建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年1月号〉

【寄稿】

東三河の暮らしと産業発展をバックアップする設楽ダム

 国土交通省 中部地方整備局
 設楽ダム工事事務所長
須賀 正志


図-1 設楽ダム予定地 図-2 豊川流域図

1.はじめに

図-3 貯水池容量配分図

 豊川(寒狭川)は、愛知県北設楽郡設楽町の鷹ノ巣山(段戸山)標高1,152mに源を発し山間渓流を流れ、愛知県新城市長篠地先で宇連川と合流し豊橋平野に流れ三河湾に注ぐ幹川流路延長77Km、流域面積724Km2の一級河川です。
 その流域は愛知県東部に位置し、東三河地域の中心となる豊橋市や蒲郡市などがあり、近年新東名高速道路や三遠南信自動車道が開通し、名古屋市や静岡県浜松市などへの移動の利便性が向上したことから、経済や文化交流の益々の発展が期待される地域です。
 設楽ダムは、豊川の河口から約70Km上流の愛知県北設楽郡設楽町(図-2)に建設する集水面積約62.2Km2、貯水面積297ha、高さ129m、総貯水容量9,800万m3の治水、利水を目的とした多目的ダムです。(図-3)
 治水について、豊川はこれまで幾度も洪水による被害を受けてきました。戦後最大の洪水として記録された昭和44年8月の洪水では、7棟の家屋が流失し、919棟が半壊・床上浸水しました。
 これに対し、設楽ダムでは同規模の洪水(30年に1回の確率)が起きたとしても、設楽ダムと下流の河道改修の効果をあわせて、決壊などの大きな被害を防止し、霞堤地区の被害を軽減します。さらに、150年に1回発生する大洪水に対しても下流の基準地点で約1m水位を下げる効果があります。(図-4)

図-4 洪水の調節


 利水について、豊川では平成17年の渇水を始め、近年では降雨傾向の変化により取水制限を伴う渇水が平成24年から3年連続して発生しています。
 これに対し、設楽ダムでは東三河地域における水道用水と農業用水として約0.5m3/sの水量を流す事が可能となり、中部圏で最も水需要が切迫している東三河地域における水道用水と農業用水が新たに利用できるようになります。

2.事業の進捗状況

図-5 事情の進捗状況(令和元年11 月現在)

 設楽ダム建設事業については、昭和53年に実施計画調査に着手し、平成21年には国、愛知県及び設楽町がダム建設同意の調印を行いました。
 ダム本体関連工事については、平成28年度から、転流工に着手しています。今後は、順次ダム本体に関わる基礎掘削等に着手する予定です。
 また、ダム建設に伴い、湛水する道路の付替工事についても同時に進めています。(図-5、写真-1〜3)

写真-1 転流工工事
写真-2 ダムサイトへの進入路工事
写真-3 付替道路工事

3.地域観光への取り組み

表-1 設楽ダム現場見学実施時のツアー参加人数(平成30 年10 月〜)

 ダムが建設される地点は、かつて旧田口鉄道が運行しており、ダム完成後、旧田口鉄道の路線はダム湖に水没します。旧田口鉄道は昭和43年8月に廃線し、約50年という長い年月が経過しています。
 近年全国的な廃線ツアーのブームであり、豊橋鉄道(株)は、旧田口鉄道廃止50年特別企画「奥三河再発見」として、廃線巡りのツアーを開催していましたが、ダムに関する説明を求められました。
 その際、同行していた職員により施工中であった転流工を案内したところ非常に高評価であったため、それ以降は豊橋鉄道(株)及び設楽町観光協会に対し「ダムの工事現場を見学できる」ことを積極的にPRし、旅行ツアーの一部として現場見学を取り入れて頂きました。
 その結果、募集定員40名に対してほぼ満席状況の人気のツアーとなり、観光客の集客UPに寄与しています。(写真-4〜5、表-1)

写真-4 転流工トンネルの見学
写真-5 工事用道路の見学


 また、設楽町観光協会からは愛知県外のツアー会社からも問い合わせや申し込みが徐々に増えており、昨今では遠方からのツアー客も訪れるようになっています。

4.おわりに

 ダム建設のような大型公共事業での工事現場見学ツアーは近年増加傾向にあると思われ、特にダム建設ではダム本体工事以外にもトンネルを含む道路工事や周辺施設整備など、普段見られない様な工事が狭い地域の中で見られる数少ない現場であると思います。
 設楽ダム工事事務所では、今後の事業進捗に合わせた工事現場見学を提供することにより、設楽町など関係者と連携してより一層の地域での観光促進に寄与していきたいと考えております。(写真-6)

写真-6 設楽ダム完成予想図


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