建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2015年8月号〉

地域の「ものづくり産業」を支える名古屋港

―― 物流の機能強化を図る

 国土交通省 中部地方整備局 名古屋港湾事務所 所長 永井 一浩

名古屋港を南から望む

1.はじめに

名古屋港位置図
 名古屋港は、中部地域のものづくりを支え、平成26年の総取扱貨物量は、約2.1億トン、13年連続で全国1位、貿易額は17.1兆円(輸出額11.4兆円、5.7兆円)、輸出額は16年連続で全国1位となっています。
 名古屋港内には現在、コンテナを取扱うコンテナターミナルが3地区にあり、2014年のコンテナ取扱量は、飛島南側ターミナル(TCB)で約47万TEU、岸壁延長2,220mにも及ぶ飛島東側ターミナルで約100万TEU、鍋田ターミナルで約109万TEUという状況です。これらを合計したコンテナ取扱個数は約257万TEU、取扱量は4,861万トンで、取扱量では全国1位となっています。このコンテナ貨物の主要品目は、自動車部品、産業機械、衣類・身廻品であり、港は中部地方の経済のみならず、日本の経済を支えています。

2.名古屋港の現状と課題

1)船舶の大型化

飛島南側コンテナターミナル
大型コンテナ船
 近年、造船技術の発達や物流コストの低減を目的に、コンテナ船を始めとする船舶は大型化しています。名古屋港にも現在、13,000TEU級(船長約366.0m、満載喫水15.5m)を始め、既存のバース延長や岸壁水深を超える大型船が入港している状況です。
 一方、名古屋港は他港に比べて奥行が長く、航路の距離も長いため、入出港の制約が多く、加えて、東航路は水深16mが必要です。現在の水深は15mで、十分な水深が確保されていない状況です。

2)狭隘な土地利用

 昭和34年に来襲した伊勢湾台風後に高潮防波堤が整備され、名古屋港内には静穏な水域が生まれました。この水域に港内で発生した浚渫土を活用し、埋め立てて土地を造成し、そこには多くの企業が立地しました。
 港やその周辺には自動車関連企業が多く立地しており、名古屋港は我が国の約4割を占める最大の完成自動車輸出拠点となりました。この拠点は新宝ふ頭、金城ふ頭、弥冨ふ頭の3か所にあり、年間約150万台の完成自動車がこれらのふ頭から輸出されています。
 しかしながら、完成自動車を取り扱うモータープールが不足しており、周辺の空いた土地をなんとか確保し、モータープールとして利用せざるを得ない状況です。そのため、金城ふ頭では小規模なモータープールが30ヶ所以上に点在しています。

3)港湾施設の老朽化

 台風による高潮や地震による津波の際に、多くの企業が立地する背後圏を浸水から防護する高潮防波堤は、老朽化が著しく、大規模地震発生時には液状化により沈下し、その機能を十分果たせないことが懸念されたため整備を行い、平成27年3月に概成したところです。
 名古屋港の国有港湾施設(岸壁)の半数以上が建設後30年を経過しており、老朽化が深刻となっています。特に、高潮防波堤の建設以前に建設された湾奥部の港湾施設は老朽化が著しく、緊急的に対策が必要な箇所から計画的に対策を講じていくこととしています。

3.名古屋港湾事務所の取組

1)完成自動車の輸出拠点の整備

 金城ふ頭において、船舶の大型化に対応するための岸壁整備や、モータープールなどの用地不足に対応するための埋め立てを行う「ふ頭再編事業」に着手しました。この「ふ頭再編事業」は、平成27年度に新規採択されたプロジェクトであり、今年度は、整備に向けての土質調査や設計を行っています。また、新たに水深12m耐震強化岸壁(延長260m)を整備し、あわせて航路・泊地の整備を行う予定です。

2)国際海上コンテナターミナルの整備

 北米航路や欧州航路といった基幹航路の維持を図るための高効率なターミナルの整備として飛島南側ターミナルに水深16mの岸壁、航路泊地を整備しました。現在は、岸壁に対応した東航路の整備を行っています。船舶の大型化に早期に対応するため、計画では水深16m、幅580mのところを幅420mにて、平成27年秋の暫定供用を目指しています。

伊勢湾台風当時の浸水区域
3)高潮防波堤

高潮防波堤

 昭和39年の完成後、50年以上が経過した高潮防波堤の老朽化対策及び大規模地震時の沈下・津波対策のため平成25年度より改良工事を進め、この3月に概成しました。改良が完了していない一部については、平成27年度に引き続き陸上部の嵩上工事や劣化したコンクリート部の断面補修工事などを行う予定で、これにより高潮防波堤は、伊勢湾台風クラスの高潮や南海トラフ地震など最大クラスの地震を起因とする津波に対しても粘り強く効果を発揮します。

4)浚渫兼油回収船「清龍丸」

浚渫兼油回収船「清龍丸」
 当事務所所有の浚渫兼油回収船「清龍丸」は、通常時は東航路の浚渫作業に従事しています。東航路は航行船舶が多いため、航行の支障とならないように作業を行う必要がありますが、「清龍丸」は航走しながら浚渫作業を行うことが可能なため、航行船舶に影響を与えることなく航路内の浚渫作業を行っています。しかし、大規模油流出時には、迅速かつ確実な油回収作業が実施できる体制を整えています。また、災害時の被災状況の把握や人員・物資の輸送にも対応しており、東北地方太平洋沖地震の際には陸上輸送が困難な被災直後に釜石港、大船渡港まで、緊急支援物資などを運搬しました。
海洋環境整備船「白龍」

5)海洋環境整備船「白龍」

 当事務所所有の海洋環境整備船「白龍」は、通常時は伊勢湾・三河湾の海面浮遊ゴミの回収作業を実施しています。しかし、非常災害時には航路の啓開作業を行い、緊急物資を輸送する船舶の通行ルートの確保に従事します。東北地方太平洋沖地震の際には仙台塩釜港及び石巻港で約1ヵ月間、航路の啓開作業にあたりました。

6)名古屋港港湾機能継続計画(名古屋港BCP)

 災害発生時に関係者が連携して的確に対応するために、共有しておくべき目標や行動、協力体制等をとりまとめ、整理・明確化することにより、港湾機能の早期回復を図ることを目的として、平成27年6月1日に名古屋港管理組合など関係各所とともに、名古屋港港湾機能継続計画を策定しました。
 緊急物資輸送は、発災後3日以内に最小限の海上輸送ルートを確保し、発災後7日以内に順次、緊急物資輸送ルートの拡充を図ること。コンテナ貨物は、発災後おおむね7日以内にコンテナターミナルの耐震強化岸壁4バースの機能回復を目指すこと。一般貨物(完成自動車、産業機械など)は、耐震強化岸壁3バースでの緊急物資取扱が落ち着いた段階で順次、輸送を開始することなどの目標を記載しました。

4.これからの名古屋港のために

 今年は、高潮防波堤の建設のために名古屋港湾事務所の前身、運輸局第二港湾建設局名古屋港工事事務所が発足してから55年となります。先人が将来を見据え現在の名古屋港を形作ったように、我々も、後人のために名古屋港の将来の姿を思い描きつつ、中部圏の発展を願い、多くの課題解決に向け取り組んでいく所存です。


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