建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2013年11月号〉

【連載シリーズ 第3回】

国交省の広報戦略

―― 大衆へのPRとイメージアップで建設業の再評価へ

国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課


B戦略的広報のターゲット

 「A戦略的広報を進めるねらい」の下で戦略的に広報を進めるためには、広報のターゲットを明確にして取り組むことが必要です。
 まず、第一はこれから建設産業への入職が期待される若者です。すなわち土木や建築科等の専門課程を置く高校の生徒や土木建築関係の専門学校の学生、さらにはこういった学校への進学が低下していることを踏まえ、普通科高校の生徒や大学等も視野に入れることが必要です。
 第二は学校の教員や学校そのものです。若い人に建設業への入職のきっかけを聞くと、授業を受けている中で興味をもったとか学校の薦めといったことが挙げられており、入職を働きかける上で高校や専門学校等の学校が重要な場であることは明らかです。また、生徒や学生を指導する教員自身も建設業界での経験や接点が少ないことがあり、ここに働きかけ正しく理解してもらうことは重要です。
 第三は保護者です。学校の先生が生徒に建設産業への就職を勧め本人がその気になっても保護者が建設産業に悪いイメージを持っていて難色を示した結果、就職を諦めたといった話がよく聞かれます。子供の就職先決定に大きな影響力を持つ保護者への広報は重要です。
 第四はいずれ生徒・学生になるより若い世代です。具体的には、未就学児からはじまり、小学生・中学生に対する働きかけです。幼い子供の頃、私たちは、近所の大工さんのかんな削りに目を見張り、ショベルカーに興奮しました。匠の技と建設工事のスケールの大きさに、驚きと憧れを感じるのは、今の子ども達も同じです。しかし都会では、今やドラえもんののび太達が遊んだ空き地もなくなり、昔は当たり前だった「建設産業の意義」を体験する機会が失われてきていることを踏まえた広報を考えるべきです。
 第五は世間一般です。第三に挙げた保護者の典型的な反応は、結局のところ世間一般がそのようなものの見方になっているということの現れです。世間の評価を変えようとするとこれは大変で、結果を出すには相当な困難が伴いますが、この際発想を変え、双方向のコミュニケーションを行うということを意識した取組を進めることで、徐々に理解・信頼の輪を広げ、結果につなげることも考えていくべきでしょう。


(2)戦略的広報に向けたポイント
 戦略的な広報を具体的に進めていくに当たっては、次のような点に留意しながら、取り組みを進めていくことが必要です。

@双方向コミュニケーション

 広報及びPRの本質は、企業や団体が社会の中で存続し発展・成長していくために必要とされる、“良好な関係づくりのために必要な双方向コミュニケーション”であり、さらにいえば、単に語り、耳を傾けるだけでなく、それを通じて“より良い共生関係の実現に向けて自己矯正していく”ことにあります。
 また、古代ローマのカエサルには、「人は自分がみたいと思う現実しか見えない」という言葉がありますが、人は通常、自分が知っていて、自分が興味を持っていることについては情報を受け、ものを考えますが、知ってはいるが興味のないこと、まったく関心がないことについてはその情報を意識的または無意識的にスルーする性質をもっています。
 こういったことを踏まえれば、まず、私たち建設産業として伝えたいものを受け手に押しつけるのではなく、私たちの暮らしを支える社会資本のように、見えないものの大切さ、見えにくい価値や役割に気付いてイメージしてもらえるようなコミュニケーションを図り、受け手の理解や信頼を得ることから始めて、共に社会を築いていくという方向を打ち出していくことが考えられます。

A受け手に合わせた広報

 広報を進めるに当たっては、受け手として想定している学生・保護者・世間一般の人たちに、建設産業について「気付いて」もらい、意識されるようにしていくことが必要です。情報を伝える側と受け取る側では、どうしても物事を見る位置や視点が異なります。また、情報の非対称性があることも明らかであり、情報を出す側と受ける側の情報格差を意識することも必要です。そのため、広報を進めて行く際には、受け手が聞きたいことを提供するということに留意しつつ、戦略的なテーマ設定(季節やトレンド、社会問題に絡める、○○で初、チャレンジ、未来志向、困難に立ち向かう、建設産業における「ヒーロー」等)を行い、メディアの関心が向くように工夫して、“説得”ではなく“共感”を呼ぶ、顔が見える広報を行い、今まで見えていなかったものに「気付いて」もらえるようにしていくことが必要です。
 また、情報の受け手の関心に引き寄せて情報を発信し、注目を集めるようなシナリオを描く工夫を行っていくことも求められます。その際には、米国で提唱された消費者の心理的プロセス・モデルであるAIDMAの法則を応用して、段階的に広報目標を設定してきめ細かく取り組むことも必要です。

B戦略的メディアチャネルの設定

 広報メディアには様々なものがあります。伝えたい受け手とその都度の広報のテーマに応じて、戦略的にメディアチャネルを設定していくことが必要です。影響力が大きいテレビ・ラジオ・新聞・雑誌等のマスコミへの働きかけが有効であることはもちろんですが、広報にあてることができる資源は限られています。
 効果的に広報を実施するために、メディアの特性を見極め、様々なメディアを組み合わせて選択と集中により、広く学生・保護者・国民の関心を集める情報発信を行っていくことが必要です。現代のクチコミであるソーシャルメディアの活用、様々な専門領域で影響力のある人へのアプローチも有効であり、様々な手法を駆使しながら、次の世代のために建設産業は取り組んでいるといったメッセージを発信する広報を進めていくことが必要です。(第4回へ続く)

※参考:AIDMAの法則 AIDMAの法則とは、1910〜20年代に米国の広告業界で提唱されたモデル。AIDMAの法則では消費者が消費行動に移るまでに「Attention(注目・知ってもらう)」→「Interest(関心・興味を持たせる)」→「Desire(納得・喚起させる)」→「Memory(記憶・繰り返す)」→「Action(行動)」の5段階があるとされており、AIDMAの法則は、広報対象に対してAIDMAのどの段階で、そのような影響を与えるかを目標化することで効果を発揮するという基本的な仮説である。


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