8月25日午後2時30分頃に、北海道後志管内島牧村の国道229号にある第2白糸トンネル(総延長741m)で、大規模な岩盤崩落事故が発生した。偶然、トンネル内を通行していた人々の話によると「ドーンと大きな音がして耳が痛くなり、車内にいても車体全体が圧縮されているのが分かった」ほどの激しい崩落だった。
現場はトンネル南の瀬棚町側入り口で、高さ200mの山頂から、幅30m、長さ70m、厚さ10mの海側に面した山肌が削られるように崩れ、土砂が幅100mにわたってトンネルを中心に周辺を覆い尽くし、海面にまで及んでいる。土砂によって覆われた海面は赤茶色に染まり、不気味な光景となっている。
土砂の量は約2万m3で、昨年の豊浜トンネル崩落事故の2倍と推定される。
崩落箇所の向かって左側には、なおもオーバーハング状態の巨岩が残っており、いつ崩落するか分からない状態で、その周辺では時折り小崩落を繰り返している。この巨岩はその後、28日に崩落した。
崩落原因は、最近の雨が亀裂に入り込み、水圧が上がって崩壊を促したものと見られている。
第2白糸トンネルは1976年に竣工したもので、延長は741mうち外部巻き出しは160mで、日本海に面した海沿いのルート。入り口から100mが土砂で覆われているが、「巻き出し」の一部分は露出している。
なお、このトンネルは、93年7月12日の南西沖地震の際にも小規模の崩落があり、巻き出し部分が30m近く陥没したことがあった。
現地では、国、道、市町村、警察、消防など各機関ごとに対策本部が設置されたほか、これらの機関が合流して道の丸山達男副知事を本部長とする現地合同本部も設置された。
このトンネルを所管する道路管理者の北海道開発局では、かつて局建設部長として豊浜トンネル崩落事故の合同対策本部長を務めた新山惇局長を本部長とする「一般国道229号第2白糸トンネル災害連絡本部」が設置された。一方、地域を所管する小樽開発建設部には、熊谷勝弘部長を本部長に対策本部が設置された。
現在、不眠不休で復旧作業が行われているが、小崩落が繰り返されるたびに作業の中止を余儀なくされ、また大規模な二次災害の恐れもあるため遅々として捗らない。
このため、建設業者は移動式クレーン、パワーショベル、ブルドーザなどの他に、リモコン式重機も総動員して、安全に注意しながら土砂の撤去作業が、三交代制で行われている。
また、前回の豊浜トンネル崩落事故では、同局の情報公開や広報対応にマスコミからの批判が上がった。今回は、本局広報室の河合力富広報企画官らが広報班として現地入り。広報室職員らとともに不眠不休で情報収集と報道対応に当たっている。
現地は緊急用のNTT回線が1回線しか敷設されてないため電話がなく、本局広報室と対策本部は開発局独自の衛星回線を使って連絡を取り合っている。
人的被害は今のところ確認されていないが、事故直前に2台の乗用車がトンネルに向かったとする目撃情報や、トンネル内で崩落音と煙に巻かれてUターンし、危うく難を逃れたなどの証言もある。
幸い、事故当時にトンネルを通行していたと見られる乗用車については、すべて安否が確認されたが、道警と札幌市消防局は、なおも、内部に人や自動車などがとり残されていないか、探査機などを用いて調査している。しかし、厚い岩盤に阻まれて確定的な情報を得るには至っていない。
平成8年2月10日に同じ国道229号「豊浜トンネル」で発生した崩落事故を契機に、北海道開発局は、同年2月13日付で建設省が発令した「トンネル坑口部等の緊急点検について」を受け、全道のトンネル坑口部及び落石覆工の全施設箇所の点検を実施した。
この点検は、開口亀裂の規模をはじめ、岩盤の亀裂状況、法面・斜面の傾斜、岸壁の高さ、凍結融解・湧き水の有無などの項目について、岩盤工学などの専門家も参加し、目視・踏査などで行われた。
この点検結果に基づき、今後の対応方針は1から5に分類・整理された。対応方針1は『対策を必要とする』、対応方針2は『より詳細な調査を行い、対策の要否について検討する』、対応方針3は『当面、通常巡回及び定期巡回による重点的な観察を継続』、対応方針4は『特に新たな対策を必要としない』、対応方針5は『対象箇所ではあるが、積雪等により点検が未完了、雪解け後直ちに点検を実施し、必要な措置を講ずる』となっている。
今回、崩落事故が起きた第2白糸トンネルのある国道229号の島牧村管内には、12カ所のトンネルと17カ所の覆道がある。平成8年4月12日に局が発表した平成7年度の点検結果で、対応方針1と判定された箇所は1カ所もなかったが、対応方針2と判定された箇所は「穴澗トンネル(L=340m、W=8.0m)」、「第1白糸トンネル(L=300m、W=8.0m)」、「立岩覆道(L=422m、W=8.0m)」、「第2白糸トンネル(L=741m、W=8.0m)」、「オコツナイトンネル(L=386m、W=8.0m)」、「赤岩覆道(L=130m、W=8.0m)」、「八峰トンネル(L=65m、W=8.0m)」、「第2タコジリトンネル(L=386m、W=8.0m)」、「穴床前覆道(1)(L=42m、W=8.0m)」の9カ所。
ちなみに、この時の局の説明では「対応方針1とは、『対策を必要とする』と判定された箇所のことであるが、直ちに危険というわけではなく、災害に至る要因が点検の結果、発見されたということ。この結果を踏まえて、今後の早急な災害防止のための対策に着手し、道路交通の一層の安全確保につとめる」ということだった。
だが、当時は冬の積雪で正確な調査は不可能だったため、改めて精細に調査。その結果、「穴澗トンネル」、「第1白糸トンネル」、「立岩覆道」、「第2白糸トンネル」、「オコツナイトンネル」、「赤岩覆道」、「第2タコジリトンネル」の7カ所については対応方針1に格上げされ、平成9年2月5日に発表された。(P.16参照)
そして今回、事故が発生した「第2白糸トンネル」については、防災対策が計画され、平成10年度から本格着手する予定だったのだが、その矢先の事故発生となってしまった。
「危険度がAランクなのになぜ放置したか」と、今回の事故に関する道路管理者の責任問題が論議され始めた。現場を抱える島牧村の水守義則村長は、「第2白糸トンネルに限らず、本格的な防災対策に早く着手してほしい」と、何度も国側に要請してきた。確かにもっと早く着手していれば、この事態は避けられただろう。
しかし国側では、10年度まで対策を延ばさざるを得なかった。その背景には、公共事業のリストラや経済性、効率性追求の風潮と、崩落予知技術の未発達とが密接に絡んでいる。
道内には数百箇所に及ぶ危険個所があるが、これを一斉に同時着手することはおよそ不可能だ。ただでさえ、「公共事業はムダ」と世論の非難が集中している情勢でもある。そのため、危険度のランクづけをして優先順位を決めて順次着手しているのだが、それでも事業費は追いつかない。
第2白糸トンネルについては、とりあえず防災対策として発泡スチロールが巻き出し部分に設置されていた。しかし、これは2万Fもの土砂崩れを想定したものとはいえず、いわば気休めでしかない。しかも、よりによって崩落部分だけは未着手のままだったというから皮肉な話しだ。
したがって、頻繁に危険個所を監視しながら、より早く崩落しそうな箇所を正確に見抜き、事業優先箇所を的確に絞り込んでいくしかない。
だが、問題はいつそれが起こるかについて、正確に予知する術がないことだ。「いずれは崩れるだろう」、「10年単位で見れば危ない」などということは素人にも言えることである。震災では地震予知の難しさと技術的な可能性が論議されたが、崩落の予知も同様に至難の業と言われる。
この技術が確立されているならば、着手のタイミングを間違えたり、判断ミスを犯すことは少なくなるだろう。
不特定多数の人々が利用する公共施設だから、安全性の確保は当然の命題だ。耐用年数を100年とすべきか、50年程度とすべきかは議論の分かれるところだが、経済性、効率性を優先して安全性が後回しになるのは本末転倒だ。危険予知技術が十分に確立されていない現段階では、公共事業の経済性や効率性を金科玉条とするのは時期尚早で、むしろ危険なのではないか。
一方、とかく3Kなどと言われている建設業界だが、こうした緊急事態では常に敏速に現地へ急行し、自主的に必要な重機を動員して、まさに二次災害の危険と隣り合わせの状況下で復旧作業に当たっている。そうした業界の良心と努力、技術力は、この機に見直されても良いだろう。