建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2008年9月号〉

寄稿

豊かな自然の恵み・みどり広がる道東の酪農地帯

――自給飼料の安定供給、地域振興を目指した基盤整備

釧路支庁産業振興部農村振興課 課長 吉田 寛

▲草地整備(釧路市阿寒)

管内の概況
釧路支庁管内は北海道の東部に位置し、西部は直別川で十勝支庁と、東部は丘陵地の根釧平野で根室支庁に、北部は阿寒山系を境に網走支庁と接している。
 1市(釧路)6町(釧路、厚岸、浜中、標茶、弟子屈、白糠)1村(鶴居)から構成され、東西に132km、南北に100kmの扇状形をなし、面積は約6千平方kmで北海道の7.2%を占め、2つの国立公園(阿寒、釧路湿原)と厚岸道立公園を有する自然豊かな地域である。

管内の農業
管内の耕地面積は総土地面積の15%に当たる91,900haを有し、年平均気温が6℃と低く湿潤冷涼な気候、および春から夏にかけて「海霧(じり)」と呼ばれる霧が発生することからも草地が97%を占め、酪農を主体とした農業が展開されている。農業産出額は530億円で、うち畜産部門が96%を占めており、内訳は乳用牛が85%、肉用牛が8%となっている。農家戸数は1,550戸で、乳用牛の飼養農家戸数が1,120戸あり、1戸当たりの飼養頭数が108頭(全道平均100頭)、飼養総頭数は121万頭に達し、年間の生乳生産量は53万トンで全道生乳量の14%を占め、一部はホクレン丸により東京など大都市圏へ毎日1往復輸送されている。
また、比較的温暖な内陸の弟子屈町では畑作経営が営まれ、馬鈴薯、甜菜、小麦、蕎麦が作付けされ、釧路市近郊ではダイコン、ほうれん草、キャベツなどが地場野菜として栽培されている。

平成20年度の農業農村整備事業の概要
平成20年度の農業農村整備事業は道営事業が21地区で20億8千9百万円、団体営事業は15地区で10億2千5百万円の実施を予定している。
道営事業は担い手草地や公共牧場などの草地基盤整備が10地区で9億8千3百万円、広域農道や農免農道・一般農道が6地区で5億3千5百万円、畑地帯総合整備事業による営農用水、畑地整備が3地区で3億2千2百万円、基幹水利施設ストックマネジメントと地域用水環境整備(魚道整備)を各1地区実施する。一方、団体営事業は草地畜産基盤再編事業が8地区で8億9千1百万円、ふるさと農道が7地区で1億3千4百万円を執行する予定である。
 草地が耕地面積の殆どを占めることから道営事業全体に対して草地基盤整備が半分を占め、管内全域にわたって自給飼料率の向上や飼料作物の安定供給を目指して展開されている。また、釧路市から旧音別町間の広域農道をはじめ、厚岸町での集乳農道や浜中町、弟子屈町において整備が遅れている農道整備が進められている。
 さらに、弟子屈町では今年度から地域用水環境整備事業による魚道整備が着手され、自然環境に配慮した取り組みが実施される。

農地・水・環境保全向上対策の取り組み
 当管内においても300戸程度/5年間の割合で農家戸数が減少しており、農家の高齢化や後継者の確保に関わる問題は深刻である。農村地域の過疎化が進み、農用地や農業用施設などの維持管理が難しくなって来ており、平成19年度には弟子屈町の屈斜路湖和琴半島周辺と川湯温泉周辺の畑作地域において「農地・水・環境保全向上対策」による農地の土壌流出防止や防鹿柵の修繕、防風林の下草刈り、地域住民との協働による農村景観ウォーキング(農道美化活動)などが実施され、地域連携や環境保全への意識高揚が図られている。本年度からは標茶町でも小学校のPTAや自治会との一体的な取り組みが実施される。

今後の展開
牛乳の消費低迷や低乳価に加え、近年の購入飼料や生産資材等の高騰により酪農経営は厳しさを増しており、飼料作物の安定供給や低コスト化をはじめ、環境と調和した持続的酪農の推進と安定した酪農経営を目指した草地基盤整備として、道営草地整備事業と畜産環境総合整備事業を活用した整備を進めているところである。
 また、規模拡大が進む中において、高齢化に伴う労働力不足や施設の維持・更新が深刻化しており、自給飼料に立脚した集約放牧の普及や肉牛の導入も検討されてきている。放牧酪農における課題である農地分断を解消する交換分合にも積極的な取り組みが必要であり、今後において農作業の効率化や飼料自給率の向上、放牧に適した草種の導入を視野に入れた整備の推進も重要課題となっている。
一方、地域おこしとして乳製品の加工をはじめ、畑作地帯の屈斜路湖周辺では寒暖の差と冷涼な気候を活用した濃厚な甘さが特徴の「摩周メロン」や北のクリーン農産物表示制度(Yes!clean)に登録されている蕎麦の「摩周粉(ましゅうこ)」が栽培され、また、釧路市近郊では北限大根や野菜生産組合によるブランド化を目指しているところで、これらの取り組みを支援する基盤整備を弾力的に進めていく予定である。


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