定し、政策展開のプロセスを道民の皆さんと共有しながら推進してきました。具体的には、「経済の再建」、「未来を担うひとづくり」など4つの柱に沿い、住んでいることを誇りに思える夢のある北海道の創造に向けて、私自らが先頭に立ち様々な施策を着実に推進してきたところです。
そこで、最重要課題である「経済の再建」については、緩やかながらも景気が改善傾向を見せており、15、16年度の2ヵ年における5万人をはじめとした雇用の創出、IT・バイオなどの新産業の集積や、トップセールスの積極的な展開による自動車関連産業などの進出、さらには水産物の輸出拡大や外国人観光客の増加など、産業の活性化の芽が生まれてきています。
また「未来を担うひとづくり」の政策については、あらゆる可能性を秘めた宝である子どもたちを、社会全体で守り育んでいくため、「北海道子どもの未来づくりのための少子化対策推進条例」を全国に先駆けて制定し、親子の絆を深め、赤ちゃんの言葉と心を育むための「ブックスタート事業」を創設するなど、子どもたちの未来に夢や希望が持てる環境整備が整いつつあります。
「安らぎと個性ある地域づくり」については、長年の悲願であった北海道新幹線の着工や、知床の世界自然遺産登録の実現、「北海道犯罪のない安全で安心な地域づくり条例」の制定などによる防災・防犯体制の強化、さらには14年ぶりの「交通事故死全国ワーストワン返上」の実現など、心豊かで安心な暮らしを営むことのできる基盤整備などを着実に推進しました。
「道民のために働く道庁」の実現については、地域主権型社会の実現に向けて、道州制特区の推進、道から市町村への事務や権限の移譲、将来の行政体制を見据えた自主的な市町村合併の推進、さらには地域主権型社会の実現に資する支庁体制の整備など、「道州制」・「市町村合併」・「支庁制度改革」の3つの取り組みを一体的に推進しました。
その他、危機的状況にある道財政を立て直し、持続可能な行財政構造の構築を目指すべく「新たな行財政改革の取組み」を策定し、業務の民間開放の推進や組織機構の見直しなどを進めるなど、道庁経営のスリム化が図られつつあります。
私としては、公約に掲げた政策については、概ね達成できるものと考えており、こうした取り組みによって、明日につながる「新生北海道の芽」が生まれてきているものと確信しています。
――道州制向けた北海道としての課題は、どれくらい解決されるのでしょうか
高橋
北海道が考える道州制は、地域のことは地域で決めることができる地域主権型社会を目指すためのものですが、同時にこの国の仕組みを大きく変えようとする取り組みでもあり、この先まだ時間のかかる非常に大きな改革です。それを一気に推し進めるのは難しく、一つずつ課題を解決しながら、できることから一歩一歩着実に進めていくことが必要です。
そこで、第一に国から道への権限移譲や規制緩和を段階的に進める道州制特区、第二に道から市町村への大幅な権限移譲、第三にコミュニティ再生のための取り組みを並行して進めているところです。
道州制特区は、道州制を見据えて、国から北海道への分権を進めることによって、道州制になったら「こんなメリットがあり」、「こんな可能性が開ける」といった具体例を道民の皆様や国民の皆様に実感していただき、道州制実現に向けての推進力を生み出すのが狙いです。そこで、制度的な裏付けとなる法律として「道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律」いわゆる「道州制特区推進法」が先の国会において成立したところです。
この推進法は、国からの分権を道が提案し、国と同じテーブルについて協議しながら実現していく仕組みを全国で初めてつくるもので、過去に例のない法律です。これまでは、提案しても本当に実現されるのか、財源は確実に移譲されるのかと、いろいろ不透明な要素がありましたが、その不安要素はこの推進法によって確実な仕組みとなりました。道州制特区の実現に向けて前進できる仕組みができたところに、この法律の大きな意義があるものと考えています。
例えば、その推進法では、手始めに調理師養成施設の指定・監督や鳥獣保護法の許可の一部など、国と道が担当している類似の業務を中心に移譲が行われる予定ですが、今後は、道民の皆さんや経済団体などの皆さんと活発な議論を重ね、第2、第3の提案に向けて検討を進めていきたいと考えています。
――今後の社会資本整備の取り組みと展望について伺いたい
高橋
北海道では、平成16年度度に策定した「社会資本整備重点化プラン」に沿って、少子・高齢社会や高度情報通信社会、環境重視型社会への移行といった時代の潮流への対応、民間投資に支えられた自立型経済構造への転換、自然災害や事故から道民の生命と暮らしを守るための安全な地域づくり、雄大な自然や景観、国内有数の生産量を誇る農水産物、積雪寒冷な気候や広域分散型社会といった本道の特性を活かした地域づくり、未来を担う子どもたちや産業や地域社会を支える人づくりといった目標に向けて、社会資本の重点的、効率的な整備に努めています。
その一方で、危機的な道財政の状況を踏まえ、昨年2月に策定した「新たな行財政改革の取組み」に沿って、公共事業費を含む、歳出の徹底した見直しを行っているところです。
こうした状況下で希望に満ちた北海道を創造していくためには、限られた財源を有効に活用しながら、本道経済の活性化に大きく寄与する北海道新幹線の建設促進、広大な本道の経済活動を支え、地域間交流を促進するための高規格幹線道路などの交通ネットワークの整備、局地的豪雨や台風などによる自然災害に備えた安全な地域づくりに必要な整備など、戦略的な社会資本整備が必要不可欠ですが、同時にコスト構造改革への取り組みや既存ストックの有効活用を進めることで、今後もより一層の効果的・重点的な社会資本整備に努めていく考えです。
――北海道新幹線は道民の長年の悲願でした。また旧道路公団の民活化で、整備手法も新直轄方式が登場するなど、有料道路や高規格幹線道路の整備手法も変化しつつあります。同時に、従来以上に経営上のバランスが求められるようになったため、それらの建設促進に向けては、道の役割と取り組みもさらに一工夫が必要になるのでは
高橋
新幹線には高い輸送能力に加え、定時性、安全性、環境への負荷が少ないなど数多くの優れた特性があり、首都圏はもとより、東北、北関東との文化・経済交流の促進や新産業の創出等、本道の様々な産業分野へ大きな波及効果をもたらし、北海道の活性化に極めて大きな役割を果たすものと確信しています。
また、北海道新幹線の開業によって、大きな経済波及効果が見込まれますが、その効果を全道に拡大するためには、新幹線が函館に止まらず、さらに札幌までの延伸が不可欠です。平成17年5月の着工以来、新青森・新函館間で最も長大である「渡島当別トンネル」で、東西工区あわせて約1,700mの掘削が進むなど、北海道新幹線の建設工事は順調に進められており、また昨年1O月には、新函館以北において最も長大な「桧山トンネル」のボーリング調査が実施されるなど、札幌延伸に向けて動き出しています。
新函館・札幌間の整備スキームの見直しに向けては、この1、2年が正念場と考えています。道としては、札幌延伸を確かなものとするため、引き続き関係団体との連携を一層強め、効果的な要請活動を行うとともに、札幌市民をはじめ地域住民の一層の気運高揚に向けた運動などを全力を挙げて展開していく決意です。
一方、本道の高規格幹線道路の計画延長は、全国が14,000キロであるのに対して、北海道は1,825キロであり、そのうち供用済み延長では780キロで全国一となっています。しかしながら、供用率でみると全国の64%に対し、北海道は43%と大幅に遅れているのが現実です。
また、他の都府県では、県庁所在地が高規格幹線道路でネットワーク化されているのに対し、本道では、県庁所在地に匹敵する人口10万人以上の地方の中核都市である函館市、帯広市、釧路市、北見市が未だネットワーク化されていません。
本道にとって高規格幹線道路は、「食」や「観光」を始めとする産業、経済の振興のほか、緊急医療や冬期における安定的な通行の確保などの観点からも、最重要課題の一つと考えています。そのため、一日も早く本道の高規格幹線道路のネットワーク化が図られるよう、引き続き私が先頭に立って、地元市町村や経済団体などと一体となり、国や関係機関へ強く働きかけいく考えです。
また、本道の高規格幹線道路整備においては、有料道路方式のほか新直轄方式などの整備手法を用いて推進されていますが、新直轄方式などの財源となる道路特定財源については、一般財源化することなく、かつ現行の税率水準を維持し、必要な予算の確保が図らるれよう、これについても国や関係機関に強く働きかけていく考えです

――新年度予算は、どんな基本方針で編成しましたか
高橋
平成19年度は、知事及び道議会議員の改選期であることから、当初予算は道政運営の基本となる経費を中心とした、いわゆる「骨格予算」となります。
道としては、先にも述べましたが、昨年2月に「新たな行財政改革の取組み」を策定し、道財政立て直しによる聖域なき見直しと連動させながら「コンパクトな道庁」の構築に向けて行財政改革に取り組んでいます。
特に、道財政の立て直しに当たっては、当面、19年度に予想される収支不足の解消に向けて、集中的な歳出削減等の取り組みを実行しなければなりません。
このため、新年度予算編成は、新たな行財政改革の取組みを着実に実行することを基本に、「選択と集中」の視点に立った施策全般の見直しを行うとともに、行政の簡素効率化を一層進めることとして、2定(第2回定例道議会)での政策予算を含めた年間の収支見通しを見極めながら、限られた財源の重点的・効率的な活用を図ることを基本とします。




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