食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008. 9.18 update〉

interview

昨年の米・食味鑑定士協会のコンクールで金賞受賞者を輩出

――マイナス30度を越える厳しい大地の融雪水で育つ高品質米

水土里(みどり)ネット大雪
大雪土地改良区 理事長 永山 喜長氏

永山 喜長 ながやま・よしなが
昭和15年11月23日生まれ
昭和58年12月 共栄土地改良区 総代
平成 4年 1月 共栄土地改良区 理事
平成 7年 1月 共栄土地改良区 理事長代理
平成 8年 4月 旭鷹土地改良区 理事
平成 9年 4月 旭鷹土地改良区 副理事長
平成13年 4月 旭鷹土地改良区 理事長
平成13年 9月 石狩川水系土地改良区連合 副理事
平成15年 4月 土地連上川支部土地改良区委員会 委員長
現職
平成14年 4月 土地連上川支部 理事
平成18年 4月 大雪土地改良区 理事長
                     現在に至る
公職
平成 5年 6月 保護司
           現在に至る

 大雪土地改良区は、何度かの合併を繰り返し、現在は旭川市、鷹栖町、比布町、愛別町、上川町にまたがる11,158haの面積を持つ。組合員は1,403人で、上川管内の米どころだ。大雪山の融雪水を水源に、清潔な水で生産される上川米の評価は、いまや不動のものとなっている。しかし、米価は下降気味で、これが営農の足枷となっているのは、他の改良区と同様である。永山喜長理事長に管内の情勢を伺った。

▲大雪土地改良区 事務所
――大雪土地改良区の変遷を伺いたい
永山 この地区は、土功組合の時代から旭川と鷹栖にまたがり二つの地区に分かれていたのですが、平成8年に近文土地改良区と共栄土地改良区が合併し、旭鷹土地改良区に名称変更しました。そして、平成18年に旭鷹土地改良区が、比布・愛別・上川土地改良区と広域合併し、大雪土地改良区に名称変更しました。
――理事長の略歴を伺いたい
永山 私は昭和15年に生まれましたが、先々代が鷹栖町に入植して以来、農業に従事してきました。田圃にドジョウやタニシ、カエルなどが多く見られた時代です。
──5歳で終戦を迎えることになりますが、かなり厳しい食糧事情だったのでは
永山 食糧にはいくぶん恵まれていた記憶があります。イナキビなどを混ぜてはいましたが、それでも米は食べていました。ただし、戦後の食糧難ですから、ご飯はあってもおかずはないという状況で、漬け物の他には鳥を飼育していたので、玉子がある程度でした。
――家業を継いだのは、いつ頃からでしょうか
永山 本格的に自力で営農を始めたのは、30年代か40年代に入ってからです。古くからある程度の面積で作っていたので、すでに水田が150枚以上はありました。  作業は馬が中心で、子どもの頃は2頭でしたが、私の代になってからは耕耘機が登場しました。その頃から土地改良は行われており、幸い私の地区は泥炭地ではなかったお陰で、それほど基盤に手を加える必要はありませんでしたが、下流域では冬に客土を行っていました。
──農業が機械化される歴史の転換点を見てきたのですね
永山 耕耘機が出回り始めたのが昭和34年か35年で、トラクターが登場したのは、基盤整備が本格化した45年か46年頃です。  圃場は現在よりも小規模でしたが、その頃は田植え作業が手植えだったので、それでも大きく感じたものです。その頃から転作が始まり、転作奨励金も十分に支給され、米価も順調に上昇し、稲作農業にとっては順風の時代でした。  農耕機械も、トラクターに次いでコンバインも開発されるなど、まさに変わり目でした。そうして次から次へと優れた農耕機械が登場したことで、平成になってからは農作業と生産効率が大きく改善されました。
――一時は一俵当たりの米価は2万円近くまで上がったのでは
永山 最高で1万8,000円くらいで、この管内でも正規価格で1万数千円が最高額でした。しかし、品質は今と比較すると雲泥の差があります。当時の主流米だった「石狩」という米は、獲れるのは獲れましたが、食味は今日のものとは全然違うものでした。  しかし、中にはアトピーに効能のある品種などもあり、石狩よりはいく分品質が良かったのですが、値段は同じでありながら収量は少なく、しかも稲熱病にかかりやすいことから、大量には作れなかったのです。
――北海道立上川農業試験場が地元にあることは、地域の農業にとって利点なのでは
永山 それは大きいものがありました。農試職員とは直接の接点はありませんが、その代わりに道の農業改良普及センターとは密に連携をとりながら、試験場で開発された様々な品種を次々と試作し、そうして新しいブランドが矢継ぎ早に確立されていったのです。
▲石狩川愛別頭首工完成パース
――この土地改良区の水事情は
永山 水管理から指導まで改良区として幅広い業務がありますが、特に水の管理となると各地区の農協の営農指導とも関係してくるので、神経を使います。例えば、「何日頃から外気が冷えるから、それまでに水を入れるように」と発令すると、各農家とも同時期に一斉に水を導水しますが、全員が上流から取水してしまったのでは、下流まで行き渡らなくなり、問題が発生します。  そのため、時間をかけ少しずつて順次導水するように、時期や手法を工夫し調整しています。
――現在の組合員数は
永山 1,403名で、毎年50人くらいずつ減っています。この状況が続けば、10年後に組合員数が約半分になると予想されます。一方、水田の面積は、多少は減りますが、離農者の耕作地を現在の組合員の農地に編入するので、極端に激減することはなく、耕作放棄地はそれほどありません。
――このままでは、平成30年には組合員が700人くらいになってしまうのでしょうか
永山 後継者が確保できなければ、15年後には五分の一になると試算されています。現在の組合員の平均年齢は62才ですから、今から大区画化を考えなければ農業地域として成り立っていきません。
――新たに編入された農地を含めて、基盤整備が必要になりますが、農業インフラは受益者負担が伴いますね
永山 基盤整備においては農地再編の方向性にありますが、自己負担を地主があまり歓迎しないので困っています。かといって、それを敢えて負担し耕作したところで、現況ではそれほど収益が確保できる情勢ではありません。儲かるのであれば、融資を受けて投資しても良いのですが、返済するにも大変な状況です。  しかしながら、それでも再編を進めて、大規模でこなしていかなければ、今の人数では到底所得も上がりません。営農者にとっても、水田の枚数は、広くて少ない方が管理しやすく、機械の稼働能率も上がるのですから。
――本州の農家から見れば、北海道の水田規模は大きく、専業組合員数も多い本格的な農業体制ですね
永山 本州の農家のように、専業でないのであればまだしもですが、北海道はほとんどが専業農家です。そのため、本業である農業で所得が得られないようでは、継続は無理で、資産の心配などしている余裕もありません。  やはり米価が上がるか、またはヨーロッパ方式のように、米価の低い経営環境でも生活ができる状態になるなら問題もないのです。そうでなければ、ある程度の値段でなければ後継者も確保できません。  私たちが営農を始めた頃は、米の値段が上がり意欲もわいて、多少は高くても農地を取得し、収益で返済していけるという展望が持てました。それが今では、下手に投資したところで、返済していけるのかが不安でなかなか手が出せない状況です。  そのため、農地を購入するのではなく、やむなく地主から借りて営農するという状況です。地主側も投資が怖くてできないため、賃借料が安く設定されている状況です。
▲コンクールで、金賞を受賞した
「おぼろづき」
――昭和50年代のように活気づけば、町自体も活気づいて再生するのでは
永山 その通りで、後継者もある程度は新規参入してくるようになると思います。そのためにも、国の政策は必要です。  日本は資源がない国ですから、工業も伸びてもらわなければなりませんが、それで国富が増えた分は、食糧生産のために予算配分してもらいたいところです。それこそが政治ですね。そして、各農家が将来を構想できるだけの最低限の価格調整は必要です。それがないために、今は衰退していく一方です。
――営農技術者と、その営農による収穫と収益を失うのは、国家としての損失でもありますね
永山 それを国策で確保してもらわなければ、北海道の自助努力だけでは無理だと思います。
――一方、米の消費量拡大に向けてのPRも必要ですね
永山 品種改良によって、品質も安全度も食味も飛躍的に向上していますから、実際に食べてもらえば10年前のものとは全然違うことが理解されると思います。  昨年の米・食味鑑定士協会のコンクールで、この改良区組合員が「おぼろづき」で金賞を受賞しました。新潟県の魚沼産コシヒカリと食べ比べても、違いが分からないほど美味しい米でした。  それ以外の他府県のブランド米に比べても、改良区の組合員が作った米の方が美味しく、また外見もキレイでした。このように魚沼産と比べても、ほとんど違いがわからないレベルまで来ているわけですが、魚沼産の純米の価格は、道産米の3倍近くになっています。  北海道は、大雪山の天然の雪解け水を使用して生産されていることが、アピールポイントです。北海道の雪は、本州とは比べものにならないほどキレイで、しかも大雪山の最上流の最も清潔な天然水で栽培されるのですから、品質も桁違いのレベルです。したがって、生産者としては、その品質に相応しい価格で定着することを望みます。
概 要
名   称:大雪土地改良区
所 在 地:旭川市東鷹栖4条5丁目639番地の130
      TEL 0166-57-2919
設   立:平成18年4月1日
関係市町村:旭川市、鷹栖町、比布町、愛別町、上川町
地 区 面 積:11,158.2ha
組 合 員 数:1,403名

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