建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年6月号〉

特集 ZOOM UP・寄稿

鳥取地方を悩ませた台風洪水と渇水

――全ての問題を殿ダムが解決

殿ダム工事事務所 殿ダム

▲殿ダム完成予想図
▲昭和54年の洪水被害の様子(鳥取県庁前)

 鳥取平野の中央を流れる千代川の歴史は、水害と渇水との闘いでもある。昭和51年、54年の大水害や、昭和43年や平成6年の渇水など、洪水と水不足を繰り返してきている。特に、旧鳥取市内周辺では住宅地の開発や工場の建設など、地域の発展に必要な水資源の確保が求められている。殿ダムは、水害や水不足から生活を守るとともに、地域の発展に貢献するダムとして、平成3年度から着工している。
 鳥取市近郊で発生している水害は、文献などに記録されているものだけでも、約400年前から17回も発生している。原因は、千代川と袋川の流れ方にあると見られ、江戸時代や、大正以降に河川改修が何度も行われたが、近年になってもなお大規模の水害に見舞われており、平成16年は9月の台風21号と10月の23号が連続して発生し、破堤や出水、洪水、床上浸水に見舞われ、旧鳥取市内で死亡者も出ている。
 このため、ダム下流の水位を下げて、洪水の被害を防ぐことは、地域にとっての緊急課題となっている。
 一方、千代川は、基準地点における基準渇水流量が毎秒4.26立方メートルで、正常流量の毎秒14立方メートルよりも大きく下回っていることから、新たに千代川から水を取水するための水資源開発が必要とされている。
 鳥取県企業局では現在、1日約10,000立方メートルの工業用水を供給しているが、これは殿ダムを前提とした暫定豊水水利権によるため、渇水時には取水できないという不安定な状況に置かれている。同局としては、将来的には国内有数の電器メーカーである三洋電機などが立地している鳥取市内の7工業団地に向けて供給する予定で、県東部地域の発展のためにも、1日も早い水の安定供給が望まれている。
 そこで、殿ダムによって新たに最大1日30,000立方メートルの水資源を確保し供給する。
 渇水に備えて学校や病院などの公共施設や、生活用水の安定供給も重要で、鳥取市の水道用水として、約4万人分の使用量に相当する最大1日20,000立方メートルの取水を可能にする。
 また、ダムの貯水を利用した発電事業により、一般家庭約1,000戸分の電気を供給する予定だ。
 平成6年8月は袋川が特に深刻な渇水となり、棲息する動植物や農作物への被害が発生した。そのため、ダムの貯水を供給して流量を維持することにより、農業用水を確保するとともに河川環境を保護する。
 工事は現在、水没する県道や町道の付け替え工事とともに、いよいよダム本体工事にも着手している。




殿ダム建設工事概要

殿ダム建設第1期工事 鹿島建設株式会社 殿ダム工事事務所 所長 村川 浩一

▲3D-CADパース図

1.工事概要
 殿ダムは中国山地から鳥取市内を流れる千代川水系袋川に在り、かつて奈良時代末期に大伴家持が国守を勤めた因幡国庁跡の残る国府町内で建設予定であり、また鳥取出身の岡野貞一氏が作曲した『ふるさと』等の童謡で親しまれた日本の原風景が残る地で施工中のロックフィル形式の多目的ダムである。
 本体工事は、入札時VE提案として「基礎掘削から盛立完了までの施工日数の短縮」「コア材仮置時の品質確保」及び「周辺地域への騒音・振動対策」に加え、主要工種において施工計画を提出し 高度技術提案型総合評価落札方式(標準型)により平成19年2月に入手し契約に至ったものである。
 工事の特徴として、以下の点が挙げられる。(3D-CADパース図参照)
@堤体の盛立材料は、材料山(コア細粒材、ロック材)や河床砂礫(フィルター材、ロック材)に加え、基礎掘削岩からコア粗粒材及びロック材を採取し狭隘な河床部への仮置とする。
A残土処理は公道運搬での処理場と猛禽類営巣地であり期間制限のある処理場の2箇所に運搬する。
B監査廊は河床部においてプレキャスト型枠を用いる。
C洪水吐は斜路部が階段状となったカスケード形式の設計を取り入れている。
D基礎処理のカーテングラウチングについては河床部に高透水ゾーンが広く分布し、注入材料として早強セメントなどを用いて止水する設計である。
E取水設備は、従来の鋼製ゲートや開閉装置を使わない連続サイフォン式を採用している。
また上記の本体工事に加え、付替え県道及び市道や付帯道路を建設するものである。

▲写真-1 上流から下流を望む ▲写真-2 右岸から左岸を望む

2.工事現況
 平成21年4月末現在の工事現況は以下のとおりである。
@堤体においては昨年10月に基礎掘削を完了し、河床部の監査廊及びブランケットグラウチングを鋭意施工し5月からの盛立を開始している。(写真-1 上流から下流を望む 参照)
A材料採取においては、昨年に下流のロック材及びコアストックパイルを完了し、現在上流の河床部でのコア材ストックパイルを造成中である。また材料山はロック材の確認のため先行採取に着手している。
B洪水吐はコンクリート製造設備等の設置を昨年8月に終えて、昨年10月から打設を開始し斜路部も一部階段部分を打設している。(写真-2 右岸から左岸を望む 参照)
C取水設備は放流トンネルの掘削及び導水管敷設を完了し塔本体の打設に着手している。
 また付替え県道及び市道や付帯工事にも着手しており、付替え県道は今年の秋に全線開通する予定である。
 以上の工事進捗に伴い、プロジェクト全体の安全管理は基より工程遵守に努めている所である。


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