建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2010年8月号〉
interview
公共事業は本当に使命を終わったか(前編)
―― 新時代の公共投資のあり方とは
北海道建設部長 宮木 康二氏
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宮木 康二 みやき・こうじ |
昭和27年 8月8日生まれ 室蘭市出身 |
最終学歴 |
北海道大学工学部土木工学科 |
職歴 |
昭和54年10月 北海道庁採用(小樽土木現業所) |
平成13年 4月 建設部参事(北海道エアシステム取締役) |
平成16年 4月 建設部道路計画課長 |
平成17年 4月 留萌土木現業所長 |
平成18年 4月 建設部技監 |
平成19年 6月 後志支庁長 |
平成21年 4月 建設部長 |
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14支庁再編にともない100年の土木史を担ってきた全道の土木現業所が、組織上は建設管理部として吸収され、この4月から新体制としてスタートした。折しも、国政は公共事業全否定主義の民主政権へと変わり、しかも首相は鳩山氏から菅氏に交代。のみならず、前回衆院選と打って変わって、今夏の参院選では与党が大敗北。衆参ねじれ体制という激変の中で、国家としての明確な公共投資戦略も全く見えず、全国の地方はいたずらに振り回され、落ち着いた地域整備に取り組めないという異常事態が続く。けれども、地域住民の暮らしと経済を直接的に護る自治体としては、日々の施策を滞留させることはできない責任を負っている。「公共事業は第一の波で過去の遺物」と否定する新政権の曖昧模糊とした政策理念を消化しつつも、独自の施策を進めなければならない。北海道建設部にとっては、困難な道程が始まったといえよう。その難しい局面に立った宮木康二建設部長に、今後の政策などを語ってもらった。
- ──14支庁の再編に伴い土木現業所の名称が廃止され、新体制となりましたが、その意義は
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宮木 この4月から土木現業所は支庁制度改革により、各総合振興局と留萌振興局の建設管理部として編入されました。今後は観光や福祉なども含めた、地域の総合的なテーマの中で社会資本の整備や維持管理を担当し、一体的に調整を図りながら事業を実施していくことになります。
この改革により、旧札幌土現の所管エリアだった幌加内町が、上川総合振興局建設管理部となった旧旭川土現の所管に編入され、旧留萌土現の所管エリアだった幌延町が、旧稚内土現だった宗谷総合振興局建設管理部の所管へと移管されましたが、それ以外の管轄区域や所管事務は従来通りです。これからも一層、地域の特性や地域住民の要望に応じた施策を、効率的に遂行していきます。
昨年の政権交代で、公共事業に対する考え方が大きく変わり、業務の進め方自体もそうした時代の動きや変化に対応して変わる必要があります。
- ──年々、公共投資の予算削減が続き、最盛期の5割がカットされていますが、今年度の事業予算の概要・ポイントと今後の予算動向は
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宮木 平成22年度の北海道開発予算は、国費ベースで対前年度比17%減と大幅に削減され、建設業の経営悪化など地域経済への影響が懸念されています。建設部としては、その影響を最小限にとどめるため、道財政が厳しい中ではありますが、投資単独事業を963億円、補助事業(交付金事業)を1,003億円、全体では、対前年度比97%で1,967億円の事業量を最大限確保しました。
そして、上期の執行率の目標を85%程度と設定し、早期発注や切れ目のない予算の執行に努めています。
道において今後も厳しい財政状況は続きますが、必要な予算の確保に努め、今後とも「選択と集中」の視点に立って優先性を見極めるなど、真に必要な社会資本の整備は進めていきます。
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▲総合的な治水・利水対策の推進 (当別ダム)施工写真 |
- ──新政権は、公共事業を第一の波と捉えて、社会的使命を終えたと表明しています。しかし、全国の郡部では、今なお公共投資なくして自立できる地方はほとんどないのが現状ですが、どう考えますか
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宮木 大幅な公共事業の削減により、地域の経済活動のみならず安全・安心な地域づくりに大きな影響を及ぼすことも懸念されます。しかし、一方では人口減少などによる投資余力の低下により、これまでのような社会資本の整備を続けていくことが困難になってきていることも事実です。
とはいえ、人と人、地域と地域のつながりや連携を強め、本道の経済産業活性化を図るためには、高速交通ネットワークの整備などは必要不可欠です。特に、高規格幹線道路ネットワークの整備は、都市間の時間的距離を短縮し、救急搬送など地域医療の充実にもつながるなど、どこに暮らしても安心を実感できるマチづくりを進めるうえで最も重要な課題のひとつです。
しかし、本道はいまだ主要な中核都市が結ばれていない状況にあるなど、全国に比べて大きく遅れているのが現状です。本道の経済や産業の発展を図り、食や観光などのブランド化に一層貢献していくためにも、必要な社会資本の整備は行っていかなくてはなりません。
道では“社会資本整備の重点化方針”を策定し、社会資本の整備にあたっては、その必要性や緊急性、効果などについて、有識者の方々にも参画していただき、中長期的な視点にたって点検・評価するなど、限られた財源の効果的・効率的な執行に努めています。
本道は美しい河川・湖沼など、優れた自然環境や森林と、新鮮で豊富な農林水産物など、私たちにかけがえのない恵みと豊かさをもたらす資源の宝庫です。そうした“ふるさと・北海道”を子どもたちに引き継いでいくためにも、必要な社会資本整備を着実に進め、ゆとりと安心・安全を実感できる地域づくりを進めていかなければなりません。
- ──公共投資削減下において、地域建設業の振興や地域の活性化の可能性は見込めるのでしょうか
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宮木 本道建設業を取り巻く環境は、公共投資がピーク時の半分程度に減少している状況に加え、民間投資においても長引く景気低迷の影響で減少が続いており、大変厳しい状況にあると認識しています。
昨年度は、国の経済対策の影響で公共投資が増え、日銀札幌支店による企業短期経済観測調査では、建設業の業況判断は大きく好転したものの、今年度の国の公共投資の大幅削減により、今後の予測では業況は大きく悪化すると発表されています。
これに対処するため、道としても今年度は道単独事業の確保や、ゼロ国債やゼロ道債を活用した切れ目のない事業執行などの取り組みを進めているところです。
一方、人口減少により国や地方の財政が一層厳しさを増すなかで、今後も公共投資の削減が続くものと考えられます。
建設業界の方も時代の潮流をしっかりと捉え、これまで培ってきた優れた技術力をいかし、地域資源の活用や農商工連携、産学官連携による新たな技術・サービスの開発といった取り組みの促進を図り、逆境を新たなビジネスチャンスとして前向きにとらえることが必要です。
道内の各建設業団体においては、海外への販路開拓に向けた取り組みや、地域の経済団体と連携した観光振興などの動きも出てきていると承知しています。道においても、今年度からこうした地域の建設業団体の取り組みを支援することにしており、地域資源の活用や地域の経済団体と連携を図り、地域の活性化につながる取り組みが進むよう期待しています。
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▲総合的な治水・利水対策の推進 当別ダム建設事業(完成予想図)(当別町) |
- ──政府は公共投資による建設経済から、観光、環境などを成長分野として投資比率を移行する考えのようですが、大都市と異なり大部分の地方はいまなお建設経済や第一次産業への依存度が高いのが現実で、北海道はまさにその典型ですが
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宮木 本道の社会基盤は、本州に比べて遅れており、特に高速道路は、この3月でようやく計画路線の半分が完成した程度です。全国では72%に達していますから、今なお立ち後れています。また新幹線にしても、札幌への延伸が決まっておりません。高速道路にせよ新幹線にせよ、これらは国家戦戦略として整備すべきだと思います。まだまだ、本道では社会基盤の整備が必要です。
その一方で、新たなビジネスや産業を興す地域の努力も必要です。環境というキーワードにおいては、北海道では冬期間の寒さを活用し、雪による冷房システムの開発や、夏場の涼しさを活かした大型コンピュータの冷却システムの開発に当たるなど、新しい取り組みも見られるようになりました。また、冬期間の暖房の必要から、全国で最もCo2排出量が多い地域ですから、それを抑制できる住宅建設を検討しなければならないという地域的課題もあり、成長分野としての期待も持たれます。
- ──日本における北海道の位置づけが揺らいでいるという懸念はありますか
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宮木 例えば、北海道は食糧基地であり、日本全体の自給率を向上させる上での大きな役割を担っています。そのため、農水産物を輸送するためのインフラも必要ですが、農業者や漁業者の方々が道内各地で生産活動に従事し、安全で安心して、地域で暮らすことのできる環境整備も必要です。そのひとつとして、道路や河川の整備もあると思います。
北海道が食糧基地、また観光基地などとして、日本の発展に貢献している現状を踏まえて、北海道の位置づけ、役割を再度主張していかなければなりません。これからも北海道が、我が国へ貢献していくためには、本道の社会基盤整備が必要であると考えています。
- ――今年度の開発予算の大幅な削減の影響は
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宮木 本道の経済状況は依然として厳しく、建設業では、昨年から今年にかけての補正予算で20%ぐらい事業量が増加しましたが、今年度の大幅な削減を受けて、秋以降、大きな影響が出るのではないかと懸念しています。
今後に向けて政府が、予算の補正を行うのかどうか、動向を見極めながら道内の状況を踏まえて、対応していかなければならないと思います。
(以下次号)
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