建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年4月号〉

interview

建農連携が活路への糸口

――帯広冬季五輪に向けて24年がかりの夢

帯広建設業協会 会長、萩原建設工業株式会社 代表取締役社長
萩原 一利氏

萩原 一利 はぎわら・かずとし
昭和48年3月 日本大学理工学部土木工学科 卒業
昭和51年5月 萩原建設工業株式会社 入社
平成15年8月 萩原建設工業(株)代表取締役社長 就任
公職
平成 7年5月 帯広スケート連盟会長 就任
平成10年5月 帯広商工会議所常議員 就任
平成15年9月 帯広建設業協会会長 就任
平成16年5月 帯広地方交通安全協会会長 就任
平成19年4月 北海道バスケットボール協会会長 就任
他多数
本社)萩原建設工業株式会社
帯広市東7条南8丁目2
TEL 0155-24-3030

 今年5月で創業90周年を迎える萩原建設工業。1918年(大正7年)に萩原組として創業以来、十勝のインフラ整備に貢献してきた。特に橋梁工事は、独自の工法で他社の追随を許さないほど実績を上げている。いまや建設業界では常識になったISO9001を、十勝管内の業界では初めて平成11年にいち早く取得、建設業労働安全衛生マネジメントシステムも道内2番目という速さで導入するなど、近代的な経営組織に脱皮してきたが、副社長として改革の推進役になったのが現社長の萩原一利氏。萩原社長は祖父子三代で帯広建設業協会長を務めるなど十勝管内における建設業界の若きリーダー。十勝の基幹産業である農業との連携で建設業の生き残りを模索しており、農業基盤整備や農作物の流通を支える道路、港湾整備に活路を求めるという。「帯広は日本の食糧供給基地として札幌と並ぶ北海道第2の核になる可能性を秘めている」と強調するとともに、冬季オリンピックの帯広誘致の夢を語ってくれた。

――帯広建設業協会長として建設業界の現状をどう認識していますか
萩原
 10年前、十勝管内における公共工事は2,100億円、農業の生産額が2,000億円ありました。いま農業は2,600億円にまで伸びていますが、公共工事は平成18年度900億円台を割り、19年度は最終的に700億台まで落ち込むと予想されています。財政危機の道は今後7年間でさらに公共工事の削減を続ける方針なので、このままではピーク時の1/4まで落ち込む恐れがあり、これは地域に対する「死刑宣告」に等しいと思っています。  昨年7月の地元紙の報道によれば、かつて十勝に700〜800人いた型枠大工の数がいまでは200人程度と、1/3にまで減少しています。これは関東や中京の本州に出稼ぎに出ているからです。これに鉄筋工、板金工、塗装工、土工を含めると数千人が十勝から流出している勘定になります。出稼ぎによる流出は住民票を移さないため数字上は人口減になって現われませんが、実質的な人口は大幅減です。かつて自衛隊の移転問題で十勝から3千人が流出し、大問題になりましたが、それに匹敵する深刻な事態です。このように目に見えない人口流出により商店街や飲食街の購買力がダウンし、地域経済に与えるダメージは極めて大きい。平成15年9月、帯広建設業協会長に就任した当時、協会の正会員、準会員は合わせて209社でしたが、現在は160社に減っています。合併、廃業のほか残念ながら倒産した会員もいます。それが現状です。
▲社屋
――談合報道やダンピング問題に目を奪われて、建設業の本来の存在意義が見失われているのでは
萩原
 建設業の使命は、良質な工事を提供することで、地域の安全、安心、快適な環境を守ることです。のみならず、03年の十勝沖地震などでわれわれは24時間態勢で待機し、いつでも出動できる態勢を構築することで建設業が担う役割が見直されました。中越地震では地域の建設業が疲弊し、重機やダンプカーが足りなかったということも耳にしました。それぞれの地域で力のある建設業者が1、2社いなければ、地域の安全、安心は守れません。行政は災害時に貢献できる会社を把握し、育ててほしい。  公共事業が削減される中で、談合もそうですが、ダンピングも罪だと思います。果たして「安かろう、悪かろう」で良いのでしょうか。予定価格は役所が市場調査に基づいて積算しており、もともと利益という項目はありません。前渡金を資金繰りに充てるために低価格で入札し、自転車操業と手抜き工事を繰り返し、不正工事が発覚した時には施工業者はすでに倒産していたという事例だってあります。
――雇用対策も大きな課題では
萩原
 先ほども触れましたが、建設業の最大の使命は、地域貢献です。十勝の基幹産業である農業は、かつて2万戸を数えた農家戸数が現在、7千戸にまで減っていますが、離農者の雇用の受け皿になってきたのが建設業です。私が「公共事業を増やせ」と言えば業界エゴと見られがちですが、地域の雇用対策を大きくクローズアップしてほしい。  苫小牧に自動車産業が集積しても道東の人間は苫小牧ではなく、本州へ流出します。道のソフトランディング策で農業に参入した建設会社もありますが、残念ながら成功した事例はあまり聞きません。
▲新十勝大橋
――十勝の基幹産業は農業と建設業ですから、両者の連携がますます重要になるのでは
萩原
 十勝は大きな可能性を秘めています。本州の一つの県に匹敵するほどの面積があります。それを活かして、道東の核として大規模な食糧備蓄基地をつくることです。十勝の農業が発展してきたのは農家の努力と品種改良、農業基盤整備の賜物です。農産物の流通には高速道路、高規格道路整備や港湾整備が欠かせません。40%を割った国内の食糧自給率を高めるためにも農業を支援する建設業をめざしたい。  地球の温暖化が進み、北海道が一番過ごしやすい地域になる可能性があり、近い将来、北海道の農作物が見直される時代が必ず来ると思っています。  道都・札幌は明治政府が政治的に作った都市です。国内で日本海側の大都市は札幌だけ。いまの気象条件を考えるなら、太平洋側が道都にふさわしい。雪の多い札幌よりも十勝のほうが活動しやすい。東北6県は県庁所在地間の道路網が整備されていますが、北海道はすべて札幌につながっている半面、例えば帯広から旭川へ行くのはすごく不便です。十勝を一つの県に匹敵すると考えるなら、まだまだ道路整備が必要です。
――会社の経営理念についてもお聞きしたい
萩原
 私は昭和51年に入社し、平成15年に先代からバトンを引き継ぎましたが、経営は非常に難しい。コストダウンを図るのは当然必要ですが、最重点は社員の資質向上。偽装、手抜きはもってのほかで、建設業の使命を忘れず、地域を守る自覚を持たせています。適材適所で働いてもらい、リストラはしない方針で会社を運営しています。  わが社は今年5月で満90歳になります。暖簾が長くなると動きが重くなりがちですが、前例や過去の手法にとらわれず、良いものはすぐに取り入れるよう指導しています。ISO9001は平成11年に認証取得しましたが、これは建設業界では十勝管内の第1号。COHSMS(コスモス・建設業労働安全衛生マネジメントシステム)の評価証は道内で二番目です。いずれも私が副社長の時に取り組みました。これらは組織のスリム化と社員の意識改革につながっています。結果的に親の背中を見てきたと思いますが、先代社長は面倒見が良く、公平感を持っています。自分のものを人に分け与えたこともありました。見習いたいと思っています。
▲帯広市 屋内スピードスケート場
――社長就任とほぼ同時に建設業協会長に就任しましたね
萩原
 協会長としては動くしかないですね。アクションを起こす協会でありたい。建設業協会単独で旗を振る時代でもないので、商工会議所との連携も真剣に考えなくてはと、建設業界代表として4人を商工会議所の役員に送っています。  また、個人的な意見ですが、屋内スケート場の完成を機に帯広に冬季オリンピックを誘致したいと夢を持っています。札幌オリンピックでは地下鉄、長野オリンピックでは新幹線の整備が進みましたが、帯広で冬季オリンピックが実現すれば、道東を変える大きな起爆剤になります。札幌から長野まで26年間かかりました。長野から帯広まで20年から24年のスパンで誘致を目指したい。可能性のある夢じゃないでしょうか。
会社概要
代表者:代表取締役社長 萩原一利
創業:大正7年5月
資本金:80,000,000円
営業所:札幌支店、釧路支店、東京支店、
     厚岸営業所、函館営業所
営業品目:土木・建築工事設計及び施工
       土木・建築用資材の販売及び賃貸
       砂利の採集及び販売
       公害防止に関する事項
       前各号に関する事項
関連会社:東日本道路株式会社
       萩原物産株式会社
       イチエイ建設株式会社

萩原建設工業株式会社ホームページはこちら
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