建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2009年12月号〉
interview
「土木王国・北海道の土木を語る」(中編)
――北海道への公共投資は全国のため
北海道建設部長 宮木 康二氏
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宮木 康二 みやき・こうじ |
昭和27年 8月8日生まれ 室蘭市出身 |
最終学歴 |
北海道大学工学部土木工学科 |
職歴 |
昭和54年10月 北海道庁採用(小樽土木現業所) |
平成13年 4月 建設部参事(北海道エアシステム取締役) |
平成16年 4月 建設部道路計画課長 |
平成17年 4月 留萌土木現業所長 |
平成18年 4月 建設部技監 |
平成19年 6月 後志支庁長 |
平成21年 4月 建設部長 |
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北海道のインフラの特色は、下水道や公園など市町村単位の都市内における生活関連インフラは比較的整備が進んでいる反面、都市間を結ぶ道路や、治水対策に欠かせない河川、海岸整備など、広域的にして公益的なインフラの整備率が、軒並み全国よりも低いことにある。広すぎるために財源を十分に配分できず、隅々にまで行き届かないのが現実だ。しかし、それを口実にして国内最大の農水産物の産地が、今後とも陸の孤島のままとなれば、全国への食糧の輸送・供給において、他府県にも不必要な負担を強いることになる。北海道への公共投資は、単に地域経済の再生だけでなく、全国への配当という目的が含まれていることを認知される必要があり、そのためにも北海道のIR情報としてのアピールが重要である。
(前号続き)
- ―─北海道の道路の整備状況を見ると、47都道府県のうち47位で、つまり最下位という不名誉なデータがあります。実際、全国と比較して、北海道のインフラ整備はどんな状況にあるのでしょうか
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宮木 高速道路にしても、整備率は全国の71%に比べ、北海道は47%でしかありません。このため、人口10万人以上の地方中核都市さえもネットワークされていない現状です。北海道は全国の22%を占める広大な大地であるため、広域分散型社会で、都市間の距離が全国の約2倍になっているのがネックです。
人と物の輸送を見ると、本道と本州の貨物輸送の約92%が港湾を利用しています。しかし、港湾の耐震岸壁の整備状況については、本道が約3割でしかないのに対し、全国では約5割が完了しているのです。
一方、北海道には世界遺産の「知床」や洞爺湖など、豊かな「自然環境」があり、これまで国内外から年間600万人を超える観光客が来道しました。そうした人々は、8割以上が航空機を利用していることから、本道の観光産業が国際的に発展していくためには、空港の機能強化がポイントです。ところが、積雪寒冷地のため、冬季の就航率は全国平均より2%ほど低く、特に12月から1月は、道内の大半の空港で就航率が低下するといった課題があります。
また、本道は全国を上回るペースで少子高齢化が進行しています。推計では、平成42年の15歳未満人口は約9%で、65歳以上は約36%と試算されています。ところが、バリアフリー新法によって定められた特定道路の整備率は、約6割と低いのです。
しかし、良好な生活環境の形成に必要不可欠な下水道の整備率については、全国を上回っており、平成20年度末で89%と全国6位です。また、都市計画区域内の一人当たりの公園面積についても26uと全国1位で、全国平均は9uですから、広大な土地の恩恵といえますね。
- ──スマトラの災害が生々しい状況ですが、自然災害の備えについては
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宮木 本道の水害被害額は減少傾向にあるものの、平成15年から19年の平均水害被害額は全国平均の1.5倍です。20年に入ると、ゲリラ豪雨によって被害状況も地域的な濃淡が強くなっていますが、北海道は広いために平均化して見ても、やはり全国より高いのです。
ところが、河川の整備率は約4割で、全国に比べると遅れています。土砂災害危険箇所の整備率も、全国の半分程度でしかありません。保全が必要な海岸の整備率も、全国は約6割であるのに、四方を海に囲まれた本道は約4割に留まっています。
- ──やるべきことがあまりにも多いですが、広大であるために、インフラへの投資が非効率として否定的に指摘されます
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宮木 北海道の主要産業である農水産業は、日本の食糧自給率の向上に多大な貢献をしています。それら本道産業の発展のためには、それを下支えする高規格幹線道路網の整備促進が必要不可欠です。そうした整備基盤を着実に進めなければ、各地域で人々が生活し、産業を育成して担っていくことができなくなります。地方に人が住み、生産活動をしていなければ、食糧基地という北海道の役割も果たすことはできなくなります。最近は、限界集落などと、とりわけ暮らしが厳しくなっている事情があります。
したがって、全国のどの地域にあっても、福祉、医療、文化など様々なサービスを享受できるような基盤がなければなりません。手軽に都市部や郷里を往来し、例えば地方在住者が、都市部の病院などに気軽に通院できるような基盤整備が必要です。
- ――地方では交通の選択肢も限定されています
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宮木 交通手段が高速道路と新幹線だけで十分とは、私も考えていません。やはり道路、鉄路に加えて航空という三つの交通手段で役割分担をしていくべきだと思います。鉄道は「線」であり、道路は「面」であり、そして航空は「点」であると表現されますが、とりわけ北海道は航空が大切で、その優位性を生かせるよう維持していかなければなりません。
そして、道路は、それよりも限られた地域で、産業経済の活性化に資する基礎的基盤です。一方、新幹線は大量輸送機関としての役割を担います。それぞれが総合交通体系の中で、役割を分担していくことが大切です。
- ――都市部というのはわずか一部であって、大多数が過疎地ですからね
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宮木 過疎地というのは、医療、福祉に限らず、日常の消費生活においても近隣に適切な商業施設がなかったり、商品が乏しいなどのハンディがあり、それゆえに誰もが都市部を目指し、さらに過疎化が進んでしまいます。
ただでさえ、農業や漁業経営において困難な状況があるために後継者が確保できず、後継者となるべき人々は、みな都市に職を求めて出てしまいます。簡単に言えば、地方では生活ができないからです。
- ――北海道の基盤構造は、このままで良いとはいえない状況ですね
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宮木 日本における北海道の位置づけを鮮明にしていかなければ、全国の中で、なぜ北海道に投資するのかとの問いに対し、明確に説明できません。北海道は全国の理解を得ていかなければならず、それが引いては日本全国にとっての利益ともなるところに、北海道の役割があるのだと思います。そしてその成果は、後に本州へ還元されていきますから、決して無駄な投資ではないのです。
もちろん、農業・漁業が後継者不足で、経営的にも困難であるのは、インフラ不足だけが原因とは言えませんが、かといってインフラには全く問題がないとも決して言えません。
- ──将来のインフラ整備に向けて目標は
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宮木 食料基地としての機能強化のために、農水産物をより新鮮な状態で国内外へ輸送するため、生産拠点と空港、港湾などの物流拠点を結ぶ高規格幹線道路網やインターチェンジとのアクセス道路の整備など、交通基盤の整備促進や機能の強化は急務です。また、地域温暖化の影響なのか、集中豪雨が多発しており、河川の氾濫により農地に被害が発生しないように河川の整備も進めなければなりません。
それだけでなく、本道の観光産業が持続的に発展していくためにも、観光拠点へのアクセスや移動の利便性、高速性の確保が必要です。特に北海道新幹線「新青森−新函館間」の一日も早い開業と、札幌延伸の早期実現が求められます。
そこで、建設部では今年度から新幹線駅周辺基盤整備に係るセクションを新設しました。新幹線駅周辺の市町村や、今後、延伸の対象となる市町村などに、きめ細かな対応をしていくことにしています。
そして、グローバル化の進む現在、北海道経済のさらなる発展のためには、新千歳空港の国際拠点空港化も極めて重要です。安定運航や長距離国際路線の就航が可能な空港としての整備とともに、本道の空港の就航率を向上するため、計器着陸装置等の整備を進めています。
一方、道民生活においては、安全・安心でゆとりある生活の実現のために、道内への新産業誘致や救急救命医療、緊急輸送など、暮らしを支える交通基盤整備も進めていかなければなりません。
近年頻発する自然災害から人命や財産を守るための河川、海岸における国土保全施設の整備、高齢者の方々が住みやすい地域づくりに向けたバリアフリー化の促進、安心して子どもを生み育てられる住環境整備など、人口減少や少子高齢化社会に対応した社会資本の整備にも積極的に取り組んでいく考えです。
- ──すでに完成した社会資本のアセットマネジメントも、今後のテーマになりますね
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宮木 力強い経済構造や、安全で快適な暮らしのために、引き続き必要な社会資本の整備は進めなければなりませんが、その一方では人口減少などによる投資余力が減少しており、これまでのような規模の社会資本整備は困難です。そのため、施設の長寿命化や更新費用の平準化など、効率的で効果的な維持管理も重要な課題となります。社会資本ストックの老朽化に伴う更新費用の増大が懸念されるので、アセットマネジメントは大切なテーマです。
そこで、平成16年3月に「公共土木施設長寿命化検討委員会」を設置し、施設点検、健全度評価、劣化予測、優先順位付けやライフサイクルコストの算出など、総合的なアセットマネジメントシステムの構築に向けて、調査・検討に着手してきました。
これまでに橋梁や樋門・樋管の施設点検、劣化予測の手法などに関する報告書の取りまとめは完了しており、これに基づいてシステムの試行運用を行ってきました。これにあわせて、各地の土木現業所や建設コンサルタント職員などを対象とした「橋梁点検に関する講習会」も実施しています。点検者の技術力向上を図ることで、システムを的確に運用し、適切な維持・補修工事を実施するために必要な点検データの信頼性を確保するのが目的です。
今後は橋梁や樋門・樋管だけでなく、他の公共土木施設についても長寿命化修繕計画を策定し、効果的・効率的な維持管理や更新を図っていきます。
(以下次号)
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