釧路町長選介入事件で釧路市長を逮捕
釧路市との合併問題が争点となった10月20日投開票の釧路町長選をめぐり、釧路市役所が組織ぐるみで合併早期実現を訴えた新人の前釧路町議会副議長・倉井俊勝候補の支援=落選=に動いた「釧路町長選介入事件」は4日、ついに綿貫健輔市長の逮捕にまで発展し た。この事件では川田修敬保健福祉部長、事務方トップの柿崎英延助役がすでに公職選挙法違反容疑(公務員の地位利用、事前運動)で逮捕されている。綿貫市長自身は事件への関与を繰り返し否定していたが、「トップとしての責任を明確にするには、辞職以外に打開の道はない」として、3日、市議会議長に辞表を提出したばかりだった。突然の辞職表 明は、捜査の手が自分に及ぶのを覚悟したうえでのことだったとみられ、強気の弁明に終始していたトップの逮捕劇に道東の中核都市・釧路市役所に動揺が広がっている。
道内で現職市長の逮捕は戦後初めて。綿貫市長は釧路町長選の告示前の10月上旬、柿崎助役らと共謀し、部下の職員数人に対して、釧路町在住の市職員187人に合併推進派の倉 井俊勝候補(落選)への投票や票の取りまとめを指示した疑い。市長とともに企画財政部参事も同様の容疑で逮捕された。これで事件の逮捕者は4人となった。
釧路管内6市町村(釧路市、釧路町、白糠町、音別町、阿寒町、鶴居村)の広域合併問 題は、道内市町村合併のモデルケースと位置付けられ、この10月に合併協議会が発足したばかり。釧釧合併の実現を公約に掲げて2000年に二選を果たした釧路市長の逮捕により、6市町村合併の原点である〃釧釧合併〃は完全に暗礁に乗り上げた形。先の町長選で釧路 市の介入を受け、3選した「合併慎重派」の菅原澄町長は、釧路市長の逮捕を受け、「憤 りを禁じ得ない。合併協議は相当期間の遅れが出る」と話した。 釧路管内の広域合併問題は、昨年11月、釧路市と釧路町との釧釧合併協議会設置を求める住民署名が法定数を大幅に超えたことに始まる。これを受けて、同協議会が4月に正式 発足したが、釧路町議会は協議会設置案可決の際、広域合併への移行を前提とする付帯決議をしたのを機に、釧路支庁の仲介もあって、合併の動きは「釧釧」から「広域」に方向転換した。同町議会の付帯決議は、菅原町長を支持する主流派の議員が提案した。釧路市の吸収合併色が強くなる「釧釧合併」に対する抵抗感のほか、合併論議の先送りを狙ったとみられ、これに反発した釧釧合併推進議員が中心となって倉井氏を町長選に担ぎ出した。釧路町のペースで進んだ広域合併への方向転換に、釧釧合併が持論の綿貫市長ら市幹部には、「参加市町村が多く、合併論議に時間がかかる」と、実現を危ぶむ焦りがあったようだ。2期目の折り返しに入り、合併問題に一定の道筋を付けた上で3選出馬に臨むつもりでいた綿貫市長としては、倉井町政を実現することによって、合併問題で政治的に優位な立場を確保できるとの判断が働き、自らの公約実現のために一線を越えた。
釧路町長選は、現職の菅原氏にともに前町議で合併の早期実現を訴えた倉井氏、橋口春樹氏の三つどもえとなったが、地元の主要団体や北村直人衆院議員の全面支援を受けた菅原町長が優勢に戦い、合併問題では慎重な論議を求める有権者の支持を広く集めた。選挙戦当初から「菅原町政のもとでは合併の実現は困難」との見方が釧路市役所の上層部に強く、釧路市の幹部が倉井陣営の背後で動いているというウワサが絶えなかった。実際、綿貫市長の後援者や市議が倉井候補を応援する光景がみられ、柿崎助役ら市幹部が合併に大きな影響を与えかねない釧路町長選の行方に神経をとがらせていた。 これまでの調べでは、柿崎助役は町長選告示前の今年9月、合併担当参事を介して市職 員課に釧路町在住の市職員187人の名簿リストを作成させ、川田部長に倉井候補への票の 取りまとめを指示した疑いが持たれている。リストは職員名、住所、電話番号が記載され、川田容疑者が所持していたリストには名前の端に○、×の印が付けられていた。両容疑者とも容疑事実を認めており、特に事務方のトップである柿崎助役の逮捕により、釧路市役所による組織的な選挙介入という、全国的にも異例な事件に発展したことで綿貫市長の責任問題に波及するのは必至となっていたが、トップの逮捕で「力づくで合併を実現しようとしている」との印象を植え付けたことは間違いない。辞職表明の記者会見でも綿貫市長は事件への関与を否定したが、後援者や一部の市議には「倉井支持」の意向を伝えており、合併という微妙な問題を抱えながら隣接自治体の選挙と一線を画さなかった市長の政治姿勢が事件の下地になったといえよう。